「わが家の双子はASD(自閉スペクトラム症)」重度知的障害をもつ息子と、知的には問題のない軽度ASDの娘。タイプの異なる発達障害の双子を育てた母が振り返る、工夫の数々

子育ては1人でも大変なのに、双子だったら…?しかもその双子が2人とも発達障害だったら…?その大変さは想像を絶するものかもしれません。知的障害を伴う重度のASDの息子さんと、知的障害を伴わないASDの娘さんの双子を大人になるまで育て上げた、長谷川桂子さん。著書「わが家の双子はASD」には、子育ての工夫や貴重な経験談が、ふんだんに詰め込まれています。そんな長谷川さんに、著書のことや、発達障害児の子育てについて、詳しくお話を伺いました。

息子は重度ASDと2歳で診断。娘は、診断を正式に受けたのは中学3年生

--息子さん、娘さんが障害の診断を受けた当時、それぞれ主にどのようなことに悩んでいましたか? また、「育てにくさ」は、それぞれどのような場面で感じましたか?  

長谷川さん:息子は重度のASD(自閉スペクトラム症)で、障害の診断を受けた2歳のころは、おしゃべりができなくてコミュニケーションがとれず、今後も発語がない生活が続いていくだろうと予想されました。話せないことは本人もすごく不便ですし、周りもきっと困るだろうと想像できたので、コミュニケーション面を中心に非常に不安でした。

おしゃべりができないだけではなく、息子は車や信号など、危険なこともわかりません。そのため、迷子になることはイコール命にかかわること。お店の会計でどうしても一瞬手を離さなければいけないときに、スッといなくなっていたことがあり、そのときは体からすーっと血の気が引きました。

息子はこだわりも強いです。排水溝に水が吸い込まれる様子を眺めるのが好きで、手を洗う際に水をジャージャー流してしまったり、トイレットペーパーを便器に詰め込んで水をあふれさせたり…。エレベーターにこだわって、何時間も乗り続けたこともありました。息子のこだわりには手を焼きますが、できるだけ尊重しながら、どうしても困ることはしっかりと言って聞かせ、何とかつきあってきました

周囲の助けを借りて、療育だけではなく幼稚園にも通った息子さん。

娘には、知的の問題はない。でも少し生きづらそうな子どもだった

長谷川さん:一方で娘は、お話もけっこうきちんとできていましたし、知的にはきっと問題はないんだろうなということは、早い段階でわかっていました。

ただ、娘は一見大変そうではないのですが、人との関わり合いが苦手で、幼稚園で他の子とうまく遊べなかったり、感覚過敏ですごく泣いてしまったりすることがあったんです。そして癇が強いこともあり、少し他の子と比べると生きづらいのかな? と感じました。

本人がこれから社会性の面で苦労しないといいなと、心配はしていましたね。素直な子ですし、集団生活もできていたのですが、同年代の子と比べて集団指示が入りにくいところもありました。

小学校高学年になって受診し、娘も「ASD傾向」と

長谷川さん:それでも娘は息子と比べるとできることが多かったので、特に療育に通うこともなく、小学生になりました。しかし小学4年生くらいになってから、友だちと比べて幼いこと、やはり人との関わり合いがうまくいかないことなどが気になってきたのです。そこでクリニックを受診したところ、診断はつきませんでしたが「ASD傾向」と言われました。

その後、中学3年生のときに、正式にASD(自閉スペクトラム症)の診断がついたのです。

発語のない息子に身につけさせた、50音表の文字を指すコミュニケーション法

--ご著書『わが家の双子がASD』に書かれている当時の子育てで「これは特にやってよかった」と思う具体的な工夫やエピソードがあれば教えてください。

長谷川さん:息子に、壁に貼った50音表の中の文字を指さしながら自分の思いを伝える、コミュニケーション方法を身につけさせたことです。

重度ASDがある作家の東田直樹さんの本を読んで、東田さんのお母さんが、家で文字盤を使ったコミュニケーション方法を身につけさせていたと知って、うちでも取り入れました。息子がこの方法を身につけるまで、3歳から小学3年生くらいまでという長い時間がかかりましたが、そのおかげで息子は意思表示ができるようになったので、よかったなと思います。

視覚的に「数字」を覚えるためのカード。

--反対に、「もっとこうしておけばよかった」と感じることがあれば、それもあわせてお聞きしたいです。

長谷川さん:ないです。ベストは尽くしたなと思っています。

見通しのための合成写真、スケジュールボードなど、試行錯誤の連続

--本の中には、七五三の写真撮影の見通しをつけさせるための合成写真、息子さんの要求を引き出すための絵カードやカードフック、スケジュールボードなど、さまざまな自作のアイテムが出てきました。こういうものを作るアイデアは、どういうところから生まれてくるのでしょうか?

長谷川さん:七五三の撮影のときは、息子が見通しを立てられるように、和装の男児と女児の写真に息子と娘の顔を入れ込んだ合成写真を作りました。これは私のひらめきでしたが、他の絵カードやスケジュールボードなどのアイテムは、専門書を読んで、そこにのっていたアイデアをアレンジして作りました。

七五三のとき、見通しが立てられるよう、和装の子どもの写真に、子どもたちの顔写真を上から貼って作成。

長谷川さん:息子の子育てのために、発達障害に関する本や育児書など、専門書をたくさん読んできたなと振り返って思います。今、子育てをされている親御さんたちも、ネットの情報は玉石混交ですから、本で勉強することをおすすめします。

きょうだい児であり、軽度発達障害でもある娘。福祉のレールに子どものころはのれなかった

--娘さんは知的障害のないASDだということですが、きょうだい児でもあると思います。きょうだい児への接し方として、特に気をつけたほうがいいのはどのようなことでしょうか?

長谷川さん:どうしても障害がある子が、家の中でみんなの視線を集めます。「お母さんが弟のことばかり見ている」「自分が仲間外れになっている」と感じたりしないように、きょうだい児である娘に対しての方がすごく声掛けをし、目をあわせて、気にかけていたと思います。

ときには父親や、母である私と娘が2人でおでかけをしたりすることが、娘との愛着形成上大事だったと思っています。娘は大人になった今でも、それがすごく楽しかったと言っていて、親が自分に向き合ってくれたと感じてくれているようです。

たまにきょうだい児である娘さんと二人でお出かけ。

--娘さんのような軽度の発達障害のあるお子さんは、福祉のレールにのるのも難しく、生きづらさを感じていても支援を受けづらいのではないかと思います。娘さんのようなお子さんを育てる親御さんは、どのように助けを求めていったらいいのでしょうか?

長谷川さん:その子のタイプにもよりますが、娘の場合は本人にもプライドがあって、「弟のような明らかな障害児ではない」「障害者扱いされたくない」という思いがあるようでした。そのため、その気持ちを大事にしようと思いました。

そして、知的障害がなく発達障害だけですと、なかなか福祉の恩恵を受けるのは難しいです。ですから私は、娘のように福祉サービスを受けられない子というのは、イコール「福祉サービスを使う必要がない子」でもあるのではないかと考えています

福祉で補うのではなく、周りの人に理解してもらい、やっていく

長谷川さん:そうはいっても、幼稚園や学校などでそういう子が浮いてしまうことはあると思います。でもそこは、その子の困り感を福祉で補うのではなく、周囲に理解してもらい、支えてもらってやっていく段階なのではないかと思うのです。そのために親は努力し、働きかけます。

そして、本人が大学に入るときや、就職するときなどに困ったとき、必要に応じて福祉や医療につながっていけばいいのではないでしょうか。娘も小さいときは福祉につながれませんでしたが、先生などの理解を得ながらなんとかやってこられました。そして、大きくなり、うつなどの二次障害が出たことで、福祉や医療につながったのです。

小さいときに、たとえ「障害があります」と言ったとしても特に状況は変わりません。それならば、そういう「福祉を受けるほどではない」お子さんは、小さいときにはラベルを貼らず、のびのびと育てていってもいいのではないかと思います。

イライラしても、よくない行動が鏡写しで子どもにいかないよう気をつけていた

--子どもの行動にイライラしたり、つい、感情的に叱ってしまいそうになったとき、どうやって自分の気持ちを整えていますか?

長谷川さん:自分にストレスが蓄積されていると怒りやすいと思っているので、よく寝るようにしています。あとは、イライラしたときは子どもとちょっと距離をおいたり、コーヒーを飲んだり甘いものを食べたりして気分転換し、仕切りなおすようにしていました。

親と子どもは鏡写しですから、親が叩いたり、怒鳴ったり、投げたりしてしまうと子どもも人にやってしまうようになると思います。発達障害の子は、特にそういうわかりやすい行動をスポンジのように吸収してしまいますので、鏡写しで子どもにいかないように気をつけています。

--乳幼児期〜小学校低学年くらいまで、家庭で意識していた関わり方や、助けになった習慣があれば教えてください。

長谷川さん:よく言われることですが、規則正しい生活、そしてルーティーンを作ることを大事にしてきたのはよかったと思います。一日一回のお散歩でストレス解消したり、娘には毎晩絵本を読んだりしていたのもよい習慣だったと思います。

ときには困ることがある「こだわりが強い」という息子の特性も、良いルーティーンとしてこだわると、多くのことをスイスイ身につけることができて助かります。

小学校1年生のとき、毎朝洗濯物を干してくれたことは、とてもいいこだわりだったそう。

長谷川さん:あとは、母が下に見られないように、子どもが小さいころは、親としての主導権をしっかりにぎることを大切にしてきました。

20年間続けてきたブログ。いつか本にしたいと思っていた

--『わが家の双子はASD』を書こうと思ったきっかけは何でしたか?

長谷川さん:20年前からブログをやっていまして、ずっと、いつかブログの内容を本にできたらいいなと思っていました。双子が20歳を超えて子育てが落ち着いて、ようやく自分の時間ができたので、自分の経験がもし人の役に立てればという思いがあり、出版社にメールを送ったのです。企画書を作り、面談をして、出版までたどり着くことができました。

--この本が、「他の発達障害育児本と違う」と感じていただけるポイントはどこでしょうか

長谷川さん:子どもへの対応だけではなくて、親御さん、特にお母さんに寄り添って、具体的に元気を出してもらえるような内容を心がけました。わが家のパパのことなども含めて、家のこと全体についてメッセージを入れたつもりです。

双子はやっぱり大変! でも、やっぱりかわいい

--「双子で発達障害」という点で、特に大変だったこと、でも今になって「だからこそ得られたこと」があれば教えてください。

長谷川さん:双子は本当に大変です。人間はやはり一人ずつ産むべきだなと思いました(笑)。でも、2人で並んでいるときに、他の人に「かわいいね」なんて言われるとやっぱりうれしいですし、後から思えば、イベントがすべて一回で済むのは楽だったかなとも思います。

息子と娘は発達障害とはいえタイプが違いましたし、息子は重度でしたが娘は軽度で、お手伝いをしてくれたり、聞き分けも良く素直だったりしたので、そこまで大変ではなかったのかなと思います。娘の思春期すぎからは、ちょっと別の問題が出てきましたけれど。

「双子は本当に大変! でも、とってもかわいかった」と長谷川さん。

--本の読者から届いた反響の中で、心に残っているものはありますか?

長谷川さん:もともと運営していたブログが、多いときでは一日に5000PVくらいついていて。そのブログからの読者の方たちは、出版を本当に喜んでくれました。「何回も繰り返し読んでいます」「ずっと傍らに置いて、たまに見返してお守りのようにしています」といったメッセージは、とてもうれしかったです。

発達障害の子を育てる親御さんへのメッセージ

--この本を通じて、発達障害のあるお子さんを育てている親御さんに、どんなメッセージを届けたいですか?

長谷川さん:障害が重い子の場合は、親も勉強して、きちんと福祉のレールにのせていかないといけません。逆に軽い子の場合は、ラベルを貼らずにのびのびと育て、本人を否定せずに、自信を育てていってほしいなと思います。

--長谷川さんが会長を務める親の会、「あしたばの会」ではどんな相談が多いですか? 今、幼児〜学齢期の親御さんに伝えたい支援の情報があれば教えてください。

長谷川さん:学齢期、成人と、子どもの年代に応じてグループ分けをして、それぞれ親同士のミーティングなどをやったりしていますが、小さいお子さんの親御さんですと「障害受容」「きょうだい児のこと」「親の仕事との両立」などで悩んでいる方が多いです。

幼児期のお子さんには、「幼児訓練会」という、2~4、5歳のお子さんが通う小さな民間療育をやっているので、そこでベテランの先生がいろいろな相談を受けてアドバイスをしています。もしよければ活用していただけたらと思います。

--最後に、「発達障害かもしれない」と思って不安を感じている小さなお子さんの親御さんに向けて、一言お願いします。

長谷川さん:発達障害は、命をおびやかされるような重い病ではないので、ほとんどのお子さんは、元気に健康に生きています。

ですから、お子さんの人生を否定しないで、環境を整えてあげながら、できるだけ笑顔で、楽しい人生を送らせてあげてほしいと思います。

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※ここからは『障がいのある子どもを育てながらどう生きる?』(WAVE出版)の一部から引用・再構成しています。 子育てにゆとりを作る ...

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言葉を発さない、強いこだわりをもつ重度ASDの息子と軽度ASDの娘の双子のきょうだい。生後から小学校入学までを中心に、実体験に基づく家庭や外出時における対応や工夫、周囲との関係づくりをわかりやすくまとめた。発達障害のある子を育てる家族が参考にできるヒントが満載。
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お話を伺ったのは

長谷川桂子さん

22歳(2025.6月時点)の男女の双子を持つ母の日々。「わが家の双子はASD ~発達障害の子どもが生きやすくなる工夫~」の著者。息子”ツヨ”は重度自閉症。自閉症・発達障害の理解を広め、自閉症育児の役に立つ情報をお知らせしていきます。

文・構成/佐藤麻貴

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