「右翼」「左翼」って何? 子どもに訊かれたらどう解説しますか。意味から関連語までまとめ【親子で学ぶ現代社会】

日常生活やニュースで「右翼」と「左翼」という言葉に触れた経験がある人は多いでしょう。しかし、言葉の意味を深くまで掘り下げて理解しようとした経験がある人は少ないはずです。「右翼」「左翼」の意味や関連語を分かりやすく解説します。

「右翼」「左翼」ってそもそも何?

「右翼」と「左翼」は、一般人にはやや縁遠い言葉かもしれません。政治に深い関心がなければ、言葉の意味を検索することすらないはずです。「右翼」と「左翼」の意味と由来を解説します。

政治的な考え方の傾向を表す言葉

「右翼」と「左翼」は、どのような政治的な考え方を持っているかを表す言葉です。

右翼とは、昔から守られている伝統を重視し、自分の国が他国よりも優れているという考え方を持っている人のことです。このような思想(ものの見方や考え方)を持った人たちが集まった団体のことも右翼といいます。右翼には、自分とは考え方の合わない人を仲間外れにする傾向が強く見られます。

一方、左翼とは、国の姿をガラリと変えてしまうような理想を積極的に実現しようとする人や団体のことです。社会主義的(個人で財産を持つことをやめ、真に平等な社会をつくろうとする考え方)な思想を掲げる人を左翼と呼ぶケースもあります。

右翼も左翼も「やや偏った思想を唱える人や団体」を表す言葉ともいえるでしょう。

「右翼」「左翼」の由来

「右翼」と「左翼」という表現が生まれたのは、18世紀のフランスです。フランス革命(18世紀末に起こった国のあり方を変える出来事)の後に開かれた議会(議員が集まって法律などを決める仕組み)の様子から生まれた言葉とされています。

1789年のバスチーユ牢獄襲撃から始まったフランス革命[画:ジャン=ピエール・ウエル] Wikimedia Commons(PD)

当時のフランス議会では「議会が作った法律を拒否できる権利を国王に与えるか」が議論されていたといわれています。

議長から見て右側に「昔ながらの考え方を重んじる思想を持つ人たち」が座りました。このことから、伝統を重視する考え方を持つ人たちを「右翼」と呼ぶようになったといわれています。

反対に、議長から見て左側には「国を変える新しい考え方を推し進める人たち」が座りました。このことから、国の姿をがらりと書き換える変化を起こそうとする人を「左翼」と呼ぶようになったといわれています。

「右翼」と「左翼」それぞれの姿

右翼と左翼に対する理解を深めるには、それぞれが持つ考え方を知ることが有効です。右翼と左翼の基礎をなす思想とはどういったものなのかを解説します。右翼と左翼の姿をイメージできるようになりましょう。

右翼の思想と活動

右翼の思想の基礎となっているのが、「伝統を大切にすること」と「国家を重視すること」です。どこかで不具合が発生していたとしても、国家に古くから根付いている伝統であれば、簡単に変えるべきではないと考えます。

日本の右翼が守るべき伝統の代表的な例が「天皇制」です。現代の天皇制は、天皇を日本国および日本国民統合の象徴として位置付ける「象徴天皇制」を指します。一部の右翼団体は、左翼思想が天皇制の価値を損なうと主張し、時に過激な活動を行うことがありますが、右翼の中にも様々な立場があります。

右翼を象徴する活動の一つが街宣車(街頭宣伝車のこと。宣伝を行う車)を使った演説(大勢の前で主張すること)です。多くの場合、日の丸や旭日旗を掲げた車両で、自らの主張を訴えながら街を走ります。なお、一部の右翼団体は暴力団との関連が指摘されています。

右翼思想との関連でしばしば用いられる旭日旗(左)と菊花紋章(右)。旭日旗は陸上自衛隊や海上自衛隊の旗として使われ、菊花紋章は皇室の紋章であることからパスポートの表紙に用いられるなど事実上の国章として使われる

左翼の思想と活動

左翼の思想の柱となっているのが、「今あるルールを壊して、上下関係による支配のない世界を実現すること」です。

左翼思想の根本にあるのは、「人間は生まれながらにして自由で平等である」という考え方です。人間が元々持っている自由や平等に反するルールがあれば、力ずくでも変えていき、「国のあり方を変える大きな変化」を実現しようとします。

左翼を象徴する活動の一つが「デモ」です。デモとは、同じ考え方を持つ人が集まって、政府に対する反対意見や主張を掲げながら、集会をしたり行進をしたりすることをいいます。

人種や性別、信条、職業などによる差別や偏見のない社会をめざす「ポリティカル・コレクトネス(ポリコレ)」や「リベラル」といった概念は、しばしば左翼的思想といわれることもある

「右翼」と「左翼」で主張が分かれるトピックス

右翼と左翼は根本的に考え方が違うので、さまざまな場面で意見が衝突しがちです。近年、日本の政治をにぎわせるトピックスの中で、右翼と左翼で意見が大きく分かれるものを紹介します。

憲法改正

右翼と左翼で意見が分かれるトピックスの代表例が「憲法改正(憲法を新しくすること)」です。自民党が掲げる憲法改正案では、自衛隊の明記や緊急事態対応の強化などが提案されています。

憲法改正を推し進める改憲派の主張は、「今の憲法は日本がGHQ(第2次世界大戦後に日本に設置された日本政府に指令を出す団体)によって占領されていた時代に作られたものだから、日本独自の憲法を作る必要がある」というものです。

一方、今の憲法を守ろうとする護憲派は、「憲法を改正すれば、日本が戦後からずっと守り続けてきた平和主義が崩れてしまう可能性がある」と主張しています。

憲法改正については、基本的に右翼は改憲派の、左翼は護憲派の立場を取ります。

集団的自衛権

集団的自衛権とは、自分の国と深い関わりを持っている国が他の国から攻撃されたときに、関わりの深い国を助けるために攻撃してきた国を攻撃してもいいとする権利のことです。

これまで政府は、「集団的自衛権は日本国憲法が定める『自衛権の行使(他国から攻撃を受けた場合には攻撃をしてもいいとするルール)』の範囲を超えるので認められない」としてきました。

しかし、2014年の閣議決定(国の最高機関である「内閣」のメンバーで開かれる会議で決められること)で、憲法の捉え方を変え、集団的自衛権を使うことを認めるとしたのです。2015年には、集団的自衛権を使うことを可能にした法律が成立しています。

集団的自衛権を認めることについては、基本的に右翼は支持し、左翼は反対しています。

原子力発電所

2011年に起こった福島第一原子力発電所の事故をきっかけに、日本では「反原発(原子力発電に反対すること)」の考え方が活発化しました。

原発推進派は、「エネルギーを生み出す資源をたくさん持っていない日本において、電力を安定的に生み出すためには、原子力発電が欠かせない」と主張しています。

一方反原発派は、「地震が多い日本で、放射性物質(人体に害を及ぼす粒子や電磁波を出す物質)が漏れ出す事故の危険性を持っている原子力発電所を稼働させるのはリスクが高い」としています。

また「原子力発電所を動かすと、発生してから10万年以上も地中深くに置いておかなくてはならない『放射能(人体に害を及ぼす粒子や電磁波を出す能力)のゴミ』が発生するので、原発は動かすべきではない」との考え方も反原発派の主張の一つです。

原発については、右翼は原発の維持を、左翼は原発ゼロを主張しています。

選択的夫婦別姓

選択的夫婦別姓とは、愛する二人が結婚して夫婦になるとき、夫婦で同じ名字を名乗るか、それとも元々持っている名字を名乗り続けるかを選択できることを指します。同じ名字にすることや異なる名字にすることを強制するものではありません。

現在の民法(人が生活する上で適用されるルールをまとめた法律)では、夫婦同姓が義務付けられています。

選択的夫婦別姓について、右翼は反対、左翼は支持の立場を取っています。右翼は日本に昔からある家族の姿を重んじ、左翼は夫婦の枠から解き放たれた個人の権利を主張するためです。

「右翼」「左翼」と一緒に知っておきたい政治用語

政治の世界には、「右翼」と「左翼」以外にも政治的な考え方や傾向を表す言葉が数多く存在します。「右翼」と「左翼」と併せて覚えておくと、政治に関するニュースが圧倒的に分かるようになるでしょう。「右翼」「左翼」と一緒に覚えたい政治の言葉を解説します。

「右派」「左派」

「右派」「左派」は、「右翼」「左翼」と同じような意味を持つ言葉です。暴力的なイメージがつきまとう「右翼」と「左翼」に比べ、「右派」と「左派」は単純に政治的な考え方を表現する言葉として使われる傾向があります。

このようなニュアンスの違いから、政党の持っている思想的な傾向を表すときにも「右派」と「左派」は使われます。日本の政党における右派・左派の傾向は以下の通りです。

(上から下にいくつれ、右派傾向から左派傾向が強まる)
↑右派寄りの思想を持つ政党

参政党
日本維新の会
国民民主党
自由民主党
立憲民主党
れいわ新選組
公明党
社会民主党
日本共産党

↓左派寄りの思想を持つ政党

上記の傾向はあくまでも「党単位」のものであるため、個人の政治家レベルになると、思想の傾向が異なる場合があります。

出典:【政党一覧比較】左右,保守,リベラル,中道|2024衆議院選挙をわかりやすく|消費者経済総研|2024年10月20日

「保守」「リベラル」

「保守」と「リベラル」も、「右翼」「左翼」と同じような意味を持つ言葉です。伝統や権威を重要視する右翼的な考え方を持つのが「保守」で、個人の自由や平等を大切にする左翼的考え方を支持するのが「リベラル」といえます。

「右翼」「左翼」と「保守」「リベラル」は、考え方の過激さと実際に起こす行動の面で違いがあります。

「右翼」と「左翼」は極端な考え方を持ち、国を変えるために過激な行動を取ることもある人や集団のことです。一方「保守」と「リベラル」は穏やかな考え方を持ち、選挙活動を中心に自身の主張を訴える人や集団を指します。

「タカ派」「ハト派」

「保守」「リベラル」という言葉は、「タカ派」「ハト派」と表現される場合もあります。

「タカ派」とは、自分の主張を強引に押し通そうとする傾向がある人や団体のことです。必要に応じて暴力を振るうことも認める人や団体を指します。攻撃的なイメージを持たれる鳥「鷹(タカ)」から生まれた言葉です。

一方「ハト派」とは、自分の考え方を穏やかに主張する傾向がある人や団体を指す言葉です。平和を重んじ、暴力を否定する人や団体を意味します。平和の象徴として多くの人がイメージする「鳩(ハト)」から生まれた言葉といわれています。

「ネトウヨ」「パヨク」

「ネトウヨ」「パヨク」は「右翼」「左翼」を表すインターネットスラングです。

インターネットでは、思想の対立が過激な誹謗中傷合戦になりやすいことから注意が必要

「ネトウヨ」は「ネット右翼」を略した言葉です。ネット右翼とは、インターネットの掲示板やSNSなどで右翼的な意見を主張する人を指します。専門家にいわせると、ネトウヨはただの「反左翼的な人々」であると評価されています。

一方「パヨク」とは「左翼」という言葉をまねた言葉です。「ネトウヨ」の対義語として位置付けられています。パヨクは平和を理想として掲げながら、他を攻撃したり仲間外れにしたりする傾向を持つ人たちを指します。

「ネトウヨ」も「パヨク」も相手を見下す意味合いが強い言葉です。安易に使用すると、相手を傷つけたり怒らせたりする可能性があるので、注意しましょう。

言葉を知ると社会の姿が見えてくる

「右翼」と「左翼」は政治的な考え方の傾向を表す言葉です。「右翼」と「左翼」は日常的に耳にする言葉ではありませんが、この言葉を入り口に政治的なトピックスや関連語を掘り下げていけば、政治的なニュースにより関心が持てるようになるはずです。

政治の言葉をたくさん知って、社会の今を正しく捉えられる目を手に入れましょう。

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構成・文/HugKum編集部

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