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性教育の第一歩は、人との関わりを学ぶことから始まる
ーーお二人のご著書である『発達障害の子の性のルール』は、性の知識だけでなく人との関わり方から丁寧に扱っているのが印象的でした。
田中先生:はい、発達障害の子どもに人との関わり方を伝えていくことは、とても大切だと考えています。たとえば幼稚園や小学校低学年であれば、日常的にお友達と手をつなぐ場面がありますが、高学年になるとそうはいきません。また、公の場で大きな声で性的な話をしてしまったら、周りの人を不快な気持ちにさせてしまいますよね。こういったことがあると、他者といい関係を築くことができず、本人にとってもデメリットとなってしまいます。

川上先生:性教育というと、どうしても「性について教える」と捉えられがちです。しかし、将来的に誰かとお付き合いをしたり、性的な関係になったりすることは、人間関係において一番親密なところであり、そのベースになっているのは家族や友達など周りの人との関わりです。ですから、「きちんとコミュニケーションをとる」「相手との距離を適切に保つ」「その場に応じた話題を選んで話す」といったことを子どもの頃から伝えていかなければいけません。
定型発達の人は、教わらなくても何となく学んでいく部分もありますが、発達障害や知的障害のある子は、そこが分からないことが多いです。最近では「包括的性教育」として実施されており、性教育は広く捉えていく必要があります。ただ性に関する知識を教えるだけでは、そこに興味を持ってしまってトラブルになることもあるのです。
ーー発達障害のお子さんを持つ親御さんは、どのような困りごとに直面されていますか?
田中先生:親御さんからは、「何歳まで子どもとお風呂に入ってよいかわからない」「なかなか親と離れて寝てくれなくて困っている」といった相談を受けることがあります。
とくに自閉スペクトラム症のお子さんは、変化が苦手なことが多く、親御さんもそこをよく理解しています。つまり、これまでの習慣を急にやめるのは、なかなか難しいことでもあるのです。親子だけで悩んでいても解決しないときは、第三者から「あなたは大人の体になっていく年齢だから、一人でお風呂に入れるようになろうね」のように伝えてもらうとよいと思います。
「体を清潔に保つ」ことを家庭でどう伝えたらいい?
ーー本の中で「発達障害のある子は体を清潔に保つことが苦手になりやすい」ということも書かれていました。その理由を教えてください。
川上先生:私たちが関わっている「NPO法人アスペ・エルデの会(※1)」で行っていた合宿での話を踏まえてお伝えさせてください。その合宿では、発達障害をもつ子どもたちは親から離れて大学生スタッフと一緒に過ごすのですが、男の子同士でお風呂に入ってもらった際にスタッフから「お風呂にちゃぽんと入って、すぐ出て行く子がいました」と報告を受けました。
おそらく、家では親御さんが洗ってあげているのでしょう。だから本人にとってお風呂は「お湯をかぶればOK」という認識で、「体をきれいに洗う」というスキルが身に付いていないようでした。
※1 発達障害をもつ子どもたちの支援の場、自助会、専門家養成、発達支援についての啓発、発信点、研究機関を統合的に目指していく「生涯発達援助システム」を意味しています。

田中先生:これは子どもに限定した話ではありません。大人の方でも、本人としてはちゃんと髪を洗っているつもりなのに、頭がかゆそうだったり、髪がベタベタしていたり、フケが出ていたりすることがあります。認知的な部分もあるのだと思いますが、「行動はしているけれど、どこまですればよいのか」を理解するのが難しいところもあります。
川上先生:セルフモニタリングが苦手で、自分のことを客観的に見ることができない子や、感覚過敏で体を洗えない子もいます。
ーー家庭ではどう教えていけばいいのでしょうか。
田中先生:ご両親がいる場合は、同性の親が一緒にお風呂に入り、まずは親がきれいに体を洗う様子を見せてください。次は、一緒に体を洗いながら子どもに真似してもらい、最終的には自分で洗えるようにするのがよいと思います。できたら「きれいに洗えたね」とほめてあげてください。この繰り返しができるといいですね。体を操作するのが苦手な子は、柄(え)がついたボディブラシを使うのもおすすめです。
また、キャラクターなどを使って「この子(キャラクター)は、きれいにしているお友達と遊びたいみたいだよ」というようなストーリーをつくってあげるのもよいと思います。ただ、本人は「きれいに洗うってどういうこと?」というところがまだ分かっていなかったりします。ですから、一つひとつ、その行動と意味を伝えて、できたらほめることが大切です。
ーー感覚が過敏なお子さんの場合、お風呂で気をつけることはありますか。
川上先生:無理強いしないことですね。無理強いすると逆効果になりますし、感覚の問題は大人になってからも影響することがあるので、あまりこじらせないほうがいい、という感覚があります。
田中先生:体はゴシゴシ洗わず、泡で汚れを落とすようにしてください。苦手な感覚はさまざまなので、タオルなど肌に接触するものや、シャンプー・石けんの匂いなど、どういうものが本人に合うのか、いろいろ試してみるのがよいと思います。
知識と同時に「正しい振る舞い」を知ることで人間関係を円滑に
ーー性に関することは、どんなふうに伝えていけばいいですか。年齢や発達段階によって、過程はあるのでしょうか。
田中先生:はじめにもお伝えしましたが、年齢によって社会的に適応した振る舞いがあります。まずは相手との距離感。小さい子だと、先生が「手をつないで一緒に歩きましょう」と言っても平気だったりしますが、中・高学年になると、それが嫌になってきますよね。
そういったことに対して「この年齢になると、そういうことには抵抗があるんだよ」「本人はそう思っていなくても、多くの人は嫌な気持ちになるよ」という話が家庭でできるとよいですね。
また、体の変化については、できれば同性の親が「当然のことなんだよ」と話をしていくのがよいと思います。それと同時に、「これは大事なお話だけれど、大声でみんなと楽しくおしゃべりすることではないよ」と伝えてください。

川上先生:性教育というと「正しい知識を持ちましょう」と言われることが多いですよね。もちろんそれも一つだとは思うのですが、正しい知識があるからといって、必ずしも正しい行動ができるとは限りません。
とくに性は、欲求や本能に近い行動になります。知識も大事ですが、日常生活において適切な行動ができているか、ということで、その良し悪しが判断されることもあります。たとえば手を洗うとき、なぜ手を洗わなくてはいけないのかという理由を知らなくても、手を洗っていればOKですよね。知識を学ぶことも大切ですが、たとえ意味が分からなくても、周りの人から見て「OK」という振る舞いを一つひとつ教えることも必要だと思っています。
田中先生:親御さんの中には性に関することを話すのにためらいがある方もいらっしゃるかもしれまんせが、「あなたも大人の仲間入りの手前なので大事な話をするよ」と伝えるとよいと思います。
川上先生:普段からいろいろなことを話せる関係を作っておくというのも大事なことですね。
SNSを通した性犯罪の被害者にも加害者にもならないために伝えたいこと
ーー現代ではインターネットやSNSを避けて通ることはできません。性犯罪の被害者にも加害者にもならないために、保護者が、とくに気をつけたいことはありますか。
川上先生:インターネットやSNSに関しては、障害の有無にかかわらず必要なものです。使い方をみんなで考えていかなければいけないですし、大人の方ももっと関心を持つべきだと思います。
子どもたちの使っているアプリのことを「わからない」と言っている方もいますが、そうしている間にも子どもたちはスマホで全世界とつながっているんです。保護者も指導者も関心を持って、「自分たちは、こういうリスクのあるものを渡しているんだ」と意識しないとトラブルは避けて通れないと感じています。

田中先生:小学生のうちは使うアプリなども親と約束して使うことができます。しかし、年齢が上がっていくと、たとえば「こういう画像(性的なもの)を送ってよ」「それが友達でしょ」と言われて送ってしまうということも起こるかもしれません。普段の人間関係で不安があったり、孤立したりしているとそのような誘いにのってしまうこともあるでしょう。
だからこそ、「自分の体や心は大事なもので、それを他人に送るというのは、非常に危険なことなんだ」というメッセージを伝えていくことです。インターネットやSNSをどう使うか、誰と使っているかということは、子どもが大きくなると共有は難しくなりますが、できる限り確認して、適切に使っているかチェックしてあげたほうがよいでしょう。
川上先生:大人だって、隠れて見たいものはありますよね。子どもにとっても、それは正常な成長ともいえます。ただそこで、自分で適切な判断をして、「これ以上は踏み込まない」とブレーキをかけられるのであれば問題ないのですが、それが難しいタイプのお子さんだとリスクは高まります。
田中先生:性の問題に限らず、ネットゲームで課金してしまうといったことにもつながってくる問題です。性のことだけに特化してしまうと、かえって伝わりづらい部分もあると思うので、インターネットやSNS全般の適切な使い方についての話ができるといいのかなと思います。
ーーありがとうございました。お二人のお話から、性教育は特別なものではなく日常の振る舞いの意味を伝え、ほめながら、少しずつ積み重ねていくことが大切なのだと感じました。ご著書『発達障害の子の性のルール』にはさまざまな困りごとに関するサポートのポイントが具体的に掲載されています。ぜひ読んでみてください。
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公立の小中学校の養護教諭を経て、自閉スペクトラム症がある子どもたちやその家族とかかわり、本人や家族、支援者を対象に「性と関係性の教育」として、性に関する教育方法の開発、実践、普及を専門に行っている。NPO 法人アスペ・エルデの会ディレクター。
●おもな著書 『続・発達障害のある女の子・女性の支援: 自分らしさとカモフラージュの狭間を生きる』川上ちひろ、木谷秀勝 編著/金子書房/ 2022 年、『発達障害のある子どもの性・人間関係の成長と支援──関係をつくる・きずく・つなぐ (ブックレット: 子どもの心と学校臨床2)』遠見書房/ 2020 年、『発達障害のある女の子・女性の支援: 「自分らしく生きる」ための「からだ・こころ・関係性」のサポート』川上ちひろ、木谷秀勝 編著/金子書房/ 2019 年、『性の問題行動をもつ子どものためのワークブック:発達障害・知的障害のある児童・青年の理解と支援』宮口幸治、川上ちひろ 共著/明石書店/ 2015 年など
お話を聞いたのは
公立小中学校勤務等を経て、日本福祉大学助教や厚生労働省専門官などを歴任しさまざまな障害者支援の現場に立ちながら、発達障害のある人の地域生活や家族支援をテーマに研究と実践をおこなっている。NPO法人アスペ・エルデの会理事。
●おもな共著書
『プライマリ・ケアの求められる発達障害の診かたと向き合い方』斉藤まなぶ 編著/金芳堂、2024年、『福祉職のための精神・知的・発達障害者アウトリーチ実践ガイド:生活訓練・自立生活アシスタントの現場から』吉田光爾、遠藤紫乃、岩崎香 編著/金剛出版/2024年、『不器用・運動が苦手な子の理解と支援のガイドブック:DCD(発達性協調運動症)入門』岩永竜一郎、辻井正次 編著/金子書房/2024年、『ソーシャルワークを学ぶ人のための相談援助実習』日本福祉大学社会福祉実習教育研究センター 監修/中央法規出版/2015年、『発達障害児者支援とアセスメントのガイドライン』辻井正次 監修/金子書房/2014年
この記事を書いたのは
音楽大学卒業後、出版社勤務を経て、現在はフリーライター・編集者として活動中。小学生2人の母。主に教育系、不登校への取り組み、著名人インタビューなどを執筆しています。子育ての中で感じた疑問や発見を活かしながら記事を作成することを心がけています。