「歯周病」と「骨粗鬆症」の関係が怖い。プレ更年期に知っておきたい「歯周医学」について歯科医師が解説

プレ更年期の年齢になり、ちょっとした体調の変化が気になるというママたちも少なくないのではないでしょうか?  今回は、プレ更年期に気を付けたい歯周病と骨粗鬆症の関わりについて論じます。
執筆/島谷浩幸(歯科医・歯学博士・野菜ソムリエ)

骨粗鬆症とは?

骨粗鬆症とは「骨強度(骨密度と骨の質)の低下によって骨折リスクが高くなる疾患」と定義されており、日本の推定患者数は1000万人以上で男性より女性に多く、約8割が自覚症状がないと言われています。

骨粗鬆症は、閉経期以降の女性や高齢の男性に多くみられる「原発性骨粗鬆症」と、若年者でも栄養不良や運動不足、ステロイド(副腎皮質ホルモン)などの影響で罹患する「続発性骨粗鬆症」に主に大別されます。

また、日常のライフスタイルが大きく影響するため、高血圧症や糖尿病、歯周病などと同様に生活習慣病の一つに分類されています。

骨量は2030歳代がピークですが、主に骨の中に含まれるCa(カルシウム)などの成分が減少するにつれて、加齢とともに少なくなります。そのため、社会全体の高齢化に伴って骨粗鬆症の人は増加する現状があります。

しかも、特に自覚症状もなく進行することから不意な骨折から骨粗鬆症が見つかることも多く、少し転んだ拍子に脚の骨や背骨を骨折し、寝たきりになる大きな要因にもなります。結果として、ADL(身体活動度)やQOL(生活の質)が著しく低下し、認知症などの合併症の発症リスクが上昇します。

 骨粗鬆症は歯周病に影響する

「骨粗鬆症はお年寄りの病気」だと思っている人も多いのではないでしょうか?

しかし、女性は「閉経後骨粗鬆症」のリスクが高く、女性ホルモンの一種であるエストロゲンの減少が原因で起きることから、閉経前でもホルモン減少に従い、プレ更年期の30歳代後半から骨粗鬆症のリスクは上昇します。

エストロゲンは骨代謝に深く関係するため、これが減少すると骨が脆くなることが明らかにされていますが、骨が脆くなると歯を支える骨(歯槽骨)が吸収されやすくなり、歯周病も進行しやすくなります。

しかも、一般的に更年期を迎えた女性は口腔の灼熱感、口腔乾燥症、味覚の変化、口内炎などの症状が起こりやすく、今までよりも歯垢(プラーク)に起因する歯肉出血が起こりやすくなる結果、口腔状態の悪化が認められるようになります。

そのような理由からも、骨粗鬆症の人は歯周病のリスクが高いと言えるでしょう。

歯周病は骨粗鬆症に影響する ~「歯周医学」とは?~

近年、歯周病と全身的な疾患との関わりがクローズアップされて「歯周医学」と呼ばれ、注目されています。

歯周病が影響を及ぼす疾患として、妊娠トラブル(早産・低体重児出産)や動脈硬化症、糖尿病、骨粗鬆症、発熱や誤嚥性肺炎などが知られ、妊婦に対する歯磨き指導もこれに基づくものです。

そのメカニズムは歯周病菌やその構成物が歯周ポケットで炎症を起こし、血管に侵入することから始まります。そして菌や産生した毒素(菌表層の内毒素など)が血流に乗って全身を巡り、サイトカインやケミカル・メディエーター(PGIL等の生理活性物質)を賦活化させて身体各所で悪影響を及ぼします。その結果、骨を溶かす破骨細胞が活性化して骨粗鬆症が進行するのです。

このように骨粗鬆症と歯周病は互いに影響を及ぼし合う相関関係にあるため、双方を予防することが大切です。

 骨粗鬆症と歯周病の関係を示す研究報告

骨粗鬆症を有している患者の多くが重度の歯周病になり、歯を失っているという研究報告を紹介しましょう。

2001年に愛知学院大学の研究グループが報告した内容によると、190人の女性(3179歳)を対象に骨密度と歯周病の関連性について調査しました。

その結果、閉経後の女性で骨粗鬆症になっている人は、そうでない人と比較して歯周ポケットからの出血(BoP)の値が高くなり、歯周病の炎症の活動性が高いことが明らかになりました。また、歯の周りを支える骨(歯槽骨)の吸収度も大きくなり、歯周病が進行していることも判明しました。

同調査ではさらに、歯が20本以上ある人に比べて20本未満の人は骨密度の低い割合が高くなり、骨密度が低いと歯を喪失するリスクが上がることも明らかになりました(図1)。

図1. 歯の本数と骨密度の関係

一方、2004年に新潟大学のグループが報告した研究では、70歳で20本以上の歯がある人184名を対象に踵(かかと)の骨密度を超音波装置で計測し、骨密度と失われる歯の状況を3年間にわたり調査しました。

その結果、骨に含まれているミネラル成分が多い人は歯を失う速度が遅くなり、骨が丈夫な人ほど歯が保たれていることが明らかになりました(図2)。

図2. 骨密度と失う歯の関係

ビスホスホネート製剤と歯周病の関わり

骨粗鬆症の治療薬としてビタミン製剤やホルモン剤などが処方されますが、近年歯科との関わりが注目されているのがビスホスホネート製剤(以下、BP製剤)です。

この薬剤を使用中の患者に抜歯をした際、周囲の顎骨が壊死する「顎骨壊死」などの問題が起きるケースがあるのです(図3)。

図3. BP製剤関連顎骨壊死

BP製剤は骨の劣化を抑える骨吸収抑制薬に属し、骨粗鬆症や腫瘍による病的骨折などを防ぐ薬として使われますが、この薬剤の使用患者に抜歯すると歯を抜いた穴(抜歯窩)の治癒が遅延したり、顎骨が腐って周りの歯まで失ったりするリスクが高まるという国内外の報告があります。

顎骨壊死を防ぐため、歯科治療では抜歯等の骨代謝に影響を与える外科処置を極力避けるようにし、少しでも歯が長持ちするように細菌感染を防ぐ口腔清掃(口腔ケア)など必要な処置を行って対応します。

ただ、仮に顎骨壊死が生じても口腔ケアを徹底し、口腔内に露出した骨面を清潔に維持して感染等を防止すれば特に問題はなく、痛みを伴わない場合も少なくありません。

大切な歯を守るためにも骨粗鬆症の薬を使用中の人は歯科受診の際、必ず歯科スタッフに申し出て、問題ない薬かどうかを確認してもらうようにしましょう。

 骨粗鬆症と歯周病を防ぐために

骨粗鬆症の予防の要点は、以下の通りです。

・骨の主成分であるカルシウムを摂取する。

・大豆製品でイソフラボンを補給する。

・適度な運動をする(力の負荷が骨を鍛える)。

・日光浴をする(ビタミンDの活性化)。

・極端な食事制限(ダイエット)を控える。

・喫煙や過度の飲酒は控える。

骨の健康にはカルシウム摂取が重要ですが、カルシウム吸収を促進するビタミンD、骨へのカルシウムの取り込みを助けるビタミンKなど、様々な栄養素も必要です。

カルシウム摂取を増やす食材として、骨まで食べることができる煮干しなどの小魚や牛乳・チーズなどの乳製品、小松菜などの緑黄色野菜、ひじきなどの海藻、豆腐などの大豆製品等があり、カルシウムは子どもの成長・発育にとっても非常に大切ですから、積極的に毎日の食卓に出すようにしてください。

また、大豆に含まれるイソフラボンは女性ホルモンのエストロゲンに似た働きをするため、加齢によるエストロゲンの減少を補い、骨粗鬆症の予防・改善が期待できます。

以上より、骨粗鬆症と歯周病は互いに影響を及ぼすため、栄養バランスの良い食事でカルシウムなどの補給をしながら、歯と歯ぐきの境目にある歯周ポケットを意識した歯磨きで歯周病をコントロールし、骨粗鬆症を予防しましょう。

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記事執筆

島谷浩幸

歯科医師(歯学博士)・野菜ソムリエ。TV出演『所さんの目がテン!』(日本テレビ)等のほか、多くの健康本や雑誌記事・連載を執筆。二児の父でもある。ブログ「由流里舎農園」は日本野菜ソムリエ協会公認。X(旧Twitter)も更新中。HugKumでの過去の執筆記事はこちら≪

参考資料:
・骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会編集:骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2015年版.2015.
・日本歯周病学会編:歯周病と全身の健康.2015.
・Inagaki K et al: Low metacarpal bone density, tooth loss, and periodontal disease in Japanese women. J Dent Res, 80: 1818-1822, 2001.
・Yoshihara A et al: A longitudinal study of the relationship between periodontal disease and bone mineral density in community-dwelling older adults. J Clin Periodontol, 31: 680-684, 2004.
・沼部幸博ほか編著:歯科衛生士のためのペリオドンタルメディシン.医歯薬出版株式会社.2009.
・厚生労働省:骨粗鬆症の予防のための食生活.E-ヘルスネット.

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