なんと、歯磨きでインフルエンザは予防できる! 風邪の季節に知っておきたい口腔ケアとウイルス感染の関係【医師監修】

現在、東京都ではインフルエンザ感染者数が急増し、史上最速の注意報が発令されています。また今年(2023年)5月以降、コロナ感染者数も増加の一途を辿り、この秋冬にかけてインフルエンザ・コロナウイルスの同時流行が懸念されています。今回は、ウイルス感染対策としての歯磨きにスポットを当てて論じていきます。
執筆/島谷浩幸(歯科医・歯学博士)

 歯磨きはインフルエンザ感染を抑える

東京歯科大学の奥田克爾氏らの研究グループは、歯磨き(口腔ケア)がインフルエンザの予防に関与するかどうかを調べるため、東京都府中市の特別養護老人ホームのデイケアに通う65歳以上の高齢者98人を対象として調査を実施しました。

調査期間はインフルエンザの流行期である2003年9月から04年3月で、歯科衛生士による口腔ケアと集団口腔衛生指導を1週間に1回の頻度で実施しました。

その結果、インフルエンザの発症は1人でしたが、別のデイケアに通う高齢者92人に歯科衛生士が関与しない、つまり本人および介助者による通常の口腔ケアを続けたところ、9人の人がインフルエンザを発症しました。

図1.インフルエンザ感染予防に対する口腔ケアの効果

各施設でのワクチン接種率に有意な差はなかったものの、歯科衛生士が関与したグループはインフルエンザの発症率が98人のうちわずか1人(約1.0%)であったのに対し、関与しないグループは92人のうち7人(約9.8%)となり、およそ10倍もの差があることが明らかになったのです(図1)。

また、歯科衛生士が関与する口腔ケアを実施したグループでは、関与しないグループより口腔内の細菌数が減少したほか、インフルエンザウイルスの感染を助ける酵素であるプロテアーゼとノイラミニダーゼの活性が低下し、感染が抑えられたことも判明しました。

ところで、これらの酵素は歯周病菌などの口腔内の細菌が産生する物質でもあります。ですから、歯磨き(口腔ケア)でお口の中の細菌の数を減らすことがインフルエンザ予防につながることを示しています。

次に歯磨きに関して、コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)にも関わりが深いという研究報告がありますので紹介しましょう。

歯周病を防げば、コロナ感染の重症度を抑えられる

Marouf氏らの研究グループは歯周炎とCOVID-19の重症化などとの関連性を調べるため、カタールで臨床研究を実施しました。

その結果、歯周炎に罹患していると重症化だけでなく、死亡率やICU(集中治療室)への入室、さらに人工呼吸器の必要性についても、有意な関連性が認められることが明らかになりました(図2)。

図2.歯周病のある人のCOVID-19への影響(※オッズ比は基準1を超えると、その傾向が顕著になる)

これらの結果は、歯周病がCOVID-19罹患後の経過に重大な影響を及ぼしていることを示しています。

もちろん、歯周病予防に大切なのは歯磨き(口腔ケア)。歯周病を抑えれば、COVID-19が悪化しにくい可能性を示唆しているのです。

ところで、「歯周病は大人の病気だから、子どもにはあまり関係がないのでは?」という声があるかもしれません。しかし私が日々診療する中で、歯周病の症状の一つである歯石沈着(特に下顎前歯の舌側に多い)がある小学生を診ることは少なくありません。

親が歯周病の場合、子どもも歯肉炎あるいは歯周炎になりやすい可能性があるという研究報告を紹介しましょう。

歯周病も家族からうつる

口腔二大疾患と呼ばれる虫歯・歯周病ですが、虫歯菌は親から子へうつることが知られています(関連記事はこちら)。さらに、歯周病においても親子間での感染のあることが報告されています。

図3.親子間の歯周病菌の検出率

2004年の梅田氏らの研究報告では、歯周病菌を多く保有する親の子どもは同種の細菌の保有率が高くなり、歯周病菌のT.forsythensisT.denticolaでは、ともに47%の割合で親と同種の菌が検出されました(図3)。さらに、歯周状態の悪い母親の子どもには歯周病菌の検出率が高いことも明らかになりました。

歯周病菌は子どもにとっても身近な存在で、歯磨きで歯周病菌を排除することは子どもの歯ぐきの炎症を防ぐのに効果があるのです。

 ウイルス感染を予防する歯磨きとは

では、以上の研究報告の結果などを踏まえて、インフルエンザ感染症やCOVID-19を予防するお口の清掃方法を提案してみましょう。

1.歯周病予防を意識した歯磨きを。

虫歯は歯の病気ですから歯を中心にしっかり歯磨きするのが重要ですが、歯周病は文字通り歯の周りの病気。つまり、歯ぐきや歯を支える骨(歯槽骨)などの歯周組織に生じます。

歯周病は、主に歯周ポケットの中に存在する歯周病菌が炎症反応の原因となることで発症します(図4)。ですから、歯周病を防ぐための歯磨きは、毛先の細い歯ブラシを使用した歯周ポケットのクリーニングが大切です。

図4. 歯周病(写真:筆者提供)

2.消毒効果のある含嗽薬(うがい薬)を活用。

ポケットがさほど深くない子どもでも歯ぐきが腫れたりした場合や、大人でポケットが深くなったようなケースでは歯ブラシの毛先が奥深くまで届きません。つまり、ポケット深部の歯周病菌を歯ブラシのブラッシングだけで除去するのは限界があります。

そこで効果的なのが、殺菌効果のある成分を含んだ含嗽薬(がんそうやく:うがい薬)でのうがい。歯磨きでしっかりブラッシングした後の仕上げで十分にブクブクうがいをすれば、磨き残しの細菌を少なからず排除できます。

もちろん風邪予防のため、帰宅後ののどのガラガラうがいも忘れないようにしましょう。

3.歯周病菌を親から子へうつさない。

虫歯菌と同様、子どもの口の中に存在する歯周病菌の大半は日常生活で接触する機会が多い親が由来です。唾液を介して菌は伝播しますので、スプーン・フォークやお皿など、食器などの親子間での共有は避けるようにしましょう(関連記事はこちら)。

当然ながら、親自身が念入りな歯磨きでお口の中を清潔に保ち、歯周病対策をすることが大切なのは言うまでもありません。

しかし、すでに歯周病が進行し、ポケットがさらに深くなるとセルフケアでは対応できないため、歯科医院でのプロフェッショナルケア(専用器具を使った歯石除去等)が必要になります。

では最後に、歯科医院における大人の歯周病対策に効果的な治療法を紹介しましょう。

 LDDSの活用

当院歯科では、細菌感染症である歯周病の進行抑制をする上で有効な手段となる歯周病の治療法「局所的薬物送達療法(LDDS)」を実践しています。

LDDSでは歯周ポケットの深部に直接、シリンジの先端を挿入して塩酸ミノサイクリンなどの抗菌薬を注入します(図5)。

図5.歯周病治療おけるLDDSの応用(写真:筆者提供)

この治療法の利点は、スケーラー(歯石を除去する器具)でも十分取り除けないポケット深部の歯周病菌に対し直接的に薬剤投与でき、ペースト状で薬剤が緩やかに拡散するため薬効が長時間持続します。

また、抗菌薬を内服する場合と違い、薬が血液循環で全身を巡るリスクが減るため、副作用が軽減する利点もあります。

LDDSは保険適応のため治療費の負担が少なくて済み、抗菌内服薬の減薬にもなります。歯ぐきの炎症度合などを考慮しつつ、今後も活用したい治療法です。

 *  *  *

以上のように、親子そろって丁寧な歯磨きや必要に応じた治療を受けて歯周病対策を行い、これからのウイルス感染の高リスクな季節を元気に乗り切る一つの手段として期待しましょう。

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記事執筆

島谷浩幸

歯科医師(歯学博士)・野菜ソムリエ。TV出演『所さんの目がテン!』(日本テレビ)等のほか、多くの健康本や雑誌記事・連載を執筆。二児の父でもある。ブログ「由流里舎農園」は日本野菜ソムリエ協会公認。Twitterも更新中。

参考資料:
・阿部修、奥田克爾ほか:健康な心と身体は口腔から-高齢者呼吸器感染予防の口腔ケア.日歯医学会誌25,27-33,2006.
・Marouf N et al.: Association between periodontitis and severity of COVID-19 infection: A case-control study. J Clin Periodontol, 48:483-491, 2021.
・Umeda M et al.: The distribution of periodontopathic bacteria among Japanese children and their patients. J Periodontal Res, 39:398-404, 2004.

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