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小学生時代はクラスの中心、でも徐々に「みんなと違う」と感じてきて…
―子どものころの原さんは、どんなことに興味を持ち、どんな生活を送っていましたか?
原さん 小学生のときは、外で遊ぶのが好きな子どもでした。秘密基地を作ったり、けいどろ(警察泥棒ごっこ)をしたり、自分でルールを作って新しい遊びを考えたりしていたので、面白い存在としてクラスの中心にいたと思います。
ー原さんはADHDと診断されているとのことですが、周りの友だちとの違いを感じることはありましたか?
原さん まず、身の回りのものがボロボロでした。自分では壊している意識はないんですが、雑だったのか、体の使い方が上手ではなかったのか、知らないうちにいろいろとぶつけていたのかもしれません。リュックは破れて穴が空いてしまうし、鍵盤ハーモニカは僕のだけ、カバーが取れて骨組みだけみたいになっていました。

原さん また、よく覚えているのは、小学生のときに友だちと「学校で集合しよう」と約束したときのことです。友だちは「学校で待ってるよ」と言ってくれたのに、僕は忘れてしまったのか面倒くさかったのか、行かなかったんですよ。それを大きな問題だとは思っていなくて。
相手の子はずっと待っていたので、後で先生に怒られました。でも僕は、なぜ怒られているのかよく分からないんです。当時はあまり気にしていませんでしたが、そういうところで「みんなとちょっと感覚が違う」「世界と自分との間に薄い膜がある」と感じていました。
―子ども時代に自分の発達特性で困っていたことはありますか?
原さん 小学生のころは「ちょっと変わった子」というくらいでみんな面白がってくれていたんです。親もあまり干渉しなかったですし、全然困っている意識はなかったですね。でも、思春期に乗り遅れた感覚はあって、中学くらいからクラスの中心になれなくなってしまっていたんです。みんなが大人になっていくときに、子どものままだったのかもしれません。
そして高校生になると、周りは受験を意識し始めますよね。先生から説明があるわけでもないのに、自然とみんなは動いていく。進学するために勉強したり、学校を選んだり、それが僕は理解できなかったんです。
フォトグラファーになり、失敗の中でも見つけた自分らしさ
―フォトグラファーになったきっかけは何ですか?
原さん 23歳のとき、バイト仲間から「原さんは、美しいものが好きならフォトグラファーになればいいじゃないですか」と言われたことをきっかけに、名古屋のスタジオに飛び込みました。でも、働き始めた初日からむちゃくちゃでした。

写真を撮る際、背景になる「バック紙」というものがあり、脚立に上って持っていたんです。そのとき、脚立から落ちそうになってしまって。普通ならそこでバック紙に気を配ると思うんですが、僕は気にせず飛び降りちゃって、バック紙がビリーっと破れてめちゃくちゃ怒られました。
他にも、ビジネスマナーが理解できなかったり、先輩フォトグラファーに指示されても「自分でやればいいじゃん」と言ってしまったり、カメラなどの機材をすぐ壊してしまったり…と失敗続きでした。
―そのような中で、写真の魅力はどんなところに感じていたのでしょうか。
原さん 失敗があっても、自分が一番うまく写真を撮れるという自信があったんです。同期が新しい撮影をどんどんやっていくのに僕だけやれないみたいなことはあったんですが、そのぶん僕には時間がたくさんありました。そこで、作品を撮り始めたんです。


原さん 僕は「きれいなものがあるから写真を撮る」のではなく、街を歩いていて、胸がギュッとなったらそれが撮るときの合図。自分にしか撮れない「心情風景」を撮りためていくうちに、自分の世界観のようなものができ上がってきて。カフェで小さな写真展を開いたりするうちに、周りの人が「みんなが撮れない写真を撮れる」ことを認識してくれるようになっていきました。
今となってみると、フォトグラファーとして仕事をする上で、人と違う感性を持つ発達の特性があってよかったとすら思っています。
発達障害や不登校など、生きづらさを抱える子どもたちを肯定したい
―今、作ろうとされている写真アトリエ「そのままの光」はどのような取り組みでしょうか。
原さん 発達特性があったり、不登校だったりする子どもたちが、写真撮影を「楽しみ」や「趣味」にできる写真アトリエをつくりたいと思っています。
少人数制で、カメラを1人1つずつ渡し、家に持ち帰って使ってもいいので好きな写真を撮ってもらいます。僕は、写真について聞かれたら教えることはしますが、良い悪いの判断はしません。撮った写真を全て肯定する。そういうアトリエです。
―アトリエをつくろうと思ったきっかけは何でしょうか。
原さん 僕自身が写真に救われたように、写真を通じて人の役に立ちたいという思いはずっとありました。
以前、不登校だった子に写真を教えていたことがあるんですが、その子は、下の方から撮ってみたり、対象にすごく近づいて撮ったり、びっくりするくらい芸術的な写真を撮っていて。天才だと思いました。
写真を撮ることって簡単なんですよ。絵や音楽を学ぼうと思うと時間がかかりますが、写真って一瞬で撮れて、すぐに結果が出る。シャッターは1回押したら終わりじゃなくて、何回も押せて、正解もない。そういうところが、発達特性があったりつまずいたりしやすい子も続けやすく、相性がいいと思うんです。
―写真を撮ることで、子どもたちや家族にどのような変化があると期待していますか。
原さん 僕は「そのままの光」で、写真展をやりたいと思っています。作ったものが形になり、家族が見に来てくれたら「自分はこういうものが作れたんだ」ということが分かりやすく見えて、誇らしいじゃないですか。
それが自分を肯定するきっかけになり、成功体験を積めるんじゃないかと思うんです。写真を通して、僕と同じような特性を持つ子どもたちに少しでも「みんなと違う感覚を持っていていいんだ」「そのままでいいよ」と伝えたいと思っています。
また、彼らが撮った写真を見ることで、親御さんや周りの人が「この子はこういう視点で生きているんだな」という理解につながることも期待しています。

写真って、良いと感じる瞬間にシャッターを押すじゃないですか。だから写真を撮ることって、世界を「肯定」することだと思っているんです。子どもたちにもそれを感じてほしいし、なんらかの困りごとを抱えている子の親御さんにも「そのままで大丈夫」と伝えたい。生きづらさを感じている人たちを、写真を通して力になれたらと思っています。
写真スタジオ「そのままの光」はクラウドファンディング実施中!
原さんが現在取り組んでいる、写真アトリエ「そのままの光」。子どもたちへの負担がないよう、まずは無料で実施予定のため、現在クラウドファンディングを実施しています。
感覚過敏や人付き合いが苦手な子も安心して自分を表現できる。そんな居場所をつくるために、ご興味のある方はぜひサイトをご覧になってみてください。
プロジェクト概要
目的:不登校・発達特性のあるお子さん優先の、無料写真アトリエ開催費用のため
期間:2025年12月11日(木)~2026年1月31日(土)
お話を聞いたのは
プロの写真家歴27年。1976年岐阜生まれ。庵野秀明、本田圭佑、滝川クリステル、佐藤健など16,000人以上を撮影。名古屋の出版社のスタジオで写真を学び、写真家丹羽俊隆(niwa.)に師事。その後、FBのいいね!数が2000万以上のTokyo Otaku Modeにジョイン。EC、メディア、広告等のヴィジュアル面のディレクション、撮影を担当。現在は横浜・元町でスタジオ「ラシク」(代表:立林ゆう子)を運営。
写真/立林ゆう子 取材・文/佐藤麻貴