世界で活躍する土台にモンテッソーリ教育
達成感が自信につながる瞬間を逃さない
―久保さんが感じる、モンテッソーリ教育の魅力とは?
久保さん:子どもが「できた」喜びを感じ、挑戦する力や集中力が養われていく。モンテッソーリは、そういう成長のサイクルを大切にしているところが魅力だと思います。自信がついて「次もやってみよう」と思えるようになるんです。子どもの成長はなだらかなスロープではなく、三段跳びや二段跳びのように、ある日突然できることが増えていく。ずっと寝ていた赤ちゃんが、ある日突然寝返りを打てるようになるみたいに、成長のタイミングが必ずあるんです。

―各世界で活躍する藤井聡太棋士、バラク・オバマ氏、ウィリアム王子、ジェフ・ベゾス氏などもモンテッソーリ教育で育ったことで知られています。「偉人を育てる」は言い過ぎでしょうか。
久保さん:モンテッソーリ教育を受けたから偉人になれるわけではないですが、「やりたい!」と思ったことに夢中になり、自分で考えながら集中して取り組む。その積み重ねが、結果的に大きなことを成し遂げる力につながっているのかもしれませんね。
モンテッソーリ教育って?
秩序がもたらす安心感
―モンテッソーリ幼稚園の一日を教えてください。
久保さん:朝、子どもたちは自分の身支度を整えることから始まります。靴を脱いで上履きに履き替え、ジャケットをロッカーにかけ、リュックからお弁当を出して所定の場所に置く。それから、リュックをロッカーにかけ、袖をまくって手を洗い、自分のおしごとを探しにいく。午前中は2~3時間、じっくりとおしごとに取り組み、外遊びやランチタイム、お昼寝を挟んで、午後の活動へと移っていきます。こうした流れが、毎日の習慣として身についていくんです。秩序がとても大事なんですよね。
―秩序はなぜそれほど重要なのでしょうか?
久保さん:生活のルーティンがしっかりしていると、子どもは安心感を得られるからです。例えば、赤ちゃんは、いつもメガネをかけていないお父さんが突然メガネ姿で現れるとギョッとする。それと同じで、普段と違うことがあると落ち着かないんです。でも、決まった流れや環境があることで、子どもは「ここは安心できる場所」と感じられる。そうすると、未知のことにも積極的に挑戦できるようになります。
モンテッソーリ教育では、子どもの成長を0〜6歳の乳幼児期、6〜12歳の児童期など「発達の4段階」に分けています。その中で特に2歳から5歳の時期は、秩序がとても大切なんです。
教具の置き場所を変えないのも、教具の配置が変わると、子どもは違和感を覚えるからです。新しい教具を導入するときは、子どもたちが認識できるように説明します。そうすることで、「ここに行けば、いつものものがある」安心感が生まれるんです。

―モンテッソーリというと自由な教育のイメージが強いですが、実際はとても秩序が重視されているんですね。
久保さん:そうなんですよ。自由といっても、ただ好き勝手にやるわけではなく、「秩序の中の自由」。日本では受験対策としての教育というイメージが先行しがちですが、実は真逆かも知れません。子どもが自分のペースで学び、自分の意志で取り組むからこそ、本当の意味での自主性や集中力が育まれるんです。
異年齢の子どもたちが共に育つ理由
―異年齢の子どもたちが一緒に学ぶと聞きました。それにはどんな意味があるのでしょうか?
久保さん:2歳半から5歳の子どもたちが同じクラスで過ごします。この縦割りの環境で相乗効果が生まれるんです。小さい子は、お兄さんお姉さんの姿を見て、「あんな風になりたい」と憧れを抱く。一方で、大きい子は年下の子を助けることで、自然と面倒を見る力が育つんです。おばあちゃんがいて、お父さんお母さんがいて、その中で小さな子どもたちが育つ、まるで昔の家族のような関係です。小さな社会ができます。
おしごととは? 子どもが自ら選ぶ学び
―おしごととは具体的にどんなことをするんですか?

久保さん:モンテッソーリでは、子どもが自分で選んだ活動を「おしごと」と呼びます。ビーズを並べたり、ハサミを使って紙を切ったりと200種類以上あり、年齢や発達段階に応じて用意されています。同じおしごとを2週間、3週間と続ける子もいます。大人から見れば「また同じことを?」と思うかもしれませんが、没入感こそが大切。子どもはその中で満足感を得て、次のチャレンジへ進んでいけるんです。
本物から学ぶ
ランチタイムも教育の一環
―ランチタイムも特徴的だと聞きました。どのように過ごすのでしょうか?
久保さん:モンテッソーリ教育はイタリアが発祥なので、ランチタイムも前菜、メイン、デザートと分ける習慣があります。お弁当をただ取り出して食べるのではなく、自分でセッティングするところから始めるんです。まず手を洗い、ランチマットを敷いて、ナプキンを置く。お皿も本物を使います。プラスチックではなく、陶器の食器を扱うんです。2歳の子どもでも、自分でお皿を並べ、お弁当の中身を少しずつ取り分ける。この時間も、大切な学びの機会なんですよね。
なぜ本物の食器を使うのか?
―お皿も本物を使うんですね。割れて危ないと思ってしまいそうです
久保さん:モンテッソーリは本物主義。お皿やコップが割れると、「これは大事に扱わなくてはいけないものなんだ」と自然に学びますよね。ハサミやナイフも同じ。ちゃんと使わないと、危険が伴うことを身をもって知る。それが、本当の意味での「学び」につながります。
家庭で取り組むモンテッソーリ教育
子どもを一人の「個」として尊重する
―23歳と16歳の娘さんがいらっしゃる久保さん。ご自身の子育てで大切にしていることは?
久保さん:子どもの声に耳を傾け、尊重することですね。
子どもとはいえ、小さな大人。性格、能力、考え方、私とは全く違う存在です。だからこそ、親の価値観を押し付けず、「昔はこうだったから」と決めつけることもしません。時代は変わり、30年前と情報量も違います。親の経験を語るより、子どもから「今はこうなんだよ」と教えてもらう姿勢を大事にしています。

―思春期の娘さんとは、どのように接していますか?
久保さん:話してくれることもあれば、話さないこともある。でも、それでいいんです。
大人でも「触れられたくないこと」があるように、子どもにも「開けたくない扉」があります。そういうときは触れないようにしますし、反対に彼女が喋りたいって思うときには遠くないところで見守っています。まさにモンテッソーリなんです。やってあげたいこと? 山ほどありますが、ぐっとこらえて(笑)。
子どもの自立を支えるために
―宿題をやらない、寝る時間が近づいても取り組まない…そんなとき、どうしますか?
久保さん:話し合いですね。やらなかったらどうなるのかを、本人が経験することが大切だからです。「勉強しなさい」と言うのではなく、「なぜ学ぶことが大事なのか」を伝えてみてはどうでしょうか。
たとえば、算数なら「お釣りを間違えられてしまったらすぐにわかるよ」「ピザを12等分にカットして4人で食べたら、○○ちゃんは何枚食べられる?」など、生活に結びつけて。日記を書くのが嫌なら、「書く力がつけば、小説家になれるかもよ?」と前向きに伝える。「これはあなたの人生を豊かにするものだよ」と子ども自身が納得できると宿題に向かうのでは。
―子どものため、と思ってつい言ってしまうんですよね。よくないですね。
久保さん:できないと思っているのは、実は親だけ。子ども自身は、やろうと思えばできることがたくさんあります。でも、親が先回りしてやってしまうと、せっかくの成長の機会を奪ってしまう。それは、本当に「成長の芽を摘む」ことになってしまうんですよね。「良かれ」はNGです。
1、2歳くらいの子が靴を履く、靴下を履く、ジャケットを着る、ボタンを閉める、歯磨きをする…。そういう小さなことも、「自分でできるんだ」と信じることが大事なんです。
いつか日本で、モンテッソーリ幼稚園を

―いつか久保さんのモンテッソーリ幼稚園が日本に誕生するかも知れない、そんな未来を思い描いていますか?
久保さん:今は高校生の娘がいるので、彼女に寄り添っていたいと思っています。
ただ、いつかは日本の素晴らしさを大切にしながら、モンテッソーリ教育を取り入れた幼稚園を作れたらいいなと考えています。日本には繊細で美しい文化があり、海外には「自分の道を切り拓く自由」がある。その両方が融合したら、素敵だなと思うんです。世界中に同じ人はいないからこそ、異なる価値観や文化との出会いが人生を豊かにしてくれる、そんな環境が作れたら嬉しいですね。
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