流しそうめんで虫歯菌がうつる!? 安全・安心な箸づかい・取り分け料理のマナーを再確認【歯科医が提言】

イベント・パーティシーンでの「流しそうめん」や「みんなで取り分け料理」で注意したいのが、虫歯菌・・・? コロナだけでない口腔衛生について、HugKumで人気の歯科医ライター/島谷浩幸さんが注意点をまとめてくれました。

暑い夏の風物詩の一つ、流しそうめん。青竹でできた水路の竹筒に、清らかな水の流れとともに白いそうめんが流れる様は、いかにも涼しげな風情を感じさせてくれます。およそ3年に及んだコロナ禍もようやく落ち着きを見せ、久々の夏恒例のイベントとして各地でも復活の兆しが見られています。

その一方で、「流しそうめんは不衛生だ」という声も少なくないようです。左手に麺つゆの入った器を持ち、右手に持った箸で流れてくるそうめんをすくう方式だと、他人が取り損ねた、言い換えれば箸の唾液が付着した不潔なそうめんが上流から流れてくるわけですから、「下流には行きたくない」という意見も理解できます。

では、流しそうめんや大勢で食事をする場面での歯科的注意点を挙げてみましょう。

昔からの食事のマナーは理にかなっている

毎日の食事は家族団らんの大切な場ですが、親しき中でも最低限守りたいマナーはあるものです。マナーは周りの人に不快感を起こさせない振る舞い、行儀作法ですから、マナーをきちんと守れる人は好印象を与えます。

例えば、皿に盛られた料理の上で大声の会話をするのは良くないマナーです。口からの唾液の飛沫が料理に降りかかり、せっかくの美味しい料理が細菌に汚染されてしまいます。料理を前にしてくしゃみや咳をする時なども手で口を覆ったり、顔を料理から背けたりするなど、飛沫が料理に付着しないような心配りが大切です。

このように、古くから当たり前に行ってきた食事のマナーは、感染予防の観点からも理にかなったものが多く、特に人が集まる場での食事には気を付けたいものです。

箸づかいにもマナーが

また、日本人の食事には不可欠な箸ですが、箸に関する良くないマナーは総称として嫌い箸、禁じ箸などと呼ばれています。

日常だけでなく外食時も箸を使う機会が多くありますが、大勢で食事する時や大皿が出てきた時、取り分けはどうしていますか?

手間だからと自分の箸で取り分ける、または自分の箸を逆さにして取り分ける人がいますが、これらは直箸(じかばし)、逆さ箸と呼んでマナー違反です。仲間でも内心不快に思う人がいるかもしれません。

直箸や逆さ箸は、不潔な箸マナー

直箸は大皿などに盛られた料理を取り分ける際、取り箸を使わず自分の箸で直接食べ物を取ることですが、口腔細菌学の観点からするととても不潔な行為で良くないマナーです。お箸に付着した唾液から料理に細菌が移行する可能性があるからです。

ちなみに、箸を使う文化を持つ国に中国があります。家族や来客に自分の箸で料理を取り分けることが親愛のしるしとして、取り箸の習慣はありませんでしたが、コロナ禍以降、感染に対する意識が変化し、取り箸を使う動きも出ているようです。

また、逆さ箸もマナー違反です。

自分の手が触れていた箇所で料理を取り分けるため、不衛生なのは当然です。感染性胃腸炎の原因となるノロウイルスなどの病原体が手に付着していれば、手から箸へ、箸から料理へ移って感染を広げる可能性もあります。

さらに、箸の両側が汚れるために見た目もよくありません。一見スマートな行為に思える逆さ箸ですが、まさに“逆”効果です。

もし取り箸が用意されていなければ、店員さんにお願いして持ってきてもらいましょう。

「みんなで鍋をつつく」も注意が必要

ところで、大勢で食べる料理に鍋料理が思い浮かぶ人も多いと思います。鍋を囲んでワイワイ話に花を咲かせるのも楽しいものです。

2019年に株式会社リクルートライフスタイルが企画編集する雑誌『HOT PEPPER』は、全国の20歳~30歳代の男女1044人を対象として鍋に関するアンケートを実施しました。

その調査の結果、鍋シーンで「なし」と思う行為ランキングとして第1位が「1回取った汁を鍋に戻す」で、第2位が逆さ箸。直箸も第6位にランクインしました(図1)。

図1. 鍋シーンで「なし」と思う行為

この3つの行為は、いずれも衛生面で非常に不潔な慎むべき行為で、「みんなで鍋をつつく」という言葉はまさに直箸し放題のイメージです。第4位の「鍋奉行が仕切る」は、その人の感染に対する意識次第で鍋が不潔になるかどうかが決まりますので要注意です。

同様に、一度口にしたものはNGという串揚げのソース二度づけ禁止も、口腔衛生的に実に理にかなったルールだと言えるでしょう。

唾液を介して菌は感染する

子どもを虫歯にさせないために大人が使った箸で食べ物を与えないのは鉄則です

人から人への感染経路で最も多いのが「親から子へ」だからです。このような親子間での感染を垂直感染といい、親子以外の他人からの感染を水平感染と呼びます。

乳幼児に対して食べ物の口移しや噛み与えをしたり、離乳食の味や温度のチェックを赤ちゃん用のスプーンでしたりすることは感染リスクを伴います。また、キスや顔を近付けて会話するなど、日常の何気ないスキンシップの中で唾液を介して感染します。

また、子どもが大きくなっても、家族の唾液が付着した食器類(皿、お箸、スプーンなど)の共用やペットボトルの回し飲みはもちろん感染リスクがあり、うがい時に使用するコップを家族間で一緒に使うのもよくありません。

実際、親子で同じ虫歯菌のDNAが検出された研究報告があります。

1999年に広島大学の香西克之氏らが報告した研究では、日本人の20家族におけるミュータンス菌の家族内伝播を調査しました。その結果、36名の子どもに対して母親と遺伝子型が一致するケースが51.4%、父親では31.4%であり、日常で接する機会の多い母親から伝播しやすいことが示唆されました(図2)。

図2.ミュータンス菌の親子間の相同性

また、歯周病でも親子間での感染が報告されています。2004年に梅田氏らが報告した研究では、歯周病菌を多く保有する親の子どもは同種の細菌を保有する率が高くなり、歯周病菌のT.forsythensisT.denticolaともに47%の割合で親と同種の菌が検出されました。

家族間での感染対策を徹底するためには、家族全員の理解は不可欠です。一緒に食事する機会がある祖父母に対しても、家族内感染のリスクを事前に伝えておくことが大切です。大きな器にたっぷり盛っていたそうめんをいきなり個分けに変更するなど、理由も知らせずに食器の共用を避けることは、相手に不快な思いをさせる可能性があるからです。

“新しい生活様式”における流しそうめんの提案

今年6月、全国屈指のそうめん産地である香川県・小豆島で「第3回全国そうめんサミット2023 in 小豆島」が開催され、最終日のイベントに流しそうめんが実施されました。

ここでは各自が直箸でそうめんを掴むのではなく、特殊加工された紙製トングで発泡スチロール製の器にそうめんを入れ、離れた場所に移動して麺つゆやネギ、ショウガといった薬味を加えて食べる方式がとられました。

場所移動の手間やコスト面などの問題点もありますが、今後の“新しい生活様式”において不特定多数が参加する流しそうめんは、このように感染対策を徹底した形態が主流になるでしょう。

近年は家庭用の流しそうめん機(回転式やスライダー式)が市販され、自宅にいながら流しそうめんを楽しむことができます。

衛生面を考慮すれば、そうめんや薬味を取る箸と食べる箸は分けるべきですが、「家族だったら直箸は気にならない」「箸を分けるのはめんどくさい」「場が白ける」という意見があるのも事実です。

流しそうめんは場を盛り上げ、楽しむことが大きな目的のイベントですから、家族や仲間など内々でやる場合は参加者の意見を確認した上で細かいことは気にせず、楽しみを損なわない程度に感染対策する、というのも一つのやり方です。もちろん食べ終えた後、徹底的に歯磨きするのは必須の条件です。

暑い盛りの夏の思い出として、小粋に流しそうめんを楽しんでくださいね。

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記事執筆

島谷浩幸

歯科医師(歯学博士)・野菜ソムリエ。TV出演『所さんの目がテン!』(日本テレビ)等のほか、多くの健康本や雑誌記事・連載を執筆。二児の父でもある。ブログ「由流里舎農園」は日本野菜ソムリエ協会公認。Twitterも更新中。

参考資料:
・『HOT PEPPER』調べ(株式会社リクルートライフスタイル):鍋に関するアンケート(インターネット調査).2019.
・Kozai K et al.: Intrafamilial distribution of mutans streptococci in Japanese families and possibility of father-to-child. Microbiol Immunol, 43(2): 99-106, 1999.
・Umeda M et al.: The distribution of periodontopathic bacteria among Japanese children and their patients. J Periodontal Res, 39: 398-404, 2004.

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