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「すずとの思い出をどうにかして形に残したい」その想いから漫画に挑戦

——すずちゃんは元保護犬だそうですね。やまもとさんが、お姉さんの愛犬であるすずちゃんをテーマに漫画を描き始めたきっかけを教えてください。
やまもとさん:すずは、姉が保護犬の里親を募集するサイトで見つけた元野良犬です。自分が産んだ子犬を連れて山の中をうろついていたところを保護団体に保護されて、2007年ごろに姉夫婦の家に迎え入れられました。
すずのことは単純にかわいいという気持ちもありましたが、私にとっては表情や行動の一つひとつがすごく新鮮で不思議な感じがしました。やがて「今日もおもしろい行動をしていたな」「変な顔をしていたな」と、すずのことをメモ帳に少しずつ書き留めるようになりました。
当時はすずのことを作品にしようとはまったく思っていませんでした。「姪っ子自慢」をする叔母のような感じで、他の人が見ても反応に困るだろうと思ったので(笑)。でも何年か前に、そのメモを見返したとき、自分が些細な出来事をすっかり忘れていることに気づいてショックを受けたんです。すずのことはとても好きだったので、「どうにかして形に残したい」と思ったことがきっかけです。
——そこから漫画という形にチャレンジされたのですね。
やまもとさん:はい。ただ、私はずっとイラストばかりを描いてきて、漫画を描く経験はあまりしてきませんでした。当初のすずの絵もキャラクタライズされた落書きのようなものでしたが、漫画として人に読んでもらうなら、ちゃんと犬に見えるように描かなくてはなりません。イラスト寄りではなく、実際の犬に近くなるように何度も描き直しました。
最初に描いたものが天才的におもしろく仕上がればよかったのですが、全然うまくいかなくて、ボツ原稿ばかり(笑)。でも、恥ずかしさを一回捨てて、「おもしろくない」と言われても何度も描いてみようという気持ちでチャレンジしました。
ーー恥ずかしさを捨てるまでは、どこか取り繕って描いていたのでしょうか?
やまもとさん:そうですね……。実は過去にとあるコミックエッセイの賞をいただいたことがあるのですが、そのときは自分の暮らしをゆるく描いたものが評価され、正直面食らってしまいました。
そこから担当の編集者が付いて、次の作品を描くことになりましたが、私には描きたいテーマが何もなかったんです。だからと言って、「描きたいテーマを見つけてなんとしても次回作を出す」という気概もありませんでした。それよりも、自分のことをさらけ出す恥ずかしさや「つまらないものを出したら担当さんにがっかりされるんじゃないか」という気持ちが勝ってしまって、その話は立ち消えに。せっかく評価してくれた方がいたのに自分が何もできなかったことが、ずっと心残りでした。
今回描くのは、自分のことではなく「大好きな姉とすず」の話です。「ふたりを出しておいて不完全燃焼で終わらせたくない」「恥ずかしがっている場合じゃない」という強い気持ちがブーストになりました。そして「第1回はちみつコミックエッセイ賞」に応募して入賞し、連載・書籍化まで描ききることができたのです。
「付き合い方がわからない」から「愛おしい」へ。作者を変えた、すずの「大人な優しさ」

ーーやまもとさんは犬が得意ではなかったそうですが、最初にすずちゃんと会ったときの印象はいかがでしたか?
やまもとさん:私は犬に対する免疫がなかったので、幼稚園で飼っていた犬が大きくてこわかったことを覚えています。友達が飼っていた中型犬には、会うたびに吠えられていました。友達は何度かとりなそうとしてくれましたが、その犬は私をライバル視しているような感じがして、苦手だったんです。
だからすずと会うときも「大丈夫かな」と警戒しながら部屋に入りました。でも部屋の隅にいたすずは、出産直後ということもあり、痩せていてすごく弱々しく見えました。それに、おっぱいの周りの毛がなく丸出し状態で、「ケッケッケ」という変な咳もしていました。会う前とは真逆の意味で、「大丈夫かな」と心配になりました。
ーーイメージしていた「犬」とはまったく違っていたのですね。
やまもとさん:そうなんです。フィラリア陽性でもあったので、姉の家に来たばかりの頃のすずの状態は良くなかったと思います。血気盛んな犬だったら私も面食らっていましたが、すずは動きも鈍いので、「この犬は自分を脅かす存在ではない」と安心しました。
ーーすずちゃんとのエピソードで、印象に残っていることはありますか?
やまもとさん:姉の家から自宅まで帰るとき、義兄が運転する車ですずと後部座席にすわることがよくありました。車中ですずは外を見たり、私のももを脚でギュッと踏んだり……かと思うと運転席と助手席の間から顔を出したり。
そうやってなかなか座らずにウロウロしながら、私や姉夫婦の様子を気にかけているように見えました。母性を感じると同時に、少し変だなと思うこともあって、かわいかったです。
ーーすずちゃんは、とても優しい気質なのですね。
やまもとさん:私や姉が話し合いをしていると、その輪の中に入って参加してくることもありました。議長みたいな顔をしてビシッと座るんです(笑)。“姉夫婦の子ども”として甘えるというより、みんながちゃんと暮らせるように目配りしている感じ。その姿が大人っぽく、お母さんのような落ち着きがありました。
すずは散歩中に他の犬とトラブルになりそうになるときぜんと対応する強さもあるのに、人間である私にはいつもすごく優しく接してくれる。感情がないからおとなしいのではなく、「意思を持って私に優しくしてくれているんだ」と気づいたとき、ギャップとともに愛おしさが込み上げてきました。
姉と犬たちを見て、保護犬を迎える選択肢は素敵だと思った

ーー本作では、最初は心配な状態だったすずちゃんの毛並みがツヤツヤになり、家庭犬として幸せになっていく過程がとても印象的でした。
やまもとさん:姉のケアが本当に細やかで、すずはみるみる元気になっていきました。おっぱい周りの毛もきれいに生え揃い、持病のフィラリアも時間をかけて治療して陰性になりました。
その後、姉の家には同じく保護犬の「じゅん」と「あきほ」という2匹も加わりました。後から来たやんちゃなじゅんに刺激されて、おとなしかったすずがちょっと若返ったり、見せたことのない一面を見せてくれたりしたのもうれしかったですね。
ーー読者の方へ、保護犬について伝えたいことはありますか?
やまもとさん:深い傷を抱えた犬もいるでしょうし、犬を飼うことは責任も伴うので、私が軽々しく保護犬をすすめることはできません。ただ、「もともと野良犬だった犬を飼うのは大丈夫なの?」「家庭犬になれるの?」と心配される方には、すずのような優しい犬もいると知ってもらえたらうれしいです。
すず、それからじゅんとあきほもそうですが、最初は痩せていて毛が薄かったり、傷があったりしたのに、姉が時間をかけて向き合うことでピカピカの賢いワンちゃんに仕上がっていくんです。その過程はまさに「シンデレラストーリー」でした。
姉とすずたちを見ていると、「自分がこの子を磨きあげて育てるんだ」という飼い主の愛情に、犬たちが全力で応えてくれるポテンシャルの高さを感じます。保護犬を迎える選択肢ってすごく素敵だと思いました。
読者からは「うちの犬にそっくりです」という声も

ーーお姉さんご夫妻は、完成した本を読まれてどんな反応をされましたか?
やまもとさん:実は賞をいただくまで、姉夫婦には本のことを秘密にしていたんです(笑)。出版されたときは、都内の書店に飾られた私の色紙をわざわざ見に行ってくれて、店長さんに「私、この漫画に出てくる姉です!」って自己紹介したみたいです。
この頃の姉は、すずが旅立ってから時間が経ち、近所でもすずを知らない飼い主さんが増えて寂しさを感じていた時期でした。「こうして本という形で残って大々的に『すずがいるよ』と言えたことが本当にうれしい」と泣いて喜んでくれました。いつも私のことを気にかけてくれる姉に、一番のお礼ができたかなと思っています。
ーー読者からの反響で、心に残っているものはありますか?
やまもとさん:「うちの犬にそっくりです」と写真を送ってくださる方がいたり、「自分の愛犬がさらに愛おしくなった」と言っていただいたりしたことが、とてもうれしかったです。
犬を飼っていない私のような人間が描いているので、「犬はこんなことはしない。こんなのは嘘だ」と思われるのが怖かったのですが、「わかるわかる」と共感してもらえたことでホッとしました。猫好きの方から「すずちゃんの静かな感じが、ちょっと猫っぽくて好き」と言っていただけたのも新鮮でしたね。
ーー最後に、HugKum読者へのメッセージをお願いします。
やまもとさん:単行本『姉の犬から目が離せない』は、バタバタした私たち姉妹と、けだるいママ感のある保護犬すずたちが織りなす愉快な回顧録です。
現在犬を飼っている方はもちろん、昔の私のように「犬ってちょっと怖いな」と思っている方にもくすっと笑って楽しんでいただける内容になっています。ぜひ手に取っていただけたらうれしいです!
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取材・文/HugKum編集部