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新1年生は不安で当然。新2年生は、進級したからといって急に手を離さないで
ーー入学・進級の時期に、親子のメンタルが揺れやすいのはなぜですか?
親野先生:新1年生は、通い慣れた保育園や幼稚園から、まったく新しい環境に進むわけですから、不安になるのは当然です。「学校=勉強が始まる」というプレッシャーもありますし、「友だちはできるかな」「先生はどんな人かな」という不安もありますよね。意外なところでは、保育園や幼稚園の先生はエプロンのような服装が多いけれど、学校に行くと入学式で黒いスーツの先生もたくさんいて、子どもがびっくりしてしまうこともあります。

親としては、まず子どもが自分で歩いて登校することになるので、体力面や安全面の心配も出てきます。食べるのが遅い子や、苦手なものがある子の場合は「給食をちゃんと食べられるかな」という不安もあるでしょう。
ただ、私の経験では親が思うより子どものほうが前向きな面もあります。「1年生だから頑張らなくちゃ」という自覚がある子も多いですね。園でも年長の後半になると「もうすぐ1年生だね」と言われて、心の準備が進んでいるのだと思います。
ーー新2年生の場合はいかがでしょうか?
親野先生:新2年生の場合はクラスや担任が変わることが大きいですね。担任の先生が変わると、授業の進め方、係活動、給食の配膳、掃除のやり方までガラッと変わることがあります。子どもは「1年生のときのやり方=学校の当たり前」と思っているので、急に変わると戸惑うこともあります。また、教室が1階から2階になるなど、ちょっとした環境の変化も、子どもには大きな変化として感じられることもあると思います。
注意しておきたいのが、2年生になった途端に親が安心して、急に手を離しすぎることがあるんです。2年生になったからといって何でも急にできるようになるわけではないし、個人差も大きい。子どものニーズに合わせて、提出物や忘れ物がないかなどの適切なサポートは続けてあげたほうがいいと思います。

「甘え」や「荒れた行動」は子どもが不安定なときのサイン。叱らず受け止めて
ーー子どもの心が不安定になっているときのサインはありますか?
親野先生:一種の「赤ちゃん返り」はよくあります。不安なときはやっぱり甘えたくなるんですよね。何かにつけて「やって」「手伝って」と言ったりします。そういうときに「もう1年生(2年生)なんだから!」と突き放してしまうと、子どもは余計に不安が強くなります。自分でできることでもやってもらえることで「受け入れられた」と感じて心が満たされ、学校でも頑張れるんです。
体調面では「お腹が痛い」と言う子が多いですね。子どもは体調が悪いと「お腹が痛い」とよく言います。本当に痛いのか、メンタルからきているのかは見分けが難しいところではありますが、「何を言っているの」「大丈夫でしょ」と言うのではなく、まずはいったん話を聞いて、ハグしたり抱っこしたり、安心させてあげてください。言語化できる子なら「何が不安?」と気持ちを言葉にする手伝いをするのもよいです。もちろん、メンタルの問題でなく本当にお腹が痛いこともありますので、そこは注意してみてあげる必要があります。

また、学校というのはみんなと同じタイミングで、同じことをしなければいけませんし、苦手なことがあったり、お友だちとケンカすることがあったりと、子どもにとってはストレスが溜まりやすい場所でもあります。ですから、学校で頑張っている子ほど、家で大きな声を出したり、強い言葉になったり、荒れた行動をすることもあります。外で溜めたストレスが家で出るのは、大人でも同じですよね。
そういうときは叱るのではなく、共感的に話を聞いたり、甘えさせたり、ゆっくり休ませてあげたり、好きな遊びをさせてあげたりしてください。
ーー「甘えを受け止めたら、自立できないのでは?」と心配です。どう考えればいいでしょう?
親野先生:ずっとそうなるのでは、などと心配しなくて大丈夫です。不安な時期は甘えが増えます。満たしてあげることが大事ですし、満たされると落ち着いて、また前に進めるようになります。
子どもの苦手は“しつけの失敗”などではなく、生まれつきの気質が大きいと行動遺伝学でわかっています。「行動が遅い」「片付けが苦手」「自己管理が苦手」…これは親のしつけのせいではありません。また、環境の影響も大きいことがわかっているので、叱って済ませるのではなく、やりやすいように「工夫」することが大切です。

たとえば片づけが苦手なら、カゴに入れるだけの収納にする、カゴのフタはナシにするなど、手間が少なくてやりやすい仕組みにする。それでも難しければ手伝ったり、あるいは代わりに片づけてあげたりすればいいのです。そのほうが、できないことを叱り続けて子どもの自己肯定感を傷つけるより、よほどマシです。自己肯定感があればちゃんと自立していけます。親子関係も良くなります。
ーー手伝ってもよい、やってあげてもよいとわかると、親としても安心できます。
親野先生:親から「自分のことは自分でやって!」「忘れ物は自分のせいだよ」と言われている子は、友だちにも厳しい態度をとるようになりがちです。反対に、家で親にサポートされている子は、学校で友だちが困っているときも優しく手伝ったり、声をかけたりできるようになるんです。
学校で困ったときに「手伝って」「助けて」と言えるようにしておくことが大切
ーー子どもの安心感を育てるために家庭ではどんなことに気をつけるのがよいでしょうか?
親野先生:家庭は心と体を安定させる場所です。特に入学直後は非常に緊張して過ごして、帰ってきたらもうぐったり、疲れているはずです。だから家ではのんびりする、だらだらする、好きな遊びに熱中するというふうに、子どもがリラックスできるような環境を作ってあげるとよいでしょう。

学校でのことをたくさんしゃべりたい子なら、とにかく共感的に話を聞いてあげてほしいです。いきなり大人目線からアドバイスをしたり、結論を言ったりすると子どもは話したくなくなってしまいます。どうしても言いたいことがある場合は、たっぷり子どもの話を聞いてから最後に「じゃあ、これからこうしようか」などと添えるのがいいですね。
また、忙しいとは思いますが、「寝る時間・起きる時間・食べる時間・排便」の4つの生活リズムを整えるように意識してみてください。便秘で快活さがなくなる子もいます。食事の内容もできるだけ食物繊維を増やしたり、栄養バランスがとれたりするように気をつけてください。
ーー小学校に入学する前に、家庭でやっておいた方がよいことはありますか?
親野先生:学校で何か困ったことがあったら、先生やお友だちに「手伝って」「助けて」って言っていいんだよと教えてあげてほしいんです。そして言葉で助けを求められるよう、家で練習してみるとよいでしょう。「先生、手伝ってください」「忘れてしまったので、貸してください」「トイレに行きたいです」「もう食べられないので残したいです」など、「こう言うんだよ」と教えるだけでなく、実際に口に出して言う練習をしましょう。
困ったことを口に出して言えるようにしておけば、何があっても大丈夫です。お友だちにも、嫌なことは嫌と言えるようにしておくとよいですね。
後編では親のメンタルの整え方や、考え方のヒントを伺いました。
お話を聞いたのは
教育評論家。本名、杉山桂一。教師経験をもとに、子育て、しつけ、親子関係、勉強法、学力向上、家庭教育について具体的に提案。『親の言葉100』『子育て365日』『反抗期まるごと解決BOOK』などベストセラー多数。人気マンガ「ドラゴン桜」の指南役としても著名。Threads、Instagram、X、YouTubeなどでも発信中。全国各地の小・中・高等学校、幼稚園・保育園のPTA、市町村の教育講演会、先生や保育士の研修会でも大人気となっている。オンライン講演も可。公式ホームページ「親力」
取材・文/平丸真梨子
