鵞口瘡(がこうそう)とは?
口腔カンジダ症は、カビと同類の真菌に分類されるカンジダ菌(Candida albicans)が、口腔内で異常に増殖した病態です。
カンジダ菌による感染症だと判明する前の古くから「鵞口瘡」と呼ばれ、口の中に白いものができる不思議な病変として知られていました。
真菌は、虫歯菌であるミュータンス菌や歯周病菌などの細菌に比べてより大きく、ヒトの細胞と同様に核を持つなど、細菌とは異なる性質を持つ微生物です。
新生児では2~5%程度の割合で認められる感染症で、栄養状態が悪かったり抵抗力が弱ったりしている時に、頬の内側や舌の表面、歯ぐきなどの粘膜に、白いミルクかすのようなものが点状もしくは地図状に認められます(図1上)。
一見痛そうにも見えますが、案外痛みを伴わないことも多いので、哺乳時に嫌がるなどの仕草をしていなければ特に問題ない場合もあります。
ただ、放置すると感染が広がり、悪化して痛みを伴うことがありますので、疑わしい白色病変を見つけたら速やかに小児科や小児歯科などを受診させてください。(関連記事はこちら≪)
大人でも同様に、免疫力の低下や抗菌薬の長期服用による菌交代現象などの原因により発症することがあります。
図1下のように舌が黒く見える黒毛舌や、口腔内のカンジダ菌を誤嚥することで発症する真菌性肺炎もあります。免疫力が著しく低下した高齢者ではカンジダ菌が口腔内から血流に乗って内臓各部に移行し、重篤な内臓真菌症を起こす可能性もあります。
菌はどこから来るの?
カンジダ菌は出産時、産道を通過する際に母親から感染するのが主要な経路で、皮膚や口の粘膜などに菌が移行します。妊婦の膣からのカンジダ菌の検出率は20~25%ありますので、妊娠中に膣カンジダ症があるのならば、分娩前に治療し完治させておくことが推奨されています。
また、まれではありますが、子宮内感染も報告されています。2012年に福岡大学病院・総合周産期母子医療センターの太田栄治氏らが報告した内容によると、出産時に膣を経由しない帝王切開手術で生まれた乳児で、親子間の感染が確認されました。
この乳児は出産直後から全身の紅色小丘疹(赤くて小さな発疹)が増強したため当センターに搬送され、口および皮膚からカンジダ菌が検出されましたが、抗真菌薬の局所塗布により、症状は軽快したそうです。
ところで、その他の菌の感染経路としては、授乳時に接触する母親の乳首やガーゼ、おもちゃ、衣服などがあり、日常生活の環境から感染することがあります。
カンジダ菌は大人では比較的高い割合で保有される常在菌であるため、大人が触れるものだけでなく、乳幼児が触れるものを清潔に保つことが、感染予防に大切なのは言うまでもありません。
検査法は?
口の中の白い病変を綿棒などで拭い取って顕微鏡で見る方法や、菌を培養して検査する方法などがあります。
当院歯科では口腔内におけるカンジダ菌の有無や量を判定するため、キットを用いたカンジダ簡易培養検査を実施し、実際の臨床に役立てています(図2)。
綿棒で舌や頬などの口腔粘膜から採取した試料を、キットの培地に接種します。綿棒での採取ですので、痛みは伴わないと考えていいでしょう。
試料採取後、24~48時間の期間、37℃の条件で培養します。試料を接種前の培地の色は赤色ですが、陽性結果が出た場合は図2で示すように黄色になります。また、培地上に見られる丸い小さな白色のコロニー(菌の集合体)の密集度から、菌の数のレベルが多いかどうかの判定をすることもできます。
この真菌の簡易培養検査は保険適応されており、ぜひ利用していただきたい手法です。
治療法は、主に抗真菌薬を使用
治療の基本は、菌を取り除くこと(除菌)です。
しかし、多くの口腔カンジダ症で自覚症状はなく、痛がることも多くはないですが、親が気になってキレイにしようと思い、口腔内にある白い付着物を無理やりこすり取ろうとするのは要注意です。
場合によっては、粘膜の上皮細胞が傷ついて剥がれ、「びらん」と呼ばれる粘膜表面がただれたような状態になることがあります。さらに深くまで損傷が及んで潰瘍(かいよう)に至ると、痛みや出血を伴うこともあり、食事など日常生活に支障が出てしまいます。
カンジダ菌は根を張るように上皮細胞と強く結合していますので、単に洗浄やこすっただけでは除去できません。ですから、ガーゼで軽く拭っても除去できない場合は無理に取ろうとせず、迷わず医療機関を受診させてください。
では、実際の治療法ですが、先述したように細菌と真菌の生物学的な相違により、歯周病で歯ぐきの炎症がある場合などに処方する通常の抗菌薬では、カンジダ菌には効果がありません。
ですから、真菌であるカンジダ菌に対しては抗真菌薬を使用します。
一般的に経口薬(飲み薬)と外用薬(塗り薬、シロップ剤など)がありますが、経口薬は副作用が出やすい傾向にありますので、外用薬をまず第一選択として使用します。これらの薬剤も、口腔カンジダ症に対して保険適用になっています。
図3は当院の高齢患者ですが、口腔カンジダ症を発症して食事や会話に悪影響が及んでいましたが、舌を含めた定期的な口腔清掃(ケア)と抗真菌薬等の治療により1週間で改善した例です。
舌の清掃は図3に示す舌ブラシを使用し、粘膜を潤してケアを助ける口腔保湿剤を使用しました。保湿剤はジェル状ですので、ケアする舌表面に塗布して舌ブラシを使うと、痛みもなくスムーズで効率的に清掃できます。
口腔保湿剤にはさまざまな商品が流通していますが、近年注目されている配合成分として、ヒノキ由来の天然成分であるヒノキチオールがあります。この化学物質にはカンジダ菌の増殖を抑制する効果が認められていますので、当院歯科ではこの成分を含有した口腔保湿剤を使用しています。
* * *
口腔カンジダ症は、子どもの頃の感染が大人になって引き継がれ、高齢になって免疫力が低下してから発症することが少なくありません。ですから、子どもの時に感染しないようなクリーンな環境を整えることは、将来の健康にとっても大切なのです。
こちらの記事もおすすめ
記事執筆
島谷浩幸
参考資料:
・福田直純ほか:先天性皮膚カンジダ症.小児科45:1313-1317, 2004.
・太田栄治ほか:生下時の皮疹が診断の契機となった先天性カンジダ症の2例.小児感染免疫24(3);279-284,2012.
・島谷浩幸:在宅の難病ケアにおける歯科の役割.月刊難病と在宅ケア28(7);35-38,2022.