文字が読みづらい障害「ディスレクシア」の子をもつママがアプリを開発!実体験をベースにした『読めてる?』アプリに込めた思いは

小学生になってから判明することが多い「学習障害(LD)」。小中学校に通う子どもの4.5%にその傾向が見られるといいます(※1)。教科書の文章が読めない、字が書けない、漢字が憶えられない、九九が苦手など、子どもたちが勉強面で支障をきたす場合は学習障害の可能性があり、その状態は子によってさまざまです。しかし、保護者や教師が障害だとは気づかず、勉強を無理強いしてしまう場合も。子どもの心を傷つけないためには、大人が学習障害について知っておくことが大切です。
そんな子どもたちの傾向を検査するアプリを開発したのは、学習障害のお子さんをもつママ・Hさん。その開発の裏側を伺いました。

文字が読みづらいディスレクシアで、1年生から登校を嫌がった体験談

小学2年生の息子さんがいる“こころん”さんは、Twitterで息子さんが学習障害の中のディスレクシア(読み書き障害)だと知ってからの切実な気持ちをつづっています。

「入学式の1週間後から登校しぶりが始まった。入学前はあんなにルンルンだったのに、期待が大きかった分、『みんなと同じようにできない自分』にショックを受けていたのかな。あの頃はすぐに気づいてあげられなくてごめんね」

「『学校に行きたくない』。最初は「疲れているのかな〜」くらいにしか思ってなかった。まさか字が読めないなんて。黒板も教科書も配布物も文字だらけ。一人だけ言葉の通じない外国に来た気分。そりゃおうちに帰りたくなるよね」

 学校ではまだまだ理解されない

息子さんは、1年生の6月ごろ、「(教科書や黒板の文字が)読めないから学校に行きたくない」と親に打ち明けました。しかし、担任の先生に相談すると「みんなこんなもんです。練習が足りないんですね」という返答。

1学期の段階では、ひらがな、カタカナを習い始めたばかりで、習熟度には個人差もあり、判断がつきにくいもの。しかし、学習障害だという診断がついた今も、学校の先生はディスレクシアがどういう仕組みで文字が読めないということを理解してくれていないといいます。「読めないのは、親の愛情不足だと言われたこともあってショックでした」と“こころん”さん。

学習障害は先天性のものが多い

学習障害の子は脳機能の発達に違いがあると考えられています。先天的に脳の構造や機能に違いがあり、目にした文字を音に変換する音韻処理や視覚情報処理などの認知機能の弱さが原因であることが、これまでの研究で示されています。例えば「あ」なら「あ」という音で読むということがすぐには理解できない場合があります。眼球運動が正常にできずに文字が読めない場合もありますが、それは目の機能の問題であることも。これは、しつけは関係なく先天的なものと考えられています。

 

漢字が極端に苦手で、書けないディスグラフィア

現在、中学生の娘さんを持つ“ちまみ”さんは、娘さんが書字障害(ディスグラフィア)であることに4年生になってから気づきました。ひらがなの中で読む音が同じになり区別しづらい「お・を」「え・へ」「は・わ」をその頃ようやく習得。さらに漢字が極端に苦手なので、家庭学習でカバーしようと漢字検定の勉強をさせているときに「おかしい」と気づいたと言います。

「漢字が“苦手科目”なのではなく、そもそも“書くことができない”のだと気づきました。ディスグラフィアだとわかったのは、『うちの子は字が書けない』という実体験に基づく漫画を読んでから。娘も手本なしには、自分の住所や家族の名前も書けません。努力でどうにかなるものではないんです」

 学校で理解されず、不登校などにつながる

現在、ADHDなどの発達障害がある場合は、就学前から公立保育園などでアドバイスをもらえ、発達障害者支援センターなど、サポート機関につながりやすい状況になりましたが、学習障害はまだまだ認知度が低く、親も学校の先生もその存在を知らない、または正確に理解していない場合が多いのです。身近にいる保護者や教師がまったく知らない状態だと、子どもは「勉強ができない」と誤解され、授業やテストが嫌になって、不登校などの「二次障害」にもつながってしまいます。

 

ディスレクシアの子のママが読み書き障害の傾向をテストするアプリを開発!

アプリ開発会社OpenDNAに勤めるHさんは、子どもが小学校に進む前から学習障害についての知識がありました。入学後すぐ、子どもがディスレクシアだと気づき、学校に相談。幸い、住んでいる東京の自治体では全生徒にタブレットが配られていたので、黒板の文字をタブレットのカメラで撮影する許可をもらい、教師との連携もできているそうです。

「4年生になってからは、ノートを取る代わりにメモアプリを使って学習しています。早めに配慮を受けられたことで、勉強がいやだという意識はありませんし、むしろ、ひとりだけデジタルツールを使っているのでクラスでも注目してもらえ、自己肯定感は上がっていますね」

Hさんは、会社が開発した国語の記述力アップのためのアプリ「KAKERU+」の開発時に、自分の子がディスレクシアであることを初めて話題に。そこから、ディスレクシアかどうかの可能性をテストするアプリ『読めてる?』の開発企画が立ち上がりました。OpenDNAの代表である安東裕二さんは語ります。

「私もディスレクシアのことは何も知らない状況。そこから、全国的に使用されている読み書き能力のチェックを作成した⼤阪医科薬科⼤学小児高次脳機能研究所・LDセンターの奥村智人さんに監修をお願いし、試行錯誤しながら『読めてる?』が完成するまでに1年半ほどかかりました。特に、東京都の小学校複数校の子どもたちのデータを集積して基準値を決めるのには時間がかかりましたね」

アプリで意味のある文字のまとまりが選べるかなどをチェック

アプリを始めると、桃太郎が登場し、鬼ヶ島に鬼退治に行くまでの間に4種類のテストをクリアしていくゲーム形式のテストが始まります。問題1は、ひらがなが8文字並ぶ中から意味のある言葉になっている4文字を選択していくというテスト。アプリ監修の奥村智人さんはこう解説します。

「このアプリは、検査という形のものではなく、『楽しく、ディスレクシアを啓発しながら、⼦どもたちの状態もある程度⾒られる』というところに重点を置いています。問題も、低学年の⼦にとっても負荷がかからない問題設定。ディスレクシアの傾向がある⼦でも楽しく進められ、わからなくても制限時間があり、正誤の結果を出さずに進んでいくので、⼦ども本⼈が『できてないな…』とあまり思わないようなものになることを意識しています」

 

問題2や絵の示す正しい言葉を選べるか、3では時間制限がある中で文章を構成する正しい言葉を選べるかのテストになり、問題4では問題文の朗読を聞きながら解く形になっています。テストの結果は、子どもの前には提示されず、保護者が設定したパスワードを入力しチェック。“こころん”さんの息子さんがやってみたところ、下のような結果になりました。

 

「言葉のまとまりを読む力=やや弱い

意味を結びつけて読む力=やや弱い

言葉の意味を理解し、文の意味をとらえて早く読む力=やや弱い

音声の読み上げは必要ない、または理解の助けにならないと考えられます。」

“こころん”さんは「桃太郎の世界観があり楽しんで取り組むことができました。ただ、セクションごとに25問くらいあり、集中力が続くか?と心配しましたが、どうにか最後までやり遂げることができました。1人でやらせるというよりは側で適宜サポートしながら行う方がいいと思いました」と感想を教えてくれました。

 

「息子は3人兄弟の末っ子で、3人目が『読めない』と言うことに気づけず、『まさかうちの子が』という状態でした。このようなアプリがあれば、もっと早く気づけたかもしれません。現在、息子は学校に行きたがらない日もありますが、ことば支援級への通級やディスレクシア外来に通院し、フリースクールにも籍を置いています。もっとディスレクシアに対しての認知度が広がればいいなと願っています」

親や学校の先生がディスレクシアの見え方を疑似体験できる機能も

『読めてる︖』には「ディスレクシアを体験する」という機能もあり、ディスレクシアの子には教科書などの文章がどう見えているのか、どうして文字が読みにくいのかという状態を疑似体験もできます。「保護者や学校の先生にぜひやってみてほしいですね」とHさん。

 

監修の奥村さんによると「『読めてる︖』は簡易的なチェックアプリであり、『読み』の⼒の弱さの中でも、ごく⼀部をチェックするものなので、もし弱い傾向が出ても、全く読めないということではありません。過度に⼼配しすぎずに、早めに専⾨機関へ相談することをおすすめします」とのこと。

学校の担任の先生に相談するのが最も簡単ですが、そこから支援につなげてもらえない場合、東京都民なら東京都発達障害者支援センターなど、各地域のディスレクシアを含む学習障害や発達障害の専⾨家に相談してみてください。

 

(1)LD(学習障害)のすべてがわかる本」上野一彦監修/講談社

東京都発達障害者支援センター http://www.tosca-net.com/

OpenDNA「読めてる?」https://yometeru.open-dna.jp/

※今後、ディスレクシア、ディスカリキュア用のテストも追加予定

株式会社OpenDNA(https://open-dna.jp/

 

取材・文/小田慶子

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