受験率は昨年とほぼ同率。ただし過熱気味なのは都心部の人口増加地区
――2025年度の中学受験率は、どうだったのでしょうか?
広野先生(以下、広野):2月1日の午前中にすべてのお子さんが受験をするわけではありませんので、受験者数や受験率のデータは、2月1日の午前中には受験はしていないが他の日程だけを受験する受験者数の推定の仕方によって実は異なるんですよね。そうした状況を踏まえた上で、2月1日午前中に実施する学校の受験者を足していき、単純に1都3県の公立小学校の卒業生数で割ってみると、約15%ちょっとという受験率になっており、ほぼ昨年と同じくらいだったのではないかと考えています。
――近年、首都圏では中学受験熱が高まっているといわれていますが、広野先生はどのように感じていらっしゃいますか?
広野:中学受験ブームは、実は首都圏全体で高まっているわけではないんです。都内23区を中心とした非常に限られたエリア、具体的には千代田区、中央区、文京区、港区、江東区などの東京都心部で高まっているのです。このエリアでは、クラスの半数以上の児童が受験する小学校があるくらいです。
その一方で、都心部から離れた地域では、中学受験をするご家庭というのは、あまり多くはありません。なぜなら、現在は、かつてのように学級崩壊などで荒れている公立校はあまりありませんし、体育館などの冷暖房の設置といったハード面も、一部の私立校より公立校のほうが整っている場合もあり、公立高校の進学実績も改善していますので公立中学校に進学しても進路面では大きく不利になることはないからです。
子どもの性格や夢、将来を考えて、その子に適した学校を選ぶ傾向が顕著に
――なるほど。では、受験する学校選びには、近年どのような傾向があるのでしょうか?
広野:今年に限って言えば、男女とも御三家が軒並み志願者数を減らしていますし、また、ほかの難関校も、一部を除いて志願者が減っています。要するに、何が何でも最難関校に入れようと思わなくなっているのです。以前は、偏差値表を頼りにできるだけ偏差値の高い難関校を目指すご家庭が多かったのですが、現在はお子さんの性格や、目指す将来像に適した学校を目指すご家庭が顕著になっています。
「共学」「国際系」「サイエンス」が学校選びのポイントに
――具体的には、どのような学校に人気があるのでしょうか?
広野:お子さんを丸抱えでサポートしてくれる、面倒見のいい学校に人気がある傾向がありますね。中でも、保護者の方々が注目しているポイントは、「共学」「国際系」「サイエンス」です。子どもたちが今後生きていく未来の環境を見据えて、この3つのポイントに力を入れていて、高校在学中の海外留学や海外大学直接進学も目指せる教育プログラムが充実している学校は人気が高いと思います。

上記のような教育プログラムを展開している「渋谷教育学園幕張」、「渋谷教育学園渋谷」、「広尾学園」、「広尾学園小石川」、「開智日本橋学園」、「三田国際科学学園」、「かえつ有明」、「芝国際」などは、「SAPIX」の上位コースに在籍しているお子さんでも、2月1日の午前中から受験する人も少なからずいます。創立100年以上の歴史を持つ伝統校より、こうした新興校への注目度が高くなっている傾向があります。

大学付属校も人気上昇中
広野:また、近年は、大学付属校も人気があります。併設大学への内部進学率の高い大学付属校は基本的には大学受験がありませんから、進学校のように学習カリキュラムを先取りせず、中学・高校とも学習指導要領に即して授業を行っていきます。そうすると、当然ですが、ゆったりと勉強ができるので、クラブ活動や学校行事をしっかり行いながら学校生活を送ることができるんですよ。さらに、大学との連携の中で、高校在学中から大学の授業を受けて単位が取得できる学校もあり、その点にもメリットを感じているご家庭がありますね。
そして、大学付属校へ入っても、併設大学には進学せず他大学受験をする生徒が増加しているのも、近年の傾向です。大学付属校では、ゆとりのある中高6年間の授業では、探究型などの授業が充実しているため、大学入試の総合型選抜試験にも十分対応できるんですよね。それに加えて、大学付属校側も〝絶対に内部進学をせよ〟という以前のような雰囲気はなく、その子にやりたいことがあって、やりたい学問が他大学にあったなら、それを応援する気風になってきていることも、大学付属校の人気の高まりに影響していると思います。
一方、伝統校ならではの魅力を感じる家庭も引き続き多い
――伝統校は人気がなくなっているのでしょうか?
広野:いいえ、そんなことはありません。やっぱり各家庭の価値観の中で、何を大事にするかで学校選びは異なりますから。
例えば、女子であれば勉強も大学進学も大事だけれど、日本女性として中高6年間でさまざまな経験をさせたいという保護者の方もいらっしゃる。そういうご家庭は、「共立女子」や「大妻」「実践女子学園」「東京女学館」「跡見学園」など、都内にキャンパスを持ついわゆる名門女子校へお子さんを通わせるケースもあります。その上で、大学は他校へ進学というお考えの方もいますし、大学付属校のメリットを利用して内部進学をする方もいます。名門女子校はOGのネットワークも見逃せない魅力ですから。

大学進学へ希望を持てる学校も注目を集める
――男子校では、どんな学校に人気がありますか?
広野:男子の場合は、面倒見のいい学校を目指す傾向があります。「足立学園」、「佼成学園」、「京華」、「獨協」などは、偏差値はさほど高くありませんが、カリキュラムを工夫していて、塾要らずを掲げています。中高6年間でジャンプアップさせたいご家庭に人気です。入口に比べて出口が良いというよりは、出口が良くなることを予感させる学校というのが注目されています。

広野:それと同じ理由で、女子校では「洗足学園」や「吉祥女子」、「鷗友学園女子」などは人気がありますね。これらの学校は年によって若干差はありますが、偏差値分布が高い方向へシフトしていて、年々、合格するのは優しくない状況となっています。
以上のように、最近は、各家庭の価値観が多様化しています。ただ、どのご家庭も重視しているのは、お子さんの性格や夢、将来の方向性を見据えながら、できるだけお子さんに寄り添ってくれる学校選びをしているように思います。
中学受験を意識する年齢がどんどん前倒しに
――魅力的な学校が増えたぶん、学校選びをするのは大変ですね。
広野:ええ。ですから、お子さんが低学年のころから学校説明会に参加されるご家庭が増えている気がします。中学受験フェアなどのイベントに参加した私たちの相談ブースには、お子さんが就学前の保護者の方や、まだお子さんがお腹の中にいらっしゃるお母さまが来訪されることもあるくらいです。塾に通われる年齢も前倒しになっていて、少し前までは小学3年生の終わり、もしくは4年生の新学期ぐらいから約3年間塾へ通われるお子さんが主流でしたが、現在、塾へ通い始める時期は、それより半年から1年ぐらい前倒しになっている気がします。
後編ではたくさんの学校がある中で、どのような視点で学校選びをすべきか伺いました

お話を聞いたのは

取材・文/山津京子