口内炎とは
口の中の舌・頬などの粘膜や口唇に炎症が生じ、水疱やびらん(ただれ)、潰瘍、白苔(表面が白くなる)ができる病変を口内炎と言います。
最も多い一般的な口内炎はアフタ性口内炎と呼ばれ(図1)、栄養不足やストレスなどが引き金となり発症します。
接触すると激しい痛みを伴うことが多く、食事や会話、歯磨きなど日常生活に支障をきたします。食事や歯磨きを嫌がる、口を開けたがらない、なぜか不機嫌といった子どもに対しては、まず口の中を覗いてみましょう。
もし、上記のような口内炎を見つけたら、速やかに小児科や歯科、耳鼻咽喉科を受診するようにしてください。
口内炎の原因は?
口の中は全身の健康状態を反映しやすいので、口内炎が何かの病気のサインになる時があることを知っておきましょう。
・栄養不足
ビタミンB群や葉酸などの摂取不足で生じることがあります。
・粘膜への機械的刺激
機械的刺激による粘膜損傷です。
例えば、虫歯で歯が欠けて尖った部分が粘膜を傷つける場合です。また、歯科矯正している子どもであれば、矯正装置の一部が擦れる刺激で口内炎ができることもあります。
・感染
細菌やウイルス、真菌などの感染も主要な原因です。特に多いのがウイルス感染によるもので発熱を伴うことも多く、単純ヘルペス感染症、帯状疱疹、ヘルパンギーナ、手足口病、麻疹、風疹などの症状の一つとして口内炎が現れます。特にヘルパンギーナや手足口病は子どもの夏風邪としてもよく知られます。
また、口腔内の常在菌が異常に増殖した場合や、梅毒・淋菌などの細菌が口腔内の粘膜に侵入して口内炎ができることもあります。
細菌感染による口内炎は口腔内が不衛生であれば、治癒が遅れたり症状が悪化したりしやすいため注意が必要です。
・免疫抑制(抵抗力の低下)
高齢者やステロイド治療・抗がん剤治療を受けている人、白血病などで免疫力が低下している状態の人は、口腔内に常在する真菌であるカンジダ菌が異常増殖して口内炎を引き起こすことがあります(図2)。ストレスによる抵抗力の低下も口内炎の誘因になります。
自己免疫疾患
ベーチェット病やクローン病、全身性エリテマトーデス、尋常性天疱瘡(てんぽうそう)、類天疱瘡などの疾患でも口腔内に口内炎が生じることがあります。
口内炎の症状は?
数ミリ程度の円形~類円形の口内炎が口の粘膜に1個~数個で散在しますが、上で示した図1のように不整な形のものもあります。
口内炎は周囲の粘膜よりやや盛り上がり、中心部にはびらんや潰瘍、水疱などが認められます。周辺部は赤く充血していることが多く、ひどい場合は出血を伴うこともあります。
口内炎の検査法は?
明らかに虫歯の角が擦れて傷になっている場合などを除けば、口内炎の見た目だけで原因の特定ができないことも多く、各種検査が必要になることがあります。
ビタミンB2などの栄養摂取状況の問診などをするほか、ウイルス感染が原因として疑われる場合は、血液検査でウイルスの抗体価検査や遺伝子検査等を行って確定診断します。
一方、細菌や真菌の感染が疑われるケースでは、口内炎周辺の組織を採取して培養検査を行います。培養検査は治療方針を決定する上でとても有効な検査法であり、治りにくい口内炎ではよく行われます。
また、自己免疫疾患の関与が疑われる場合は、血液検査で自己抗体などを調べます。
口内炎と間違いやすい疾患
当院に「子どもに口内炎ができた」という理由で来院された子どもの少なくない割合で、口内炎でないことがあります。
例えば、噛み合わせの不具合で頬の粘膜を噛んでしまう癖があれば、頬に口内炎様の傷ができることがあります。正しくは「咬傷」と呼び、噛み合わせを調整するなどの処置が必要です。また、熱いスープやフライの衣など、熱いものを飲食してできる火傷(やけど)も口内炎様の病態を示すことがあります。
一方、歯根の先端辺りの歯ぐきがプクッと丸く腫れていることがあり、口内炎とよく間違えられます。これは、虫歯が進行して歯根の先端に膿がたまり、それが骨を通過して表層の歯ぐきに腫れを起こした状態で「根尖性歯周炎」と呼ばれます。治療法として、細菌感染した歯根内の消毒が必要です。
さらに、大人の歯に生えかわる時に起こる「萌出性歯肉炎」も口内炎と間違われることがあります(関連記事)。
子どもでは極めてまれですが、図3のように前癌病変といって将来的にガン化する可能性がある粘膜病変もあります。2週間以上経っても改善しない口内炎があれば、近隣病院の口腔外科など、専門の医師や歯科医師に相談するようにしてください。
それぞれの原因により対処法が異なりますので、「これは本当に口内炎なの?」と疑問に思ったら迷わず医療機関に行きましょう。
▼関連記事はこちら
口内炎の治療法や生活の注意点は?
多くは1~2週間ほどで特別な治療をしなくても自然に治りますが、栄養不足が疑われる場合はレバーや卵、牛乳、緑黄色野菜、大豆製品などを加えたりして食事内容を改善し、必要に応じてビタミン製剤等で補います。
強い痛みを感じて日常生活に問題が出れば、ステロイドの軟膏を塗布したり、アズレンスルホン酸ナトリウムを含む含嗽薬でうがい消毒をしたりします。
軟膏の塗り方のコツとしては、食前に塗ると食事ですぐに流れてしまうので食後や就寝前に塗るようにしましょう。きれいに洗った手で塗るのはもちろんですが、奥の方で塗りにくい場所ならば、滅菌された綿棒を使うのもよいでしょう。子どもが嫌がる時は、寝ている時をねらえば塗りやすくなります。
また、感染が原因の場合は抗ウイルス薬や抗菌薬、抗真菌薬などを使用し、自己免疫疾患による場合は、病状に合わせてステロイド剤や免疫抑制剤などが使用されます。
ストレスが原因になることも多いので、再発の予防には睡眠不足や過労などにならないように日常生活を見直すことも重要です。子どもは大人と比較して環境の変化にうまく適応できないことが多いため、生活リズムがいつもと異なる状況では特に気を付けましょう。
食事の際は刺激があると痛みを感じやすいため、熱い飲食物は控えて薄めの味付けにし、軟らかい料理を与える工夫も必要です。口の中が乾くと雑菌が繁殖しやすく、口内炎の治りが悪くなりますので、小まめな水分補給も心掛けましょう。
また、歯磨剤の刺激も口内炎の治癒を遅らせる要因になります。口内炎がある間は歯磨剤は使わない、もしくは低刺激性のものを使用しましょう。
* * *
口内炎は早期発見・早期対応が必須ですが、普段からのバランスのよい食事やストレスのない環境づくりが予防につながります。子どもの口の中に異常を見つけたら、笑顔を早く取り戻すためにも早めに医療機関を受診させてくださいね。
こちらの記事もおすすめ
記事執筆
島谷浩幸
参考資料:
・桃田幸弘ほか:口内炎の予防と体質改善-口内炎を治療してきた歯科医の提言-.徳島大学大学開放実践センター紀要28;69-73,2019.
・中村美和:化学療法を受ける小児がんの子どもの口内炎に対するセルフケアを促す看護援助.千葉看会誌10(1);18-25,2004.