「うちの子、算数がすごく苦手」…もしかして【算数障害】かも?発達障害のひとつで、クラスに1~2人いる学習障害とは

学年が上がっても計算するときに指で数えている、3年生を過ぎても九九でつまずく……。それだけでは決められませんが、算数がすごく苦手なお子さんの中には、「算数障害」の子もいるそうです。発達障害のひとつで、クラスに1人、2人いてもおかしくない割合なのだとか。その「算数障害」とはいったい何か?大学の研究者で、実際に算数障害のお子さんの臨床にも携わる、山本ゆう先生に聞きました。

発達障害の中の学習障害のひとつが「算数障害」

――あまりなじみのない「算数障害」、これはいったいどういうものですか?

山本先生 文部科学省の定義であれば、発達障害の学習障害のうち、『計算する』または『推論する』ことの困難がある子どもたちということになります。

――学習障害というと、読み・書きの領域で学習の遅れが見られる子のことがよく語られるように思います。

山本先生 そうですね。読み書き障害(ディスレクシア)も算数障害も、認知能力(人間が情報を受け取り、理解し、記憶し、活用して問題を解決するための力)にアンバランスがあることで、学習の習得に困難が生じます。

算数障害のある子どもの出現率はおよそ5~7%といわれています。割合でいえば、クラスに1人や2人はいるということですね。読み書き障害も同じくらいのパーセンテージと言われています。算数障害と読み書き障害を重複している子も半数くらいいます。

算数障害の場合は

・数字の概念、数値、または計算を習得することの困難さ

・数学的推論の困難さ (DSM-5-TRより引用)

が出現するもので、たとえば

・数唱ができない。(例:111,112,113,114・・・119, が「ひゃくじゅうじゅう……!」などとなってしまう)
・数字が読めない、書けない。(例: 204が「にじゅうよん」)
・ものが数えられない。
・小さな集合もいちいち数える。
・数字の大小がわからない。
・指を使って計算している。
・九九を覚えられない。
・筆算ができない(手続きを覚えられない)。
・文章題の式が立てられない。

などの例が挙げられます。個人差があり、年齢によっても程度は異なります。算数障害は個人の認知能力の特性による問題なのであり、一般的な方法では何度繰り返しても学習の習得がうまく進みません。決して「サボっている」「宿題をやらないからできない」ということではありませんので、「もっと勉強しなさい!やればできるわよ」などと言うのは控えたいですね。

算数障害の子どもは、計算以前の「数の理解や技能」につまずきやすい

山本先生 そもそも、算数は「抽象性が高い学問」なのです。

――算数は答えはひとつ、正解ははっきりしているものが多いのに、「抽象性が高い」のですか?

山本先生 算数が「わかる」と言うには、数について段階的に、確実に理解、習得しないといけないのです。算数というと、「●+●」「●÷●」などの計算ができるか、文章題を読んで理解して解けるか、というところに注目しがちです。しかし、それ以前に下図の三角の下2つ、「数処理」と「数概念」につまずいていることがあります。だからこそ、計算がうまくできない、文章題の中の数の変化が理解できない、ということが起こります。これら数処理、数概念については、子どもは生まれ持った力をもとにして、生活の中で自然と理解、習得していくと考えられています。しかし、算数障害の子にとってはここが難しいことがあります。

(松本大学教育学部 山本 ゆう先生 提供資料)

――計算以前の「数処理」とは?

山本先生 たとえば、ひらがなであれば、【あ】という文字があり、「あ [a] 」と読むという音がある。この2つの関係性がわかればいいわけです。しかし、数は、「3」という数字を「さん」という数詞で読み、「3つある」という具体物のすべてを関連付けて理解することではじめて3という数を理解しているということになります。これを、「数処理」といいます。

(松本大学教育学部 山本 ゆう先生 提供資料)

――では「数概念」とは?

山本先生 数概念とは数がもつ性質のことです。「序数性」と「基数性」の2つがあります。「序数性」とは順序や位置を表す性質です。例えば、「左から4番目はどれ?」や「今日は1番に登校した」といった状況で使われます。

(松本大学教育学部 山本 ゆう先生 提供資料)

「基数性」は、数の量を表す性質です。1に一つ増えると2になる、2に二つ増えると3になる、4の半分は2だということです。

この序数性と基数性が両方理解できていないと、「どちらがどれだけ多い?」ということが難解です。ある子どもは「9と7はどちらがどれだけ多い?」という問題に答えられませんでした。この子にとって、7の次の次の数が9であって、多少の関係はないんです。よって、「9-7」という計算をすることの意味や、計算の結果「2」という数が何を示しているのかわからないということがありました。私たちが「『り』と『と』はどちらが多い?」と言われても何言ってるの?と思う感覚だと思ってください。

(松本大学教育学部 山本 ゆう先生 提供資料)

「パッと見ていくつ」なのか、小さい数なら正しく把握できることも重要

山本先生 数量の理解が育たないのは、算数障害の子は数を把握するのが苦手だからでもあります。多くの大人は4個ぐらいまでの少量の数であれば、わざわざ数えなくてもパッと見ただけで4個あることが正確に捉えることができます。就学前の5歳児でも3個や4個の数を瞬時に把握することができます。これはサビタイジング(subitizing)という能力ですが、算数障害の子どもはこの力に弱さがあることが報告されていて、私が出会った小学校高学年の子どもで、 3個のものをわざわざ数えないとわからない子がいました。

山本先生 小学校低学年の算数障害の子どもが、計算で指折り数えていることがあります。そのときの答えはそれで「正解」であっても、学年が上がって筆算などの計算になれば、複雑な計算過程の途中でいちいち鉛筆を置いて両手を使って指折り数えて、また鉛筆を持って書いて、とやっているうちに、あれ?次何するんだっけ?というようなことが起こります。さらに、基本的な数の理解が形成されていないと、文章題で起きている数の変化について理解できずに立式ができないということも起きてしまいます。つまり、学年が上がるごとに、算数の授業についていくのが難しくなっていきます。

算数障害であってもなくても「大人から見て支援が必要」なら対策を

――算数障害の子はいろいろと困難がありそうです。どうしたら、わが子が算数障害だとわかるんですか?

山本先生 ご家庭で算数障害を把握するのは難しいと思います。筑波大名誉教授の熊谷恵子先生との共著で『通常学級で役立つ算数障害の理解と指導法』や『算数障害スクリーニング検査』という本も出していて、どなたでも購入して活用していただけます。そこに就学前と就学後に、どんなことがどこまでできていたらという目安が書かれていますが、あくまで算数のつまずきの実態を把握するものであり、診断をするためのものではありません。

しかし、こう考えたらどうでしょうか。算数障害のあるなしに関わらず、算数でつまずいているなら、放っておかず、学齢が低いときから何か方法を探してあげる。本人が「自分は算数ができないんだ……」と孤独に悩む時間をできるだけ短くしてあげてほしいと思います。保護者がつまずきに気づいて、心配ならば、担任の先生や、学校の支援担当の先生に相談をするのも、早いほうがいいです。

算数が苦手でつらい思いが続くと、学習意欲の低下や自己肯定感の低下が起こりがちです。また、算数障害のある人が思春期以降、不登校や心身症、中退などのリスクが高いことが報告されていますし、卒業後も失業や、多重債務や不適切な契約に引っかかるなどのリスクが高いことも報告されています。つらい気持ちを積み重ね、将来的な心理的社会的リスクを負う前に、早期に発見して早期に支援することがとても大事なのです。

決して本人はサボったりいいかげんに取り組んだりしているわけではありません。頑張っても頑張っても成果が出なかったために、あきらめてしまって逸脱している場合はあります。しかし、その努力と苦しみを、まずは周囲の大人が理解したうえで、できないことを責めず、学び直す支援をして、少しでも自信をつけてあげたいですよね。

――そのような方法はあるのですか?

山本先生 あります。後編では、具体的な方法をお伝えします。

――算数障害は、誰よりも本人がいちばんつらいのですね。「頑張ればできる」が難しいことも、本人はわかっています。その深い悩みから救ってあげるのは大人の役目。よい関わりができる方法を、後編でお伝えします。

後編はこちら

https://hugkum.sho.jp/813219

お話を聞いたのは

山本ゆう 先生 算数障害 研究者

松本大学教育学部学校教育学科専任講師。筑波大学大学院人間総合科学研究科障害科学専攻博士後期課程在籍。修士(特別支援教育学)(筑波大学)修士(学校教育学)(兵庫教育大学)。公認心理師。特別支援教育士スーパーバイザー。小学校教員経験、医療機関や教育委員会での心理士としての職歴を経て、現在に至る。発達障害のある子どもの臨床に携わりながら研究をすすめている。

熊谷恵子筑波大学人間系名誉教授と共著で『通常学級で役立つ算数障害の理解と指導法』『算数障害スクリーニング検査』(ともにGakken)がある

この記事を書いたのは

三輪泉 ライター

インタビューを中心に教育、子育て、医療、介護、食などのテーマで WEB・雑誌・書籍などの記事を執筆。お話を伺う方にたくさんの学びをいただいています。社会福祉士、法定成年後見人、中学校・高等学校教諭一種免許状、生涯学習2級インストラクター(栄養と料理)

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