【療育の専門家がレクチャー】発達障害のある子どもがいきいき育つ「お手伝い療育」のすすめ。食器をさげるお手伝いで慎重な作業を学ぼう

この連載では、発達障害のある子どもの療育に携わってこられた言語聴覚士・社会福祉士の原 哲也先生が、家事のお手伝いを通じて行う療育をご紹介します。子どもの自尊心を育てながら、家族も喜ぶ「お手伝い療育」。今回のテーマは「食器さげ」です。

家事のお手伝いで期待できる効果とは

「お手伝い療育」の意義は前回の記事でお伝えしましたが、子どもが家事をする意義は他にもあります。そのひとつが「手と指を使うこと」です。

 手と指を使うことが脳の発達をうながす

手と指には多くの神経が集まっています

脳は、五感で感じた刺激をキャッチして認識し、判断し、行動するという、一連のプロセスを繰り返す中で発達していきます。
感覚器官の中で特に手と指は、感じ取った情報に応じて「外界に働きかけることができる」という点で特異です。目や耳などではそうはいきません。外界に対して適切に働きかけるために、手と指には多くの神経が集まっています。そのおかげで、ものを触った時の感触や温度の微妙な違いを感じ取れるのです。

そして、その微妙な違いに応じて手と指が微妙な力加減で外界に働きかけられるように、大脳の実に3分の1が手と指のコントロールに割り当てられています。

手と指で、ものの感触や温度などの微妙な差を感じ取り、それに応じて微妙な力加減をして外界に働きかけることができます。脳はこの過程でフル回転し、それを繰り返すことで発達していきます。

家事で手指を使うことは、書字や道具をつかうことにつながる

太古の昔から、人は手と指を使って道具を作り、自然を切り拓き、衣食住に必要なものを作ってきました。生活の機械化・自動化によって使い方は変わってきましたが、今なお、手と指を使うことは脳の発達を促し、人が生きていく上で欠くべからざることなのです。 

昔は遊びの中でも否応なく手と指を使いました。手探りで枝をつかんで木登りをし、石を選んで拾い上げて川で水切りをし、つぶさないように力加減をしながらバッタを捕まえる。手と指を使わなければ遊べなかったのです。

近年、手指を使った遊びが減ってきました

しかし今はどうでしょうか。公園で遊ぶ子どもは減り、遊びと言えばゲームや動画を見ることが中心のように思えます。そこにあるのはほんの少しの目と指先の動きだけ。手と指の出番はほとんどありません。

子どもの発達における手と指を使うことの意味を考えたとき、この状況は由々しきことのように私には思えます。だから今こそ「家事のお手伝い」なのです。洗濯物をたたむ、雑巾で拭く、靴をそろえる…など、家事では手と指をふんだんに使います。手と指を使うことは脳を使うことであり、脳の発達につながります。

家事の中で手と指を使う経験を積み、自由に使いこなせるようになることは、書字やさまざまな道具を使う作業ができることにつながります。そういう意味でもぜひ、「お手伝い療育」に取り組んでほしいと思うのです。

 【第2回】食器をさげる

第2回目のテーマは「食器をさげる」です。

食後に食器を運んでもらえるようになると、親も助かりますね!

 対象年齢

2歳~

期待できる効果

・食器を落とさないように気を付けて流しまで運ぶことで、「慎重な行動」を経験できる

・食器の重さや大きさに応じた持ち方、運び方を経験できる

・自分が使ったものは自分で片づけるという自立心が育つ

・食器をさげるときのルールを理解し、そのルールを守ることができる

・(高年齢児)油ものやご飯粒のついたものを分ける認知力が育つ

・家族の役に立つ経験ができる

準備:

食器をさげて片づけるときのルールを決めます。「状況に応じて」が苦手な子どもは多いです。最初に明確なルールを決め、分かりやすく伝えましょう。ルールは、年齢、住環境などに応じて各家庭に適した形で決めます。

例えば以下のようなことをあらかじめ決めておきます。

運ぶ皿とタイミング

・保護者にお願いされた皿だけ運ぶ

・自分の使った皿を運ぶ

・自分が食べ終わったら自分の使った皿を運び、家族が食べ終わったら家族の皿も運ぶ

など

皿の処理

・食器をさげる前に保護者が残飯の処理をするのか、子どもが処理するのか

・テーブルでは処理せずに流しまで運ぶのか

・運んだ皿はどこに置くか

など

子どもに伝える手順

1.食器は一つずつ両手で運ぶように伝えます。年齢が上がってきたら、食器を重ねて運ぶようにしてもよいです。大きい平らな皿を下に、その上に小さい器を重ねて、両手で運びます。

2.まず保護者が、片づける食器を両手で持ちます。できるだけ水平に持つ持ち方をやってみせて伝えます。

3. 流しまで運んでみせます。

4.流しのどこに置くかをわかりやすく伝えます。

上級者編

慣れてきたら、食器の状態に応じた適切な処理を伝えます。そして、子ども自身が食器の状態を判断し、処理

・油ものの皿は油をふき取る、別の場所に置く、上に他の皿を重ねないしてもらいます。

・ご飯茶碗は水を張った洗い桶に入れる

ことばがけのポイント

決めたタイミング(子どもが食べ終わったら、とか、全員が食べ終わったら等)で子どもが自発的に食器を片付けるのを待ちます。

各タイミングでの声かけ

① 自発的に食器を片付け始めたとき

「さすが!」「すばらしい!」「いいね、いいね」「かっこいい!」

② 食器を運んでいるとき

食器をさげる行動がスムーズにいくようにことばをかけます。

オノマトペ(そ~っと、ジロジロ、ぎゅっなど)を使うのも有効です。

「ゆっくり持っていこうね」「まわりを見ようね、ジロジロって。そうそう」「両手でぎゅっと持ってね」

③ 食器さげが終わる直前

「あと少し」「頑張ってるね」

④ 食器さげが完了したとき

「クリアー!」「やったね」「素晴らしい」「ママ、うれしいな!」

気をつけること

1.自発的に食器片づけを始めない場合

まず、食器を指さし、続いて流しを指さす、保護者が子どもの皿を一枚持って流しまで運んで見せるなどして、気づかせるように働きかけます。
「お皿運ばなきゃだめでしょ」など、注意をする、叱る、ことをしないように心がけたいです。

2.小さい子どもの食器は落としても危なくない素材の食器を選びます。

3.食卓から流しまでの動線上には、おもちゃやTVなどの気が逸れるものは置かないようにします。食卓から流しまでは近いほうが達成率は高くなります。

4.さげる食器が多すぎるとやる気にならないことがあります。はじめは食器1枚だけ残して、あとは保護者が流しに運び、その様子を見せる、そして、最後の1枚だけを子どもに流しに運んでもらうので十分です。その1枚の皿を運ぶ子どもに、「運べたね。がんばったね。」と温かい賞賛とねぎらいのことばをかけてください

5.派手にほめすぎると、委縮する子どももいます。その子にとって心地よい賞賛のことばを探りながら、関わってください。

感謝のことばを子どもに伝えましょう

年齢が低い子どもでも簡単な食器さげはできます。まず、自分の食器1枚を運ぶところから徐々に増やしていって、自分の食器を全部運んでもらうことを目指しましょう。やる気が出てきたら、大皿なども運べるように励ましたいです。

自分の皿だけでなく家族の皿まで運ぶようになったら、「助かるよ」「ありがとう」という心からの感謝のことばを、子どもに伝えることができますね。

連載第一回目の記事はこちら

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この記事を書いたのは

原哲也さん
原 哲也|言語聴覚士・社会福祉士
一般社団法人 WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表理事。明治学院大学社会学部社会福祉学科卒業、国立身体障害者リハビリテーション学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダのブリティッシュコロンビア州の障害者グループホーム、東京都文京区の障害者施設職員、長野県の信濃医療福祉センター・リハビリテーション部での勤務の後、『発達障害のある子の家族を幸せにする』ことを志に、一般社団法人 WAKUWAKU PROJECT JAPANを長野県諏訪市に創設。発達障害のある子のプライベートレッスンやワークショップ、保育士や教諭を対象にした講座を運営している。著書に『発達障害のある子と家族が幸せになる方法』(学苑社)、『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)がある。

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