「アイスクリームは意外に虫歯になりにくい」データを検証。カギは口内の“停滞性”?【歯科医が教える夏のデンタルヘルス】

夏真っ盛り。アイスクリームや氷菓がおいしい季節です。そんなアイスクリームは、いかにも虫歯リスクが高そうですが、いっぽうで「意外に虫歯になりにくい」というデータも。その真偽とともに、冷たいデザートを楽しむ際の注意点について、歯学博士の島谷浩幸さんに伺いました。

暑い毎日が続く中、甘くてひんやりしたアイスクリームは、つい食べたくなるものです。しかし、「甘いから虫歯にならないか心配…」と思われる方も少なくないと思います。

確かに甘いアイスクリームなら砂糖を含んで虫歯になるリスクは考えられますが、虫歯になる、ならないは単純にそれだけが理由ではありません。では、アイスクリームの虫歯のなりやすさに関して様々な観点から検証してみましょう。

アイスクリームって意外に虫歯は低リスク?

虫歯菌の栄養素となる甘い砂糖などの糖分が、口の中に長い時間存在すると、虫歯菌が増殖しやすくなり、虫歯リスクは上がります。ですから、食品の虫歯のなりやすさの一つの指標として“口の中に留まる時間”が考えられます。

では、アイスクリームも含め、おやつで食べる食品が実際に口の中に留まる時間はどれくらいなのでしょうか?

1982年に東京歯科大学と東北大学歯学部が共同で行った研究では、各種食品の口の中での停滞性を調べました。その結果、単位グラムあたりの摂取時間(飲み込むのに要する時間)はアメやチューインガム、氷砂糖、キャラメルなどで長くなり、ポテトチップやせんべいも比較的、摂取時間が長くなりました(図1)。

図1. 各種食品の摂取時間(1gあたり)

砂糖の含有量を考慮すると、溶けるまでに時間がかかるアメや口に残るチューインガムは虫歯になりやすいのに対して、摂取時間が比較的長いポテトチップやせんべいは砂糖を含まないものが多く、虫歯リスクは低いことが示唆されました。

また、図1で摂取時間がさほど長くない結果となったビスケットやチョコレートですが、飲み込んだ後も歯の間の隙間に入り込んで口に残る時間が長くなるので、砂糖を含む製品の場合は虫歯になりやすくなります。ちなみに、キャラメル、ビスケット、チョコレートなどのように歯にまとわりつきやすい食品は「停滞性食品」と呼ばれています。

そのような観点から考えると、図のようにアイスクリームやゼリーはさらに摂取時間が短くて口の中に残りにくいため、一見すると虫歯リスクは低いように思えます。では、本当にアイスクリームは虫歯になりにくいのでしょうか?

アイスクリームは多彩な商品で溢れている

確かに、シャリシャリとした食感で氷成分が多めなアイスクリームやシャーベットならば、含まれる成分の大半が水分のため、口の中には残りにくいと言えるでしょう。しかし、皆さんもご存じのように、アイスクリームには非常に多くの種類があります(図2)。

図2. アイスクリームの分類

乳固形分が3%未満のものは食品衛生法の規定により「氷菓」として分類され、かき氷や果汁などを凍らせたアイスキャンディーなどがここに含まれますが、本稿ではまとめてアイスクリームと呼んでいます。

また、アイスクリームの形態も棒についたスティックタイプのもの、カップに入ったもの、シュークリームやモナカのような皮やチョコレートに包まれたものなど、多彩な商品を気軽にスーパーやコンビニで購入することができます。

このような市場の状況を考えると、先述した研究報告のように、アイスクリームの口の中の滞在時間が短いのは限られた商品であり、ものによっては長く口に留まる商品があることも予想できると思います。

例えば、アイスクリームでもクッキーの入ったものやコーン付きのものモナカの皮などに包まれたものは、噛むことで細かく粉砕されたクッキーやコーンなどが歯の間などに残るため、アイスクリームの成分が口の中に残る時間は長くなります。

また、乳脂肪分の含有量が多く、濃厚で口溶けが滑らかな食感のアイスクリームは高級感を感じたりもしますが、乳化剤や増粘剤などの各種安定剤が使用されて粘り気があるため、口の中に残りやすいアイスクリームです。

このように、同じアイスクリームと呼ぶ商品でも、その成分が口の中に残る長さは千差万別であると言えるでしょう。

甘いアイスクリームは砂糖が多い?

虫歯のなりやすさで言えば、砂糖の含有量も大きく影響します。砂糖の主成分であるショ糖(スクロース)や異性化糖(果糖ブドウ糖液糖)など、虫歯の原因となりやすい糖分を含むアイスクリームが多く市販されています。特に果糖は冷たいほうが甘味を強く感じるため、アイスクリームや清涼飲料水には果糖ブドウ糖液糖がよく使用されます。

基本的にこれらの糖分の量が多いと虫歯リスクは上がりますが、中には不使用のアイスクリームもあり、キシリトールやエリスリトールなどの糖アルコールを代用甘味料として製品に甘味を持たせているものもあります。

特にキシリトールは近年、砂糖の代用甘味料としてガムなどの多くの食料品に添加されていますので、ご存じの方も多いでしょう。

キシリトールは白樺や樫といった樹木や植物を原材料とする天然甘味料で、砂糖と同程度の甘さがありますが、カロリーは3/4程度という特徴があります。虫歯予防の先進国である北欧諸国でもチューインガムやタブレットなどに利用され、日本では1997年に食品添加物として使用が認可されました。

虫歯の原因菌のミュータンス菌は糖分を分解して歯を溶かす酸を産生しますが、キシリトールはミュータンス菌の栄養源とならず酸産生の原料にならないだけでなく、菌の増殖を抑える効果もあります。

また、非糖質系甘味料としてステビアやアスパルテームといった代用甘味料もアイスクリーム商品に使用されますが、これらも同様に酸は産生されません。このように砂糖の代用甘味料が含まれるアイスクリームならば、虫歯リスクは低いと言えるでしょう。

「暑くて冷たいものを口に入れたい。でも、どうしても虫歯が気になる」。もしそう思うならば、虫歯にならない究極のアイスは、まさに“アイス=氷”。口の中に残らず、かつ砂糖も含みません。いきなり口に入れて口唇や頬の粘膜を傷めないように、流水で表面を軽く溶かしてから口に入れるようにしてください。また、硬い氷は噛んで歯が欠けることもありますので、気を付けて口に含みましょう。

虫歯になりにくいアイスクリームの食べ方

以上から、アイスクリームが虫歯になりやすいか否かは、コーンなどの付属物や増粘剤など商品の性状に関係する添加物の有無、虫歯菌の栄養源となる糖分を含むかどうかなど、商品のパッケージをみればある程度推測できると思います。

ただ、虫歯になりにくい商品でも、その食べ方次第で虫歯リスクが上がることがあるため、注意点やコツを最後にまとめてみました。

  1. 食べる量や時間を決める。
  2. 食後は適切なケアを行う。

ダラダラといくつもアイスクリームを食べるのは、口の中の酸性度が下がる時間が長くなるため虫歯リスクが上がります。アイスクリームの大きさにもよりますが、今日は1本(1個)だけ、という風に子どもに与える量や時間を限定して提供するようにしましょう。

暑い日のアイスは生き返る心地が・・・

ただ、やはり虫歯予防の基本は食べた後の丁寧な歯磨き。歯ブラシなどを使い、できる限りの汚れを落とすのが大切です。アイスクリームを食べたすぐ後に歯磨きできれば好ましいですが、外出先などで難しい場合は口の中をゆすいだり、キシリトール配合のガムを噛んだりしてケアするのがおすすめです。

アイスクリームをおいしく食べて、暑い夏を乗り切りましょう。

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記事執筆

島谷浩幸

歯科医師(歯学博士)・野菜ソムリエ。TV出演『所さんの目がテン!』(日本テレビ)等のほか、多くの健康本や雑誌記事・連載を執筆。二児の父でもある。ブログ「由流里舎農園」は日本野菜ソムリエ協会公認。Twitterも更新中。

参考資料:
・松久保隆ほか:食品の付着性と摂食時の口腔内停滞性-齲蝕誘発能を考慮して-.栄養と食糧35(3),213-216,1982.
・一般社団法人日本乳業協会ホームページ:乳と乳製品のQ&A.(https://nyukyou.jp)

 

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