小5、6年生の反抗期は「毎日が大バトル」
― 満里奈さんのご著書『不機嫌ばかりな私たち』(講談社)によると、娘さんの反抗期は小学校高学年あたりからだったそうですね。
満里奈さん:最初は、ちょっとしたことに突っかかってくるなど、ささいなことでした。返事がとげとげしかったり、急に爆発したり。理由を聞いても教えてくれませんし、ずっとイライラしているようでした。そのうちその矛先がだんだん私に向くようになってきました。
娘は家族の中でいちばん下なので、私も夫も3歳上の長男も、みんながよかれと思って、「ドリルはやったの?」「テストがこうならこうしたら?」と声をかけていたんです。それが彼女にとっては、逃げ場のない圧力になっていたんですね。「もういい加減にして!」って突然爆発したり、「私が言いやすいからってみんなで言う!」って泣き叫んだり。娘の言葉の奥に「私を認めてほしい、信じてほしい」という気持ちがあるのはわかっているんです。でも正面からぶつけられると私もカッとなってしまう。小5、6年生の頃は毎日のように私と大バトルでした(笑)。
― 愛情ゆえの言葉が、時に「信じてもらえていない」という風に届いてしまう……。どの家庭でも起こり得ますが、当事者としては本当に辛かったと思います。そんな毎日全力でぶつかり合う日々の中で、いちばん大変だったのはどんなことだったのでしょうか。
満里奈さん:私が仕事に行く時間になっても、娘が納得するまで私を離してくれないことでした。なんとかその場を収めようとして、私なりに謝ってみるのですが、「今、適当に謝ったでしょ!」と。「行かせない」くらいの勢いなので、家を出る前にもうヘトヘトでした。私も更年期のしんどさがありましたし、娘のものすごいエネルギーを受け止めるのは大変でした。
今振り返ると、いちばん苦しかったのは自分の不安だったんだと思います。子どもの力を信じるって本当に難しい。心配という名目でいくらでも口を出したくなってしまいますから。例えば、このまま勉強しなかったらどうなるのだろうという私の不安を、「あなたのため」と言い換えて娘にぶつけていたんですよね。

― そんな出口の見えない孤独な闘いの中で、満里奈さんご自身はどのように心を支えていたのでしょうか。ご主人の名倉さんが絶妙なタイミングでけんかを止めに入ってくださったというエピソードも印象的です。
満里奈さん:夫は、私が言い過ぎてしまいそうな臨界点で「ママ、それ以上言っちゃダメだ!」と割って入ってくれました。子どもたちが小さい頃から、夫婦で「片方が怒っているときは、もう片方は一緒になって怒らない」と決めていたんです。そうしないと、子どもに逃げ場がなくなってしまいますから。娘との大げんかのあと、私が泣きながら「どこで子育てを間違えたのかな」と弱音を吐くと、夫は「大丈夫、ママは間違えてない」と、ただひたすら言い続けてくれました。その言葉が、娘と向き合う支えになっていましたね。
周りにも見守ってもらっていました。仲のいい友だちの家族には、私たちには見せない表情を娘が見せることもあったので、あとから娘の様子を聞いたり、「話を聞いてあげてね」とお願いしたり。私ひとりで抱え込まないようにしていました。やっぱり、一人では抱えきれないですから。
泣きながら読んだ一冊が、不安を手放す鍵に
―田中茂樹先生の著書『去られるためにそこにいる 子育てに悩む親との心理臨床』(日本評論社)に救われたそうですね。どのような言葉が、満里奈さんの支えになったのでしょうか。
満里奈さん:田中先生のご著書は、子育てというより、親として、一人の人間としての生き方を問われるような本なんです。いちばん心に残ったのは、「子どもには自分で幸せになる力がある。それを信じることが大切」という言葉。何度読んでも涙が出てしまいました。タイトルの通り、子どもはやがて去っていく存在で、親はその自立を支えるためにそこにいる。手を差し伸べる準備はしておくけれど、子どもをコントロールしようとする気持ちは手放す。それを受け入れられたとき、親自身も自分を愛せるようになるのだと。当時は泣きながら読みました。
それ以降、生活面では娘に声をかけますが、勉強について何か言うのはやめるようにしました。親としては覚悟が必要ですよね。でもそうしていくうちに、娘との関係が少しずつ落ち着いてきたんです。「ママが勉強しろって言わなくなってから、私、勉強するようになったよね」と後で話してくれました。
もちろん、今も、娘の成績や将来を考えて不安になることはあります。でもそんなときは、私の役割はコントロールではなく、安心できる居場所でいることなんだと、自分に言い聞かせています。

反抗期は第2章へ。娘の沈黙と向き合う
― 現在、お嬢さんは中学3年生になりました。反抗期が「第2章」に入ったそうですね。小学校の頃の「第1章」とはどのように変わったのでしょうか。
満里奈さん:小学校の頃が「衝突」だとしたら、今は「沈黙」と「鋭さ」ですね。大声でのぶつかり合いは減りましたが、娘の言葉遣いがきつくなったり、まったく話さなくなったり。私に、どこで誰と何をしているのか聞かれるのも嫌がるようになりました。わからないと、また別の不安になりますよね。SNSや友人関係など、いろんな情報の中で揺れている時期なんだろうなとは思うんですが、親をバカにするような言い方をされるとやっぱり腹が立ってしまう。
でも今は、以前ほど私も取り乱さなくなりました。彼女なりにアンバランスな心を抱えて闘っているんだなと、少し俯瞰(ふかん)して見られるようになりました。楽しくおしゃべりをしたり、娘がくっついてきたりするときもあって、「本当は私が大好きなんだな」と思える余裕も生まれました(笑)。
― 「沈黙」の時期なんですね。今も田中先生の言葉に支えられていますか。
満里奈さん:はい。やはり心配になりますし、「大丈夫なの?」と言いそうにもなる。でもそんなときは、「娘を信じるしかない」と自分に言い聞かせています。
少し前までは帰宅時間や交友関係も細かく聞いていましたが、「言うのをやめよう」とつい最近、娘に宣言したんです。家族で外食をしているときに、「もう、どこ行ってたのとか誰といたのとかを聞くのはやめようと思う。あなたを信じてるから」と伝えました。娘はとてもうれしそうでした。信じてもらえていると感じたんだと思います。だからこそ、道を踏み外すようなことはしないだろうと私も思えるんです。

お母さん自身が楽しめる時間をもって
― まさに反抗期の渦中にいるお母さま方に、どんな言葉をかけてあげたいですか。
満里奈さん:反抗期って、子どもの問題のようでいて、実は自分自身の問題でもあるんですよね。だからといって見放すとか、教えないのではなくて、少し距離を置いて見守るという感覚でしょうか。いま目の前にいる、そのままの子どもを受け入れる姿勢が大切なんだと思います。
お母さん自身が楽しめる時間を持つのも大事かも知れません。子どものことばかり考えていると、どうしても小言が増えてしまいませんか。田中先生の本にも「何も言わない日をつくってみてください」と書かれていて、本当にその通りだなと感じました。1日何も言わないって、実はすごく大変なんですけど(笑)。お母さん自身が少し軽やかになれば、きっと子どもとの関係も変わっていくんじゃないかなと思います。
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