場面緘黙症のみいちゃんがカフェをオープンしたのは小学6年生。16歳のいま『みいちゃんのお菓子工房』は彼女の居場所。「守りに入ったら子どもの可能性を伸ばせない」という母・千里さんの見守り姿勢に学ぶこと

小学6年生でカフェをオープンし、16歳となった今は『みいちゃんのお菓子工房』の店主をつとめるパティシエ・みいちゃん。美しくて美味しいお菓子は、多くの人を魅了しています。前編に続き、みいちゃんの母・杉之原千里さんに、現在にいたるまでの親子の道のりを伺いました。

みいちゃんがお菓子工房を始めるまでのお話【前編】はこちら

小学6年生でケーキプレートを提供するカフェをオープン

16歳にして、自身が店主をつとめる『みいちゃんのお菓子工房』をグランドオープンしたみいちゃん。自閉症スペクトラム症という特性を持ち、『場面緘黙症(ばめんかんもくしょう)』という、自宅以外の緊張が強い場面では体が自分の意思で動かなくなり、声を発することが難しくなる症状があり、発達障害知的障害潔癖症でもあります。そんな彼女がどのようにしてお菓子工房を始めたのでしょうか。

小学4年生の時、初めて作ったみいちゃんのいちご便
小学4年生の時、初めて作ったみいちゃんのいちご便

――どんなきっかけでお菓子工房を始めましたか?

千里さん 「元々は焼き菓子などを家で一緒に作り始めて、最初から上手やったんです。それからタルトを作るようになったらこれも上手で。そこからホールケーキをうまく作れるようになりたいと言って練習を重ねたら上手にできるようになったんです。発達障害特有の集中力の高さ、こだわりが強い特性が活きたのだと思います。

それを友達に配ったり、お友だちの間で販売したり、お届けしたりしていて、 そこから「1回自分で売ってみる?」と相談したら「売りたい」ということだったので、営業許可のある厨房を借りてそこを製造拠点にして、小さなマルシェに出店をしたりするように。

私自身もみずきのためにいろいろと動いているなか、支援機関所有の空きレストランを地元で見つけたので「そこでカフェをやってみる?」と聞いたら「やる!」と即答。それが小学6年生のときでした」

お菓子作りを始めたころのみいちゃん

そこではチョコペンで可愛く仕上げたケーキプレートとドリンクを一緒に提供。口コミで話題となり、40席が開店と同時に満席になるほど人気になりました。

当時は体の緘動(かんどう/体がこわばって思ったように動かなくなる症状)が強かったので、社会に出ていく手段がなかなかなかったんですけど、喜んで来てくださるお客さんやリピーターさんが増えていて、この子にはこの道しかないなと、思い切ってみずき自身の工房を構えることになりました」

守りに入ったら子どもの可能性を伸ばせないと思います

――カフェで働いているときは緘動の症状は出なかったのですか?

千里さん 「カフェの厨房はお客さんから完全に隠れている状態で、その状態なら体も動いて、ケーキ作りが出来ることがわかりました。

だから工房を建てるときには、厨房をどんな風に隠そうかという話になりましたが、長い将来どこで克服するかもわからへんから、厨房の窓を向こうからうっすら見えるぐらいのすりガラスにすることに。

出来上がってみたら思いのほか見えるガラスで……最初は無理やったんです。お客さんから唯一隠れる死角があって、そこから出られないこともありましたが、月2回の販売で訓練になったのか、ちょっとずつ出てこられるように」

――困っている様子のときお母様はどんなお声がけをするんですか?

千里さん 「見守るぐらいかなぁ。受け止めてあげるというか、そこでケーキを作るんやったら、それでいいよって。どうしても出てこないとできない作業のときは、私もサポートしながら無理のない範囲で、徐々に徐々に、出てこれるようにはしていました。

全てにおいてですけど、守りに入ったら成長しないと思います。だからすりガラス1つにしても、少々見えすぎてても、それは1個先に進むための挑戦の場。常にそういうのを置いといてあげないといけないかなとも思いますね」

記憶力がいいからケーキの再現性も高い!

白くまサンタのショートケーキ
白くまサンタのショートケーキ

――作品のアイデアはどんなところで得ていますか?

千里さん 「これはあの子の才能というか、生きてきた経験がそうなってるんですけど、外では体が動かず字を書けないので、小学校の授業は、視界から入るものだけで勉強してる感覚やったんです。人とは脳の使い方を変えざるを得なかったと思うのですが、頭のなかで動画で撮影したものを、家帰ってきてから思い出して再生をして勉強するのがずっと続いていたので、記憶力がものすごくよかったんですね」

映像で見たり食べたケーキをそのまま作れる

千里さん 「それがあるからか、YouTubeSNSなどでケーキの映像を見たり、ケーキをどこかで食べたら、それをそのまま作ることができるようになってきて。そこにあの子の感性、見たもの、聞いたものがデザインとして落とし込まれています。あの子は、パティシエとしてだけでなく、アーティストとしての才能をすごい持っていると思いますね」

工房は14時開店ですが、ケーキは13時半にようやく出来上がることも多いそう。それから値段付けや梱包を担当する千里さんは、あたふたしてしまうこともあると笑顔でお話されていました。

工房ができてみいちゃんの居場所ができた

――お菓子工房始めてから変化はありましたか?

千里さん 「あの子の生き甲斐というか、居場所は完全にできたなと思います。声を出せないために、コミュニケーションが取れないストレスは相当やと思うんですよ。

でも、パティシエになってからはスイーツでコミュニケーションをとれるようになったので、そのストレスが取れた感じ。自分はこのコミュニケーション方法で十分やと思ってるみたいな感じで、生き生きしてると感じます」

――性格的な変化は感じますか?

千里さん 「小さい頃から自分で考えて行動する子どもではありましたが、より自分で考えるようになって、アーティストとしての素質が出てきたようにも感じますね。頑固なんで、こう!って決めたらこう!なんですよ。私がなにを言っても絶対に崩さへんのです。職人気質なところもあるけれど、それを越える斬新さを持っているので、それもありなんだろうなって。

ただ、ずっと工房でケーキを作り続けていると飽きているように感じるので、例えばイベントに参加して出店するなど、変化も取り入れています

イベントではその場でプレートを仕上げることもあり、お客さんの声がダイレクトに届くので、工房では得られないものがあるようで、嬉しそうにしています」

とってもかわいいみいちゃんのクッキー缶。
とってもかわいいみいちゃんのクッキー缶。

――接客も自分でやるのですか?

千里さん 「工房での接客はちょっと難しくて、レジのところまでは出てこられないんです。でも外でのイベントだとそれが平気になってきて。

先日も懇親パーティーの最後のスイーツだけをみずきが担当することになって、スイーツ提供まではみんなと一緒のテーブルで食事をしたんですけど、そういうこともいままではできなかったので、成長を感じましたね。

また、最近私が本を出したので、みずきがサインを頼まれてその場で書いていたこともありました。お客さまの目の前で字を書く事は、これまで絶対にできなかったので、ホント、できると思っていなかったので驚きました。動けば動くほど、いろいろなことを経験するほど、どんどん自分という形を作っていくんやろうなぁと思います」

 

大人が壁を作らない! 子どもの可能性を潰さないように

――これはできないのでは?無理なんじゃないか?とは考えないようにしていますか?

千里さん 「先ほどのサインもそうですが、できないだろうって思い込んでるところがあったんですけど、これ良くないなと思いましたね。

自然と大人が壁を作っちゃっているんですよ。そういうチャンスを与えてないだけやったんかもしれんなぁって。 大人が子どもの可能性を潰しちゃってることって多々あると思って。

まずは大人が枠を取っ払わないと。子どもが枠を自由に外れていた先に、才能だったり可能性につながったりするので。

うちは基本的にはみずきに全部任せていて、私がこうやって、こうしたらとは全然言いません。小学6年生でカフェを始めましたが、子どもってできないと思っていたらできないやってみてってやらせたら、結果がどうであれやります」

大人が大人の頭で考えてちゃ面白いことはできない

千里さん 「大人が「お客さんに出すのにこんなクッキーじゃ……」と思ってしまったら、そこでも壁を作っている。

ここに来るお客さんって綺麗なクッキーを望んでないんです。 ちょっと壊れたクッキーでも他の店とは違うし、裏側にあるストーリーが見えます。“綺麗に作らなきゃ”“美味しくしなあかん”とか常識にとらわれていたら面白いことはできないし、大人が大人の頭で考えてちゃダメだと思います。

それに小学生ってすごい発想があるんです。中学生になる前、小学3年生、4年生くらいまでに集中してなにかやらせてみるといいと思いますね。これはみずきだけでなく、みずきのもとにお仕事体験に来てくれた小学生の姿からも学んだことでした。エプロンを渡してやってみなさい!って状態でいきなりやらせたらできるんです。できないと思ったら大間違いで。

そのときは子どもたちとみずきとの相性もよく、しゃべることはないですけど、雰囲気もすごく柔らかで、みんながみずきに憧れてくれているのも伝わっていい経験でした」

身近に憧れの人を作ると頑張る原動力に

千里さん 「みずきもそうなんですけど、憧れの存在は身近にいればいるほどいいと思います。 遠い人を憧れの存在するより、近い存在の人を憧れの人にすると、夢に届きやすい。

みずきも近くに住んでいてひとりでお店をやられているパティシエさんに憧れています。その方との出会いが、ひとりでも出来るんだ!自分の店を持つんだ!ということをイメージさせてくれたと思いますね」

見た目も美しい紫芋のレアチーズケーキ
見た目も美しい紫芋のレアチーズケーキは、みいちゃんが小学6年生のときに制作したもの

今後はみいちゃんの経験を多くの人に伝える側に

――今後の活動について教えてください。

千里さん 「去年工房をグランドオープンして、みずきの体のこわばりがだいぶ取れてきたのを感じています。ようやくそこまでできるようになったので、これからは、子供達を応援する側になりたいと思っています。

お店を丸ごと子どもに解放して、みずきの経験をみずき以外の子たちに実践をするっていうのを、始めていきます。そこで「お菓子教室」っていう名の「店長経験」として学びの場にするイメージです。

今までたくさんの方に助けていただいた分、この工房を使って子ども達になにかを伝えていければと。そしてこれからは、アーティストとしてどんどん人前にでていき、お皿の上にあるスイーツアートを提供していこうと思います。今、その準備をしています」

カフェからスタートしたみいちゃんのケーキ屋さんとしての経験はまだ4年目。それでもお母さんを始め多くの方のサポートで、数多くの社会経験を積んだことによりすいぶん成長をしているように感じます。

親が周りと比べているうちは子どもは伸びていかないのではないか

最後に、千里さんがみいちゃんから刺激を受けることはありますか?と聞いてみると、「常に前向きだし、へこたれない」と言い、続けて「私たちはハンデっていう見方をするけど、あの子は自分は自分だし、自己肯定感も高い。あの子からしたらあの生きざまが普通。喋れなかったり動けないけど、スイーツは上手に作れるし、こういうコミュニケーションの取り方もあるし、それはそれでよいと自分が思っているんで、かわいそうとか、ハンデだと思うこと自体がおかしいと思わせてくれる」と教えてくれました。

また、「どんな子でもいいところを持っているし、誰かと比べるという概念をとらないとダメで、障がい者と健常者っていう区別を大人が作ってしまったこと自体が、比べてしまっている」とも言い、「比べるということは、なにか基準があるんです。自分のなかに基準があってそこまで絶対来なさい、出来なければマイナスだよと言う風に。でもそれは私から見たマイナスなだけで、その子にとってはプラスかもしれない。そこの概念を親が取らないと、子どもは伸びていかないのではないかと思います」と、みいちゃんとそのお姉ちゃん、お兄ちゃん、3人を育ててきた経験からお話してくださいました。

特性のあるなしに関わらず、つい子どもに対して大人が枠を作ったり、基準に当てはめようとしたりしてしまうことは、子ども成長を邪魔することなのだと実感。千里さんの説得力のある言葉の数々は、子育て中のママの指針になってくれそうです。

 

みいちゃんがお菓子工房を始めるまでのお話【前編】はこちら

みいちゃんのお菓子工房

月に6回ほど不定期開店。オンラインショップで全国発送もしている。
公式サイト→:https://mi-okashi.com/
公式Instagram@mizuki.okashi.koubou
みいちゃんInstagram@mizukimm0817
千里さんInstagram@_chisato_sugi

取材・文/長南真理恵

編集部おすすめ

関連記事