料理は脳の発達に適したお手伝い! 4歳からの前頭前野の使い方が脳の発達に大きく関係【発達障害の子が輝くお手伝い療育】

この連載では、発達障害のある子どもの療育に長年携わってこられた言語聴覚士・社会福祉士の原 哲也先生が、家事のお手伝いを通じて行う療育をご紹介します。子どもの自尊心を育てながら、家族も喜ぶ「お手伝い療育」。今回のテーマは「ピザづくり」です。

料理は脳の発達に適している

このコラムではこれまでに3回、お料理のお手伝いを紹介してきました。実は料理のお手伝いは脳の発達にとてもよいのです。例えば、包丁でにんじんを切って「にんじんのきんぴら」を作るお手伝いでは、

・にんじんを見ながら包丁を動かす(視覚、目と手の協力)
・にんじんや包丁の温度、にんじんの表面のざらざら感を肌で感じる(触覚)
・包丁を動かすために両足でバランスを取りながら、にんじんを固定し、指を切らないように包丁を動かす(平衡感覚、固有感覚)
・「左手でしっかりにんじんを押さえてね」など大人のことばを聞く(聴覚)
・炒めたにんじんのにおいを感じ(嗅覚)、味見で味を感じる(味覚)

といった感覚を使うためです。

同時に、料理の段取りを頭に入れ、時間を見ながら作業することや、大人と一緒に料理をする喜び、食べてもらう喜びを感じることもあります。このように、料理の手伝いをするとき、子どもは五感すべてと感情と思考力をフルに使っています。

調理中の脳活動を計測した実験でも、調理中は脳の広範囲が活発に活動すること、特に、「前頭前野」が強く反応することが明らかになっています

大阪ガス・東北大学未来科学共同研究センター川島隆太教授との共同実験「調理による脳の活性化の実験」(2004年~2006年) 参照

「前頭前野」の働きとは?

さて、ここで出てきた「前頭前野」は、前頭葉(額の内側)の前方部分にあって大脳皮質の約30%を占めます。運動制御から思考や判断、創造、記憶、感情抑制、集中、社会性などに至る、人間らしい高次な精神活動の一切を司る重要な部分です。

「前頭前野」は人間らしい高次な精神活動の一切を司る

ワーキングメモリーや実行機能を司る

以前、ワーキングメモリー(情報を一時的に保持し、操作する能力)と実行機能(目標、プラン、計画遂行、行動調整をする能力)についてお話ししましたが(第7回フロアワイパーを使った掃除)、これらを司るのも前頭前野です。

料理のお手伝いでは、目標を立て、計画を練り、必要なら予定を変更し、ゴールに至る活動であり、実行機能を大いに使います。そして、鍋でお湯を沸かしながら材料を切るなど、複数作業を一度にすることが多いので、ワーキングメモリーを使う機会がたくさんあります。苦手なところは適宜、大人にフォローしてもらいながら料理をすることで、自然とワーキングメモリーや実行機能の経験を積むことができます。

社会性の発達

社会性とは、相手の立場や心理状態を想像して行動し、適切な人間関係を築き維持することができる力であり、これもまた前頭前野が司る能力です。

お料理のお手伝いをすると、大人と協力しながら作業して褒められる、わからないことを聞きながら作業をする、作った料理を家族に出して褒められる、などの経験を重ねることができ、それは社会性の発達につながります。

適切なタイミングで前頭前野を使うことが大切

ところで、脳神経細胞の数は妊娠期から生後数カ月で最も多くなります。脳神経細胞を維持するには多くのエネルギーが必要なので、生後8カ月ごろになると必要なネットワークを残して、それ以外の要らない神経結合(シナプス)は「刈り取られ」ていきます。

前頭前野での「刈り込み」は4歳ごろから始まり、思春期に急激に進み、25歳ごろまで続きます。その間、前頭前野で使われないものは刈り込まれ、必要な結合は必要な数だけ残すことで、その人にとってより機能的で効率的な、成熟した脳のネットワークが作られていきます。

4歳から25歳までの前頭前野の使い方が重要

ということは、4歳から思春期を経て25歳までにどのような経験をし、どのように前頭前野の機能を使うかによって、どんな脳が作られるかが決まる、すなわち、この時期にどんな体験をするかが子どもの幸せに非常に大きな影響を与える、ということなのです。

だからこそ、幼児期や思春期に、社会性、ワーキングメモリー、実行機能をはじめとした前頭前野の多くの機能をフルに使うように、多様な経験をさせてあげたいのです。

前頭前野を使うためには、留学させる必要も、幼少期から塾通いをさせる必要もありません。親子で料理を作る、その過程に、前頭前野を刺激する活動が詰まっています。親子で料理をして前頭前野を刺激する経験を積ませてあげましょう。

 第12回 ピザづくり

子どもも大人も大好きなピザを作りましょう!

今回は、スタンダードなトマトピザと、デザートにもなるフルーツピザの2種類を紹介します。

※ フルーツピザにははちみつを使用しますので、1歳未満の赤ちゃんにはお控えください

適応年齢

2歳~

期待できる効果

・明確な一定のルールを親が伝え、子どもは伝えを受け取るという学習経験
・熟達している親が丁寧に教えてくれることによる親への信頼
・実行機能を高める
・思考力が育つ
・道具を適切に使う経験を通して運動機能が育つ
・家族に喜ばれることで勤労意欲が育つ
・仕事を任せられることで責任感が育つ
・家族の役に立つ経験ができる

用意するもの

・ピザ生地(自家製でも、市販の冷凍ピザ生地など)
・打ち粉(小麦粉)

★トマトピザ

・トマトソース
(トマト缶、ケチャップ、塩少々、砂糖(小さじ2分の1)、好みで玉ねぎのすりおろし、ガーリックパウダー、オリーブオイル、乾燥バジル、オレガノ)
・ピザ用チーズ
・トッピング(トマト、ベーコン、エビ、シラス、ウインナーなど好みで)

★フルーツピザ

・クリームチーズソース
(クリームチーズ 100g、はちみつ 大さじ3)
・トッピング(イチゴ、ブルーベリー、ミカン缶など)

準備

ピザづくりの段取りを伝える(必要に応じてイラストで示す)。

ピザ生地作り

冷凍ピザ生地は所定時間解凍し、まな板など、平らなところに小麦粉(打ち粉)をして、手や麺棒で生地を伸ばします。大きく作ってもいいですが、小さくして何枚か作ると、具をいろいろ変えて楽しめます。

生地の生焼けが心配なときは、先に生地だけをオーブンやフライパンである程度焼いてからソースと具、チーズを載せて焼く方法でもよい。

ソースづくり

★トマトソース(トマトピザ)

耐熱容器にトマト缶1缶、ケチャップお好み大さじ2~3、塩少々、砂糖小さじ2分の1を入れ、ラップして電子レンジ500Wで5分加熱する。
お好みで玉ねぎのすりおろし、ガーリックパウダー、オリーブオイル、乾燥バジル、オレガノを入れてもよい。

★クリームチーズソース(フルーツピザ)

耐熱容器に室温に戻したクリームチーズ100グラムを細かくして入れ、はちみつ大さじ2~3を入れて少しかき混ぜる。クリームチーズが少し柔らかくなるまで電子レンジで加熱する。

トッピングをする

★トマトピザ

生地の上に、ピザソースを広げて塗り、その上にトッピング、ピザ用チーズを載せる。

★フルーツピザ

生地の上に、クリームチーズソースをまんべんなく塗り、フルーツを載せる。

ピザを焼く

200度~220度のオーブンで10分から15分焼く

オーブンやピザの状態(具の種類や生地がすでに焼いてあるか等)によって、焼き時間を適宜、調整する。

大人に留意してほしいポイント

具を載せるのは小さな子どもでもできます。自由に載せてもらいましょう。

「〇〇ちゃんの好きなのはどれ?」「パパは何が好きかな」などと声かけをして、自分や家族の好みを考えることに意識を向けるのもよいと思います。

子どもが一生懸命に生地を伸ばしていたら「素敵~」「頑張るね~」と褒める、具材を載せるときに考えていたら「よく考えてるね」、具材が決まったら「なるほどね~」と感心するなどを意識したいです。

フライパンやオーブンの操作を子どもがやりたがることがありますが、危険なことがあります。「今日だけ」の約束は子どもによっては難しく、別のときに触ってしまう心配もあります。そういう場合は、「これは、危ないから大人の仕事ね」と伝えることも大切です。

料理のお手伝いを、楽しい経験につなげて

できあがったピザを家族で食べるとき、お話ができる子どもならば、今日のピザのこだわりポイントや「(遊びに来た)おじいちゃんやおばあちゃんに食べてもらいたくて作った」などのことをお話ししてもらうのも、よい経験になるでしょう。

春は出会いの季節です。新しいお友だちを招いて、ピザパーティーなども楽しいかもしれませんね。

この記事を書いたのは

原 哲也|言語聴覚士・社会福祉士
一般社団法人 WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表理事。明治学院大学社会学部社会福祉学科卒業、国立身体障害者リハビリテーション学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダのブリティッシュコロンビア州の障害者グループホーム、東京都文京区の障害者施設職員、長野県の信濃医療福祉センター・リハビリテーション部での勤務の後、『発達障害のある子の家族を幸せにする』ことを志に、一般社団法人 WAKUWAKU PROJECT JAPANを長野県諏訪市に創設。発達障害のある子のプライベートレッスンやワークショップ、保育士や教諭を対象にした講座を運営している。著書に『発達障害のある子と家族が幸せになる方法』(学苑社)、『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)がある。

こちらの記事もおすすめ

発達特性のある子が苦手な「実行機能」。フロアワイパーを使った掃除で経験できる! お手伝いを通じて行う【発達障害児の療育】を専門家がレクチャー
発達障害特性のある子どもの多くが苦手とする「実行機能」とは? 実行機能とは「何かをやり遂げる力」です。勉強や日常生活動作、会話、家事な...

編集部おすすめ

関連記事