今回の連載の筆者は、おおたとしまささん。コミック「二月の勝者」とのコラボ本『中学受験生に伝えたい勉強よりも大切な100の言葉 二月の勝者×おおたとしまさ』も出版している、中学受験関係者なら知らないひとはいない教育ジャーナリストです。
ドラマの放送を直前に控えた連載第1回は、原作漫画のストーリーと、ドラマの公式ホームページで公開されている事前情報を比較しながら、原作を読んでいる人とそうでない人、それぞれにとってのドラマの見どころを考察していただきました。
「中学受験生はかわいそう」は余計なお世話
10月16日22時、日本テレビの新ドラマ「二月の勝者−絶対合格の教室−」が始まる(2020年7月の放送開始予定が、コロナ禍で延期になっていた)。原作は、週刊ビッグコミックスピリッツで2018年から連載中の同タイトルの漫画。作者は高瀬志帆さん。中学受験業界の構造のみならず、中学受験を志す親子の心情をリアルに描いており、塾講師のなかにもファンが多い。
タイトルに「絶対合格の教室」とあるが、受験必勝テクニックを紹介するような内容ではない。昨今の中学受験の過熱ぶりを冷笑するような話でもない。「桜花ゼミナール」という中学受験塾を舞台とした、それぞれの中学受験生およびその家族の人生ドラマが同時並行で進行する。基本的に大人向けの漫画である。
先に結論を述べておく。今回のドラマは、すでにわが子の中学勉強に取り組んでいる親御さんはもちろん、中学受験というイベントそのものに疑問を抱いている大人たちにこそ広く見てほしい。
「二月の勝者」とのコラボ本『中学受験生に伝えたい勉強よりも大切な100の言葉 二月の勝者×おおたとしまさ』の最初のページに私は、「『中学受験生はかわいそう」というのは、余計なお世話だよね。」という一文をもってきた。その意味が、ドラマを最後まで見てもらえればわかるはずだ(もちろん私はドラマがどのように展開されていくのかは知らないのだが)。
原作とドラマの設定の微妙な違い
原作漫画は主に新米塾講師・佐倉麻衣の視点で描かれている。しかし圧倒的な存在感で物語を展開するのは、実質的な主人公・黒木蔵人である。黒木は大手中学受験塾のトップクラスでの指導で業界に名をはせる、いわゆるカリスマ塾講師。その黒木が、なぜか中学受験塾としては二流とされる「桜花ゼミナール」に転職する。その部下として、新米講師の佐倉が配属される。
ドラマでは、黒木を、ドラマ「今日から俺は!!」などでの怪演が光る柳楽優弥さんが、佐倉を、大河ドラマ「花燃ゆ」で主演を務めた井上真央さんが演じる。黒木のライバル・灰谷純にはジャニーズ事務所所属「NEWS」メンバーの加藤シゲアキさんがキャスティングされている。ちなみにあるインタビュー記事で柳楽さんは、現在ご自身が中学受験生の親であることを述べていた。加藤さんは自身が中学受験を経験し、難関校に合格した経歴の持ち主だ。
塾生としてたくさんの子役も登場するが、それぞれ原作のキャラのイメージ通りであることに驚いた。また、12歳にして自らの目標のために努力を重ねる中学受験生の心情は、子どもながらに厳しいプロの世界で研鑽を積む子役たちのリアルな日常に重なる部分も多いはず。役柄に感情移入もしやすいのではないだろうか。
原作コミックはすでに13巻まで発行されているが、まだ連載は続いており、結末は誰も知らない。12月のドラマの最終回と原作の関係がどうリンクしていくのか(あるいはリンクしないのか)も、原作のファンには気になるところである。
ドラマの公式ホームページを見ると、「井の頭ボウル(講師たちの憩いの場)」という、原作には出てこない場所の存在が示唆されている。橘勇作(池田鉄洋)、桂歌子(瀧内公美)、木村大志(今井隆文)など、桜花ゼミナールの面々がここでいきいきとした素顔を見せるのだろう。そしてこの場で、漫画とは違う場面展開が繰り広げられるはずだ。
ドラマの設定で佐倉は、元中学校教員でダンス部の顧問だったということになっている。原作では空手の達人で、それが黒木を救う場面もあり、子どもたちへの空手指導でなんらかのトラウマを抱えていることが示唆されていたが、そのあたりの設定変更が物語の展開にどんな影響を与えるのかにも注目したい。
原作者の高瀬志帆さんにドラマ化の感想を直撃!
ドラマの放送を目前に控えた現在の心境を、原作者の高瀬志帆さんに直撃した。
−−−−予告編などで、実写の登場人物を見た感想は?
−−−−原作者としてドラマのどんな点が楽しみか、不安か?
ドラマならではのテンポの良さ、キャストの方々の血の通った演技、魅力により、原作とは一味違った「生きている」ドラマを見せていただけるのではないかと期待しています。漫画はまだ完結してませんので、ドラマではどんな展開になるのか、そこもとても楽しみです。
物語の構造上、主人公の「真意」がすぐにわからない構成になっているのは原作もドラマもいっしょ。なので、辛辣で赤裸々なセリフ・表現が、そのまま額面通りに伝わってしまうことの怖さはあります。ですが、テレビドラマという媒体の、マスに向けてのメッセージ伝達力は本当にすごく、わかりやすく、ストレートに伝えてくださるかと。その不安は杞憂に終わるだろうと思っております。(高瀬志帆さん)
−−−−6年生はまさに正念場の時期。中学受験当事者としてこのドラマをご覧になる方々へのメッセージをお願いします。
揺さぶられるのはきっと中学受験観だけではない
中学受験とは、コンクリートジャングルを舞台にした親子の大冒険物語だと私は思っている。映画の「ロード・オブ・ザ・リング」や「ネバー・エンディング・ストーリー」あるいは「スター・ウォーズ」などをイメージしてほしい。あのハラハラドキドキを、中学受験の親子はガチで味わうことになる。今回のドラマも、同様のハラハラドキドキを味わうことができるはずだ。
約3年間におよぶ中学受験勉強の日々で、模試の結果如何で親子の感情はジェットコースターのように揺さぶられるし、ときには本当の恐怖も感じる。やり方を間違えればひどい後遺症を残す大怪我をすることも。けれども、どんなに回り道をしようとも、その果てしなく見える旅を終えた者たちには、大きな感慨と人間的成長がもたらされる。
「二月の勝者」というタイトルではあるが、少なくとも原作は、中学受験における“勝ち負け”だとか、学歴社会での“勝ち組・負け組”のような小さなことをテーマにした作品ではない。ドラマでも、この現実社会における受験や進学システムの矛盾やそれにともなう安易な自己責任論への疑問が描き出されつつ、しかしその現実のなかでもたくましく成長する親子の姿までが活写されるはずだ。多くの視聴者の、中学受験観はもちろん、教育観、人生観までが揺さぶられることだろう。
10月16日(土)夜10時 初回放送開始/日テレ系列
受験直前期の超実践的な注意点の数々、
WEB出願の落とし穴、「お守り代わり」の受験校の効能、
学校は休ませる?問題……
受験当日から受験終了までの過ごし方、
親のやるべき仕事を黒木が徹底解説。
ビックコミックスピリッツで大ヒット連載中の中学受験漫画『二月の勝者-絶対合格の教室-』と気鋭の教育ジャーナリストのコラボレーション。「中学受験における親の役割は、子どもの偏差値を上げることではなく、人生を教えること」と著者は言います。決して楽ではない中学受験という機会を通して親が子に伝えるべき100のメッセージに、『二月の勝者』の名場面がそれぞれ対応しており、言葉と画の両面からわが子を想う親の心を鷲づかみにします。
文/おおたとしまさ