子どもの身長が伸びないのは、スポーツのやり過ぎかもしれません!【子どもの発育の専門家に聞く】

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ずっとスポーツをやってきたけれど思うように背が伸びなかった、小学校高学年でピタッと身長が止まってしまった……、身長の悩みを抱えている親子は少なくありません。スタイルは遺伝によると思いがちですが、実は遺伝的なものは半分以下。実は“運動のし過ぎ”が身長の伸びを妨げている恐れがあります。子どもの発育と健康の関係を長年研究され、正しい発育の為のメソッドを啓発されている小林正子先生にうかがいました。

大谷翔平選手が「スタイルがいい」理由

みなさんは「スタイルがいい」と聞いて、誰を思い浮かべますか。私は真っ先に、ロサンゼルス・エンゼルス所属のメジャーリーガー、大谷翔平選手が思い浮かびます。

世界が目を見張る活躍を見せる大谷選手は、身長193㎝、体重97㎏という立派な体躯で、メジャーリーガーの中でもひときわ目立っています。

大谷選手の場合、遺伝的にもよい素質を持っていたのだと思いますが、ここまで身長を伸ばせたのは、花巻東高校野球部の佐々木洋監督の指導の賜物であると私は考えています。

過去のメディアの記事によると、佐々木監督は入部後の大谷選手を「まだ骨が成長段階にあり、1年夏までは野手として起用して、ゆっくり成長の階段をのぼらせる」という方針で、1年春は「4番・右翼手」で公式戦に出場し、秋からエースを務めたとありました。

体の成長段階「身長スパート」の時期に運動をし過ぎると?

そもそも身長は小学校中・高学年になると、急激に伸びる“身長スパート”が始まり、まず足がぐんと伸びます。そして座高が伸びて、さらにもう一度足が伸びるという順序で身長が伸びていくのが一般的です。

しかし身長スパートが始まったタイミングで運動をし過ぎると、骨の成長が止まり、その後伸びるはずの身長や座高が伸びなくなってしまいます。

もし大谷選手が高校時代に無理にトレーニングをしていたら、今ほど身長が伸びなかったかもしれません。実際、中学時代、せっかく身長が伸び始めたのにウエイトトレーニングをしたせいで、身長が止まってしまったという事例は数多くあります。

ですから、親は子どもが発育に合わせた運動をしているか、成長期に運動をし過ぎていないかどうか、しっかりと見極めなければいけません。

発育に応じた適切な運動が大切。やみくもに激しい運動をさせるのはNG!

では、子どもの発育に即した運動とはどのようなものでしょうか。大きくは3つの成長段階に分けられます。

■3~6歳 運動機能が発達し始めます。思い切り外で体を動かして遊ぶことが大事です

幼児期は、運動機能が発達し始めるので、まず基本的動作の獲得と上達を目指します。走る、跳ぶ、蹴る、投げる、打つ、受ける、滑る、泳ぐ……、など、さまざまな動作を身につけることが大切です。

ポイントは、専門的に一つの運動をさせるのではなく、広くいろいろな運動動作をさせること。水泳など特別な施設が必要なものもありますが、多くは日常の遊びを通して獲得できるものですから、親御さんはできるだけ外に連れ出して、思い切り体を動かして遊ばせてあげてほしいですね。

■7~9歳 様々な運動が可能になる時期。持久力を伸ばすことが課題

学童期に入ると体もしっかりしてきて、呼吸・循環器系が発達するので、基本的動作を組み合わせて、さまざまな運動が可能になります。この時期の課題は、持久力を伸ばすことです。

持久走は小学校6年生までに1000メートルぐらいは走れることを目標とします。また頑張れば成しとげられるという感覚=有能感を養うことも重要です。できたら褒める、失敗しても励ますなど、前向きな言葉がけを心がけてほしいですね。

1012歳 身長スパートが始まる時期。適度な運動が、身長を伸ばす要素に

小学校高学年になると、身長スパートが始まる子が多くなります。通常は男子よりも女子のほうが早くスパート現象が見られます。身長スパートはあまり早く始まると、早く終わるケースが多いので、本来はゆっくり始まったほうが将来的に身長は高くなります。

身長スパートの開始時期は、さまざまな要素が影響を及ぼすため、なかなか思うようになりませんが、適度に運動しているほうがゆっくり始まります。子どもの運動が適度かどうかというのは、後にご説明する「成長曲線」を描くと、だいたいわかります。そこであまりに身長や体重が増えない場合は「運動のし過ぎ」です。繰り返すようですが、これは最も気をつけなければいけない点です。

筋力を鍛えるのは、身長がぐんと伸びて、そのあと伸びがゆるやかになってから

身長がぐんと伸びて、そのあと少し伸びがゆるやかになったかなと思えば、そこが「最大発育期」を過ぎたしるしですから、いよいよ筋力を鍛える最適の時期を迎えます。少しきつめの筋力トレーニングもできるようになりますが、目安としては、男子では高校時代からです。とにかく身長が止まるまでは、ウエイトトレーニングをしないというのは大原則です。

日本の子どもは、胴長短足化進行中!

イラスト/かまたいくよ 『子どもの足はもっと伸びる!』(女子栄養大学出版)所収

 

身長の話ばかりしましたが「スタイルがいい」というのは、単に身長が高いということでなく、身長に対する手足のバランスなど体全体のつり合いがとれていることを指します。こうしたバランスのよい体型に成長するには、まず健康でなければなりません。

つまり子どもの生活環境が健康にととのったものであれば、本来の素質が十分に伸び、体もバランスよく育っていくのです。

しかしながら、実は今の日本の子どもの平均身長は、17歳の全国平均値でみると、最も高かった時代よりも3ミリも縮んでいます。それも座高は伸びているのに、足が縮んでいる胴長短足化が進んでいます。

夜遅くまでのスマホいじりは成長ホルモンを阻害します

1998年頃から始まった胴長短足化現象。いったいその原因は何でしょうか。子どもの生活環境に大きな影響を与えたものとは何でしょう。それはズバリ、携帯電話やテレビゲームなどの電子機器です。夜、遅くまでゲームをしたり、ネットサーフィンしたりして就寝時間が遅くなることで、成長ホルモンの分泌が妨げられて身長が伸びなくなっているのです。

子どもの生活環境をととのえるために、親が知っておきたいキーワードは「運動」「食事」「睡眠」の3つ。成長段階に応じて適切に運動を行い、カルシウムやタンパク質をたっぷり含む食事に気をつけ、スマホは夜間使用せずぐっすり寝ること。そうすれば、子どもの身長や足は伸びていくでしょう。

6歳までならば、まず、母子手帳を活用。わが子の成長曲線をチェックして

母子手帳の出生~12か月までと1歳~6歳までの発育曲線が記入できるページ(男子用)。色の付いた帯には、各月・年齢の94%の子どもの値が入る。

 

子どもが順調に成長しているかどうかは、ぜひ「成長曲線」を活用してチェックしてください。成長曲線とは、ある年に測定した同年齢の子どもの身長および体重が、その集団の中でどの程度であるか(何パーセントであるか)を示したもので、各年齢を結んでパーセンタイル曲線として表したものです。一般的には基準曲線として3~97パーセンタイルの7本の曲線で表していますが、母子手帳では6歳までの場合、一番下の3パーセンタイルと一番上の97パーセンタイルで表しています。

成長曲線は母子手帳にも載っています。母子手帳の場合、帯のような曲線で描かれ、この範囲に入っていれば、まず心配ないとされます。6歳まで記入できるようになっています。

 

18歳までの詳しい成長が見渡せる「発育グラフソフト」

母子手帳よりも曲線が多い、一般的に7本の曲線で描かれたものが「パーセンタイル発育基準曲線」です。

私が開発した「発育ソフトグラフ」も、このパーセンタイル発育基準曲線を使用し、子どもの成長がすべて記録できて、健康管理に役立ちます。

『子どもの足はもっと伸びる!』(女子栄養大学出版)所収

発育基準曲線でわかる「肥満」と「痩せ」

成長曲線を見るときのポイントをご説明しましょう。まず成長曲線の基準曲線(パーセンタイル基準曲線)のどれかに、だいたい沿うように発育していれば、問題ありません。ただし、身長と体重のパーセンタイルレベルが大きく異なる場合は、肥満あるいは、痩せということになります。

身長がぐんと伸びたあとに、横ばいになったら「運動のし過ぎ」の可能性があります。また身長の伸びが低年齢(女子9歳前、男子11歳前)から急に始まると「思春期早発症」の疑いがあります。その他、3歳付近から肥満が発症すると小学校に入ってさらに肥満になる、身長に対して体重の増え方が鈍い場合は病気の可能性ある、体重の変動が大きい場合は体の病気だけでなく精神的な健康状態を考える必要がある……、成長曲線は子どもの心身の状態を正直に語ってくれます。

子育てのうえで客観的に子どもの健康を見守ることは、親の安心にもつながります。年に3回程度、ぜひ成長曲線を描いてみてください。

子どもの発育研究に長年携わってきた小林正子先生が、子どもの健康を守るため、家庭でも「成長曲線」を活用することの重要性を提唱する

著/小林正子|990円(税込)

子どもの異変は、「成長曲線」のグラフに記録することで早期に発見できると、子どもの発育研究に長年携わってきた小林正子氏は語ります。
子どもの健康を守るため、家庭でも「成長曲線」を活用することの重要性を提唱します。

簡単に成長曲線が描ける「発育グラフソフト」がダウンロードできる特典つき!

教えてくれたのは

女子栄養大学客員教授、女子栄養大学栄養科学研究所客員研究員
小林正子先生

お茶の水女子大学理学部化学科卒業後、会社員、高校教員を経て、1988年に東京大学大学院教育学研究科(体育学専攻・健康教育学専修)に進学。修士、博士課程にて発育の研究を行う。1994年東京大学教育学部助手、1998年厚生労働省 国立公衆衛生院(現 国立保健医療科学院)母性保健室長、行動科学室長、2007年女子栄養大学教授に。2020年より現職。発育の基礎研究のほか「発育グラフソフト」を開発し、全国の保育園、幼稚園、学校等に無償提供し、成長曲線の活用を促進。発育から子どもの健康を守る重要性を啓発している。著書に『子どもの足はもっと伸びる! 健康でスタイルのよい子が育つ「成長曲線」による新子育てメソッド』(女子栄養大学出版部)、最新刊に『子どもの異変は「成長曲線」でわかる』(小学館新書)

取材・構成/池田純子 

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