世界を驚かせたある5年生の「カブトムシ自由研究」。息子と同じ好奇心をもった父母が支えに

小学生の夏休みの自由研究が世界を驚かせました!埼玉県の柴田亮さんは5年生の夏休み、自由研究「シマトネリコに集まるカブトムシの研究」で、「日本のカブトムシは夜行性」という定説を覆すデータを収集し、昨年、その成果がアメリカの権威ある専門『エコロジー』に掲載されたのです。世界的発見につながった成果の陰には、息子の自由研究を温かく見守ったご家族のサポートがありました。母親の真理子さんにお話を伺いました。

幼稚園の頃からカブトムシ好き。ある日、自宅の庭の木に突如カブトムシが集まり始めた!

-亮さんの自由研究が、世界的な発見として発表された経緯を教えてください

亮のカブトムシ好きは夫の影響が大きく、幼稚園の頃から毎年夫と一緒になって採集を楽しんできました。数年前、亮が”宝箱のような場所”と言っていた、家の近所のクヌギ林が伐採されてしまい、それから家の近くでカブトムシを見つけることが出来なくなってしまったのですが、小学4年生だった2019年の夏休みに、突然、庭のシマトネリコにカブトムシが集まり始めたのです。

亮にとっては、奇跡のような出来事で大喜び。さっそく観察をはじめることになりました。

 

昼間いないはずのカブトムシがいる!観察を始めて湧いたギモンに母が取った行動とは?

すると、クヌギでは昼間は1匹も見つからなかったカブトムシが、庭のシマトネリコには朝昼晩いつ見ても何匹もいることが不思議だと言うのです。

私も夫も科学は全くの門外漢ですが、亮の言うことは確かに不思議だと思い、家にあった図鑑やネットで一緒に調べてみたのですが理由は分かりませんでした。家族の会話はしばらくこの謎についての話一色になりましたね。

-カブトムシの謎をめぐって、これが、大発見の始まりになるとは、ですね。そこからどのような展開があったのでしょうか?

以前、亮が、家によく入ってくる”お尻から糸を出す蟻のような虫(アリグ モ)”のことを、蟻なのかクモなのかと不思議がった時に、一緒に図書館へ行って図鑑を調べてみたことがありました。詳しいことが分かって喜んだ亮がレポートのような形にまとめたことがあったのです。

図書館で借りた本にヒントが見つかって、研究者の先生にメールを出しました

それがとても楽しかったことを思い出 し、今回も図書館で調べてみたら?と勧めました。すると、亮がたくさん借りてきたカブトムシ関連の本の中に、唯一、“トネリコには、理由は分からないが昼間カブトムシが訪れることがある”と書いてあった本を見つけたのです。

亮は、著者の山口大学の小島渉先生に質問したいと言いはじめました。小島先生は動物生態学が専門の研究者です。大学の先生に小学生がいきなり質問したらご迷惑ではないかと悩んだのですが、どうしても質問したいということで、小島先生のブログからアドレスがわかったので、思い切っ てメールを差し上げたのです。

すると、翌日すぐにお返事をいただきました。質問について、まだ誰も研究していない為分かっていないということ。そして、亮が記録しているのはとても貴重なデータだからぜひ続けて下さいとあり、考え方や観察方法のアドバイスなどもいただきました。

小4の時の自由研究で、町の科学展で特選など複数の賞を受賞

-それは、亮さんにとって感激でしたね。

はい、それは大喜びでした。小学生の質問に丁寧に答えていただいて、家族一同、大感激しました。そして、質問の答えにも納得がいき、先生のアドバイスに従って約1か月間観察を続けました。観察結果と自分なりの考察、小島先生に教わったことを模造紙にまとめて学校に提出しました。

この4年生の時の自由研究は、小中学生が対象の町の科学展で特選を受賞し、埼玉県の地区展に推薦をいただくことができました。

そして、小島先生に、お礼とご報告の意味で作品の写真をお送りしたところ、研究がとても面白いという感想をいただき、来年の観察へのアドバイスも色々といただいたのです。

「動機・目的・実験・結果・観察・結果・考察」と7つの項目に渉って模造紙にまとめられた小4の時の自由研究は、複数の賞を受賞。

2年目は162匹のカブトムシを観察。家族みんなで24時間態勢でサポート

-小島先生のアドバイスで、翌年のカブトムシ観察の内容がステップアップしたのですね?

アクリル絵の具を塗って行った個体識別

 

小島先生が研究を「面白い」と言ってくださったことで、亮は大いに発奮したようです。幸いに、翌年もまた、シマトネリコにカブトムシが集まりました。

小島先生から、今度は個体を識別して行動を追跡したり、深夜のデータをとってみることをアドバイスいただき、実行することに。

個体識別は、カブトムシの背中にアクリル塗料で印をつけて区別しました。深夜帯は夫が起きて観察し撮影しておくという協力体勢にしていました。ある個体の行動を継続して追跡した時には、亮も仮眠を取りながら深夜に起きて夫と交代で観察したこともありました。

昼間学校があった日は、私が木の様子をビデオ撮影しておいたり、家族で出かける用事があった日には祖父に観察をお願いしたりと、家族みんなでカブトムシの観察を楽しんでいた気がします。2年目に調べた個体は、162匹になりました。

虫はあまり得意でなかった母にとっても、カブトムシは今や可愛い存在に

実は、虫を観察するのは好きですが、触るのは苦手です(笑)。でも、カブトムシだけは毎日近くで見ているせいか、すっかり慣れました。今や、可愛い存在です。

観察結果が高評価を受け、共同執筆者として論文発表。世界に発信されました!

-観察2年目の2020年と言えば、コロナまっただ中の夏休みでしたね。影響はありましたか?

はい、夏休みが短縮されたので、自由研究として学校に提出するのは断念したのです。ただ、観察は続けて、カブトムシが完全に終息してから結果をまとめて小島先生に報告しました。すると、先生から「誰も調べたことがない貴重な記録なので論文として世界に発表するべきだと思います」というお返事をいただいたのです。

その後、小島渉先生が亮さんと共同研究という形で、研究の内容を英語に訳して論文を執筆。2021年4月に、世界的な学術誌『エコロジー』に掲載されました。その快挙は、5月に朝日新聞にも掲載され、話題となったのです。記事によれば、外部の研究者も、そのデータの分厚さを称賛したそうです。

 

標識した個体の生存が確認できた日数などをまとめた「個体毎の滞在期間」の記録

-個体観察は、滞在期間や、オスメスの分布など、緻密なデータで驚きました。ご家族の協力があったとはいえ、小学生の亮さんの観察の姿勢や継続力はたいしたものですね。亮さんは、どんなお子さんですか?

幼い頃は、ブロック遊びや紙工作が大好きで、幼稚園でも家でも毎日ひたすら何かを作っている子でした。興味を持つと、満足するまで熱中する性格です。それで困ることも多々ありますが…(笑)

いつも行っていた図書館のそばに小川や雑木林があり、絵本を借りた後はそこでメダカやザリガニを捕まえたり、枝やドングリを拾ったりするのが好きでした。

父が深めた、カブトムシへの探究心

亮が幼稚園のキャンプで初めて昆虫採集をした際に、1匹も捕れずにがっかりして帰宅したことがあり、夫がその日の夕方、同じキャンプ場へ連れて行きました。そこで運良くメスのカブトムシを1匹見つけることができ、持ち帰って大切に飼育したのです。そこからですね。カブトムシに夢中になったのは。

夏が来る度に、近所にあったクヌギ林に通うようになりました。夫と一緒に飼育教室へ参加してヘラクレスオオカブトを幼虫から育てたり、外国の甲虫の図鑑を眺めたりもしていました。

子どもが興味をもったものは、親も積極的に楽しむ

-柴田家の教育方針があれば、教えてください

特別な教育方針がある訳ではありませんが、子どもが好きなことや興味を持っていることは、親もやってみて、一緒に楽しむことが多いですね。小学校時代は、レゴスクール、テニス、ヴァイオリン(祖母が先生だったので習い事というより遊び感覚で始めました)を習っていました。

亮が読んで面白かったという本は私も読みたくなり、借りて読んでいます。小島先生の『わたしのカブトムシ研究』は夫も読み、家族で感想を言い合って楽しんでいました。

勉強に関しては、普段ダイニングテーブルで家庭学習をしているので、理解できていないことがないか見守るようにしています。

まだ誰も知らない、専門家にもわからないことを調べている息子にワクワク

-亮さんが興味をもったことには、ご両親も興味を持って取り組まれている、その姿勢が素晴らしいです。

亮のカブトムシの観察で、私がとりわけ面白さを感じたのは、まだ誰も知らない、専門家にも分からないことを、亮が好奇心を持って毎日調べているという状況です。たとえ答えが分からなかったとしても、こんな経験は滅多に出来ないと思いワクワクしました。

丁寧なアドバイスとギモンへの共感。研究者・小島先生の導きに感謝しています

シマトネリコに来てくれたカブトムシたちと、研究について教えて下さった小島先生のおかげです。

本人は、”自分が知りたいから調べただけ”という気持ちだったそうなので、小島先生から、”この結果はぜひ論文として世界に発表しましょう”というメールを頂いた時は、驚いていました。

先生は分析結果をやさしく分かりやすく教えて下さったり、分からないことは「本当に不思議ですね」と共感して下さったりするので、亮もいつも自由な発想で質問や感想を送っているように思います。

例えば、論文の中に、進化の歴史を共有していない外来植物と在来昆虫の関係について、「進化の罠」という言葉が出てくるのですが、亮は「人が新しい植物を植えることで生き物の生態を大きく変えてしまう可能性があるのではないか」という考察を書いただけでしたので、後から「進化の罠」という言葉の意味を知り、「なるほどなぁ」「しっくりきた」と言って、先生にもそのような感想を伝えていました。

昨年の夏は、論文の続きにあたる研究をしましたが、これも先生のご協力とアドバイスがなくては出来ませんでした。その後も、動物行動学会で発表したり、沖縄での生物リズム研究会にお誘い頂いたりと、たくさんの貴重な経験をさせて頂いています。先生には感謝の念に堪えません。

中1になった亮さん。カブトムシの観察のその後は…

-現在、亮さんは中学1年生。カブトムシの観察は続いていますか。将来の夢は?

相変わらずカブトムシやクワガタが集まる木を見に行くのが好きです。最近、クヌギやシマトネリコ以外にもカブトムシが集まる樹種を見つけて、頻繁に観察に行っています。一方で、ヴァイオリンが好きで特技でもあるので、日々の練習やコンクール出場などを部活に代わる活動として認めて頂いています。

亮がギモンに思った「なぜ、シマトネリコのカブトムシが昼間も活動するのか」については、その後、小島先生のアドバイスをいただいて続けた実験結果から、本人は一つの納得のいく答えを見つけたようです。

将来の夢はまだ漠然としているようですが、カブトムシの生態についてはまだまだ不思議な事がたくさんあるので、今後も観察を続けていきたいと言っています。

夏休みには小島先生にお会いする予定があり、今から楽しみにしています。

 

取材を終えて

子どもの好奇心の育て方を学んだ思いです。母の真理子さんから、「楽しかった」という言葉が度々聞かれたことがとても印象的でした。子どもが興味をもったことに、すかさず気づき、すくい上げてサポートし、それを一緒に楽しむというご両親の子育ての姿勢が今回の成果を生んだのでしょう。そして、小学生のギモンに誠実に対峙された研究者の小島渉先生も素晴らしい。その後も親交はつづいているとのことですが、「信頼できる大人」に出会えたことが亮さんにとって、「自由研究」を通して得たもう一つの大きな成果ではないでしょうか。シャーロックホームズならぬ、ヴァイオリンが得意な昆虫学者が生まれるかも?亮さんの将来が楽しみです。

取材・構成/HugKum編集部 写真提供/柴田真理子さん

夏休み☆自由研究ハック

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