※ここからは『ギフテッド応援ブック』(小学館)の一部から引用・再構成しています。
ギフテッド研究者・当事者・保護者に繰り返し取材をした著者と、取材データを結晶させて生まれた架空のキャラクターとのQ&A形式で進みます。
目次
ギフテッドとはどんな子?
「ギフテッド」は診断名ではない
一 いきなりですが、ギフテッドって何ですか?
難しい質問ですね。ギフテッドは、教育学や心理学で使われる用語で、一般的には知的能力(知能)の高い子どもを指して使います。医学的な診断名ではないので、医療機関を受診しても、ギフテッドと「診断」してもらうことはできません(医師から「ギフテッドです」と言われたとしても、医学的な診断ではありません)。
アメリカではギフテッドに関する項目に定義が記載されていますが、日本には「こういう子がギフテッドです」という定義は、まだありません。
世界各国で読まれている本
日本語にも翻訳されている『わが子がギフティッドかもしれないと思ったら』というアメリカで発売された本があります。本に書かれている助言や知恵は、著者たちが何十年にもわたりギフテッドやその家族と関わり続けた経験から生まれました。
この本の中に、「ギフテッドにはさまざまなタイプがありながらも、共通特性は実際に存在する」とあります。
北欧では教育整備が進行中
北欧諸国では、ギフテッドの教育が公教育で保障されるための整備が進められています。
たとえば、「これからギフテッドの教育が動き始める国」という意味では、デンマークが、1つの参考になるでしょう。デンマークの子ども・教育省は、2024/25年度からギフテッドのスクリーニングチェックリスト活用を目指しています。
9年制義務教育学校である国民学校(Folkeskole)1年生が対象で、「早期にギフテッドであると気がつくことで、個々の子どもが抱える課題や失敗のリスクを最小限に抑えることができるようになる」としています。
このチェックリストの項目は、1000人の子どもを対象に実施した個人の研究をもとにしています。25項目中、19項目以上該当することがギフテッドであることの1つの目安とされ、研究の実施時には19項目以上該当した子どもの84% が、IQ120以上だったという報告があるそうです。資料によって表現こそ違いますが、「ギフテッドの特性」とされる項目を見比べてみると、ギフテッド像をイメージするのに役立つと思います。
知能が高いとは、どういうこと?
一 ギフテッドは、頭がいいというイメージも強いですが…。
頭がいい、というのは語弊があります。ギフテッドは、「知能検査で測ることができる知能が高い」のです。そもそも知能って、何だと思いますか? 1987年に1020人の心理学者、教育学者などが集まって、「『知能』とは、何か?」について意見を出し合ったことがあります。大多数の学者が次の項目を挙げました。
- 抽象的思考・推論能力(99.3%)
- 問題解決能力(97.7%)
- 知識獲得能力(96%)
一 知能とは、物事全体の現状を把握し、その仕組みを理解し、これに基づいて何をなすべきかを見つけ出す能力なんですね。
はい。そこが、知能の中核だと考えます。けっして、「試験でよい成績をあげることではない」のです。
「ギフテッド」というラベリングが必要な理由
なぜ、ギフテッドという言葉が必要なのか?
ギフテッドという言葉を使う時、「知能が高い」というほかに、もう1つ、とても大切なポイントがあります。
「学校や日常生活で困ることがある」ということです。知能が高くても、学校や日常生活で困っていない子もいるでしょう。あえてギフテッドという「ラベル」を使っているのは、実際に困っている子がいるからです。「知能が高いけれども、困っている」
という状態は、学校の先生方にはなかなか理解してもらえません。
また、専門機関に相談に行ったとしても、「知能が高いのだから、大丈夫です」と、言われてしまうこともあります。
知能の高さに、生活力が追いつかない
最近は、ギフテッドという言葉が認知され始めたせいか、学童期前のお子さんをお持ちの保護者からの相談が増えています。
保護者は園から「活動内容を皆と一緒にできない」「好きなことに集中して切り替えが下手」といった指摘を受けるようです。園の先生は、本人との会話や、図鑑や本を読む姿から、その子が能力が高いとは感じています。だからこそ、なぜ、「みんなと一緒に行動をする」という当たり前のことができないのか、不思議なのでしょう。
一 ギフテッドは、集団適応が難しいのですね…。
「集団適応が難しい」というよりも、その場に居場所としての帰属意識が持てていない、という見方の方が、実態に近いと思います。「ギフテッドは、自閉スペクトラム症の別名なのでは?」といった誤解もあります。もちろん、自閉スペクトラム症(ASD)のあるギフテッドもいますが、自閉スペクトラム症のないギフテッドもいます。彼らと1対1で関われば、相手の気持ちを考えて行動できることに気付かされます。
ギフテッドは、言語理解力や記憶力、好きなことに対する探究心などは高いです。一方で、日常のルーチンが定着しない、精神的にちょっと幼いと感じるケースが、よく見受けられます。
幼児期は、とりわけ、知能の高さに生活力が追いつかない時期です。そこにギフテッドによくある完璧主義や正義感の強さが結び付くと、イライラが募って癇癪を起こすなど、周囲との軋轢を生んでしまいます。
ギフテッドは、配慮や支援が必要な子ども
「ギフテッド」というラベルは、セーフティネットだと考えています。ギフテッドを、「配慮や支援が必要な子ども」とすることで学校での配慮や支援につながると思います。
ギフテッドは姿が見えづらいので注意が必要
姿が見えづらい理由 その1 量的な問題
一 ところで、ギフテッドの人数って、わかるんですか?
結論を言うと、定義がないので数えようもありません。
ただ、内閣府が示したIQ130以上9)は、知能指数のベルカーブを使って考えると、分布上は平均から離れていますし、ボリュームゾーンである「約7割の多数派側」ではありません。
小・中学生の頃は、家と学校が、時間の大半を占めている時代です。今いる世界の中で、多数派側ではないことは、大人が思っている以上につらいものです。「自分と似た子」、つまり仲間に出会えず、1人で孤独を抱えている子も多いと思います。
姿が見えづらい理由 その2 才能は見えづらい
ギフテッドの姿が見えづらい2つ目の理由は、そもそも、才能というのは見えづらいという点です。
「才能とは、すでに偉業を成し遂げている人だけが持っているものではない」と、まずは知って下さい。
偉業どころか、ギフテッドの中には、その子に合った学習環境を手に入れられず、知能に見合うだけの学習成績が得られない子(アンダーアチーバー)もいます。
才能は学業成績だけでは測れませんし、子どもたちの中には学校の勉強に興味を持たないという子もいます。
ギフテッドの中には、好きなことについて「これをもっとやりたい!」とか、「深めたい!」と、強い魅力にとりつかれたように打ち込んだり情熱的に課題に取り組んだりする子もいます。
現場を見ていると、親や教師は「才能があるのなら、伸ばさなければ!」という使命感から、苦しくなってしまう側面があると感じます。子どもの「好きだ!」「やりたい!」を尊重し、応援することから始める、くらいに考えてみてはいかがでしょうか?
※ここまでは『ギフテッド応援ブック』(小学館)の一部から引用・再構成しています。
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ギフテッドの子どもたちへの教育や支援のあり方は、近年、多くの人々の注目を集め、様々な議論が展開されています。
我が子がギフテッドでは?と感じている親御さんもいらっしゃるかもしれません。
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ギフテッド親子に贈る応援の書
幼児期から高い知能を示し、絵にも突出した才能を示していた少女、小川結衣。彼女はその能力と発達のアンバランスさゆえ、徐々に学校生活に適応できなくなり、小学5年生の春、ついに不登校になってしまう。困り果てた結衣とその母・さやかだったが、ある日、ギフテッドの子供たちのために居場所を提供している人物と出会う。その出会いが結衣の人生を大きく変えることになろうとは、その時の彼女は思いもしなかったーー。
本書は、こんなストーリーのマンガで始まります。
その後の解説本文では、最新の研究成果と知見を踏まえ、ギフテッドを理解するための基礎知識を専門用語を避けてわかりやすく解説。さらに、当事者たちの「生きづらさ」を「らしさ」に変えるために必要なサポートのあり方についても提案します。
マンガのストーリー後半、結衣とその仲間たちの成長を支えたものは、一体、何か?
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