▼前回の記事はこちら
目次
プリント学習を母の採点と速さを競って、ふたりで楽しんでいた
――河野さんは公文のプリント学習で算数と国語を学習したんですね。算数は小2で中学の数学の基礎過程、小3で高校課程の基礎過程が終わっていたとか。いったいどんなふうに勉強したら小学生のうちにそんなところまで行けるんですか?
公文のプリントって、1日5枚くらいやればいいんでしょうけれど、もっとたくさんやっていたんですよ。どんどん進めた結果、いつの間にか中学や高校の計算問題が解けるようになりました。
それが苦じゃなかった理由は、親の環境づくりによるものが大きかったですね。公文のプリントを1枚やったら、母が横で採点してくれるんですが、その採点と次のプリントを解答するのと競争をするんです。
「どっちが早いかな、何秒以内に解けるかな?、よーい、ドン!」って。普通はどう考えても採点のほうが早そうじゃないですか。でもその採点に自分の解答が追いついて追い抜くのはすごく気持ちがいいんですよ。「うわー、玄斗に負けた!」みたいに母が言うと、「やったー!」と思って、「次も競争だ!」みたいな。うまく誘導されてその気になった、と(笑)。
今思えば、僕の解答のペースに合わせて採点してくれていたのかもしれません。解答が雑にならないようにとか、密かに考えてくれていたのかなと思います。が、そのへんはまったく子どもにはわからないように、一生懸命、楽しそうに採点してくれたんですね。
何度も何度も勝利するのがうれしくて、そして負けると悔しくて「次は負けない、もう1枚!」、勝ったら勝ったで「もう1枚!」って、1日中プリントを解いていました。子どもってゲームをやったら1日じゅうできるじゃないですか。やればやるほどストーリーが進んでいくので、それがおもしろくて1日じゅうやって、2日くらいで終わらせてしまう。その感覚です。
プリントをおもしろがってやるうちに気づけば1日200枚
やっているうちに自分の年齢を超えて難しい問題になっていきますよね。そんなときも不安になる前にうちの母がたとえば、「次は二桁+二桁の足し算だよ、これは3つ上のお兄さんたちがやる問題なの。できなくてもあたりまえだけれど、できたらすごいよね」って。すると、「よーし!」ってますますやる気になり、解けると、「すごいね、できるんだ! 次は繰り上がりあるよ、これができたらすごすぎる!」って、うまく転がされながら楽しんでいました(笑)。
そうやって1日じゅう勉強していて、気づいたら200枚くらいやってしまったり。
「すごいね!」「これができたらもっとすごいね!」に気持ちが乗った
――200枚ですか!
別にやらされていたわけではなくて、「すごいね!」ってほめられながらやったらいつの間にか200ページできたという感じだからぜんぜん苦じゃないし、ほめられるのもうれしくて、自然にやっちゃったんですよね。自分から、「よーし、明日はもっとたくさん解こう!」って思いましたし。
母は負けず嫌いの自分の性格を塾知していて、「こうすれば楽しくできる」「こういうやり方はあの子には合わない」って考えながら声を掛けてくれたと思うんですよね。
もし、僕とは反対のタイプの子なら、「●●ちゃんは本当はすごい力があるんだよ、自分のペースでいいからチャレンジしてみたら? きっとジャンプアップできるよ!」みたいに言うとか。その子に合わせてモチベーションを上げてあげるといいんじゃないかな。
父親は難しい問題に楽しく取り組む方法を教えてくれた
――お父様は、玄斗さんの勉強にどう関わっていましたか?
父も「勉強は楽しいものだ」っていうスタンスで僕にいろんなことを教えてくれました。公文の学習は計算問題や漢字などが中心ですが、大きくなってくると文章題も難しくなるし、算数でも思考力、ヒラメキ力が必要になってくるじゃないですか。そのへんを楽しませてくれましたね。
夜寝る前とかに、「勉強小話」みたいな話をしてくれるんですよ。「1÷3は0.33333…、それに3をかけると0.99999…ってこれは1とまったく一緒っていうのを小学生ながら聞いて、数字の不思議を知ったり。
前編でもお話しましたが、父は小学校のときに、ちょっと難しい算数を解く参考書『中学からの算数』っていう本を買ってくれたんですよ。その解き方を見て「こう解くのか!」にハッとさせられるのが謎解きみたいに楽しくてのめり込みました。勉強を深くする楽しみを教えてくれました。
試験を受けに行くときも、「試験、楽しんできてね!」みたいに送り出してくれるんです。そうか、試験はいやなもの、大変なものというより、楽しむものなんだなって思えて、試験に対してすごく前向きになれましたね。
苦手な納豆も、「おいしい!」と食べる父親の姿に触発されて克服
――お母様もお父様も、お子さんをやる気にさせる方法をよくご存じです!
本当にそうなんです。勉強だけでなくて、食べ物の好き嫌いについても、楽しく克服させてくれたんです。僕は3~4歳のときに納豆の臭いを初めて嗅いだのですが、臭いって思って食べなかったんです。けれど、父は僕がテーブルに置いた納豆をパクッと食べて、「うまっ!」って言ったんですよね。「玄斗はこんなうまいものを食べられないのか、もったいないな、お父さんが全部食べちゃおうかな」って。
子どもは単純だから、「あれ、本当はこれ、一般的には美味しいものなのかな、それなら食べないと」って思うから、「お父さん食べないで、僕が食べる!」って。
「勉強しなさい!」って怒ると、子どもにとって勉強がイヤなものになってしまう。やらないとまた怒られる。でも、保護者の方は勉強しないわけですよね? 子どもは「自分だけやらされている」ってなってますますつまらないって思います。
だから、大人は「勉強、おもしろいよ」って言うべきですし、ご自身でも勉強に関わることが楽しいって思わないと。うちの母は隣で採点して僕と競争することを、本気で楽しんでいました。「子どもに勉強させるために楽しいそぶり」をしても、子どもって案外見抜いてしまいます。子どもと一緒に心から楽しんで、その背中を見せることが、子どもの心をプラスの方向に持っていく鍵かなって思いますね。
勉強を楽しむ方法を知れば、大学受験も司法試験も楽しめる!
――河野さんは大学受験や司法試験も、そんなふうに楽しみながらやっていったんですか?
そうですね。「英単語、30分で100覚える!」と決めて、ストップウォッチで計ってやったり。母親はそういうのも手伝ってくれましたね。そして、できたらオー!みたいに一緒に喜んだり。司法試験は大学2年生の11月に、翌年5月の司法予備試験を受ける友人たちと弁護士事務所にお邪魔したんですよ。弁護士の方々も交えて、「みんな、予備試験受かろうな!」って盛り上がっていたので、自分も受かりたくなって(笑)。「俺も受かるわ!」とその場の雰囲気で公言してしまったことが発端でした。当然、友達からは「けっこう大変じゃない?」と言われるわけですが、その言葉で火がついて、「やったるわ!」と猛勉強を始めたんです。
――司法試験もゲーム化して楽しんだわけですね。
そうですね。僕は勉強をゲーム化して試験に合格していきました。でも、考えてみれば、人生そのもののほうがおもしろいゲームですよね。人生って、無限ピクセル。どの人にもものすごい歴史があって、ストーリー展開があって、その人生ゲームの中でどういう勲章を集めるか。どんなステータスまで行くのか。レベルが上がればHPが増えるし、絶対おもしろいですよ。そう思いながらチャレンジしてもいいんじゃないかな。
それって別に勉強じゃなくても、スポーツが得意ならスポーツでもいいんです。もっと速く走りたいと思って自分のステータスをジワジワ膨らませて行けたら楽しいですよね。その人に合った考え方を導入してちょっとがんばれば、意外と見える景色が変わってくる。そんな景色を親子で楽しんでみてもいいんじゃないかなって思います。
前編では中学受験の体験談についてお話を伺っています
こちらの記事もおすすめ
取材・文/三輪泉 写真/深山徳幸