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高校時代、オーストラリアで何度も聞かれた「What do you think?」
――安田さんは2023年に、絵本と対話を組み合わせたオンラインスクール「YOMY!」を立ちあげられました。どのようなきっかけがあったのでしょうか。
高校生のとき、オーストラリアの学校に留学していたのですが、授業スタイルが日本と全然違っていて驚きました。
授業では、毎回のように先生から「What do you think?(あなたはどう思う?)」と聞かれるのです。日本の学校だと、正解を聞かれることはあっても、「あなたはどう思うか」と聞かれる機会は、それほど多くありません。
それに対して、オーストラリアの生徒たちは手を挙げて話したり、ディスカッションをしたりしていて。その姿を見て、「かっこいいな」という気持ちと、「なんでこんなに自然にできるんだろう」という疑問を持ちました。
海外の教育について調べていく中で、欧米では幼児教育の頃から「自分の意見を言うこと」をすごく大事にしており、絵本の読み方から違うことを知りました。

アメリカの幼児教育では、小さな頃から「あなただったらどうする?」と問いかけながら絵本を読む実践があることを知りました。これが、子どもが主役で、大人が引き出し役となる「ダイアロジック・リーディング」です。図書館も、みんなでワイワイ話しているところが多くて。日本の静かな読み聞かせとは、スタイルが違うなと感じました。
もともと持っていた教育への関心と、絵本を通した学び、そして「ダイアロジック・リーディング」がつながって、「これをきちんと子どもたちに届けていくことで、日本の教育ももっとアップデートするんじゃないかな」と思い、YOMY! をスタートしました。
絵本で伝える力を育てる
――YOMY! では、どのようなレッスンを行っているのですか。
YOMY! は、絵本と対話で「伝える力」を育むオンラインスクールです。3歳から小学校中学年までのお子さんを対象に、絵本のテーマについてディスカッションをしています。
「ダイアロジック・リーディング」をベースにしていて、サービスの中では基本的に「読み聞かせ」という言葉を使わないようにしているんです。
――なぜ「読み聞かせ」と呼ばないのでしょうか。
「読み聞かせ」というと、「親がやらないといけない」「子どもは静かに聞くもの」という従来のイメージに、どうしても引っ張られてしまうと思うんですね。
私たちが大事にしているのは、「絵本を通した対話」です。それを、より伝わりやすくするために、あえて使っていません。
もちろん、読み聞かせと「ダイアロジック・リーディング」のどちらがいいということではありません。絵本を通して物語や言葉に触れ、誰かと時間を共有できることは、どちらにも共通する良さです。
その上で、ダイアロジック・リーディングでは、絵本を楽しみながら対話を重ねることで、『自分なりに考えること』や『それを自分の言葉で伝えること』といった力を育む機会にもなります。

――絵本を使った対話は、具体的にはどのように進めるのでしょうか。
子どもと一緒に絵本を読みながら、いろいろな問いかけをします。
例えば3、4歳くらいの子に「何が見える?」と聞いて、「うさぎさん」と答えてくれたら、「白いうさぎさんがいるね」というように、大人が少し言葉を足して返します。そうすることで、子どもの言葉が少しずつ豊かになっていきます。
年齢が上がったり、対話に慣れてきたりしたら、単語で答えてくれたことを文章で答えられるように促したり、「なんでそう思ったの?」と理由を聞いたりします。さらに慣れてきたら、「自分が主人公だったらどうする?」「次はどうなると思う?」という、正解のないやり取りをしていきます。
そうすると、子ども自身が考えるきっかけができ、自分なりの言葉で紡いでいく力につながります。
「楽しく話せる空気」が大事
――家庭で絵本対話を始めるなら、まず何をすればいいですか。
まずは、話しやすい空気をつくることが大事です。
これまで「読み聞かせは静かに聞くもの」と思っていたお子さんは、急に対話を始めると戸惑うかもしれません。いつも寝る前にしか絵本を読まないなら、昼間に一緒に絵本を開くなど、少し雰囲気を変えてみるのもいいと思います。
子どもが絵本を選んできてくれたら、読む前に「なんで、この絵本にしたの?」と話してみてもいい。「次はどうなると思う?」「なんで、こうなっていると思う?」という小さな問いかけから始めて、子どもの反応に合わせて少しずつ進めてみてください。
ただ、「この力を伸ばしたい」と一生懸命になりすぎると、楽しさが半減してしまいます。まずは「楽しく話せる空気をつくる」ことを大事にしてほしいです。

最初は「1冊に一つの質問」で十分
――問いかけは、どのくらいの頻度で入れるとよいですか。
そこは、やっぱりお子さんの反応を見ることが大切です。1ページごとに質問すると「早く次に行ってよ」となりそうなら、最初は1冊に一つ、対話ができたらいいというくらいをゴールにしてみてください。
子どもが楽しそうなら少しずつ増やし、同じ質問に飽きているようなら、違う角度から聞いてみる。大事なのは量ではなく、どんなふうに対話を楽しめているかです。
質問しても「わからない」と言われたら?
――問いかけても、子どもが答えてくれないときはどうすればいいでしょうか。
答えないのには、いろいろな理由があります。お子さんが「いつもの読み聞かせがいい」と思っているなら、そのままでも全然いい。読み終わってから「あの子って、なんでこうしたと思う?」と少し話してみると、やりやすいかもしれません。
また、そもそも質問されることに慣れていない場合もあります。大人でも急に「あなたはどう思いますか」と言われると、少し責められているように感じたり、言いづらかったりしますよね。
そんなときは、二択にしたり、大人の意見を伝えたりして答えやすくします。例えば「このうさぎさん、なんでこんなことをしたと思う?」に「わからない」と返ってきたら、「お母さんは、こうなのかなと思ったんだけど、どう思う?」と聞いてみる。そこから「なんでそう思ったの?」と広げられます。
ただ、大人の意見を正解にはしないことが大切です。「お母さんはこう思ったけれど、こんな考えもあるかもしれない。どっちだと思う?」と幅を持たせます。最初は大人のまねからでも大丈夫です。少しずつ『自分はどう思うかな』と考えたり、それを言葉にしたりするきっかけになればと思います。
――子どもの話が絵本の本筋から外れたり、的外れに思える答えが返ってきたりしたら、どうすればいいですか。
大人からすると、物語の起承転結やメインの主人公はある程度決まっていますよね。でも子どもの興味は、そこから外れることもあります。
例えば、クマが主人公なのに、ページの中のチョウチョが気になって、「このチョウチョがね」と話し始めることがある。そんなときは、ぜひそこを広げてあげてほしいです。「主人公はクマだから、クマの話に戻さないと」と思いすぎず、子どもが興味を持ったところから始めていいと思います。
少し的外れに思える答えが返ってきたときも、「そうじゃないでしょ」と否定せず、「なんでそう思ったの?」と広げていく。普段あまり話さないお子さんなら、まず話してくれたことを喜ぶ。内容を確かめたいときも、「どこに出てきたっけ?」と一緒に絵本を振り返ってみてください。
問いかけに迷ったら「CROWD」をヒントにする
――実際に絵本を開いたとき、どのように問いかければよいのでしょうか。
ダイアロジック・リーディングには、「CROWD」と呼ばれる五つの問いかけがあります。
C:Completion(穴埋めで文章を完成させる問いかけ)
繰り返しの文章を途中まで読み、続きは子どもに言ってもらいます。
R:Recall(思い出す問いかけ)
「さっき、何が出てきたっけ?」など、すでに出てきたことを思い出してもらいます。
O:Open-ended questions(自由に答えられる問いかけ)
「自分が主人公だったらどうする?」「次はどうなると思う?」など、正解のない質問です。
W:Wh- questions(5W1Hを使った問いかけ)
「この子は何をしたの?」「どこで、こうしたんだっけ?」など、誰・何・いつ・どこ・なぜ・どのように、を使います。
D:Distancing questions(絵本と子どもの経験を結びつける問いかけ)
絵本で出てきた内容と子どもの経験をつなげます。「〇〇ちゃんも転んで痛かったことある?」などと聞きます。
全てを一度に行う必要はありません。比較的始めやすい5W1Hなど、お子さんに合うものを一つ選んでみてください。
対話しやすいのは「絵が豊かで、考える余白がある絵本」
――絵本対話に向いている絵本の特徴はありますか。
子どもが自分で考える余白があり、話すきっかけや考えるきっかけが多い絵本は、対話をしやすいと思います。
特に、絵が豊かな絵本ですね。子ども自身が絵を見て気づけるものがあったり、「これは何だろう」「これは、どうなっているんだろう」と、話すきっかけをつくりやすかったりします。
小さなお子さんなら、色や形からも対話に入っていけます。絵をじっくり見たときに発見がたくさんある本は、対話が広がりやすいなと感じています。

AIが正解を出してくれる時代に残る力
――「毎日読めない」と絵本の読み聞かせに負担を感じている保護者へ、伝えたいことはありますか。
私は、絵本はあくまで「おもちゃの一つ」だと思っています。東京大学の遠藤利彦先生の言葉をお借りしているのですが、本当にその通りだなと思っていて。
対話のきっかけが絵本なだけで、必ずしも絵本でなければできないわけではありません。保育園から帰る途中で、動いている虫を見つけて一緒に話すのでもいい。テレビのニュースを見ながら話してみるのでもいいんです。
もちろん絵本には、豊かな世界観があり、登場人物を通して子どもの感情が動くという良さがあります。何か思うことがあるから、自分の考えを伝えやすい。対話の入り口として、とても使いやすいものです。
「今日も何冊か読まなきゃ」と頑張りすぎず、まずは楽しく取り入れることを大事にしてほしいですね。
――絵本対話で育つ力は、これからの子どもたちにどうつながっていくと思いますか。
今はAIも出てきて、教育のあり方を考えている方も多いと思います。何かを聞けば、情報や答えらしきものに、すぐアクセスできる社会になっていますよね。
私自身、もともとAIの研究をしていました。その中で、「本当に人間に残るものは何だろう」と考えたときに、やっぱり自分がどう感じるか、その人なりの個性や考え方が、すごく大事になってくると思っています。
日本の教育は、インプットの質が高く、世界にも誇れるものだと思いますが、一方で、自分なりに考えて言葉にするアウトプットの機会は、まだ限られているのかなと感じます。
正解が一つではない環境や、自分らしさがもっと大事になっていく中で、自分なりに考え、アウトプットする経験の積み重ねが、その力につながっていきます。その最初の一歩を、親子で楽しくできるのが絵本対話なのかなと考えています。
絵本と対話を組み合わせたオンラインスクール「YOMY!」で、子どもたちと絵本対話を重ねてきた経験をもとに、家庭で実践できるダイアロジック・リーディングを紹介。年齢に合わせた問いかけ方や、子どもの返答へのリアクション、実際の絵本を使った対話例などを解説しています。
この記事を書いたのは
京都大学 工学部建築学科卒業。北陸放送アナウンサー、テレビ大阪アナウンサーを経て2012年よりフリーキャスターに。NHK「おはよう日本」、フジテレビ「Live news イット!」、読売テレビ「ミヤネ屋」などで気象キャスターを務める。現在は株式会社トウキト代表として陶芸の普及に努めているほか、2歳からの空の教室「そらり」を主宰、子どもの防災教育に携わっている。
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