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1月受験の結果によって、声かけを変える
──2月に本命を控える子にとって、1月受験を終え、2月1日の本番までカウントダウンの今。どんな声かけが必要ですか?
安浪先生:1月には、前受け校や本命校で2校ほど受験する人が多いことを踏まえ、その合格・不合格の状況に応じた声のかけ方があります。
全勝したお子さんは、大きく2つのタイプに分かれます。「もういけるでしょ!」と余裕しゃくしゃくな子と、「本命は別もの」と慎重な子です。
余裕で浮ついている子には、まず現実を見せる必要があります。2月の本命校の過去問を見せて「まだ点取れてないし、完璧な状態じゃない。今、みんながすごい追い上げてきてるんだよ」と、できていない部分に目を向けさせる。言葉だけでなく、事実とともに示すことが大切です。
逆に、1月で合格を持っていても不安を抱えている子、慎重な子には、正反対のアプローチが必要です。過去問で点の取れている年や問題にフォーカスして「ほら、この年はこんなに取れてるじゃない!」「この問題、今までは模試で落としてたけど、今回取れてるじゃない!」というように、できているところを具体的に褒めて、自信をつけさせましょう。
ただし、どんなに余裕で浮ついている子であっても、厳しいことや引き締めることを言うのは1月29日まで。全てのお子さんに、1月30日、31日はしっかりと自信をつけさせてあげてください。最後は「あなたなら120%大丈夫」という気持ちで送り出すことが重要です。当日「ダメだったらどうしよう」「また計算ミスしちゃうんじゃないか」という気持ちで試験会場に行くのは絶対に良くありません。
──1月受験で不合格だった場合は、どう声をかけるべきですか?
安浪先生:不合格だった場合、どのような位置づけの受験校であったとしても、大きくショックを受けます。でも、本命は2月以降という受験校の組み方の場合は、「本命校はこれだけ準備してきたのだから、悪い結果にはならない。1月と切り離して」と伝えてください。
1月受験で感じた不安の要素を子どもから聞き出して振り返り、潰しておく
──1月受験は、いろんな意味で中学受験の「初めて」が詰まっていますね
安浪先生:不合格だった子の中には、緊張でお腹が痛くなったり、教室が寒かったり。また、時計の位置やトイレがどこにあるか分からなかったなど、いろんな要素が影響していることもあります。お腹が痛くて脂汗を流しながら4教科何とか耐えた教え子がいて「問題を解くどころじゃなかった」と言っていました。
ここで重要なのが、入試当日の状況をていねいに親子で振り返ること。こうした不安要素を全部聞き出して手を打つことが、1月受験をした最大の意味です。例えば、寒かったならこまめに脱ぎ着できるように重ね着で対応する。薬を持参したけれど飲めなかったという子は、1錠ずつラップに包んで筆箱に入れて、飲むタイミングや飲み方を確認しておく。
また、鉛筆や消しゴムが落ちたとき、手を挙げて試験官に言うことができない子もいます。だから「どの高さまで手を挙げたらいいのか」「ハイと言った方がいいのか」まで、家であらかじめ練習しておくのです。
過去に、前の席の子がイスの背もたれにかけたコートが自分の机の上にかかって邪魔だったのに言えなかった、という子もいました。困ったら本人に言うか、手を挙げて試験官に言う。そういうことも含めて、1月の受験でどういうことがあったか、不安や不明点を全部お子さんと確認しておくことが大切です。
──試験前日に「もう明日受けない」と爆発する子もいると聞きます。どう対応すべきですか?

安浪先生:直前になって不安で爆発することはよくあります。そういうとき「何言ってんの、明日は本番でしょう!」は絶対にNG。ひたすら子どもの愚痴と不安を聞いてあげましょう。
その間、親は一切言葉を挟んではダメ。子どもは不安をずっと溜め込み、飲み込んできているんです。全部吐き出すことができれば、当日はスッキリした顔で試験会場へ行くので大丈夫。親はサンドバッグになって、ひたすら聞き役に徹してください。
もし浮かない顔をしていたら、「大丈夫」という言葉だけでなく、具体的に何を不安に思っているか聞いて、それを全部肯定し、ポジティブな要素で上塗りしてあげることが大切です。
「今まで模試で1回も80%の判定出てないのに」とか「合格最低点を上回ったの1回だけだし」とか、「理科で苦手なところが出たらどうしよう」とか、子どもはいろんなことを言うわけです。でも「合格最低点に1回届いたなら合格できるチャンスがあるってことじゃない」と上塗りして返す。「全部上回ってたって落ちる子だっているらしいよ」など、今までと本番は違うと伝える。
体調についても同様で、直前に発熱したとしても「高熱で保健室受験で合格した子だっているし、緊張して一睡もできなくても合格した子もいるんだよ」というように、不安要素を上塗りして返していきましょう。
本命当日の朝は、子どもから言葉を「引き出す」
──いよいよ試験当日、2月1日の朝、親は何を伝えるべきですか?
安浪先生:親から一方的に「これに気をつけて」と伝えるのではなく、この日は子どもの中から引き出してあげてください。「何を意識して解く?」と聞くと、子どもは「字を綺麗に書く」「時間配分に気をつける」とか、自分の中から言葉が出てくるんですよね。
親からすると「そんなこと?」と思うこともあるかもしれないけど、それ以外のことを子どもに伝えても入らないんです。親が言うのではなく本人の口から言わせましょう。
「頑張れ」という言葉についても、プレッシャーになる子と励みになる子がいるので注意です。「頑張れ」が励みになっていた子でも、不合格が続いていたらプレッシャーになることだってあるので、どの言葉がいいかなんてそのときになってみないと分からないんです。だからこそ、子どもの言葉を引き出すことが重要です。
不合格が続いて次に向かうとき、子どもはグンと成長する
──もし2月1日に不合格、翌日も試験が続く場合、どう立て直せばいいですか?
安浪先生:親自身もかなりショックで参ってしまうほどなのに、子どもは次の試験に向かいますよね。このときに一番成長するんですよ。本当に。
これまで散々「字をていねいに書け」と周囲に言われ続けても、第一志望で持ち帰ってきた問題用紙がいつも通り雑な字ということもあります。でも、不合格だったときにようやく言われてきた言葉が入って、ていねいな字で書くようになることもありました。
不合格と向き合い、2月2日からようやく「本当の」受験生になって、解いてくるという変化を何度も見てきました。

──午前の試験後、午後に向かう移動時間はどう過ごせばいいですか?
安浪先生:子どもが「この先生の声を聞きたい」という塾の先生などがいれば、連絡が繋がる状態にしておくと良いでしょう。
また、前の試験の出来を引きずる子には、「次はいけるから大丈夫」という漠然とした言葉ではなく、次に向けて頭を整理する行為を一緒に行うと安心します。
「この学校はだいたい1問何分くらいだったよね」とか「難しい問題は大問1個くらい捨ててもいいよね」とか、具体的な攻め方を確認していくことによって子どもは落ち着いてきます。
そして最後は、2月1日の午前と同じように、「じゃあ行ってらっしゃい。何に気をつける?」ともう一度子どもから言葉を引き出し、送り出すことが大切です。
試験後の対応──合否の結果をいつ見るか、どう伝えるか?
──試験が終わって子どもが出てきたとき、どう声をかけたら良いでしょうか。
安浪先生:「どうだった?」と聞きたい気持ちは分かりますが、子どもの方から話し出すまで黙っておきましょう。言えるとしたら「お疲れ様」だけですね。
──合格発表をいつ見るかも悩ましいところです。
安浪先生:その場その場の雰囲気で判断するより、試験日程を組んだときにあらかじめ決めておいた方がいいです。例えば、2月3日午前、子どもが入試を受けている間に2つの学校の合格発表が出る場合。子どもが「自分が一番最初に見るから、絶対に見ないでね!」と言っていたら、それを必ず守る。
どうしても確認したい気持ちは分かりますが、親だけ抜け駆けやルール違反は、やっぱりしてはいけないと思います。
最も避けたいのは、親が嘘をつくこと。以前、子どものためを思って「志望より下のコースで合格した」と嘘をついてしまった方がいました。しかし、次の入試直前にそれが嘘だったことが子どもにバレてしまい、試験前にメンタルがボロボロに崩れてしまいました。
結局、正面から受け止めて乗り越えることが子どもの一番の成長です。小手先の対応は避けましょう。
伴走される親御さん自身のメンタルケアもお子さん同様、大切に!
──親自身が不安で押しつぶされそうなとき、どうすればいいですか?
安浪先生:子どもに対して色々な不安があって眠れないというときは、生まれたばかりのわが子の写真を見てください。
よくここまでやってきたなと思いますよ、本当に。お子さんが生まれたとき「この中学に合格しなさい」なんて思っていないわけじゃないですか。その小さかった子が、遊びたい盛りの小学生にも関わらず塾に通って勉強を頑張り、入試を迎えるまでのところにきた。それこそが、すごいことです。

──試験中の待ち時間はどう過ごすのがおすすめですか?
安浪先生:これまで多くの子どもの親御さんの話を聞いて健全だなと思ったのが、映画を観たり、ヨガに行くなど、全く別のことをやって過ごす方法です。
体育館や校内の待合室は、ピリピリした雰囲気になりがちです。情報収集をしている人がいたり、仕事をしてる人のパソコンの音が耳についてしまったり。読書をしていても内容が頭に入ってこないんですよ。その点、映画は画面と音声が自動的に入ってくるのでおすすめですね。
──父親や祖父母など、周囲の大人の声かけで注意すべき点はありますか?
安浪先生:これまで受験に関知してなかった家族が、当日「本当に受かるのか?」などと言うのは困ります。あらかじめ、周囲の人に「余計なことを言わないように」と釘を刺しておくと良いでしょう。
また、当日の送迎は、「入試会場へは誰と行きたい?」と子どもに聞いておくと良いと思います。ずっとお母さんが伴走してきたのに、仕事の都合でお父さんが連れていったら、余計なことを言ってしまった、なんてことも。
また、塾からの激励電話についても、どの先生の声が聞きたいかというリクエストがあれば、親経由で伝えることをおすすめします。嫌いな先生から電話がかかってきて、本番前にテンションが下がってしまったこともありました。
他の子の会話で動揺しない! 当日の手応えはあてにならないと心得て
──試験中に想定外のことが起きた場合、どう対処すればいいですか?
安浪先生:当日は、休み時間にバナナの皮をむいて食べている子がいて衝撃を受けたとか、トイレに行ったら「超簡単だったね」という会話が耳に入って動揺したとか、いろんなことが起こります。
特に後者はよくあることですが、私が子どもたちに言っているのは、当日の手応えほどあてにならないものはない。手応えと合否は全く別。そういうことを言えば言うほど落ちるから、「あの子たちはきっと落ちるんだなって思っときなさい」ぐらいのことを子どもにも伝えます。合格する子ほど何も言わないです。
また、入試を終えてから「すごく難しかった」と子どもが言うケースがありますが、実際に持ち帰った問題を確認したら、いつもの年より簡単だったりする。これは緊張していた証拠ですので、そういうときは態勢を立て直します。
まず、「初めてのことだから緊張しちゃったんだね。でも、もう1回経験しているから次は大丈夫だよ」と、肯定してあげた上で、どのあたりから緊張したのか、教室はどんな雰囲気だったのか。それを色々検証します。どうすれば緊張がほぐれるか相談して、次の受験にはいい匂いのするものや、ふわふわして触ると癒されるグッズを持っていった子もいました。

──子どものペースを尊重することも大切なんですね。
安浪先生:私の教え子で、推し活をしている子がいました。午前の試験が終わって午後までの間、昼食時もずっとタブレットで動画を見ていて。お母さんが「この後入試が控えてるんだから、さすがにやめなさい」と言っても、無視して見ていたそうです。
後日話を聞いたところ、本人なりに緊張していて、推しのおかげで気が紛れて元気になったそう。本人がリフレッシュできる方法だったら、何でもいいと思います。
塾の先生からは「移動時間はこうすべき」というアドバイスがあるかもしれませんが、子どもの中でハマるもの、納得するものを取り入れたらいいと思います。
試験期間に入ってもまだまだお子さんの成長は続く、親御さんもご自身を労わって
──最後に、受験に向かうお子さんと保護者の方へメッセージをお願いします。
安浪先生:子どもは常に成長していますが、入試が始まると、その間にすごく成長していくんですよね。それは、学力だけでなく、精神的にもです。
中学受験の一番の醍醐味は、不合格を得た後の精神的な成長だと、個人的には思っています。不合格が続いても受験に向かう子どもたちを見ると、小学生でよくここまでできるなと思います。小さな体で頑張ってるお子さんの闘いを、しっかりと受け止めて見てあげてください。そして、親としてそんな強さを持つ子に育てられたことに、自信を持っていただきたいです。
親は長く生きている分、多角的にダメージを受けてしまいます。この時期、心を労わるのは難しいですが、体は労わってください。親が倒れてしまうと、子どもを受験会場に連れていけなくなりますしね。そして、ここまで本当にいろんなことがあったと思いますが、よくぞここまでサポートされてきました。
あとはわが子を信じて、笑顔で送り出し、一人で試験会場に入っていく背中をしっかり見てきてあげてくださいね!
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取材/羽生田由香
