子どものペースに合わせることがハッピー子育てのポイント
イベントのMCは、ラミレス家と同じく4児の父であるタレントのユージさん。東京新聞の神谷円香記者も登壇しました。
子どもは誰もが神様からの贈り物
ユージさん:ラミレスさん家には、現在9歳・6歳・5歳・2歳の4人のお子さんがいます。長男の剣侍(けんじ)くんは、生まれてすぐにダウン症と診断され、美保さんはどのように育てていけばよいか不安になったそうですね。アレックスさんはどうでしたか?

アレックスさん:私は「特別なニーズを持った子どもは、特別な人のところにしか来ない」という考え方を持っていました。だから、息子がダウン症だと知った時、ポジティブな気持ちになったんです。ただ、美保が不安になっていることも分かったので、サポートしていこうと思いました。
美保さん:夫に「僕らは神様から大切な贈り物を授かった。だから、大切に育てていくのが僕たちの役目だよ」って言われて、私の考え方がぱっと変わったのを覚えています。
アレックスさん:私にはダウン症の友人がいるので、皆さんが思っている以上に、彼らが素晴らしいコミュニケーションを取ることを知っていました。
日本では、ダウン症は知っていても、接し方がよく分からないという人が多い印象です。一方アメリカでは、社会の中に溶け込んでいるダウン症の方に対し、周囲の人が密なコミュニケーションを取っています。私は、日本でもこのことを伝えることができる!と思い、うれしくなりました。
僕たちはダウン症のスペシャリスト
ユージさん:その後、3人のお子さんに恵まれたラミレスご夫妻ですが、2人目の妊娠を考えた時、何か不安なことはありましたか。
美保さん:夫婦で「次も障害のある子どもだったらどんな感じだろうか」という会話はありました。その時も、救ってくれたのは夫の言葉でした。「僕たちはもう、ダウン症のスペシャリストじゃないか。どんな子どもも神様からのギフトなんだから大丈夫!」って。
ユージさん:素晴らしいですね!今、下の子たちが剣侍くんをサポートすることはありますか?
美保さん:もちろんあります。下の子たちは剣侍が苦手なことを知っていてサポートしてくれますし、逆に剣侍が弟や妹をサポートしてくれることもあります。
アレックスさん:剣侍は言葉でうまく伝えられない時があるけれど、下の子たちは幼いながらもそれを理解し、サポ―トしてくれていて。すごく美しい関係だと思っています。
美保さん:4人の子を育てていて感じるのは、私から見たらダウン症は個性の一つ、という感覚です。得意なことや不得意なことは4人それぞれ違っていて、ダウン症だからすごく大変かと聞かれたら、次男の方が大変なこともあります。
今となってみると「野球選手の夫から生まれた息子には、すごい才能があるんじゃないか」と周囲に期待されるプレッシャーの中で子育てする方がつらかったかもしれません。
剣侍が生まれて、「私はこの子と向き合って、この子のペースで子育てしていけばいいんだ」と思えました。それは下の子たちの子育てにも生かされています。
みんなで楽しみながら学ぶ「バモス・トゥギャザー」

ユージさん:ラミレス夫妻は2020年4月、ほんの少しの手助けが必要な子どもたちの自立をサポートする団体「バモス・トゥギャザー」を設立されました。どのような思いで活動されているのでしょうか。
美保さん:私自身、子どもの頃に障害のある子と触れ合ってきた経験がなく、どうやって接したら良いか最初は分かりませんでした。剣侍が生まれて気づけたことを多くの人に伝えたい、という思いが生まれたんです。「みんな違ってみんないい」をモットーに、障害の有無だけでなく、性別や国籍を超えて、子たちみんなで学ぶ機会を作りたいと思って設立しました。
アレックスさん:剣侍を連れて障害のある子ども向けのイベントに参加した時、親やきょうだいは参加できないことがたびたびありました。その時、障害の有無に関わらず、家族が一つになって楽しみながら学べる場が必要だと強く感じました。一般的に親が先に旅立つ場合が多いので、子どもが自立して生きていけるように手助けすることが親の役割だということも考えました。
親の役割は自立のために経験を積ませること
ユージさん:障害のある子どもたちに、我々ができることはどんなことでしょうか。
美保さん:障害があると、どうしても守ってあげたくなります。例えば剣侍は低筋力なので、ついサポートしてあげようと思いがちなのですが、むしろ色んなことを本人にやらせてみる方ができることが増えます。今は逆立ちもできるんです!
生まれた瞬間から子どもは一人の人間。自分たちの輪の中で守るだけでなく、経験を積ませてあげることが良いと思っています。
アレックスさん:私たちの家族は「スポーツピープル」。きょうだいみんなでテレビの前に集まって、映像を見ながら筋力トレーニングをしています。剣侍も特別扱いせず、みんなと同じことを経験させています。
美保さん:剣侍にはこれから、自分がダウン症であることも理解してほしいと思っています。どんなサポートが必要かを知り、人に頼むことも身につけてほしいです。
育児中も新聞で社会とつながる|時短で読むコツとは?

ユージさん:ここからは東京新聞の神谷円香記者にも加わっていただきます。神谷記者は「バモス・トゥギャザー」の活動を取材されたことがあるんですよね。
神谷さん:2022年12月のクリスマスに合わせたイベントなどを取材したことがあります。「バモス・トゥギャザー」の活動は、当事者だけではなく、あらゆる人が参加できるのが素晴らしいと感じました。これまで障害や病気の当事者団体を数多く取材してきましたが、当事者同士で共感できる良さがある一方で、他の人が入りづらい雰囲気になってしまうことがありました。
ユージさん:こういった活動が新聞で取り上げられると、多くの人が知るきっかけになりますね。美保さんもこのイベント前の1か月、新聞を読まれたそうですね。
毎朝15分の新聞タイムがリフレッシュに
美保さん:子どもたちを小学校に送り出した後、15分間の新聞タイムを設けました。コーヒーを飲みながら、文字と向き合う時間はとても楽しく、リフレッシュになるんです。新聞紙を広げると、普段気にしていないことが目に飛び込んできて、こんなことがあるんだと学びになりました!
日頃、自分が気になるジャンルの情報はインターネットで積極的に取るのですが、気にならないところはスルーしていたことに気づきました。
産休・育休中は特に、家の中で子育てに追われていると、社会から疎外されているような感覚がありますよね。新聞を読むことで、少しでも社会との接点を持てることはとても良いと思います。

神谷さん:新聞を通じて社会とのつながりを持ち続けるということは、親御さんの心が元気でいるためにも大事なことですね。
ユージさん:僕はラジオ番組をやっているので、毎朝、複数の新聞を読み比べています。新聞は記事のスペースが限られているので、伝えるべきニュースの要点を凝縮し、表現もスマートだと感じます。普段使わない熟語に出合うことがあり、話し手として参考にしています。
忙しいママ・パパにおすすめの新聞の読み方は?
神谷さん:紙の新聞は、見出しと初めの一段落(リード文)を読めばそのニュースの肝が分かるように書かれています。大きく載っている記事はニュース価値が高いと判断されたものです。見出しを眺めるだけでも世の中の動きが分かります。
全ての記事を一文字残らず読む必要はありません。気になった記事は詳しく読んでみる、そういった読み方で良いと思います。
美保さん:私もバーッと見出しを眺めて、興味のあるものから読んでいました。すると、夫の故郷ベネズエラの選挙の記事を見つけました! 夫から話は聞いていたけど、普段ネットでは流れてこなかった情報にも触れられて、夫婦の会話も生まれました。
家族で新聞を囲むと親子のコミュニケーションも弾む
ユージさん:新聞が家に届くようになり、お子さんの反応はいかがでしたか?
美保さん:子どもたちは朝、ポストに新聞を取りに行くのを楽しみにしていました。3年生と1年生の兄2人は紙面を広げてふりがなを頼りに記事を読んでいたり、写真やイラストを眺めたりしていました。
子ども新聞には、動物の話や学校で流行っている感染症など、子どもにとって身近な話題が載っているのが良かったです。新聞に出てきた言葉について質問されることもあり、親子の会話のきっかけにもなっています。
ユージさん:新聞を使ってゲームにも取り組んだんですよね。

美保さん:そうなんです。「しんぶんの“ワッ!”すごろく」といって、記者になりきって記事を集めるすごろくゲームです。途中で新聞を使ったミニゲームで遊びます。下の子2人はサイコロを転がして遊んでいるだけですが、上の子2人は記事の内容についても考えながら楽しんでいました。家族全員でできて楽しかったですね。
アレックスさん:新聞を使って質の高い時間を過ごせました。家族みんなで集まるきっかけになったのが良かったです。
参加者からのQ&A
美保さんとアレックスさんに、視聴者からの質問に答えてもらいました。
Q.発達障害とダウン症の子どもを育てています。うまくいかないことも多くイライラしてしまいます。どうしたら良いでしょうか。
美保さん:分かります。きっと、100人の親がいたら100人がイライラしているので、心配しなくて良いと思いますよ。
私がいつも思っているのは、子どものペースに合わせたいなということ。言ったことが伝わらずイライラする気持ちはあると思いますが、それでも彼らは今、理解しようとしてくれている。できないのは当たり前という気持ちで、寄り添っていきたいなと思っています。
Q.単身赴任になったので、家族との触れ合いが極端に減りました。アレックスさんは監督時代、家族と触れ合う時間が限られていたと思いますが、工夫していたことはありますか?
アレックスさん:私が不在の時は、美保がテレビ電話などで子どもと触れ合う時間を作ってくれました。
でも、子どもたちには日々のルーティンがありますし、仕事からホテルに戻った時には寝ていることも多くありました。そんな時は、子ども一人一人に向けたメッセージ動画を撮って送っていました。子どもたちも返事の動画を送ってくれて、互いの生活を大事にしながらコミュニケーションを取っていましたね。
ユージさん:それはいいアイデアですね! 動画なら子どもたちが成長してからも見返せますね。ぜひまねしたいと思います。
本日はありがとうございました!
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登壇者プロフィール

2015年に結婚。4人の子どもを育てている。20年にスペシャルニーズの子の自立サポートなどに取り組む団体「VAMOS TOGETHER」を設立し、夫妻で代表理事に就任。障害がある子もない子も一緒にスポーツなどに取り組める機会づくりに力を注いでいる。
一般社団法人VAMOS TOGETHER
ウェブサイト→https://vamos-together.jp/
Instagram→@vamostogether21
■ラミレス美保
𝐂𝐫𝐨𝐬𝐬𝐅𝐢𝐭 𝐌𝐨𝐭𝐨𝐦𝐚𝐜𝐡𝐢 𝐁𝐚𝐲を経営。
Instagram→@miho_ramirez
ブログ→ 𝐀𝐦𝐞𝐛𝐚 𝐛𝐥𝐨𝐠「ラミちゃんファミリーです」
■アレックス・ラミレス
1974年生まれ。ベネズエラ出身。98年から2013年まで日米のプロ野球チームでプレー。16年から横浜DeNAベイスターズの監督を5季務めた。
Instagram→@ramichan3
YouTube [ラミレス公式]ラミちゃんねる→https://youtube.com/@ramichan?si=cBLvn_er5WX0gWv5
登壇者プロフィール

東京新聞記者。1985年生まれ。出版社勤務を経て、2010年中日新聞社に入社。16年東京本社(東京新聞)社会部。21年9月から横浜支局。18年の平昌パラリンピック、21年の東京パラリンピックなど、共生社会実現に向けた活動を精力的に取材している。
文/寒河江尚子 構成/HugKum編集部