妹である安藤サクラさんの主演映画『0.5ミリ』(14)の撮影を機に高知県に移住した映画監督の安藤桃子さんに独占インタビュー。現在、高知在住の安藤監督は、高知のミニシアター「キネマミュージアム」の代表を務めているほか、“すべての命に優しい”をモットーに、様々なイベントやボランティア活動を行っています。

児童養護施設や子ども食堂など、国内外で子どもたちの支援を行なうNPO法人「地球のこども」の理事を務め、「地球のこどもビジョン」を立ち上げて、2023年より小学校で映画のワークショップも展開。さらに2025年、新しく「KINEMA SPEACE GATHERING」という世界のショートムービーを鑑賞する教育プログラムをスタートさせます。果たしてその内容とは?
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映画を通じて自分ができることをしたい

――まずは、子どもたちの映画ワークショップを立ち上げたきっかけから聞かせてください。
安藤「コロナ禍で仕事の予定もすっかりなく、自分の心と向き合っていたとき、『地球のこども』の代表で、ホスピタルアーティストの小笠原まきさんが『一緒にボランティアしない?』とお声がけくださり、お手伝いをさせてもらいました。その後、高知の若宮八幡宮様から、絵馬のデザインの依頼をいただき、それをきっかけに紙でできた絵馬を作って、全国の子どもたちに配ろう!となりました。
高知の英雄・坂本龍馬は広い視野で世界を見てきた人。大きい願いや夢を持っていました。今の子どもたちにも、“コロナだから、病気だからできない、やれない”じゃなく、物理的な条件などを全部取っ払った上で、どうしたい?という大きな未来へのビジョンを絵馬に書いてもらおう!と。まきさんは全国の病院とつながりがあるので、小児科で入院中の子どもたちに絵馬に願い事を書いてもらおうと、お声掛けしたんです」

――素晴らしい試みですね。
安藤「コロナ禍でイベントどころか、お見舞いもできない時期が続いていたのでみなさん是非!と一気に2万人の子どもたちから大きな夢が書かれた絵馬が届きました。その絵馬を通じて、翌年には龍馬祈願映画祭りをスタートさせて、NPOの活動でも映画を通じて自分ができることをしたいと思い始めました」
――それで「地球の子どもビジョン」を立ち上げ、映画のワークショップを行われるようになったのですね。
安藤「映画プロデューサーの前田茂司さんとの出会いもありました。前田さんは、映画制作会社・楽映舎の社長ですが、NPO法人『こどもフィルム』を立ち上げ、東日本大震災の翌年から、福島で子どもたちとワークショップをされていたんです。私たちはその雛形を譲り受けて、ありがたいことに私たちがいきなり持てない経験値を伝授してくれました」
映画を通じて自分ができることをしたい

――子どもたちだけで映画を作るというのがユニークです。確かに今の子どもたちは、普段から動画に触れる機会が多いので、ハードルは低そうですが。
安藤「コロナ禍で山間部の小さな学校だろうが大都会だろうが、学校にiPadやパソコンが配布され、スマホを持ってない子どもでも、インターネットで世界中と繋がれるし、動画を撮れるようになりました。その一方で、子どもに動画を見せたくない親御さんの声を聞いたり、いろいろな問題が出てきたりもしましたが、私はワークショップで監督として、動画の良いところを伝えていきたいと思いました」

――映画のワークショップはどんなふうに進めていったのですか?
安藤「私は映画の現場は社会の縮図だと思っています。良い現場はシナリオを中心に、みんなが同じところを目指してチーム一丸となる。それぞれの部署に上下関係はなく、全員が『鬼滅の刃』で言うところの“柱”なわけです。監督、撮影、照明、録音、助監督、俳優部など、どの部署をやりたいか子どもたち自ら手を挙げてもらうのですが、みんな一人一人ぴったりのポジションにつくんです。そして、専門的なことを経験していくうちに、自分の“大好き!”に出合っていく。好きなこと=才能に気づくきっかけになるんです」

――実に興味深いですね。
安藤「例えば、学校でまったくしゃべらないので、親御さんも心配していた女の子が、『録音部をやりたい』と手を挙げてくれたんです。 ワークショップをやってみると、その子はものすごく聞くことに長けた才能を持っていたことがわかりました。さらに聞いたことをちゃんとまとめることもできる。自分が活躍できる場を持てたことで、彼女はものすごい自信をつけ、初めて『自分はこう思います』と発言もできるようになりました。わずか3日間で、がらりと変わったんです!
他にも問題児とされていた子がいて、1日目は話しかけても『別にやりたくねえし』と言っていたのに、2日目から態度が変わり、返事をする時も誰よりしっかり『はい!』と返してくれるようになったんです。校長先生も『一体、何が起きた?』と驚いていました。すべてが終わって帰る支度をしていたら、ドアをコンコンと叩く人がいて。誰だろう?と思ったら、その子が立っていて、『この度はありがとうございました』と深々と頭を下げてくれたんです」
――それはちょっと胸熱です!
安藤「泣けましたよ。彼らのように、子どもは何かきっかけがあれば立ち上がることができる。自分のワクワクすること『これ!』という“好き”に出合い、ポジションがバチッとはまる。そして『自分はこうなりたい』ということを素直に表現できるようになります。」
子どもたちの中に未来のすべての答えがある

――さらに2025年から「KINEMA SPEACE GATHERING」という世界のショートフィルムを見るという映画プログラムをスタートさせました。
安藤「これが、ネクストステージでやりたかったものです。2023年の『龍馬祈願国際映画祭り』で、ショートショートフィルムフェスティバル『SSFF & ASIA 2023 in Kochi』も同時開催し、主宰の別所哲也さんも参加してくれましたが、そのご縁がつながって始めたものです。こちらはショートフィルムの総合ブランド『ショートショート』とのコラボレーションですが、1年間無料で子どもたちに映画鑑賞の教育プログラムをお届けするという初の試みとなり、これを授業化できたらいいなと思っています」

――ショートフィルムの魅力はどういうところにありますか?
安藤「名だたる巨匠も最初はショートフィルムから入っていますが、ショートフィルムのほとんどが商業ベースではないので、クリエイターが本当に撮りたいものが凝縮されているから面白いです。また、クリエイティブの純度が高い。映画教育の効果は実証されていますし、フランスでは国を上げて小学校から映画鑑賞教育を取り入れていて、誰でも世界の文化に触れられます。今の子どもたちはショート動画に慣れていますし、ショートフィルムは最適です」

――しかも自分1人ではなく、みんなで一緒に映画を観るという体験が素敵ですね。
安藤「“GATHERING”=“集まる”という、昔の“寺子屋”のような感じで、“SPACE”は空間という意味と、宇宙のような無限の想像力の意味もあります。映画を観て、自分と自分が出会い、様々な価値観に触れることで、視野も広がり、考察力もついていきます。さらにそれを仲間と一緒にそれを分かちあう。感じたことを表現することもポイントです。映画って“観る”って書きますよね。「見るから観(かん)じる」へ、がコンセプトです。」
――地域活性にもなりそうですね。
安藤「映画ワークショップもそうで、子どものまっさらな視点で地域を取材し撮影をするので、大人が気付かない地域の良さも見出してくれる。映画はふるさとの貴重な記録としても残っていきます。地域の皆さんと一緒に上映会をするのですが、毎回感動で大盛り上がりです。
子どもたちの中に未来のすべての答えがあると思っています。子どもたちとの映画づくりは、まさに『想像と創造』。全力で楽しんでいる子どもたちを見て、私が元気をもらっています。そのワクワクこそが、人生の根幹です。これからも大好きな高知のみんなと、映画の向こう側『すべての命にやさしい世界』を描いていきたいです」

●キネマミュージアム

高知県高知市帯屋町1丁目13-8 TEL.088-824-8381
公式HP:kinemam.com/
上映スケジュール;https://www.kinemam.com/#movie-area
●NPO地球のこども
公式HP:chikyunokodomokikinn.jp
構成・文/山崎伸子
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