みんな「お金の増やし方」は知りたがるけれど…
いきなりですが、みなさんは自分にお金のリテラシー(知識や判断力)がどれくらいあると思いますか。当社が実施したアンケート「親子金融リテラシー調査(2024年3月)」の結果をごらんください。
赤いグラフはすでに「身につけている」と思う項目です。「お金の賢い使い方・節約」「お金の貯め方(貯金・貯蓄)」には比較的自信があるようですが、「お金の増やし方(投資)」は少し低め。一方で、青いグラフのこれから「高めたい」と思う項目では、「投資」がダントツであることがわかります。
もう一つ注目したいのが「お金のトラブル回避(詐欺・悪質商法等の被害に遭わないなど)」の項目です。これは多くの人がそれなりに身につけている感覚があって、それほど高めたいとも思っていないようです。
節約は日々意識しているし、これまで詐欺にも遭わずにやってきた。そうした過去の経験から「できる」「大丈夫」だと思うのは普通のことですし、それが人間の心理です。
でも投資は「増やしたい」という思いだけでは長続きしません。
だからこそ、これから投資を始めようという人は、根拠のない自信をつけてしまう前に、最初の大前提だけはおさえておきましょう。
投資の前提を知るのは、スポーツのルールを知るのと似ています。最初に基本のルールやフォームさえおさえておけば、自分で走りだせるようになるのも早いものです。実は少し前にゴルフを始めたのですが、見様見真似では、なかなかうまくならず…。それで最初の数カ月だけマンツーマンレッスンを受けることにしたら、上達スピードが格段に上がりました。投資も同じです。まずはスポーツのルールのように、確実に知っておきたい投資の大前提からお伝えします。
まずは「“投資”という考え方」を知るところから
2024年は、新NISA元年。そこに株高・円安・物価高も加わり、投資への関心はかつてないほどに高まっています。メディア報道も過熱し、いまや「投資=新NISA」のような雰囲気です。もちろん新NISAはしっかり使いたい制度ですが、投資は新NISAだけではありません。
ここで聞いてみたいのですが、みなさんは「投資」という言葉から真っ先に何をイメージしますか。
おそらく何かしらの手段で「お金を儲けようとすること」だと思う人が多いのではないでしょうか。でも本来投資とは、お金儲けに限りません。時間・体力・信用などを使って、キャリア・成長・生きがい・感動などを求めることも投資の一つ。だから「自己投資」という言葉があるのです。
資格学校、英会話教室などは自己投資の代表的なものです。ギャンブル性こそありませんが、うまくいかないこともあります。お金や時間を費やしてもそれに見合った効果を得られないこともありますし、その時間とお金をかけて別のことをやったほうがもっと大成したかもしれません。
投資はやったほうがいい?
よく「投資って、やったほうがいいんですか?」と聞かれますが、すでに多くの人は何らかの投資経験があるわけです。それでもお金だけは特別に考えて、うまくいかないことを恐れる人が多い。もちろん「自己投資でスキルアップして必死に働いてお金を増やす。だから金融投資はしない」という考え方もありますが、会社が倒産したり、自分が病気で働けなくなったりする可能性は誰にでもあります。私自身、年齢を重ねるほど自分が働く以外の選択肢を持つ重要性を痛感しています。
自分以外に働いてもらう代表的な手段の一つが株式投資です。投資した企業の従業員が働いてくれるおかげで配当や利益が出ていると考えれば、間接的に他の人に働いてもらっている、という見方もできます。
自己投資と株式投資、成功させるカギは「時間」
自己投資と株式投資に共通する最大の味方、それは「時間」です。
自己投資の英語やゴルフも、ひとにぎりの天才をのぞいて、多くの人は習得までに時間を要します。株式投資でも、投資した会社は時間をかけないと成長しません。投資先の成長を長い目で見て応援していく必要があります。短期間で楽して儲けることはできません。もしかすると運よく何回かくらいはあるかもしれませんが、儲け続けることは絶対にないと思ってください。
時間だけは誰にでも平等にあるものです。一方で、1日は24時間しかなく、時間は有限でもあります。そう考えると、少し他の人に働いてもらうことで、自分の持ち時間を増やすのも一つの選択肢です。そのための株式投資だと思えば、見方も変わるのではないでしょうか。私も若いころは、時間は湯水のようにあると思えましたが、年々時間が経つのが早くなるばかり。時間だけは一方通行で戻せません。時間が有限であることに、どれだけ早く気づけるかが重要です。
複利のメリットを最大限に生かして
また、“投資”という考え方の中で最も重要、かつ最初に知るべきなのは、複利のパワー。かのアインシュタインも「人類最大の発明」といったとされています。
「複利」とは、利息計算の方法の1つで、元金と利息の合計額に対して利息が計算されます。元金のみから利息を計算する「単利」と比べると、利息にも利息がつくため、時間の経過とともに増えるスピードがぐんと上がります。
複利の考え方を自己投資で説明すると、
- ●勉強(自己投資)して英語が話せるようになった
- ●そのスキルを活かして転職ができた
- ●転職先で新たなスキルを得てさらに満足度の高い企業に転職ができた(……以下繰り返し)
自分という元手に利息(スキル)がつき、やがてその利息も自分の一部になって、さらに大きな利息を生んでいく。この繰り返しで、加速度的に成長しながら、自分の市場価値を高めてくことなどは一例です。
株式投資でも複利は同様のパワーを発揮します。上記グラフは年率4%の運用利回りを複利と単利で比較したときのグラフです。もちろん投資の場合、固定の利率で必ず増えていく預貯金とは違って、日々値段が上下しますから、年率4%で30年運用というのは、「30年後に振り返ったら、毎年4%ずつ上がってくるくらいのスピードだった場合」と考えてみてください。複利のパワーや時間が大きな味方になることを実感できるのではないでしょうか。
また、運用利回りによって、どれくらい差が出るかを表したのが上記のグラフです。当然、運用利回りが高いほど、複利の効果も大きく現れます。共通しているのは、5年目くらいから差が出始め、10年を過ぎると顕著な差になること。複利は時間を使って効果を出していくものなので、投資は早ければ早いほどいい、つまり長く続けるほど効果が高まります。
ゼロ金利政策の時代が長かった日本では、複利でお金がどんどん増える経験をした人が少なく、複利の考え方がピンとこない人が多いといわれています。しかし、株式投資も自己投資も、複利のパワーを使ってこそ、飛躍的に増えます。このことはぜひ覚えておいてください。
たとえば電卓で複利を実感
子どもの金融経済教育も早いにこしたことはありません。お金の存在を認識できたころ、たとえば買い物ごっこを始めたくらいのタイミングからスタートしてもよさそうです。
先ほどの複利も、電卓を使うと簡単に説明できます。年率4%の運用利回りで100万円がどんなペースで増えていくか、iPhoneの電卓アプリでは次のようにして計算できます。
- ●100×1.04=104(1年目)
- 続けて
- ●=を押すと2年目の金額108.16が表示される
- ●さらに=を押すと3年目、4年目……の金額が順次表示される
つまり、=を30回押せば、30年目の324.339・・・という数字が表示されるわけです。ちなみに下のカッコ内は単利(毎年4万円ずつ増えた場合)の金額です。子どもと一緒に=を押し続けて、どんどん数字が大きくなる様子を実感するだけでも、立派な複利の勉強になります。
1年目 104(104)
2年目 108.16(108)
‥‥
5年目 121.665・・・(120)
10年目 148.024・・・(140)
20年目 219,112・・・(180)
30年目 324.339・・・(220)
投資は社会への参加権
自己投資も株式投資も、何らかのリターンを得るためにやるものですが、株式投資には「社会への参加権」という側面もあります。株式や商品を買うことで、私たちのお金がその会社に流れていくわけですから、投資した企業が社会や環境課題を解決するために動いたら、それを応援していることになる。いい会社により多くのお金がまわれば、社会は大きく変わるでしょう。株式投資は、自分が見たい未来、信じる未来をつくることに参加できる仕組みなのです。
ちなみにこのような教育が進んでいるのがイギリスです。シティズンシップという市民権などを学ぶ公民のような科目の中で、あるいは数学の一部として金融経済教育がおこなわれています。小さな頃からこういう感覚を持てると、将来の企業や仕事選びの軸も変わってくるはずです。投資とは、お金の可能性を引き出し、時間をかけて自分も社会も豊かにはぐくむ方法の一つ、叶えたい未来への大切な一票だということを、お子さんにもぜひ教えてあげてください。
プロフィール
個人の資産形成、ファイナンシャル・ウェルビーイングや金融経済教育の分野における啓発・普及活動を目的として、2023年10月にアセットマネジメントOne内に未来をはぐくむ研究所を設置、初代所長に。
構成/古屋江美子 撮影/五十嵐美弥