特別支援学校を選んだウチの場合。大切にした3つの視点とは
発達に課題があり、特別な支援を必要とする子どもの就学先は、自治体の教育委員会による就学相談で決まります。
しかし就学相談でどのような判定が出ても、最終決定には親の意思が反映されます。とはいえ、就学先の決定は、子どもの将来を大きく左右するもの。親からしたら重い決断です。私も親として、息子が年中、年長の2年間をかけて非常に悩みました。
そんな息子の就学先を決めるにあたって、私が大切にした視点は次の3つでした。
・周りへの迷惑より本人のメリットがあるかどうかで考える
・「今」ではない「将来」の子どもの姿で考える
・家族に負担なく6年間通い続けられるか考える
まずはこれらの視点を、順を追って説明させていただきたいと思います。
1 周りへの迷惑より本人のメリットがあるかどうかで考える
まずは1つめの視点です。
これは、息子が定期的に通っていた病院の主治医の先生から言われたことです。
息子は年長の時点で発語がなく、身の周りの自立もできておらず、「中等度知的障害」として療育手帳が発行されている状態でした。とはいえ、おとなしくて問題行動が少ない息子は周りになじみやすい性格です。そのため私は、息子が支援級に行ったとしても、授業を妨害して他の子どもに迷惑をかけるようなことはないように思っていたのです。
当時の私は、「できれば息子を地域の他のお子さんたちと一緒の学校に通わせたい」と思っていました。だから、「おとなしい息子なら支援級でもやっていけるのでは」と考え、就学先の候補に支援級も入れていたのです。しかし、息子の主治医の先生は、そんな私の考えにメスを入れるような意見をくれました。それは、「支援級で学ぶ時間が息子本人にとってどのくらいメリットがあるか」ということです。
身辺自立を目指す「支援学校」、学習主体の「支援級」
支援学校の主な学びの目的が身辺自立なのに対し、支援級の目的は学習です。仮に息子が支援級で静かに授業を受けられたとしても、その時間で息子はどんな学びが得られるのでしょうか?授業の内容がわからず、そこに座る意味すらわからず、発語がないため自分で意思を伝えることもできず、授業中にただえんぴつをなめているだけになってしまったら…?
小学校生活6年間という、発達過程における大切な時間の大半を無駄に浪費してしまうかもしれません。主治医の先生は、そのことを危惧していました。発達に課題がある子どもの中でも、息子のように主張が少ないタイプは、周囲への影響が少ない分埋もれてしまいがちです。
私が本当に考えるべきだったのは、「周り」ではなく、「息子」へのメリットだったのです。
2 「今」ではない「将来」の子どもの姿を考える
次に、2つめの視点です。
「お母さんはお子さんに将来、どうなっていてほしいですか?」これは、息子が幼稚園の年長の時、幼稚園の園長先生に聞かれたことです。この言葉に私はハッとさせられました。就学を考えるとなると、どうしても目先の「小学校をどうするか」で考えます。しかし、小学校は子どもの人生のゴールではありません。その先の長い人生を考えて、「今」ではなく「将来」子どもにどうなっていてほしいのか、という視点で考えることは、就学先を選ぶうえで非常に大切なことだったのです。
当時の私は息子に、できれば自分で働いて得た給料と障害年金などの手当で、自立して生きていってほしいと願っていました。
息子の障害の程度を考えれば、障害者雇用枠での就職もかなり大変でしょうし、将来的にどの程度稼げるようになるのかもわかりません。しかし、息子が成人するまでにはまだ10年以上の年月があり、今後の成長は未知数です。息子が1円でも多く稼ぐことができるようになるために、息子の働く場所や生きる場所の選択肢が少しでも多くなるために何が必要かと考えました。
息子の将来の選択肢を広げるための学びとは
園長先生は、息子の将来のために必要なことを次のように示してくれました。
①気持ちを落ち着かせて一定に保つこと
②身辺自立(身の周りのことを自分でこなす)ができること
この2つの土台ができた上で、
③自分の気持ちを相手に伝えるコミュニケーション力を身につけること
これらの能力を学生時代に身につけることができれば、息子の将来の選択肢は大きく広がるはずです。そこで改めて息子の就学先を考えた時、どの学校が一番息子に必要な学びを得られるか。
国語、算数、理科、社会などの教科の学習ができる支援級よりも、身辺自立を第一の目標とし、感情コントロールなども丁寧に学べる支援学校の方が、息子に必要な環境だと思ったのでした。
3 家族の負担なく6年間通い続けられるか考える
最後に3つめの視点。
それは、通う子ども本人も家族も、本当に無理なく6年間通い続けられる学校か?ということです。
これは当たり前のようでいて、案外「なんとかなるだろう」と楽観視してしまいがちなことかもしれません。
普通級の学校であれば多くの場合、家の近くにあるでしょう。しかし支援級や支援学校は、必ずしも家の近くにあるとは限りません。支援学校ならスクールバスが出ている学校も多く、親は最寄りのバス停までの送迎ですむかと思います。
しかし、支援級を選ぶとスクールバスなどの手段はないですし、多くの場合、最初は学校までの親の送迎が必要になります。その上、送迎が必要な期間がどのくらいになるかもわかりません。
通学も含めて学校生活を具体的にイメージすること
どんなに子どもにとって良い環境だったとしても、子ども本人や家族への通学の負担があまりに大きい就学先は、注意が必要です。数ヶ月や1年ではなく、6年間通うのです。家族や本人に少しでも無理があれば、その無理も蓄積して大きな負担になっていきます。後悔しないためにも、実際に学校まで子どもと一緒に歩き、学校見学などに積極的に参加して、通学も含めた学校生活を具体的にイメージすることが必要です。
我が家の場合は、支援級が家から遠すぎて難しい、ということも、就学先を選ぶ上でのネックでした。息子の障害の程度を考えると、6年間私が送迎するのは必至だと思いましたし、きょうだいの送迎も考えると、朝と夕方の時間をうまく乗り切る自信がなかったのです。
こうして、これら3つの視点で判断した結果、息子には特別支援学校が最適だと夫婦で判断しました。
教育委員会からも特別支援学校が最適という判断をいただき、息子は特別支援学校に就学することが決まりました。
参考までに、就学先の選択肢を分かりやすくまとめてみました。
就学先の選択肢
【普通級】
通常の学級のこと。一般的に特別な支援は行われない。
1学級の児童生徒の数の基準は35人。
【通級】
普通級に在籍し、大部分の授業を普通級で受けながら、学習面や生活面の困りごとを克服するための指導を受ける支援の形。
指導のタイミングは普段の授業に加えてか、一部の授業を置き換える形で行われる。
【特別支援学級(支援級)】
小学校や中学校の中に設置された、特別な支援を必要とする子どもたちのための学級。
1学級の児童生徒の数の基準は8人であり、普通級に比べるとかなり少人数の環境下で授業を受けることができる。
何らかの障害や発達特性により普通級での学びが難しい子どもが、個々のペースで学ぶことができる。
【特別支援学校(支援学校)】
障害がある子どもを対象とした、個別に行き届いた専門的な支援ができる学校。
1学級の児童生徒の数の基準は6人(重複障害の学級は3人)であり、最も手厚い支援が受けられる。
ただし、知的障害や身体障害を伴わない発達障害のみの場合は、入学対象にならない。
後半の記事はこちら。就学後に変化した息子の様子をお伝えします。