「子どものいびき」は要注意! 睡眠時無呼吸症候群(SAS)が学習意欲の低下を招く場合も。症状や治療について歯科医師が指摘

暑さも和らぎ、秋の夜長の季節を迎えました。こんな時はゆっくりと長く睡眠したいものですが、お子さんはスヤスヤと安らかな寝息を立てていますか? 今回は、そんな穏やかな睡眠を妨げる睡眠時無呼吸症候群やいびきを中心に、子どもの眠りについて論じていきます。
執筆/島谷浩幸(歯科医・歯学博士)

少なくない子どもの睡眠時無呼吸症候群

日本の子どもたちは世界の中でも非常に睡眠時間が短いことで知られ、長さだけでなく、その質が妨げられることによって様々な悪影響が出ることが明らかにされています。

近年、睡眠の質を低下させる原因の一つとして睡眠時無呼吸症候群SASSleep Apnea Syndrome)が注目を集めています。

これは様々な原因で睡眠中に気道が狭くなり、しばしば無呼吸状態に陥ってしまう病態です。正確には、気道が閉塞して無呼吸を起こすことから「閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)」と呼ばれています。

睡眠中に呼吸が止まることで無意識に脳へ乱れた刺激が伝わるため、睡眠の質が下がって昼間の眠気にもつながります。

子どもでも認められるSASですが、大人に比べてその実態や危険性が周知されていないのが現状です。しかも、無呼吸は睡眠中に起こる症状ですから、睡眠時の異変が何かあれば、周りにいる親が気付く必要があります。

目安の一つとして、大人の場合は10秒以上息が止まれば無呼吸とされますが、子どもは呼吸が早いため、2回分の呼吸が止まると1回無呼吸になったと判断します。

SASの症状

SASがある子どもの睡眠時によく見られる症状として、いびきをかく、口を開けて寝る、寝返りが多い、のけぞるような姿勢で寝る、睡眠中にむせて咳込む、ひどい寝汗をかく、おねしょが多い、眠りが浅くちょっとした刺激で起きやすい、陥没呼吸(呼吸時にみぞおちがへこむ)などがあります。

また、朝起きた後の症状には、寝起きが悪くなかなか起きない、寝不足で日中いつも眠たがる、いつも口をポカンと開けている、口が乾いている、機嫌が悪い、集中力がない、などがあります。

このイライラ・不機嫌や集中力低下といった症状は発達障害の一種「ADHD(注意欠陥・多動性障害)」と類似するため、寝不足症状が発達障害と誤解される可能性も危惧されます。

発育との関わりでは、成長ホルモンは寝ついてから最初に訪れる深い眠りのノンレム睡眠(約12時間後)の間に最も多く分泌されますので、無呼吸で眠りの浅い状態が続けば、睡眠中の成長ホルモンの分泌が悪くなって低身長になる可能性が上がります。

「寝る子は育つ」を実践する意味でも、夜の良質な睡眠を維持することは大切なのです。

いびきをかく子どもは学習意欲が低い!?

2009年に千葉県立保健医療大学の工藤典代氏らの研究グループが報告した研究では、8都府県の小学校21校で小学156年生の保護者を対象に、子どもの睡眠と普段の行動などとの関わりを調査しました(1764人回答)。

図1.睡眠時に無呼吸のある子どもの割合

その結果、睡眠時の呼吸が「よく止まっている」あるいは「止まっていることがある」と答えたのは1年生で4.5%でしたが、高学年(56年生)ではそれぞれ3.5%2.4%となり、学年が上がると減少する傾向でした(図1)。

また、同調査では1年生の約半数が「いびきをかく」と回答し、「いつもかいている」子どもは4%でした。これも56年と学年が上がると減少する傾向が見られました(図2)。

図2. いびきをかく子どもの割合

その一方で、特に高学年(56年生)のいびきをかく子どもで、学習意欲が低い割合が統計学的に有意に高くなりました(図3)。同様に「落ち着きがない」の項目でも、高学年でいびきをかく子どもに高率で認められました。

図3.いびきの有無と「学習意欲の低下」の学年別結果

このように睡眠時の無呼吸やいびきは成長とともに減る傾向にありますが、いびきをかく子どもでは学習意欲や落ち着きがむしろ低下してしまうのは気になるところですね。

子どものSASの原因

大人と同様、肥満なども原因になりますが、子どもの無呼吸の原因として特徴的なのは、扁桃肥大(アデノイド肥大)です。

先ほどの症状で挙げた「口ポカン」の子どもはアデノイド肥大やアレルギー性鼻炎で鼻からの呼吸がうまくできない可能性が高く、SASを疑う所見となります。

ここで注意したいのは、「口ポカン」の原因に不正な歯並び噛み合わせもありますので、噛み合わせ時に奥歯しか歯が接触せず前歯に大きな隙間が空くような場合は、歯科医師に相談しましょう(下記の参考記事を参照)。

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扁桃肥大(アデノイド肥大)とは

ところで、子どもの無呼吸やいびきの症状は、扁桃組織の成長が進む26歳頃から始まると言われます。扁桃組織は咽頭粘膜にあり、呼吸時に鼻や口から入ってくるウイルスや細菌を捕らえ、気管や肺に侵入するのを防ぐ免疫機能を担います。

風邪をひいた時にのどが腫れた感じがするのは、この扁桃組織が腫れるからです。

扁桃組織は口蓋扁桃、咽頭扁桃(アデノイド)、舌扁桃などに分けられ成長に伴い発達しますが、まれに成長過程で口蓋扁桃や咽頭扁桃が過剰に肥大化すると、気道を狭めていびきや無呼吸を発生させます。これが扁桃肥大やアデノイド肥大と呼ばれる症状です。

これらを発症すると、いびきや無呼吸のほかに、食事に長く時間がかかる、うまく飲み込めずに吐きやすい、しばしば熱が出るといった症状を起こしますが、6歳頃をピークにその後は治ることが多いと言われています。

肥満やアレルギーも睡眠時無呼吸の原因に

子どもの無呼吸のその他の原因に、大人と同様、肥満も挙げられます。近年、子どもの肥満は増加傾向で食事やおやつなどの食べ過ぎや食習慣の乱れ、運動不足などが原因です。

肥満になれば腹部だけでなく首周りや舌にも脂肪が蓄積し、睡眠中の気道を圧迫していびき・無呼吸を起こす原因になります。

また、アレルギー性鼻炎も無呼吸の発症に影響します。本来、睡眠中は鼻から呼吸するのが基本ですが、鼻の炎症が強いと鼻呼吸がうまくできずに口呼吸となり、舌が喉の奥に落ち込んでいびきや無呼吸の要因になります。

子どものSASの治療

治療法は保存的治療と外科的治療の2つに大別されます。子どものSASは放置すれば成長・発達に障害が出る可能性が少なくないので、早期の診断と治療が大切です。

保存的治療

症状が比較的軽症で鼻閉由来の場合は薬物療法として、耳鼻咽喉科や内科で内服薬や点鼻薬の抗アレルギー剤を処方します。また、横向き枕を使用するなど、寝方の指導で改善することもあります。

また、肥満が原因として疑われる場合は、コントロールされた食事や運動で減量に取り組む必要があります。

一方、歯科では歯型をとってSAS専用のマウスピース(保険適応)を作製します。これを装着すると、下顎が前方に出て喉(のど)のスペースが広がり、空気の通りが改善します。

症状が重症になると、鼻に装着したマスクから空気を送り込んで一定の圧力を気道に与え、呼吸を楽にするCPAP(経鼻的持続陽圧呼吸療法)を実施します。

中学生から使用できるCPAPマスクもあるので安全な使用が可能ですが、CPAP治療は長期に及ぶ場合があり、症状の程度に応じて手術を含めた外科的治療の選択も検討します。

外科的治療

扁桃(アデノイド)を外科的に手術で取り除く口蓋扁桃摘出術やアデノイド切除術などがあります。しかし、扁桃は子どもを外から来る病原体(ウイルスや細菌)から守る免疫に関わる大切な組織です。担当医とよく相談して、手術を受けるかどうかを決めましょう。

以上のような治療を効果的なものにするには、毎日の生活における心掛けも重要です。例えば、早寝・早起きする、朝食を食べる、夕食時刻を早めにする、夜のスマホ・ゲームは控える、ぬるめの風呂に浸かる、といった習慣を実践して寝つきをよくすることが大切です。

よい睡眠で快適な秋の夜長を過ごしてくださいね。

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記事執筆

島谷浩幸

歯科医師(歯学博士)・野菜ソムリエ。TV出演『所さんの目がテン!』(日本テレビ)等のほか、多くの健康本や雑誌記事・連載を執筆。二児の父でもある。ブログ「由流里舎農園」は日本野菜ソムリエ協会公認。Twitterも更新中。

参考資料:
・Mindell J A et al.: Cross-cultural differences in infant and toddler sleep. Sleep Medicine 11; 274-280, 2010.
・Van Cauter E et al.: Principles and Practice of Sleep Medicine. 5th ed, 291, 2011.
・工藤典代ほか:小児睡眠時無呼吸症候群に対する学校保健の取り組み.口腔・咽頭科22(2):143-148,2009.

 

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