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娘の食物アレルギーをきっかけに、発酵食の良さに気づいた
−–発酵食スペシャリストである岸さんが発酵食に興味をもったきっかけを教えてください。
「きっかけは、娘の食物アレルギーです。アトピー性皮膚炎も深刻で、薬に頼る生活に悩んでいて……。食べられない食品が多かったので食べ物選びには本当に気をつけて育てている中で、“どうしたら、薬に頼らないで幸せに生きていけるだろうか”と真剣に考えました。
その悩みと向き合ったことが、免疫の勉強につながることに。なんと免疫の7〜8割は腸内環境が鍵を握っていて、腸内環境を整えることで免疫力が高まることを知りました」
腸内環境を良くするためには、発酵食が欠かせない
–−腸内環境を整えるというのは、どういう状態のことなのでしょうか?
腸内環境を整えるというのは、つまり、腸内細菌と共生するということです。
腸内細菌は、食べ物を分解して体に取り込んだり、栄養素を生成・吸収したり幅広い役割を担ってくれる仲間です。善玉菌を増やすのはもちろん、多様性を高めることも大事なんです。
そこでおすすめなのが、発酵食を摂取すること。世界的に見ても、日本は発酵大国です。みそや納豆、漬物、酒、みりん、醤油、酢など、昔から日本人になじみの深い発酵食品が豊富にあります。暖かくて湿気の多い日本の気候は、有用なカビや菌の種類が豊富。
発酵食品は、さまざまな善玉菌を増やしてくれるし、発酵大国の日本には、優れた発酵食品がたくさんある。これを活用しない手はありません!
発酵食は、風邪予防だけでなくメンタル安定にもつながる
–−子どもにとっても発酵食は良い効果が期待できますか?
はい、子どもの頃から腸内環境を整えることはとても大事です。だいたい5歳くらいまでに一通りの腸内環境が形成されると言われています。子どもの時に腸内環境が整えば、その後の体力や消化力、免疫力の下支えになります。
–−発酵食が子どもの体だけでなく「心も整える」といわれるのはなぜですか?
緊張した時に、お腹が痛くなったりしますよね。とくに子どもは、自信がない時にはお腹の調子を崩したりしがちです。脳と腸は神経回路を通して密接に関係していて、それを脳腸相関といいます。
腸内環境がいいと、脳でセロトニンが生成されるので、”前向きな気持ち”、”やる気”、”明るさ”といった気分が作られてメンタルも安定します。内側から元気になって健やかな状態でいられるというわけです。
人間だけではなく多くの生物において、初めにできる臓器は腸なんです。それくらい腸は重要で、子どもの頃から腸内環境を健全にしていくことは一番の投資になります。
子育て家庭にいちばんおすすめしたい発酵食品は味噌
–−子育て中の家庭でいちばんおすすめの発酵食品を教えてください。
毎日の食事にいちばん使いやすいのは味噌(みそ)。市販の味噌を購入する場合には、添加物などが入っていないものを選んでください。味噌は、豆・麹・塩でできているので、本来なら原材料の表記はこの3つだけです。
できれば味噌は手作りがいちばんおすすめです。手作りすると、食品添加物を使わなくて済みます。さらに、手にいる菌もブレンドされるので、自分に合った味噌が醸されていくんです。家族や友達で作ればその分、菌の多様性も生まれて腸内環境にもすごくいいんです。
年に一度の味噌作りを恒例行事にして、大人も子どもも一緒に作ってみると楽しいですよ。子どもは、そもそも善玉菌を多く持っているので、子どもと一緒に作った味噌は豊かな味わいに発酵しておいしくなっていきます。
––一度作ったらそのまま置いておくだけでOKですか?
はい。でも、生きているので際限なく発酵が進みます。そのため、止めどきを見極めましょう。常温熟成期間が終わったら味見をして、発酵がちょうど良いと思ったら味噌を冷凍庫へ入れます。味噌は冷凍しても固まりませんし、冷凍の方が発酵が進むのを抑えられます。手作り味噌は味わい深く出汁は不要で、お湯を注ぐだけでおいしいお味噌汁が手軽に完成します。
––やってみたくなりますが……豆を水でもどして茹でるの、大変ですよね?
そこは、省略しても大丈夫。茹でた豆を買ってきてもいいので、味噌づくりだけはやってみてほしいですね。味噌は、漢方でも上薬に位置付けられていて、毎日飲んでOKな健康お守り薬とされています。一回の味噌づくりで、長く家族で使えて健康を維持できますよ。一度トライしてみてください。
発酵食スペシャリスト・岸さんも実践する、発酵食の取り入れ方
岸さんのご家庭では、どのように発酵食を普段の食事に取り入れているのでしょうか。味噌の毎日の取り入れ方、初心者にもおすすめの漬物、調味料としての活用法、手作り派の自家製甘酒とヨーグルトなど、楽しみながら発酵を取り入れるアイデアを教えていただきました。
味噌の上手な取り入れ方
「味噌は味噌汁に使うもの」と思いがちですが、使い方次第でお子さん一人で作れる軽食に、少量で料理の隠し味に、漬物にも使えて楽しみ方がぐんと広がります。
⚫︎マグカップ味噌汁
マグカップに味噌をスプーン一杯、青さを入れてお湯を注ぐだけ。これだけで、ミネラル、塩分、タンパク質、食物繊維が摂れます。干し野菜や糸寒天などをプラスしたら腹持ちの良い軽食になります。
⚫︎コク出し味噌
お料理に少し加えて、風味やコク出しにも使えます。お菓子に合わせても深みが増しますよ。
⚫︎豆腐の味噌漬け
硬めの豆腐の表面に味噌を塗って、ジップ付きプラスチックバックに入れます。翌日には味が染みて、そのまま食べても立派な一品に。手軽で美味しくておすすめ。
ぬか漬けよりずっと手軽に
美味しい野菜の食物繊維、栄養をしっかり摂ることができます。
⚫︎岸家特性 三五八漬け
塩3 : 麹5 : 蒸米8の割合で床を作って漬ける三五八漬けは、ぬか漬けより食べやすいので、一度試してみてください。好みのお野菜を漬けると甘みが出てきます。卵を漬けてお弁当にプラスしてもいいですね。
万能調味料として取り入れて
発酵食を調味料として活用することで、栄養豊富で美味しい味わいに。
⚫︎塩の代わりに塩麹、醤油の代わりに醤油麹
普段使う「塩」を「塩麹」に、「醤油」を「醤油麹」に変えるだけでも、味の深みが出てくるそう。例えば、塩麹に胡麻ペーストを合わせるとそれだけで野菜スティックがいくらでも食べられちゃいます。
自家製かぼちゃ甘酒、豆乳ヨーグルト
甘酒からヨーグルトに至るまで、自家製の発酵食生活を送る岸さん。うまみが足される、こだわりメニューの一部をご紹介します。
⚫︎かぼちゃ甘酒
かぼちゃ甘酒は、おかゆと米麹で作るスタンダードな甘酒をアレンジしたもの。お粥の代わりにかぼちゃペーストを使います。発酵器があれば簡単に作れます。
⚫︎豆乳ヨーグルト
ヨーグルトも発酵器で簡単に手作り。豆乳と乳酸菌(もしくは市販の無糖ヨーグルト)を入れてスイッチを押すだけ。
発酵食で、家族が元気でいられる心と体づくりを!
発酵食の魅力を発信する岸さん。家族旅行の先々で日本各地の名産物の「お酢」を買い集めたり、味噌蔵や酒蔵を訪ねてお話を聞くのも楽しみだとか。“発酵大国日本の、その土地ならではの発酵食品に出会えるおもしろさ”があると教えてくれました。
毎日の食事づくりが面倒に感じることもありますが、岸さんは「とくにお母さんたちは罪悪感を持たないことがストレスを溜めないコツ」だといいます。
こちらは岸さんが見せてくれたある日の朝ごはん。
「ドレッシングがわりにした味噌やお湯を注ぐだけで完成の味噌汁など、発酵食品を手軽に取り入れています。腸内環境が整えば、心も体もご機嫌に過ごせるはず。でも、何よりも一緒に楽しくご飯を食べることが一番だと思います」と話してくれました!
体も心も元気にしてくれる発酵食。岸さんのお話を参考に、日々の食生活で上手に取り入れていきませんか。
2月に開催!発酵体感ワークショップで味噌づくりに挑戦してみよう
岸さんと味噌づくりを体験できるワークショップが、2月22日(土)に開催されます。
おいしく楽しく健康に!発酵体感ワークショップ
味噌とにごり酢にフィーチャーして発酵の魅力を体感できるワークショップです。にごり酢を使ったドリンクを飲みながら、<麹菌><酢酸菌>などの発酵菌たちがどんな仕組みで食べ物をおいしくし、保存性や栄養価を高めてくれるのか、どんなウェルネスな効果を私たちにもたらしてくれるのかについて学び、最後に皆で一緒に仕上がり量 約1.8Kgの味噌を仕込みます。
イベント概要
日 程:2025年2月22日(土) 13:00~ ※15:00過ぎ終了予定
会 場:LIFULL TABLE 東京都千代田区麹町1-4-4 1F
講 師:岸紅子 発酵食アドバイザー・味噌ソムリエ
参加費:一般 ¥8,800(税込)/HBA会員 ¥6,600(税込)
※受講費と味噌仕込みの材料費を含みます
※お土産付
教えてくれたのは…
岸 紅子(Kishi Beniko )自身や家族の闘病経験をもとに、2006年にNPO法人日本ホリスティックビューティ協会(HBA)を設立。多数の美容・健康・医療関係者とともに女性の心と体のセルフケアの普及につとめ、資格検定や人材育成を行う。また、自らも自然治癒力や免疫力を引き出すためのウェルネス講座を幅広く実施。
環境アクティビストとしても、ライフスタイルを通じた人にも地球にも優しい循環アクションを多く提言している。
お話を聞いたのは…
- ケーキデザイナー、芸術教育士。フランスと日本で製菓を、京都芸術大学大学院で芸術を学ぶ。子どもとママのための製菓クラスやワークショップ「My little days」を主宰。子どもたちの興味や感性に寄り添う独自の世界観から提案している。かたわら、ウェディングやパーティ用のお菓子制作、雑誌やテレビ、Webなどで幅広く活躍。著書に「メレンゲのお菓子 パプロバ」(立東舎)「不思議なお菓子レシピ サイエンススイーツ」(マイルスタッフ)「太田さちかのサイエンススイーツ 魔法のおやつをめしあがれ」(文化出版局)などがある。
撮影/五十嵐美弥(小学館)