子どもの早食いは肥満のもと⁉ 6~11歳に顕著な傾向、将来の生活習慣病やメタボリスクを下げるために

食欲の秋。美味しい旬の味覚に食欲が刺激されて、ついつい食べ過ぎになりがちな季節です。しかし、食欲にまかせて早食いしてしまうと、体に様々な悪影響が出ることが報告されています。今回は、“早食い”にスポットを当てて健康との関わりを論じます。
執筆/島谷浩幸(歯科医・歯学博士)

子どもの早食いは肥満のもと

食べるのが速い子どもは、よく噛まずにまる飲みすることが多く、胃腸に負担がかかって消化不良や腹痛を起こすリスクがあります。しかも、肥満との関係も研究報告されていますので紹介しましょう。

2012年に東京大学の村上健太郎氏らにより報告された研究では、沖縄県那覇市と名護市にある小・中学校の生徒を対象として、食べる速度と肥満の関連性について調査しました。

対象となった生徒は6~11歳の男女15974人(男児7956人、女児8018人)、12~15歳の男女8202人(男子3944人、女子4258人)の合計24176人です。

調査の結果、肥満を示した生徒は全体の13.2%でしたが、食べる速度は肥満のリスクと正の相関があることが認められ、特に6~11歳の群に顕著な傾向があることが分かりました(図1、2)。

図1. 6~11歳の食べる速度と肥満の関係

 

図2. 12~15歳の食べる速度と肥満の関係

(※オッズ比は基準1を超えると、その傾向が顕著になる)

では、どうして早く食べると太ってしまうのでしょうか?

食事をすると血液中のブドウ糖の濃度が上昇し、脳にある満腹中枢が刺激されて満腹感を感じる結果、食欲が抑えられます。

しかし、食べ始めてから満腹中枢が満腹感を得るまでに20分ほどかかるため、早食いすると満腹感を感じた時にはすでに食べ過ぎてしまっていることが多く、肥満を招く大きな要因になるのです。

子どもの肥満は将来、生活習慣病のリスクを上げる

小児肥満の子どもはその約70%が成人肥満に移行するとされており、若い年齢から高血圧症や脂質異常症、糖尿病といった生活習慣病を引き起こす可能性が高くなります。

また、一気に食べると急激な血糖値の上昇の原因となり、血糖値を下げるホルモンであるインスリンを分泌する膵臓に負担をかけてしまいます。

2017年に広島大学の山路貴之氏らが報告した研究では、成人男女1083人(男642人、女441人)を対象として、食べる速度とメタボリックシンドローム(略してメタボ)との関連性について調べるため5年間、追跡調査を行いました。

その結果、早食い習慣がある人の約11.6%がメタボを発症したのに対し、ゆっくり食べる人では約2.3%にとどまりました。つまり、早食いの人は約5倍もメタボになりやすいことが示唆されたのです(図3)。

図3. 5年間の追跡期間にメタボになった人の割合

子どもの頃に身に付けた早食いなどの摂食行動は、成人になっても維持されると言われています。ですから、早く食べてしまうという好ましくない食習慣は、子どものうちに改善しておくことが大切なのです。

子どもの早食いを防ぐために

では、早食いを防ぐためのポイントをいくつか挙げてみましょう。

1.しっかり咀嚼する習慣を付ける

早食いする人は食べ物をあまり噛まずに、すぐに飲み込んでしまう傾向があります。ですから、早食いを防止するためには“しっかり噛む”という意識を持つことが大切です。

厚生労働省は『噛ミング30(カミングサンマル)』運動として、一口に30回は噛んで食事することを推奨しています。

それでも早く飲み込む癖が直らない場合は、口の中の食べ物を飲み込んでから、次の食べ物を口に入れるという工夫をすれば、咀嚼する回数を増やすことができます。

もちろん、しっかり咀嚼するために虫歯のない健康な歯を保つことが大切なのは言うまでもありません。

2.一口の量を減らす

早食いの人は一口の量が多かったり、かき込むように口に入れたりする傾向もあります。多くの人は一口で噛む回数は量によって変わらないという研究結果もありますので、一口の量を減らして口に入れる回数を増やせば、結果として噛む回数が増加して早食いを防止することができます。

また、一口の量は少なくし、食べ物の形がなくなるまで意識して噛むことも大切です。

一口の量が多い子どもには、小さめのスプーンやフォークを使うのも効果的です。

3.食材選びや調理法に一工夫を加える

食物繊維を豊富に含むような噛み応えのある食材を選ぶことが大切です。根菜、キノコ類、海藻類などを活用するようにしましょう。

また、調理法の工夫で噛む回数を増やすこともできます。例えば、具材を大きめ・厚めに切る、硬めに茹でる、軟らかい料理に噛み応えのある食材を混ぜる、といった具合です。

さらに、骨付きの魚は食べるのにひと手間がかかりますから、早食いの防止になります。

4.薄味にする

味が淡白だと、食材が持つ本来の味を味わおうとするために、しっかりと噛むようになります。

5.水分で食事を流し込まないようにする

よく咀嚼していないのに水分で流し込んでしまうような食べ方はしないようにしましょう。しっかり噛んで十分に唾液を出せば、水分を摂らなくても飲み込みやすくなります。

6.一人で食事をしないようにする

食卓に一人で黙々と食べると、つい早食いになってしまいます。家族や友だちと会話したりしながら、楽しく食事するように心掛けましょう。話しながら食べると、自然とゆっくり食べることができます。

7.家族の早食いも控える

食卓を囲む家族に早く食べる習慣があると、それにつられて早く食べてしまいがちです。周りの家族がゆっくりと食べる手本を示すことが重要です。

8.食事の合間に休みを入れる

食事中はひたすら食べ続けるのではなく、時々箸を置いたり、お茶を飲んだりするなど、合間に小休止を入れることが大切です。

時々休んで、食材の味覚や風味を味わうように食べましょう。

9.時間にゆとりを持って食事する

忙しい毎日、時間に追われると、つい早食いになってしまいがちです。

特に朝は学校の準備などでバタバタと忙しい時間帯ですので、注意が必要です。早食いを防ぐためにも早起きして、食事の時間に余裕を持つようにしましょう。

 現代人は早食いが多い!?

元・神奈川歯科大学教授で日本咀嚼学会理事長などを務めた斎藤滋氏が行った研究では、弥生時代から現代に至る各時代の復元食を作り、咀嚼回数と食事時間を調べました。

その結果、時代を追うごとに咀嚼回数は減少し、食事時間も短くなる傾向が示されました(図4)。

図4.各時代における復元食の咀嚼回数・時間

現代人より顎が発達していた縄文時代や弥生時代の人々は、森から採取した木の実などを硬いまま食べていましたが、「煮る」や「炊く」などの火を使う調理方法を覚えて食べ物が柔らかくなると、噛む回数も減り始めました。特に、食品の加工技術が向上した戦後は急速に減少し、現在に至ります。ファストフードの導入など、食文化の欧米化も一つの原因と考えられます。

文明が進むにつれて食べやすさや効率性などが求められた結果、噛むという健康にとって大切な動作が疎かになっているのです。そして多くの人が、顎骨の弱小化による不正咬合・顎関節症や生活習慣病・メタボに悩まされる現実があります。

子どもの将来の健康のためにも早食いを控え、しっかり噛むことの大切さをあらためて見直してみてはいかがでしょうか。

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記事執筆

島谷浩幸

歯科医師(歯学博士)・野菜ソムリエ。TV出演『所さんの目がテン!』(日本テレビ)等のほか、多くの健康本や雑誌記事・連載を執筆。二児の父でもある。ブログ「由流里舎農園」は日本野菜ソムリエ協会公認。Twitterも更新中。

参考資料:
・Murakami K et al.: Self-reported rate of eating and risk of overweight in Japanese children: Ryukyus Child Health Study. J Nutr Sci Vitaminol 58(4): 247-52, 2012.
・Gobbling your food may harm your waistline and heart(米国心臓学会2017年11月13日).
・斎藤滋:よく噛んで食べる-忘れられた究極の健康法.NHK出版,2005.

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