フォークやお箸を使えるのに手づかみで食事をする4歳。食事のマナーどう教えたらいい?
4歳の男児です。どうしても手で食事をします。お箸やスプーン、フォークも使えるのですが、気づくとご飯やおかずを手で食べています。ミカンなども手でむいて食べるのですが、指先で押して汁を出したりしてあそんでいます。どう声かけをしたらいいのでしょう。食事のマナーを教えたいです。
面倒で手づかみになっているのかも。いつまでも続かないから大丈夫。急かさないで見守って
使えるのに使わないのは面倒くさいからじゃない?指先が器用なのですね。道具は思うようには動かしにくいものではありませんか? 箸で小さい豆をつかむのは大変です。フォークで刺すのよりも、指だったら案外スムーズにつかめるでしょう? だからついつい手が出てします。
人間、昔から誕生の仕方は変わっていません。おぎゃーと泣いて、おっぱいを吸うという二つの力を持って生まれてきます。それだけが生きる力です。だんだん成長するにつけて色々な能力が育っていきます。ついつい人間らしくなってくると、いろんなことを要求してしまいます。ちゃんと話しなさい、靴を履きなさい、手を洗いなさい……大人の常識で子どもをしつけます。
でもね、私は急がせないでいいのではと思っています。大人の常識、子どもへ要求は年々多くなり、子どもがスピードを上げて育てられている気がするのです。暮らし方が高度になってきたために、心身が発達するより、道具を使いこなすことを要求されている気がするのです。
例えば、ハサミを使う年齢が早まっている気がします。指で穴を開けたり、ティシュを指で挟んでどんどん出したり、紙をやぶったりかじったりしながら、手先が発達した頃に、もっときれいに切るためにハサミという道具を使う知恵と技がでてくる。ハサミを発明した人も、きっと折って筋をつけてなめて直線を切るという工夫の後に、思いついた道具なのではないかしら? 推測ですがね。
自分で工夫をする機会がないから、ハサミは使えるのに、紙を破くことができない子も
必然性があって道具が誕生します。便利です。どんどん普及します。当たり前に使うものになります。で、子どもは手が未発達なまま、ハサミの使い方を先に教えられてしまい、反対に紙を破るという行為ができないのです。
私が保育者になったばかりの50年前は4歳児でハサミの使い方を教えた記憶があります。今では2歳児から使わせているようです。時代と共に早くなっているもの、遅くなっているもの、不用になっているものがあります。仕方がないとも言えますが、そのことで工夫する力や、あそび心が貧しくなりつつあるとも言える気がします。
ハサミがないから切れない! お箸やスプーンがないから食べられない、ミカンを潰すと汁が出てくるおもしろさなんて知らない。手を出せば水が出る時代、ボタンを押せばお風呂が沸く時代、どんどん訳がわからないまま、自分の身体での工夫をしないまま育っていく子どもたち。
質問に戻りましょうね。お子さんは、お箸やフォーク、スプーンを使えるのに使わない。きっと面倒くさいんです。気持ちに直結している我が手のように道具はいかないのです。だから、もどかしくて、手になってしまう。そのうちおとなのように手と同じように道具が直結してきます。
マナーは口うるさく言ったからといって身につくものではありません
もしかしたら園では手づかみではないかも? 年長児ともなれば、手で食べているのは「赤ちゃんぽい」です。大きくなることを誇りに思っている連中には、プライドがありますから、箸を使っているかもしれません。これも子どもにとっては必然性なのです。いいじゃないですか!家では無理のない自分のまんま。ミカンを手でむけるなんて最高! 今や房にしないと食べようとしない子だっています。さらに好奇心で指で潰してみたら、ピュッと汁が出た!飛んだ!顔に掛かった!でも、おいしい!自分に合ったスピードで育っているいい子だと思いますよ。
親としては恥ずかしくないマナーをと思うのでしょうけれど、そろそろ外面を心得る時期です。人の家でミカンを潰したりはしなくなります。親としては「それで遊ばない!」「スプーン使って!」と言わざるをえないでしょう。子どもが萎縮するほど強要しなければ、子どもはちゃんと聞き流しながら自分のやり方でいくでしょう。親も顔を背けて見ぬ振りしながら、つぶやいてください。マナーは口うるさく言ったから身につくものではなく、両親や友だちの姿を見て自然と身につけていくものだと思います。いつまでも今のままではありません。ぜったい大丈夫です。
記事監修

保育者。自主幼稚園「りんごの木」代表。子供の気持ち、保護者の気持ちによりそう保育をつづけて半世紀。小学生ママ向けの講演も人気を博している。ロングセラー絵本『けんかのきもち』(ポプラ社)、『こどものみかた』(福音館書店)、『あなたが自分らしく生きれば、子どもは幸せに育ちます』(小学館)など、多数。親向けの最新刊に『保育歴50年!愛子さんの子育てお悩み相談室』(小学館)がある。
構成/Hugkum編集部 イラスト/海谷泰水