脳に血流が回らず、ぼーっとしてしまう病気
ーーそもそも、朝起きられない病気、起立性調節障害とは、どのような病気なのでしょうか。
種部さん「人間は、横になって寝る生き物です。体を起こして目覚める際には、血圧を上げて脳に血液を送る必要があります。言い換えると人間は朝、血圧が高くなる生き物です。
低血圧の人が朝になると頭がぼーっとしたり、椅子から急に立ち上がると立ちくらみを感じたりする理由は、十分な量の血液が脳に送られないからです。
起立性調節障害も仕組みは一緒です。朝になって、本来ならば活動的にならなければいけないのに、脳に血流が回らず、ぼーっとして起きられない状況が発生します」
ーー夏場の体育館だとか、屋外の集会だとかで倒れてしまう人も、脳の血流が低下して、立っていられなくなる起立性調節障害なのだとか。脳に血が回らず、普通なら起きられたはずの時間に、起きられなくなってしまう病気が存在するのですね。
なまけているわけでも、さぼっているわけでもない
ーーでは、この起立性調節障害は、どのような人に生じるのでしょうか。
種部さん「男子、女子、どちらにも起きます。特に、ぎゅーっと身長が伸びる成長期の子ども、とりわけ血圧が低い傾向にある女子に起こりがちだとされています。
体が一気に大きくなって、心臓から遠くの脳まで血液を送り込まなければいけなくなったのに、血液を送り出すポンプを動かす自律神経が未熟な状態が多いため、起立性調節障害が起きる可能性が生じます。
言い方を変えれば、起立性調節障害は、生物学的素因で発生します。体がだるい、頭が重いなどの症状を訴える子どもは、なまけているわけでも、さぼっているわけでもありません。
朝起きられなくて遅刻してしまうわが子を見ると、親としてはキーッとなってしまうかもしれません。しかし、本人のやる気などは一切関係ない症状だと、大前提として理解していただきたいです」

ーー厚生労働省の「働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト こころの耳」にも確かに、起立性調節障害で朝起きられなくなった娘に対して、執ように声をかけたり、無理やり起こしたり、大声を出したりしてしまう保護者の悩みが掲載されています。
しかし、起立性調節障害は、生物学的素因で起きていると認識し、子どもの怠慢などは一切関係ない障害なのだと保護者がまず理解してあげるべきなのですね。
「学校に行かなくてもいいんじゃない?」
ーー起立性調節障害の背景や仕組みは分かりました。では、自分の子どもが実際に朝起きられなくなった場合、どうすればいいのでしょうか。
種部さん「まず、本人の意思とは関係ない部分で起きている症状なので『学校に行かなくても(起きられなくても)いいんじゃないの?』というオーラを本気で出してみてはどうでしょうか。
『学校なんて行かなくていいよ』と言いながら、本音では真逆の考えがあって、顔に出ているような状況では子どもに伝わります。
親が大きく構えた上で、どうしたいのか子どもに聞いてあげてください。『学校に行かなくても(起きられなくても)いいんじゃないの?』と親の側が本気で考えているのに、当のお子さんが、『なんとかしたい、なんとかして学校に行きたい』と思うのであれば、できる対策を一緒に探して、サポートしてあげる必要があります」
ーー具体的にはどのようなサポートが考えられますか。
種部さん「例えば、生活習慣の見直しが挙げられます。夜のスマホをやめる、朝日を浴びるなど、睡眠リズムを改善する行動を取り入れてみてください。
血圧を上げる効果が運動にもあるので、自分のペースで歩いていて学校に行くように勧めてみてはどうでしょうか。水分補給と塩分補給を心がけて血液量を増やす(血圧を上げる)など、対策は幾つも考えられます」

種部さん「子どもの気持ちを聞いたときに、友達の前で倒れてしまったなど、ちょっとした失敗が引き金になって学校に行きたくない、恥ずかしいと訴えるならば、別の対策が考えられます。
立ち上がるときは(倒れないように)椅子の背もたれや机に手をついて支えるとか、ゆっくり起き上がる習慣をつけさせるだとか、集会などではその場で足踏みをしたり足をクロスさせたりするとか、、倒れないで済む方法を一緒に探してあげてください。
それでも状況が改善しない場合は、小児科、内科、婦人科など何科を入り口にしてもいいので、かかりつけ医に相談し、血圧をコントロールする薬を処方してもらってください。
いずれにせよ、生物学的素因で発生している症状なので、病気の原因と仕組みを親御さんが正しく理解し、子どもの気持ちを聞いた上で、一緒に対策を考えてあげるという姿勢がやはり大事だと思います」
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以上、起立性調節障害について、種部恭子先生に話を聞きました。保護者としては、病気の原因や仕組みを理解した上で、意思に反して体がついていかない子どものもどかしさを分かってあげるところからスタートすればいいのですね。
もちろん、朝起きられない原因が、起立性調節障害ではない場合も考えられます。しかし、いずれの場合も、子どもの本人の気持ちと医療機関のアドバイスとを相互に判断材料としつつ、お子さんと一緒に向き合ってあげるといいようです。ぜひ、参考にしてみてください。
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お話を伺ったのは

女性クリニックWe! TOYAMA代表・富山県議会議員。その他、内閣府男女共同参画会議 女性に対する暴力に関する専門調査会委員、日本産婦人科医会常務理事、富山県医師会常任理事などを務める。
取材・文・写真/坂本正敬