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運動神経、半分は生まれつき。でも半分はトレーニングで変わる!
スポーツが得意な子もいれば、不得意な子もいます。不得意なのは生まれつきで、あきらめないとダメなのでしょうか?
「たしかに、生まれつきの部分は半分くらいあるかもしれません。でも、半分は後天的に身につけられます!」
そもそも「運動神経がいい」とよく言われるけれど、これは「神経と筋の制御バランスがいい」ということ。私たちの身体は、「筋肉」と「脳」をつなぐ「神経」によって、複雑な動きを可能にしています。脳が「動かせ!」と信号を送ると、そこの筋肉が収縮し、動きます。
この伝達能力は、動かす目的などによって「リズム」「バランス」「変換」「反応」「連結」「定位」「識別」の7つの能力に分類されます。そして、スポーツの種類によって、プレイによって、能力が都度都度、複雑に組み合わされるのです。
「たとえば、バスケットボールのパスを受けるときは『バランス』『変換』『反応』『定位』が働き、サッカーでドリブルをしているときは『リズム』『バランス』『連結』の能力が主に働いています。こうしたコーディネーションが瞬時に適切にできて組み合わせられる子は、『運動神経がいい』と言われるんですね。僕は体操出身なので、実は球技が少し苦手。使う運動神経の組み合わせ方が違うからなんですが、でも、楽しみながらトレーニングを繰り返しているうちに、だんだんうまくなっていきますよ!」
運動神経が超アップする9~12歳より前に床ゴロゴロや鬼ごっこを
――では、何歳くらいから、どんなトレーニングをすればいいのでしょうか。
運動神経は9~12歳の間に飛躍的に向上します。有名な「スキャモンの成長曲線」を見ても、神経系の成長は生まれてから5歳までで80%発達し、12歳でほぼ完成するのがわかります。それまでの間に、脳でイメージした動きを体で表現できるようにしておくことが、「運動神経、いいね!」の重要なポイントなのです。
一度覚えた神経系の経路は、なかなか消えることはありません。子どもの頃に覚えた自転車の乗り方は、大人になってもずっと覚えていますよね? だからこそ、5歳くらいから小学生の間に、上手にトレーニングしておくと、うまくいくんです。
このときに特に念頭に置いて欲しいのは、「定位」の能力(空間認識能力)です。自分の体が今どのように動いているかを認識する能力なんですね。たとえば道路を走っている車と自分との距離を正確に認識して危険を未然に防ぐ能力なんかも、これにあたります。
空間認識能力を養えるおすすめの運動はコレ!
――では、空間認識能力を養う手軽な運動を教えてください。
下のような運動は手軽にできます。パパママも一緒にやると楽しいですね。
■どんぐりコロコロ
床に寝転んで両手を上に伸ばし、体を1本の棒のようにして床をコロコロと床の上を平行にまっすぐに転がります。意外に自分のイメージ通りに動くのは難しいのですが、全身の筋肉や関節を上手に使えるようになります。
■鬼ごっこ
つかまらないように逃げたり、障害物を避けながら走ることで、空間認識能力が養えます。
■水泳
体の左右をバランスよく鍛えます。
■ダンス
リズム能力はもちろん、筋肉や関節をタイミングよく同調させる連結能力が養えます。
運動の前に柔軟性を高めよう。まずはジャンプから!
――鬼ごっこや水泳、ダンスなどは、いきなりやると体がうまく動かず、転んだりケガをしたりすることもありますね。
どんなスポーツもいきなりやらず、体をやわらかくしてから始めます。柔軟性は、「走る」「投げる」などの運動の土台です。ケガを防ぎ、思い通りに体を動かせるようになり、姿勢もよくなります。姿勢がよくなると集中力がアップし、勉強にも身が入るようになりますから、柔軟性、大事ですね。
その冒頭に、必ずやってほしいことがあります。それは、体をあたためること。体が冷たいと筋肉が収縮して体が動かしにくいのです。あたためてほぐれやすいようにしましょう。
そして、揺らす、伸ばす。次の順に準備運動をします。その次に以下のような動きをするといいでしょう。
①軽くジャンプ
肩の力を抜いてまっすぐ立ち、両手はだらんと下げ、リズムよく小さくジャンプをします。つま先が浮くか浮かないかくらいでかまいません。顔は正面に向けて左右に揺れないようにします。これ、よく陸上選手などが、飛んだり本格的に走ったりする前によくやっていませんか? 筋肉の緊張をゆるめてリラックス効果もあるのでおすすめです。
②アキレス腱のばし
前後に足を開いてやるアレです。両方の足を交互にやります。
③あぐらストレッチ
いすにすわって片足をあぐらのようにし、その足首をもう片方の膝上くらいの位置にのせて股関節を開きます。この形で倒れないように静かに前屈します。両方の足をやります。
④ラジオ体操
ラジオ体操は、とてもよくできた準備運動です。特に前屈をしっかりやりましょう。お尻と腿裏の筋肉がやわらかければ前屈がよくできます。指先が地面に付くことを目標にします。
「投げる」のエクササイズは体重移動が決め手!
――ボール投げがうまくできず、足下にポトッと落ちてしまうような子がよくいます。あれ、なんとかならないのでしょうか……。
上手に投げるコツを、「スナップをきかせる」と思っている方は多いと思います。それもあるのですが、その前に、「投げる」のは、体の重心を大きく移動させる全身運動だと意識してください。
大谷翔平さんなど、野球の選手のフォームを見ると、足を高ーく上げますよね? あれはただのパフォーマンスではなくて、体重移動を大きくするためなのです。以下のエクササイズを十分にやってから投げてみましょう。エクササイズは1回だけでなく、毎日のように繰り返しやると効果的です。
①股割して左右15回ずつシコを踏む
股関節をやわらかくしないと、体重移動がうまくできません。まず股を大きく開いて腰を落とし、大相撲の力士のようにシコを踏みます。
②写真のように、実際に投げるようなエクササイズを左右10回ずつ3セット
この体重移動の感覚を体にしみこませましょう。運動神経を後天的によくするためには、繰り返し体に覚えさせることが大切です。右投げでも左投げでも、両側を同じ回数やると、バランスよく体を鍛えることができます。
『12歳までの最強トレーニング』(実業之日本社)より。撮影/中川文作 企画・編集/(株)ナイスク
③実際に投げてみましょう!
投げるほうに顔を向けて、前に重心移動。指先に力を入れてボールを離します。きっといつもより遠くに投げられますよ!
「走る」ときは前ではなくて自分の膝を見る
――走るのが遅いのは、なかなか速くならないですよね……。何かコツはありますか?
走るのが苦手な子は、「ヨーイ、ドン!」で上を向いてしまうんです。前に走りたいのに顎が上がるから頭が下がり、重心がうしろにかかってしまう。
オリンピックなどで陸上選手が短距離を走るのを見ると、100m走では30mくらい前を見ていません。全員、自分の膝を見て走っています。そして、かなり体は前傾しています。頭を上げてからも、前につんのめりながらそれに負けないくらい足を早く回転させています。
50m走なら10~25mは膝を見て走るようにします。パパママが見て、合図をしてあげるといいですね。しっかりと準備体操をしたあと、写真のエクササイズを5回×3セット、繰り返しやると、身につくと思います。
『12歳までの最強トレーニング』(実業之日本社)より。撮影/中川文作 企画・編集/(株)ナイスク
パパママと一緒に楽しくやるのが、上達の一番のコツ
――目からウロコのエクササイズ。なんだかワクワクしてきました。けれど、子どもは飽きっぽいので、続くのかが心配です。
ひとりで勝手にやりなさい、と言ってもなかなかやりませんよね。一番いいのは、パパママが一緒にやること。エクササイズや投げる、走るが楽しいコトになる、というのが大事です。環境づくり、ですね。
僕には3歳と1歳の男の子がいるんですが、僕が仲間やお客さんと一緒に夜8時にLINEツアーで体を動かすとき、子どもたちは必ず横に来ます。そして、柔軟体操をしてから僕やみなさんのマネをしています。上手にできているときは、十分にほめてあげる。その繰り返しで「自分はできるんだ!」という思いが育ち、運動そのものが好きになっていきます。
パパやママはけなさないで、ほめて楽しそうに! これが一番のコツですよ。
取材・文/三輪 泉
谷 けいじさん
1986年、香川県出身。10歳で体操に出会い、全国中学生大会、高校インターハイ・国体に出場。高2のときに腰椎間板ヘルニアを発症し、運動療法で改善した経験からトレーナーの道に。福岡大学スポーツ科学部卒業後はトップアスリートをクライアントに持つ有名オリンピックトレーナーのもとで学ぶ。パーソナルトレーナーとして独立後、数々の賞を受賞し、カリスマトレーナーとして名を馳せる。著書に『12歳までの最強トレーニング』(実業之日本社)『12歳までの最強ストレッチ』(徳間書店)など。
「12歳までの最強トレーニング」
著/谷けいじ 実業之日本社 1,350円+税
運動神経が飛躍的に向上するゴールデンエイジの子どもたちが、思い通りに体を動かす能力を育み、適切な筋肉と正しい姿勢がとれるようになるトレーニングを紹介しています。実際に本書のトレーニングをやって「かけっこが学年で1番になった」などの報告も。
インドア時間が増えて、子どもも大人も運動不足になりがちな今、室内で簡単にできるトレーニングを親子で取り入れてみませんか。体育の授業にもいかせる運動の基本が身につきます。