宮沢賢治の父が親バカでイクメンすぎて泣ける!映画『銀河鉄道の父』

「銀河鉄道の夜」や「雨ニモマケズ」などで知られる作家で詩人の宮沢賢治。映画『銀河鉄道の父』は、賢治の父親・政次郎の視点から息子の賢治が語られていきますが、特に親目線で観ると感涙必至の感動作となっています。

役所広司と菅田将暉が演じる宮沢賢治親子の物語が新鮮

©2022「銀河鉄道の父」製作委員会

第158回直木賞を受賞した門井慶喜の同名小説を、役所広司や菅田将暉ら豪華キャストを迎えて映画化した『銀河鉄道の父』が5月5日(金・祝)より公開されました。タイトルを聞いてピンときた方も多いのではないかと思いますが、本作は宮沢賢治とその家族にまつわる家族愛を紡いだ作品です。

©2022「銀河鉄道の父」製作委員会

興味深いのは、主人公が賢治ではなく父親の宮沢政次郎であるという点です。なんといっても、役所さん演じる政次郎パパの親バカぶりが最高!そんな前のめりな父性愛を一身に浴びて育つ賢治ですが、親の想いなんてどこ吹く風という感じの我道を行く青年(菅田将暉)に育っていきます。

やがて人の心をふるわせる名作を書きあげることになる賢治ですが、そこに至るまでには紆余曲折があり、心に染みる家族との交流もあったよう。また、本作には賢治が手掛けた作品の誕生秘話も語られつつ、作品の世界観もフィーチャーされていく。ヒューマンドラマでありながら、ファンタジーの色付けも入った味わい深い映画に仕上がっていました。

明治の男とは思えないイクメンだった宮沢賢治のパパ

©2022「銀河鉄道の父」製作委員会

『八日目の蟬』(11)や『ファミリア』(23)の成島出監督がメガホンをとった本作。成島監督が舞台挨拶にて、原作を読んだ時に感じた政次郎の印象について「お父さんは厳しい人という定説があったけど、親バカで、イクメンのはしりみたいな人で、ガツンときて、読み終わった瞬間、これはどうしても映画にしたいと思いました」と語っていました。確かに政次郎パパは、明治時代の男とは思えないほど子煩悩でイクメンだったようです。

富裕の質屋を営む家長なのに、賢治が赤痢で入院すると、仕事なんてそっちのけで息子の病院に押しかけ、かいがいしく自らが賢治の世話をすることに。もちろん父の喜助(田中泯)からは「息子の看病なんて男子のやることではない」と叱られましたが、政次郎は「医者になど任せられるか!」と聞く耳を持ちません。挙句の果てに、賢治が全快後、今度は政次郎が腸カタルで入院する羽目になってしまうというトホホぶりです。

©2022「銀河鉄道の父」製作委員会

こうして政次郎が手塩にかけて(!?)育てあげた賢治ですが、なんと長男なのに家業を継ぐことを拒否します。進学したいと言い出した賢治ですが、政次郎は自分も喜助から、質屋を営むのに勉学は必要ないと言われていたので諦めさせようとしますが、妹のトシ(森七菜)からの説得もあり、そこはしぶしぶ認めます。

ところが賢治はその後も人造宝石や農業、宗教など、好奇心の赴くまま、いろいろなものにのめり込み、事あるごとに政次郎が金を工面していくことに。「親の心、子知らず」とはこのことですが、やはり政次郎は賢治に対してとにかく甘かったようです。

ですが、若いころの政次郎と喜助、賢治と政次郎という、父と息子ならではの無骨で不器用なやりとりが幾層も描かれていくことで、次第に琴線を揺さぶられていきます。なぜなら親子の愛にはぶれがないから。

©2022「銀河鉄道の父」製作委員会

賢治は、一番の理解者だった妹のトシのために、物語を書いていきましたが、やがてトシは結核に倒れ、この世を去ります。「トシがいなければ、物語は書けない」と失意のどん底に突き落とされた賢治を激励し「自分が宮沢賢治の一番の読者になる!」と彼を奮い立たせたのも政次郎でした。

今でこそ、教科書に必ず登場する宮沢賢治の作品群ですが、最初に世に出された頃は鳴かず飛ばずだったとか。その才能がきちんと世間に認められたのは賢治の死後ですが、そこに至ったのは、賢治の文才だけではなく、政次郎やトシなど、家族による陰のサポートも大きかったことが、映画を観るとひしひしと感じとれます。

宮沢賢治の作品が今の時代に訴えかけるメッセージとは?

©2022「銀河鉄道の父」製作委員会

本作では、病床のトシのために書いた童話「風の又三郎」や、トシが亡くなった日について書かれた詩「永訣の朝」、賢治とトシがモデルになったと言われる「銀河鉄道の夜」など、様々な作品の誕生秘話や関連エピソードなどが雄弁に語られる点も非常に興味深いです。

©2022「銀河鉄道の父」製作委員会

この作品には賢治のこういう想いが投影されていたのかと、その舞台裏を知れば知るほど、胸が熱くなります。特によく知られている詩「雨ニモマケズ」のエピソードが秀逸で、そこには賢治の汚れなき魂が投影されていて、その崇高さに涙を禁じえません。きっと映画を観終わったあと、この詩との向き合い方が変わるかもしれません。それほど、今の時代にも響くメッセージがじわじわと伝わってきます。

映画を観終わると、なぜ宮沢賢治の作品が時代を超えても愛され続けてきたのかが、手に取るようにわかるし、彼を支えた家族の大きな愛の尊さもかみしめることになります。

きっとパパママ世代だけではなく、未来を担う子どもたちにも、何か大切な価値観を見せてくれそうな本作。ぜひGWに劇場へ行って、家族で鑑賞していただき、アフタートークも楽しんでいただきたいです。

『銀河鉄道の父』は5月5日(金・祝)より公開中
監督:成島出 原作:門井慶喜「銀河鉄道の父」(講談社文庫)
出演:役所広司、菅田将暉、森七菜、豊田裕大/坂井真紀/田中泯……ほか
公式HP:ginga-movie.com

文/山崎伸子

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