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親は子どもの性格を知ったうえで中学受験のフォローを
――松丸さんは、中学受験のときのお母様の接し方が「すごくよかった」とおっしゃっています。今回は「保護者の接し方」をテーマに、中学受験を語っていただこうと思いますが、その前に、松丸さんの小学校時代の勉強の仕方を教えてください。
僕は好きなことには全力投球するけれど、嫌いなことは全くできない、というかやろうとしない子どもでした。教科で言えば算数は大好きで、難しい問題を解くのがおもしろくてたまらず、だれにも言われなくてもやるタイプ。理科も好きでした。でも国語はできるときとできないときがあっていまひとつ自信がなかったし、社会は大嫌いで勉強する気にもなれない。そんなふうにすごくムラがありましたね。母親は「亮吾にどうやって社会科を勉強させようか」と、いつも考えていました(笑)。
ただ、すごく負けず嫌いです。うちは男4人兄弟で僕が一番下。いつもお兄ちゃんたちには勝てなくて悔しい思いをしていたので、なんとか兄たちに勝ちたいと思っていました。そのへんの性格をよくわかったうえで、受験のフォローをしてくれていたと思いますね。
勉強に飽きてきたら「ちょっと休憩入れる?」
――そんな松丸さんにどうやって勉強のモチベーションアップを促していらっしゃったのでしょうか。
算数は放っておいていいと思っていたでしょうね。でも、社会科は1時間でプリント1枚を終わらせるのも大変で、イヤイヤやっているのが目に見えている。でも、そんなとき「早くやりなさい!」という言い方はしなかったです。逆に「ちょっと休憩入れる?」と言ってくれて、場をやわらげてくれるというか。
――すばらしい声かけです!
上3人の兄たちの受験のあとで僕を見ているじゃないですか。経験が深いんですよ。何をすると子どもが傷ついて、何でやる気出すか、そこを見極めてアクションするのはプロでしたね。常にほめポイントを探してくれたんです。
否定しないで、いいところをみつけてほめてくれた
模試などでバツがたくさんあって丸が1個だったとしても、「ここ、よくできたね!」とできたところをほめてくれます。その上で、「速さの問題がちょっと苦手だね、惜しかったね、この内容、もう一回やっとこうか」みたいにうまく気持ちを乗せてくれたというか。できなかったから怒られたということはないし、たとえ前回60点で次に20点落ちたとしても、「ダメじゃない」みたいに否定されることはありませんでした。
そもそも、数字だけで見たり、判定のAとかBとかで考えすぎたりするのはよくないです。子どもはやる気なくします。内容を見て、「ここはがんばったね」と、がんばりを適切に評価してくれることが、子どものモチベーションになります。そういう肯定がとても上手でした。
母はいつも横に座って、一緒に伴走してくれた
僕は小さい頃から「大人が状況を理解せずに怒る」のがすごくイヤでした。スイミングスクールに通っているときにコーチに「タイムが遅すぎる」と言われたときには、すごいケンカをしました。よく子どもを見てもいないし、「こうすれば速くなる」と教えてくれもしないのにそんな言い方をするのはおかしい、と思ってしまうし、それを口にも出す子どもで。そういう性格も母はよくわかった上で接してくれていましたね。
上から目線も絶対にしなかった。横に座り、一緒に考えてくれるタイプです。実際、僕の塾の問題を勉強することもあったし、母も自分の趣味のパッチワークをやりながら「一緒にがんばる生徒」みたいに伴走するのが上手でした。何か言うときも命令ではなくて提案。なぜなら、僕が命令されて「イヤだ」となった瞬間に頑として聞かないと分かっているからです。
本を読まない子なら映像やゲームで勉強を促してもいい
――勉強法そのもののフォローもしてくれていましたか?
僕ら兄弟のタイプによって、いろいろ変えてくれていました。本読むのが好きだった4人兄弟の一番上(メンタリストのDaiGoさん)には、いろんな本を与えていました。でも僕は本をあまり読まず、映像見たり、ゲームやったりするほうが好きだったので、苦手な社会の克服のために、本や参考書ではなくて、歴史がわかりやすいドラマや映画を探してきてくれていました。
算数は好きだったからあまり苦にならなかったけれど、おもしろい算数パズルをさりげなく置いてくれていましたね。おもしろそうにやっているその表情を観察して、「これはハマった」と蓄積していたのかもしれません。つまらなそうにしたら、別の手を考えてくれるような感じでした。
イヤなことは無理にやらせない
考えをスイッチするのも上手だったなと思いますね。「いやだ」ってなったら、それを「でもやらなきゃダメ」と言うのではなくて、同じ目的で別のものはないか考えてくれる。
スイミングをやめたいと言ったときも、親からすると水泳が上手くなって欲しいのではなくて、基礎体力や筋肉をつけてほしい、というのが目的だったから、ほかのスポーツをすぐ探してくれたんですね。母親はテニスをやっていたので、「ついてくる?」と誘ってくれました。そして、やってみたらおもしくなって、そこからテニススクールにも通ったりしていました。
「目的が同じで子どもの興味にひもづくものならいい」と考えられれば、子どもも楽しくなっていくんじゃないかな。子どもの内面を分析して、どうやったら勉強につなげられるかなって考えるといいと思いますね。
緊張しぃであがり症だから、本命の前に4校受験
――受験の時期が近くなってきたときのフォローはどうでしたか?
負けん気も強いし、自分の実力には謎の自信を持つタイプですけれど(笑)、意外に僕、緊張しぃであがり症なんです。親は「第一志望のときに本領を発揮できないかもしれない」と心配していました。そして、「多めに受けさせたほうが亮吾は受験の空気に飲まれないだろう」と、本命の麻布の前に4校受けさせてくれました。
千葉県の市川市に住んでいたので、千葉の中学も受けられるし、東京の中学にも通えるんですよ。そして千葉の中学受験は1月が中心、東京は2月1日から受験です。だから、千葉の学校で受験慣れしておいて、2月1日に備えられたんです。親の作戦勝ちですね。
子どもの内なるモチベーションに火をつけて!
――親御さんのフォローのよさが、第一志望の合格を導いてくれたのですね。では最後にこれから中学受験をするお子さんを持つ保護者にアドバイスをいただけますでしょうか。
受験でもなんでもそうなんですが、親御さんが無理に先導し始めると、子どもって急についてこなくなるものです。そこで親のほうが強く命令して勉強させたりすると、親の顔色を窺いながらやるようになり、言わなければやらない子どもになる。
それより、どうやって子どもの内面的なところにアプローチしてモチベーションに火をつけるかが大事です。遠隔リモートみたいな感じですかね。
親のパワーで受かるっていうこともあるけれど、やっぱり子どもが主体の受験をする方が幸せです。なかなか大変かもしれませんが、上手にほめてやる気を引き出してもらえるといいなと思います。
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お話を伺ったのは
取材・文/三輪 泉 撮影/五十嵐美弥