中学生の10人に1人が発症する「起立性調節障害」は朝起きられないだけの病気ではない。検査では“異常なし”でも次々に現れる体の異変、一時は歩行困難に【ヒナままさんの体験記】

「起立性調節障害」という言葉を聞いたことがありますか。軽症の場合も含めると、中学生の約10人に1人が発症するともいわれるこの病気は「朝、起きられない」というだけではなく、全身にさまざまな症状が現れるといいます。今回はお子さんがこの起立性調節障害を患い、日々の様子をコミックやブログにまとめたヒナままさんにインタビュー。病気がわかった経緯から現在の様子まで伺いました。

腹痛、吐き気、足のしびれ…様々な不調の原因は「起立性調節障害」だった

――お子さん(ヒナさん)は、どのような経緯で起立性調節障害と診断されたのでしょうか?

ヒナままさん:最初の症状は腹痛でした。中1の夏休み頃から、たびたびおなかが痛いと訴えるようになったんです。

そして2学期に入ったある日、動けなくなるほどの鋭い腹痛があり、虫垂炎(いわゆる盲腸)の疑いで大学病院を受診することになりました。

でも検査をしてもとくに異常はなく…そして病院で待っている間にちょうど初潮が来たこともあり、それも腹痛の原因のひとつだったかもしれないということで本人もいったん落ち着き、私もホッとしていたんです。

『コミックルポ 起立性調節障害 娘が起きない。学校に行けない。』より

ところが数日後、今度は腹痛に加えて吐き気も感じるようになりました。元気になったかと思えば前触れもなく体調が悪くなったりということを繰り返し、学校もたびたび休むようになりました。

そしてあるとき、再び強い腹痛に襲われたんです。今度は、足のしびれも訴え、歩くのも困難な状態に。そのときに病院で血圧を測ったら、上が63、下が47という極端な低血圧の状態でした。そしてこれまでの様々な症状から「起立性調節障害」という診断が下ったのです。

――診断名がつくまでには時間がかかったのですね。

『コミックルポ 起立性調節障害 娘が起きない。学校に行けない。』より

ヒナままさん:そうですね。いろいろな検査をしてやっとたどり着いたという感じでした。当時の私にとっては初めて聞く病名だったのですが、「ずっと続いていた不調には、ちゃんと原因があったのだ」とわかったので少し安心しました。

起立性調節障害の中にも4つのタイプがあり、娘は寝ている状態から立ち上がると心拍数が増加する「体位性頻脈症候群」に当てはまるとのことでした。

――起立性調節障害というと、朝起きられないというイメージを持つ人も多いかと思いますが、それだけではなく様々な不調が現れるのですね。

ヒナままさん:先ほどもお伝えしたように、娘は血圧が低すぎて立ち上がるときにフラフラしたり、座っているだけでも吐き気やめまいを感じたりすることが日常的にありました。腹痛やおなかにガスがたまることもよくありましたね。

とくに体調が悪い日は、体が鉛のように重くなって1日中起き上がれなくなり、集中力も気力も湧かないという感じでした。お医者さんの説明によると、起立性調節障害は自律神経(体温調節や血液循環など、体の機能を無意識に調整する神経系)の不調を伴うので、全身に様々な症状が現れるそうです。

「怠けているだけ」「甘やかしすぎ」周りから理解されず、傷つくことも

――そんなにつらい症状があるにも関わらず、他のご家族や周囲の人からの理解を得るのが難しかったとコミックにも描かれていましたね。

ヒナままさん:夫や同居している私の母からは「このままじゃダメ」とか「甘やかしているんじゃないか」といわれることもありました。それで、私があるとき「そういう言葉が病気を悪化させるんだ!」「余計なこと言わないで!」とブチ切れちゃったんですよね(笑)。そんなこともあり、家族は理解してくれるようになりました。

『コミックルポ 起立性調節障害 娘が起きない。学校に行けない。』より

また、体調のよい日に学校に行くとクラスの子が陰口を言っているのが聞こえてくることもあったようで、娘は落ち込んでいました。目に見えない病気で、元気があるときは普通の生活ができるので「怠けている」と誤解されてしまうことも多かったです。

ただ、娘のことを理解してくれたお友達にはかなり助けられていました。娘の具合が悪くなったり、急に座り込んでしまったり、真っ白な顔をしている様子も見ているので、本当にいろいろ心配してくれていましたね。家にもよく遊びに来てくれましたし、学校に行ったときは給食を保健室に運んでくれたりして、娘が学校に行きやすくなるようにサポートしてくれてありがたかったです。

――コミックには中学校3年間のヒナさんの体調の波が細かくつづられていました。とくに大変だったのはどんなことでしたか?

ヒナままさん:とくにつらかったのは中1の3学期頃ですね。定期テストのために学校に行ったものの、プレッシャーもあって体調が悪くなってしまったんです。

さらにクラスの子に「すぐ帰るなら来なきゃいい」と言われたことでひどく落ち込み、2日間ほどまったく食べられない、歩けないという状態になりました。そこから1か月弱は普通の日常生活がほとんど送れず、命の危機を感じたこともあります。

『コミックルポ 起立性調節障害 娘が起きない。学校に行けない。』より

また、その頃は自傷行為もあり、「もう学校なんて行かなくていい」と言わざるを得ないほどでした。親としてもそんな姿を見ているのがつらかったですが、娘の健康を第一に考え、「今日はこれができたね」などと前向きな声掛けをするように意識しました。

――学校とはどのように連携を取っていましたか?

ヒナままさん:スクールカウンセラーさんがすごく親身になって相談に乗ってくれて、部活だけ参加したり、保健室登校をしたりするなど、無理のない範囲で学校とつながり続けられるようにしてくれました。

担任の先生も「来られるときだけでいいよ」と言ってくれたことで親子ともに気が楽になりました。少しでも学校で過ごす時間を持つことが大切だといわれ、親子で一緒にカウンセリングに行って、娘は好きな絵を描いたりしていることもありましたね。

私は起立性調節障害についてのポスターを作って、他の生徒にも症状を知ってもらえるようにしました。

体調を悪化させないためにはとにかく無理をしないこと。親の心のケアも大切に

――ご家庭ではどんなことに気をつけていましたか?

ヒナままさん:無理に起こさず、必要なだけ寝かせるようにしていました。ただ、お医者さんからは「起きる」、「寝る」の信号を体の神経に伝えるために朝と夜の区別をつけるようにと言われていたので、朝はカーテンを開けて日光を取り入れるようにしていました。

『コミックルポ 起立性調節障害 娘が起きない。学校に行けない。』より

血流をよくするために夜は足を高くして寝たり、首やおなかを温めたりもしていましたね。塩分も意識してとるようにして、娘の好きな梅干しを常備していました。娘は気分が悪いときにも梅干しを食べると、スッキリすると言っていました。

あとはとにかく無理をさせないことと、ストレスをため込まないようにすることですね。無理をさせてしまうと、本当に、その後寝込んでしまうんです。なので、安心して休める環境を作るようにしていました。

――ヒナさんを支える中で、ご自身の心をどのように保つようにされていましたか?

ヒナままさん:「自分が倒れたら終わり」という思いで、自分の時間も大切にしました。好きなお笑いのライブを見たり、ブログやコミックを描いたりすることで気持ちを切り替えていました。

『コミックルポ 起立性調節障害 娘が起きない。学校に行けない。』より

ブログやコミックで起立性調節障害について知ってもらいたい、悩んでいる人の力になりたいという目標が自分の中にできたことで、自分の意識も変わった気がします。

その後、私自身ががんになったこともあり、自分のためにも家族のためにも、笑って、楽しく過ごそうという気持ちが一層強くなりました。

――中学校の3年間は体調の波により学校に行けない日も多かったというヒナさんですが、希望の高校に入学し、体調も回復されました。現在の体調はいかがですか?

『コミックルポ 起立性調節障害 娘が起きない。学校に行けない。』より

ヒナままさん:高校に入学した頃はまだ通学に不安があったようですが、起立性調節障害の症状はなくなり、3年間楽しく過ごしていました。今は20歳になり、専門学校に通っています。低気圧の日は体に影響を受けやすいので、早めに休むなど気をつけているようです。

また、規則正しい生活と筋トレをしていると体調が安定しているようで、今朝も5時半に起きて犬の散歩に行っていました。中学時代に起立性調節障害を経験したから、「ここで無理をすると体調が悪くなるかも」というのが自分でもよくわかると本人もよく言っていますね。

――ヒナさんの体調が回復されて本当によかったです。最後にHugKum読者にメッセージをお願いします。

ヒナままさん:お子さんに様々な不調があるのに検査しても異常がないという場合は、起立性調節障害ではないかとお医者さんに相談してみてもよいかと思います。また、起立性調節障害と診断された場合も、見た目ではわからないですし、体調にも波があるので、ぜひお子さんの気持ちを聞くことを大切にしてほしいです。

『コミックルポ 起立性調節障害 娘が起きない。学校に行けない。』より

親御さんは本当に心配だと思いますので、ひとりで悩まず、学校と連携したり、カウンセラーさんのような専門職の方に相談したりしてみてください。起立性調節障害は成長とともに回復するといわれています。焦らずお子さんを見守っていただければと思います。

最近は起立性調節障害という言葉自体は知られるようになってきましたが、「朝起きられない病気でしょ」と軽く流されてしまうことも多くて…。まだまだ誤解を受けることが多いです。この見えない不調への理解が広がることを願っています。

*****

起立性調節障害と一言で言っても、症状も対処法も人によって様々だといいます。周囲からの理解が進むことは、つらい症状を抱える人の心の不安を取り除くことにもつながるのではないでしょうか。

ヒナままさん著のコミック(電子書籍)「コミックルポ 起立性調節障害 娘が起きない。学校に行けない。」(合同出版)には、中学校3年間のヒナさんの体調について細かく描かれているほか、医師からの解説もあり、1冊で起立性調節障害について理解が深まります。ぜひ読んでみてください。

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お話をうかがったのは…

ヒナままさん

次女の起立性調節障害を機に少しでも多くの人にこの症状を知ってほしいと思いマンガ形式でブログに綴り始める。2020年10月卵巣腫瘍が見つかりのち手術、抗がん剤治療を経て2025年4月現在は経過観察中。

ブログ 【漫画】ヒナと起立性調節障害、そして受験の壁

電子書籍 コミックルポ 起立性調節障害 娘が起きない。学校に行けない。(合同出版)

取材・文/平丸真梨子

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