歯の形には役割がある
歯の形や役割は、それぞれ違っています。歯の名前の由来もその役割から来るもので、食べ物を噛み切る役割がある平たい形の前歯は「切歯(せっし)」と呼ばれます。
また、食べ物を咀嚼してすりつぶす役割がある奥歯は、臼のようなずんぐりした形から「臼歯(きゅうし)」と呼ばれ、切歯と臼歯の間にはとがった形の「犬歯(けんし)」があり、食べ物を鋭く噛み切る役割があります。
このように歯の形を観察することによって、その歯が果たす役割を学ぶことができ、食事のときの噛み方(咀嚼)や歯磨きに対する意識を高めることが期待できます。
観察編:歯に関する観察をやってみよう!

観察編では、実際にあるものを観察して絵や写真で記録し、何がどんな位置にあるかという現状把握だけでなく、他と比べた違いなどを発見し、その理由を考察します。
いくつかの観察研究のテーマを挙げてみましょう。
自分の歯や歯並びをスケッチしてみよう
上顎と下顎のそれぞれについて、図1のように歯が並ぶアーチを描きましょう。図1は乳歯のケースで上のアーチが上顎、下のアーチが下顎の歯列を表します。

永久歯では、さらに奥に第一大臼歯(6歳臼歯)や第二大臼歯(12歳臼歯)が生えるのでアーチは大きくなり、生えかわる途中の歯など、乱れた歯並びの様子も忠実に描きましょう。
また、両親や祖父母の口の中を見る機会があれば、同じくスケッチしてみてください。
大人の口内には歯だけでなく、虫歯治療でつめた銀歯や白い樹脂などの多彩な構造物が見られることがあり、お年寄りでは入れ歯がある場合もありますから、その構造も描きましょう。歯の形や大きさは遺伝も関係するので、親子で比べるのも面白いかもしれません。
歯のスケッチは鏡を見ながらだと難しいこともあるので、スマホで上顎、下顎それぞれの歯を写真撮影し、その画像からスケッチを描くとより正確に、より簡単にできます。
口の中を知ると、歯磨きが難しい場所や食事で噛むときに注意したい歯の状況を把握できるメリットがあります。口の中を探検するような気持ちで、地図を描いてくださいね。

上下の歯の噛み合わせを見てみよう
上顎と下顎の歯がどのように噛み合うのか、ご存じでしょうか? 上下の歯の数が同じだから、1対1で上下の同じ歯同士が噛み合うと思っていませんか?
では、実際に鏡で前歯を見てみてください。上顎の中央にある中切歯は、下顎の中切歯よりも大きい人が大半だと思います。つまり、上顎の中切歯は下顎の中切歯とその隣にある側切歯の合計2本と噛み合うのです。
この1対2の噛み合わせのパターンはそのまま奥歯まで受け継がれ、最も奥にある歯が1対1で噛み合うまで続きます。
特に奥歯は鏡では噛み合わせを見るのが難しいので、スマホで写真を撮って確認し、スケッチしてみてくださいね。
動物や鳥などの他の生物の歯はどうなの?
私たち人間(ヒト)だけでなく、他の動物や魚など、様々な生物の歯を調べてみることからも様々な学びがあります。
動物の歯の比較で例を挙げると、ワニやイルカのように同じ形の歯が並ぶのを「同形歯性」と呼び、ヒトやイヌなど多くの動物は形や大きさの異なる歯が並ぶ「異形歯性」です。
また、歯の生えかわる回数も動物によって違い、1回だけ生えかわるヒトは「二生歯性」ですが、サメは何度も生えかわる「多生歯性」です(図2)。

その他にも、動物の歯についての疑問の具体例を挙げてみましょう。
・肉食動物(ライオンやヒョウなど)と草食動物(ゾウやキリンなど)で歯の形や数は違う?
・野生動物は虫歯になるの? 動物園の動物はどうなの?
・野生の動物でも歯磨きはするの?
・サメの歯とクジラの歯はどう違う?
これらの問いに対する答えは示しませんが、もし興味が湧いたら調べてみてくださいね。
また、動物園や水族館、博物館には生きた動物や鳥、魚だけでなく骨格標本が展示してあることもあり、恐竜展では歯の化石が展示・販売されるなど、非常に参考になります。
その他にも、「象の牙は前歯である」「カタツムリにも歯がある」「太古の昔に絶滅した鳥である始祖鳥にも歯がある」など多彩な生物種の歯を調べることで、生物の多様性や進化の過程を垣間見る学びもあるでしょう。
動物園で運が良いと、カバなどの飼育動物の歯磨きシーンに出合えるかもしれませんね。

自由研究のテーマ・その他編(文献研究・工作など)
自由研究のテーマを前回と今回にわたり『実験編』『観察編』でまとめましたが、自由研究はまさに言葉のごとく“自由”な研究です。
ですから、子どもたちの好奇心や自由な発想を存分に活かし、自分でテーマを見つけて本やネットで調べ、分かったことをまとめて作品として発表するという研究もアリです。
実際、「文献研究」という手法では、特定のテーマに沿って過去の研究論文の内容を精査して整理し、考察を加えた上で新たな論点を提示します。ですから、「虫歯」「歯の生えかわり」など、歯に関する事柄を詳しく調べ上げてレポート形式で発表作品にしてみましょう。
虫歯はなぜできるか、メカニズムを調べよう
虫歯の原因や進行する仕組みを調べ、予防する方法を自分なりに提案してみましょう。
図書館やネット検索で調べたり、歯科医に質問したりして得た情報を整理してまとめてください。歯垢(プラーク)や酸、糖の関係だけでなく、フッ素や食生活の影響など、様々な観点で虫歯予防について考察しましょう。(参考記事はこちら≪)
また、最後になりましたが、歯に関する“ものづくり”も自由研究の作品として活用しましょう。具体例を挙げてみます。
乳歯ケースを作ってみよう

抜けた乳歯を保管する乳歯ケースを独自で作れば、実際に活用できます。既製品を使うより、歯に対する愛着が湧くかもしれませんね。(参考記事はこちら≪)
“歯”を作ってみよう
歯はおよその共通的な形態はありながら、人それぞれで異なり、同じ形のものはありません。その独特の形状から、時として芸術作品やオブジェとして展示されることもあります。
そのような歯や歯列の模型や美術作品を様々な材料で制作すれば、発表作品にできるだけでなく、歯磨きで気を付けたい部位の認識もできて歯磨き意識が高まるでしょう。

観察研究でも、保護者のサポートが大切
観察に関する自由研究でも、保護者のサポートがあれば、一層学びが深まります。
口の中の写真撮影のサポート
子どもが一人で口の中の写真撮影をするのは難しいため、保護者と協力することが大切です。寝ころんだ姿勢で口を開ければ、上顎・下顎とも撮影しやすくなります。
歯の観察のため動物園・水族館などに行く
生き物の歯を観察するときは、顔の近くまで近づく必要があるため、時として危険を伴う可能性があります。生き物のいる施設には、できれば家族で出掛けるようにしましょう。
図書館・インターネットでの調査のサポート
調べたい資料やデータを収集するのにネット検索は非常に便利なツールですが、図書館や書店で書籍から調べる習慣も大切です。
夏休み限定の歯医者さん体験など、歯に関する体験ができる施設やイベントに行く
歯科医院によっては親子で参加できる体験イベントを催すところもあります。ぜひ参加して、貴重な体験をしてください。
* * *
夏休みの機会を活かして、ぜひ家族全体で歯の健康、そして将来に向けた健康習慣に向き合ってみてくださいね。
〝歯〟の自由研究『実験編』はこちら!
記事執筆
歯科医師(歯学博士)・野菜ソムリエ。TV出演『所さんの目がテン!』(日本テレビ)等のほか、多くの健康本や雑誌記事・連載を執筆。二児の父でもある。ブログ「由流里舎農園」は日本野菜ソムリエ協会公認。X(旧Twitter)も更新中。HugKumでの過去の執筆記事はこちら≪
参考:山中淳之:哺乳類の歯列の異形歯性と二生歯性の発生メカニズム.鹿歯紀要31:71-80、2011.
:日本歯科医師会:動物の歯.テーマパーク8020,2025.