目次 [hide]
40歳で学生に モンテッソーリ教育の道へ
―40歳でモンテッソーリ教育の幼稚園教諭になる勉強を始め、50歳から教諭として働いているそうですね。
久保さん:勉強を始めた当時、夫の転勤でアメリカに移住し、長女は小学生、次女は3歳頃でした。次女は週3日、スタンフォード大学の教育学部が運営する幼稚園に通っていたのですが、通園日数が週3日だったので、残りの2日間、以前から興味のあったモンテッソーリの幼稚園に通わせたんです。

初めて足を踏み入れたとき、衝撃を受けましたね。部屋には初めて見る教材がずらりと並び、子どもたちは興味のおもむくままに「おしごと」をしている。何だろう、この空間はと、一気に興味がわきました。
ちょうどその頃、私は仕事を離れ、子育てに専念していました。ただ待っているだけではなく、何か新しいことに挑戦したい。調べると、1時間ほどの距離にモンテッソーリの学校があったんです。「当たって砕けろで飛び込んでみよう!」そう決意しました。
想像以上に大変! 学び、子育て、家事、仕事の日々
―学び始めてみて、最初に感じたことは?
久保さん:思った以上に大変でしたね(笑)。すべて英語の授業で、専門用語も多く、毎回、頭がパンパン。でも、学べば学ぶほど、「これが知りたかったんだ!」という発見の連続で、どんどんのめり込んでいきました。
授業では、モンテッソーリの哲学から実践方法までみっちり学びました。アクティビティの意味、子どもの自立を促す方法、環境の整え方など、毎回目からウロコ。毎日が挑戦で必死でしたが、「人生の中で、これほど夢中になれることがあったんだ」と実感できる時間でした。

―アナウンサーの仕事と両立しながらの2年間、大変だったのでは?
久保さん:カルフォルニアで1年間の座学を経て、2年目は日本に帰国して実習を行いました。アナウンサーの仕事と両立しながら、朝は幼稚園で実習、午後は番組出演、夜はレポートや論文に追われる日々。スケジュール帳はびっしり埋まり、気を抜いたら倒れそうでした(笑)
でも、実習で子どもたちと向き合う時間は、本当にかけがえのないものでした。目の前で子どもたちが夢中になりながら成長していく姿を見て、「この教育は本物だ」と確信し、どんなに忙しくても、学び続けるエネルギーが湧いてきたんです。
―新しいチャレンジに、ご家族はどんな反応だったのでしょうか?
久保さん:家族は心から応援してくれました。夫には、いっぱいいっぱいになったら、ちゃんとSOSを出すようにしていました。決して「やってよ!」と押しつけるのではなく、「お願い、助かる!」と伝えるだけで、受け取り方も変わりますよね。夫婦といえども考え方は違うし、男性には男性のプライドがあると思うので、その辺りは大事にしながら、頼るときは素直に頼っていました。
「やりたい!」と思った瞬間がベストタイミング
―新しいことに挑戦しようとしても「本当に自分にできるのかな?」、「続けられるかな?」と、一歩を踏み出せない人も多いと思うんです。久保さんは迷いませんでしたか?
久保さん:40歳っていい年齢だし、何か新しいことに挑戦してみようと。私は、「おもしろそう!」と思ったら何でもすぐに飛び込むタイプなんです。好奇心の塊(笑)。
やりたい! と思った瞬間が、一番の挑戦のタイミングなんですよね。やってみないと、自分に合うかどうかなんて分からないと思うんです。「もし失敗したら?」と考えるより、「失敗したら、そのとき考えればいい」と思ったほうが、絶対に前に進める。迷っている間にタイミングを逃してしまうほうが、もったいないんです。
―その前向きな姿勢はどこから来ているのでしょうか?
久保さん:元々の環境や性格もあると思いますが、母の影響がすごく大きいです!
母は日本テレビのアナウンサーでしたが、結婚後、英語の講師になり、さらに英語学校を立ち上げ、もう40年も続いているんです。常に新しい扉を開いてきた母の姿をずっと見てきたので、年齢や経験の有無で踏みとどまる選択はなかったです。好奇心のおもむくままに始める感覚が、染み付いていたのかなと思います。
子どもたちに伝えたい「ダメでもいい。挑戦は楽しい」
ー挑戦することについて、お子さんたちにはどんな考え方を伝えていますか?
久保さん:自分の背中を子どもたちに見せたいんです。人生は一筋縄ではいかないし、決めた道があっても、思い通りにいかないことがたくさんある。でも、「挑戦することが楽しいんだよ」と。

「石の上にも三年」という言葉はありますが、無理をしすぎて心を壊してしまったら元も子もない。子どもたちには「人生という木にはいろんな枝があるんだよ。もし一つの道がダメだったとしても、その時は挫折していいし、諦めたっていい」と話しています。その経験が次のチャレンジにつながるかも知れない。何より、挑戦できること自体が幸せなんですよね。
完璧主義だからこそ「許しの空間」が大切
―忙しい日々の中で、家事や育児、資格取得の勉強をどのように両立されましたか?
久保さん:日中は、子育て、家事、授業、夜は子どもたちを寝かせた夜9時くらいから勉強しました。そういうスタイルが自分にはすごく合っていて、特に苦じゃなかったですね。
マルチタスキングというわけではないんですが、いろんなことをいっぺんにやるのが好きなんです。じっとソファに座ってテレビを見るっていう時間がほとんどなくて、常に何かを同時に進めていたいタイプ。例えば、耳かきをしながら歯磨きとか(笑)。
―お聞きしただけでも、そうとう忙しそうですが、いっぱいいっぱいになりませんでしたか?
久保さん:もちろんなります(笑)。完璧主義と言いますか、自分なりのこだわりがあって、洗濯の畳み方が違ったり、洗い物ができていなかったりするのがすごく嫌なんです。でも、自分を許してあげる。「大丈夫だよ、明日でもいいよ」って。完璧を求めすぎると、どこかでほつれが出てしまいますよね。心の声に耳を傾けて自分にリマインドするんです。

―昔からそういったバランスがとれていたのでしょうか?
久保さん:以前の私は、自分に対して求めるものが大きかった分、無意識に周りの人にも同じレベルを求めてしまいました。でも、自分と相手は違う。だからこそ、「許しの空間」を持たなければと気づきました。
モンテッソーリでは「子どもを信じて待つ」ことが大切だと教えられます。人はそれぞれのペースで成長するのだと実感して以来、周りの人に対しても、無理に自分のやり方を押しつけるのではなく、それぞれのリズムを尊重するようになりました。
―許しの空間を持つことが大事なんですね。お母さんはつい頑張りすぎてしまいますよね。
久保さん:つい感情のままに動いてしまって、イラッとしてしまう。でも、そういうときこそ一歩引いて、俯瞰(ふかん)して見たいですね。別の部屋に移ったり、散歩に出かけたり、映画を観たり、おいしいものを食べたり。意識的に自分のスイッチを切り替えれば、気持ちが楽になり、冷静に物事を見られるようになります。
私も、自分のスイッチを切り替える方法をだんだん見いだせるようになってきました。モンテッソーリを通して、自分自身も成長できた部分の一つかもしれません。
摩天楼が見えると戦闘モード
―日本とアメリカ、行き来される中で感じる違いはありますか?
久保さん: 日本ではリラックスできるんですよね。帰国すると「ふーっ」と肩の力が抜けて、頑張らなくてもいい空間になる。安全で、身の危険を感じることもないし、食べ物もおいしい。旬の食材があって、季節ごとに風景も変わる。みんな親切で、お行儀が良く、デパートに行けば丁寧に迎え入れてくれる。そんな優しく、温かい雰囲気の中で、自然と穏やかな気持ちになれるんです。
―ニューヨークに戻ると?
久保さん: 降り立った瞬間、戦いモードに入りますね。常に周りに目を配って、危険を察知し、自分の身を守らないといけないし、時間の流れが圧倒的に速い。せっかちな私には合っている部分もありますが、文化の違いの中で「負けないぞ」と気を引き締めなければなりません。

―職場ではどんな挑戦がありますか?
久保さん: 先生たちも20代から60代まで、出身国もアメリカだけでなく、コロンビア、韓国、インドなどさまざま。文化や価値観の違いがある中で、うまくやっていくには常に頭を使いながら、相手との距離感を測らなければなりません。自分の意見を伝えつつ、相手を受け入れる。そのバランスが大切で、時には駆け引きも必要です。人種という大きな壁もあるので、常に挑戦しながら関係を築いていく感覚ですね。
―最後に、読者にメッセージをお願いします。
久保さん:挑戦するのに年齢なんて関係ないんですよね。モンテッソーリを学んで、子どもを信じて待つ大切さを知りましたけど、それって大人にも言える。自分の成長も、焦らず待ってあげてほしいと思います。私自身、まだまだ成長途中。これからも、どんどん挑戦し続けたいです。
久保さんのモンテッソーリ幼稚園での一日はこちらの記事から

プロフィール
