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通っていた私立小学校との相性が合わず、中学受験に挑戦することに
――ご長男は大学付属の私立小学校に通われていたそうですが、中学受験をしようと思ったのはどうしてなのでしょう?
Kさん(以下K):入学したときから長くても在学は高校までで、大学は他校へ行こうと考えていました。中学校へ進学するタイミングである程度の割合で他校へ進むという学校でもありましたので、小学3年生の終わりごろからなんとなく中学校の情報収集を始めていて、周りも塾に行くお友達が増え出した小学3年生の夏頃に大手の塾へ通い始めました。
そんな中、本気で中学受験をしようと思ったのは、小学5年生ごろから息子と担任の先生との相性があまりよくなかったことがきっかけでした。息子が学校の方針に疑問を投げかけたときに、先生がそれにしっかりと答えずに、一方的に抑えつける感じがあったようです。

例えば、コロナが落ち着いてからしばらく経っても給食を黙食するようにさせられていたことに、息子が疑問を投げかけたときも、納得のいく説明をしてくださらないまま「言うことを聞きなさい」という感じでした。そんなことが繰り返されているうちに、小学4年生の終わりごろ、「中学受験をして外部進学したい」と息子から言ってきたのをきっかけに本格的に中学受験を検討することになりました。
――息子さんはとてもしっかりとした考えがあって、探求心も強いお子さんなんですね。
K:自分が納得いかないことは、結構ぶつけるタイプなんですよね(笑)。高学年になって、だんだんと反発しがちな年齢になってきたこともあると思うんですが。
でも、その小学校を選んだ動機は「個性を大事にする」「探求心や思考力を育む」といった教育理念にシンパシーを感じたからなんです。実際、そうしたポリシーをもって接していただいたのですが、高学年になるにつれて息子と学校とのやりとりを見ていて、親としても疑問が湧くようになり、このまま内部進学をしてもよいものか悩んでいました。なので、息子の言葉を聞いたとき、「じゃあ、中学受験をしよう」と心が決まりました。
授業内容や指導方針が魅力的な小規模塾へ転塾
――なるほど。それからは、どんな風に準備をなさったのでしょう。塾には通っていたんですよね。
K:じつは、最初に通っていた塾は1年足らずでやめて転塾したんです。入塾テストにパスして入った大手塾だったのですが、低学年からかなり中学受験に向けてバリバリ勉強をする方針で、どちらかというと偏差値主義で、帰宅するのも21時ぐらい。当時は、まだ本格的に受験を考えていませんでしたので、この状態はバランスがよくないと思い、小学4年生の夏期講習が始まる前に、自宅近くの小規模塾に転塾することにしました。
その塾は、中学受験をする子もしない子も通っていて、中学受験を塾側から推してはこないタイプの塾でした。塾長からも「中学受験だけがすべてじゃない」と最初にお話をしてくださって、「子どもの個性に沿って指導をする」という方針に好感が持てました。

K:最終的には、授業内容が決め手になりました。入塾前に息子が体験授業を受けたのですが、黒板に書いて解説して問題を解くだけでなく、理科は実験を行って学ぶといったワークショップ的な授業も行っていて、授業を受けたあと、すぐに「ここに行きたい」と息子が言いました。おかげさまで、その塾に通いながら中学受験をし、現在も通っています。大学受験まで面倒を見てくださる塾なんです。
親子で学校を見学し、自主性・自由をポイントに志望校を決定
――それは安心ですね。ところで、受験をすると決めた以降はどのように準備をしたのでしょうか? 学校の情報収集はどのように行いましたか?
K:まず、息子と近所の都立中高一貫校へ見学に行きました。楽しそうだと思いましたが、もっと多くの情報を得たいと思って、4年生最後の春休みに、新聞社が主催している合同説明会へ息子と行き、そこで20校ぐらいの資料を収集。そのまま2人でカフェに入って資料を見ながら話し合い、気になる学校を選別して見学や学園祭へ行く学校を決めていきました。
10校程度を見学し、志望校を7校に絞る
――行動が速くて的確ですね。実際には何校くらい行かれたのでしょう?
K:6年生になるまで含めると、個別の説明会に行ったのは10校ぐらいだと思います。
――その中で、実際は志望校をどの程度に絞られましたか?
K:出願をしたのは1月受験の埼玉の学校を2校。2月受験では、合否の結果で受験が延びることも考えて東京の学校を7校に絞り、まずは2月1日、2日に受験する4校に出願しました。
――そうした計画を立てるにあたっては、塾の先生などに相談をなさったのでしょうか?
K:いいえ、息子が通っていた塾は、各家庭の自主性に任せる形で細かく一緒に受験校を決めるような感じではありませんでした。けれども、私どもの方から「ココとココを考えているのですが、無理ないでしょうか」などと具体的に尋ねると、答えてくださる感じで、「私立と都立を併願をするのはやめておいたほうがいいんじゃないか」とか「そこまでレベルを落とさないでいいんじゃないですか」などといったアドバイスなどはいただけました。
「自由な学校がいい!」本人の希望で志望校を決定
――志望校は最終的にどのようなポイントで決められましたか?
K:まず、息子の性格に合うと思われる「自主性を重んじて自由な」校風の学校をセレクトしました。中でも、男子校を第一志望校にしたのは、本人が見学後に「ここに入りたい!」と言っていたのと、見学の際の息子のテンションを見ていて男子校が合っていそうだと感じたからです。親としては息子の意志を第一に優先して、志望校を決定しました。
志望校専門コースへの通塾、過去問対策を徹底
――志望校を決めてからの受験対策は、どのようなことをなさいましたか?
K:第一志望校を決定してからは、これまでの塾へ通いつつ、新たに6年生の夏から「早稲田アカデミー」の志望校別専門コースへ週1回通っていました。また受験直前の11月から1月までは、一番苦手だった算数を強化するために個別指導の塾にも通いました。
――家庭では、どのような態勢で臨んでいらっしゃったのでしょうか?
K:過去問に取り組むスケジュールシートを作って、冬からは塾と家庭で過去問を毎日解いて、その得点を記録し合格最低点に届いているかどうかなどのチェックをしていました。受験までに第一、第二志望校は10年分、その他は2~3年分を解きました。

――それはスゴイですね。とてもしっかりとご家庭で取り組んでいらっしゃると思います。
K:いいえ。うちはさほどサポートしていないと思います。過去問の丸付けや解説は、塾の先生にお願いしていましたし。友人に聞いたり、ブログやSNS情報を見たりすると、もっと細かな予定を組んで臨んでいる家庭がいらっしゃいましたが、私はそこまで管理できない性格なのと、息子からもそこまで干渉されたくないという空気を感じていました(笑)。
気を付けたのは「親の流儀で子どもに教えないこと」
――家庭学習をする際に気を付けていたことはありますか?
K:塾の先生から「過去問をご家庭で解くのはいいですが、その際、お母さんやお父さんが自分流の解き方で息子さんに教えるのはやめてください。わからないときは、必ず付属の解説を基に、そこに書かれた解き方をかみ砕いて説明する形で関わるようにしてください」と言われましたので、それを念頭に家庭学習は進めました。
息子が第一志望にしていた学校は、答えを導くまでの計算式や説明文を書かせて、その過程や内容に対しても加点されるため、答えだけを書いたり、小学生として適切ではない解き方を書いたりしてしまうと加点がされないといった弊害があったのです。
もともと勉強は得意だったのに徐々に成績が下がり…
――6年生の夏は、きっと受験勉強に費やされたことかと思います。秋以降は順調でしたか?
K:それが、あまり調子があがらなくて。勉強量や勉強方法について私が息子と口論することも多くなったんですよね。
というのも、模試の結果が散々で第一志望校の合格率は20%未満になってしまったんです。もともと息子は勉強がわりと得意なタイプでしたので、5年生くらいまでは模試の成績も良くて、苦手な算数ですら上位にいたんです。でも、6年生にもなると他の子どもたちも力を付けてくるので、徐々に順位が下がってきたんですよね。それにもかかわらず、息子は私から見ると平然としていて、隠れてゲームをしたりダラダラ勉強をしたりしていて、それを注意すると「模試は模試。本番じゃないんだから」というような口答えをしてくるわけです。そんなこんなで、親子で口ゲンカが繰り返される日々が多くなっていきました。
それが頂点に達したのは、夏期講習後の秋に受けた模試でも、成績が伸び悩んだ頃でした。息子としても、すごく頑張ったのに結果が出ず、「もう嫌だ」と弱音を吐いたり荒れたりすることがたびたびありました。

――息子さんの頑張る姿を見ているだけに、お母さまもつらいですよね。
K:ええ。でも、「じゃあ、受験やめる?志望校を変える?」と言えば、「嫌だ」と息子は言うわけです。だから私も「じゃあ頑張るしかないよね」と諭したり、叱ったり。対してまた息子も何か文句を言いながら仕方なく勉強に向かうといった感じで雰囲気の悪い時間も増えました。
――息子さんの前で平然としているのは、大変だったのではないですか?
K:そうですね。息子の前ではいっさい口には出しませんでしたが、第一志望を変えたり、併願校をもう少し幅広く考えたりした方がいいんじゃないかとか、悶々として、いろんな学校の見学に行っては情報を集めていました。実際、偏差値に関わらずとても素敵な学校がたくさんありましたので、私は受験が続いた場合を考えて備えていました。結局志望校は下げずに、最初の希望を貫いたのですが――。
――着々と中学受験への準備を進めていますが、成績が伸び悩んだようです。そんな中、いよいよ受験が迫ってきます。後編では、その後、K家の中学受験がどうなったのか、受験が終了するまでのエピソードをお伝えします。
【後編】まさかの1月受験は全滅…御三家中学合格までの紆余曲折をチェック

取材・文/山津京子