おとなの〝べらぼう〟な自由研究【浮世絵クイズ】江戸の暮らしや遊びゴコロを知って、プチ教養を誇る!

大河ドラマ『べらぼう』。ドラマでは、耕書堂が日本橋に移転後、蔦重こと蔦屋重三郎も大店の店主としてかなり貫禄が出てきました。歌麿の才能はいつ開花するのか、蔦重が見出した写楽はいつ登場するのか注目されています。

今回は浮世絵の世界をより楽しむために、『楽しく脳活 クイズで学ぶ浮世絵入門』から5つのクイズを取り上げます。歌麿の美人画、写楽の役者絵、名所絵に擬人画、判じ絵といった色とりどりの浮世絵クイズに挑戦して、背景にある江戸の暮らしや江戸っ子の遊び心に触れてみてください。

※この記事は『楽しく脳活 クイズで学ぶ浮世絵入門(藤澤紫 監修・小学館)』の一部より抜粋・再構成しています。

Q1 美人画に見る〝既婚者の証〟とは?

美人画は役者絵と並ぶ浮世絵の主要なテーマで、浮世絵の創始期から明治時代まで多くの絵師によって描かれました。女性たちの着物や髪形には最新のファッションが取り入れられ、美人画は同時に流行を生み出す役割も担いました。

『べらぼう』では蔦重の〝弟〟として重要な役割を果たす喜多川歌麿も、美人画で一世を風靡した浮世絵師。寛政年間(1789〜1801)に活躍した歌麿が描く美女たちは、遊女から評判の町娘、既婚女性まで幅広く、またそれまで主流だった全身像のほか、役者絵に先例のある上半身をアップした「大首絵(おおくびえ)」を美人画に用いて世間を驚かせました。大首絵にしたことで顔の表情やしぐさ、着物の着方や髪形の乱れなどを細やかに描くことができ、女性たちの色香や内面性も表現していたからです。

下の浮世絵は歌麿が描いた「大首絵」の一枚です。この恋する女性は実は既婚者です。さて、装いのどの部分から「既婚者」が推理できるでしょう。

「歌撰恋之部 物思恋」(部分)喜多川歌麿 寛政5〜6年(1793〜94)
ボストン美術館蔵 Photograph (c) 2025 Museum of Fine Arts, Boston 

答えと解説

剃り眉から既婚女性との推察が可能。

江戸時代、女性は結婚して夫や子どもができると眉を剃り落として描かないまま過ごしました。この剃り眉とともに島田崩しに結った髪から、描かれた女性はやや年かさの既婚女性とわかります。

夫も子もある身にとって、新旧の恋は「物思う恋」なのでしょう。既婚女性の身だしなみとしては、このほかに歯を黒く染める「お歯黒」もありました。

「歌撰恋之部」は、背景を紅雲母摺(べにきらずり)とした美人大首絵5枚揃のシリーズで、恋する女性の想いをしぐさや装いによって見事に描き出しています。

Q2 写楽のデビュー作、キラキラ背景の正体は?

東洲斎写楽は寛政6年(1794)5月、版元の蔦屋重三郎(蔦重)からデビュー。その後わずか10か月でこつぜんと姿を消した絵師です。

新人絵師は、版本の挿絵などで経験を積んだのち一枚絵を手がけるのが一般的でしたが、写楽はデビューの際に、いきなり大判錦絵の「役者大首絵」を28作も刊行。顔の特徴をリアルに描き、江戸庶民を驚かせました。

この浮世絵は、写楽のデビュー作、28枚のうち2作品です。インパクトのある役者の描き方だけでなく、28枚すべての背景には役者たちの姿がキラキラと際立って見える特別な細工が施されています。

その技法は何というでしょうか。次の中から選んでください。

  • 1.雲母摺(きらずり)
  • 2.空摺(からずり)
  • 3.ぼかし摺
『三代目瀬川菊乃丞田辺文蔵妻おしづ』東洲斎写楽
寛政6年(1794)東京国立博物館蔵 ColBase
『三代目大谷鬼次の江戸兵衛』東洲斎写楽
寛政6年(1794)東京国立博物館蔵 ColBase

答えと解説

1.雲母摺

「雲母摺(きらずり)」は、浮世絵版画を制作する摺師が用いる技法で、鉱物の雲母(うんも)の粉末を膠(にかわ)や絵の具と混ぜたものを用いて摺る技法です。写楽のデビュー時の大首絵の背景には、すべてにこの技法が使われています。

2の「空摺(からずり)」は現在のエンボス加工のような技法で、すべての色を摺り終えた後に、紙の裏側から押し込むようにして模様や強調したい物の形を浮き立たせます。

色の濃淡を変えることで生まれる3の「ぼかし摺」。「一文字ぼかし」と「あてなぼかし」があり、摺る枚数すべてにムラなく同じ調子でグラデーションをつける「ぼかし」には、熟練の摺師の技が必要でした。

Q3 どっちが最初に摺られたもの?

浮世絵版画は、一点物の肉筆浮世絵と異なり、同じ作品が手摺りで量産されています。そのため、できばえには多少の違いがありました。

一般に一日に摺れるのは200枚前後といわれていて、最初に摺られたものを「初摺(しょずり)」、その後、追加して摺られたものを「後摺(あとずり)」といいます。

「初摺」には、通常、色調やぼかし具合などに絵師の意向が反映されている上、彫りたての版木で摺るので線がシャープで色調も軽やかなため、作品の芸術性は最も高く表現されています。

一方、「後摺」は、必ずしも「初摺」に忠実に再現されませんでした。速く摺るために色数が少なくなったり、摺師や買い手の好みを反映して色調を変えたり、また摺るほどに版木が劣化するので仕上がり度合いに差がでました。

中には明らかに彫りが違うものもあり、これを「異版」と呼んでいます。版元の指揮のもと、絵師、彫師、摺師の力が合わさることで完成する浮世絵ならではの特徴といえます。

さて、下の2つの絵は歌川広重の代表作「東海道五拾三次之内」より、雪の蒲原を描いた初摺と後摺です。上の絵と下の絵、どちらが初摺でしょう。空に注目です。

「東海道五拾三次之内 蒲原 夜之雪」歌川広重 天保4〜5年(1833〜34) ともにメトロポリタン美術館蔵

答えと解説

下の絵

葛飾北斎とともに、風景画の達人として知られる歌川広重は、この「東海道五十三次之内」によって名所絵師としての地位を盤石なものとしました。江戸と京都を結ぶ東海道の宿場を描いたこのシリーズは、爆発的な売れ行きとなりました。

雪が深々と降り積もる寒村の夜の情景を描いた「東海道五拾三次之内 蒲原(かんばら) 夜之雪」は、異版がいくつかあることが知られています。

夜の空が上から下に向けて明るくなっていく「天ぼかし」という摺り方をしている版が初摺で、夜の空の下から上に向けて明るくなっていく「地ぼかし」という摺り方をしている版が後摺と考えられており、夜のイメージを強めるために意図的に「地ぼかし」に変更したのではないかという説があります。

なお、現実の蒲原にはこのような豪雪がみられることはないため、この絵は広重が創作した心象風景ではないかともいわれています。

Q4 金魚は何をしている?

戯画、美人画、名所絵など幅広いジャンルの作品を精力的に描いた歌川国芳。なかでも人気だったのが、大判紙3枚の絵で描いたダイナミックな武者絵と、巧みな筆致と機知に富んだ発想で描かれた戯画でした。

国芳が戯画を描いた背景には、老中・水野忠邦による天保の改革への反骨心があります。風刺を効かせた彼の戯画は、暮らしを抑圧されていた江戸っ子たちのストレス解消となり、拍手喝采を浴びました。

下はその国芳が描いた擬人画の代表作「金魚づくし」というシリーズ9図のうちの一作です。何をしているところでしょう?

  • 1.キセル売り
  • 2.シャボン玉売り
  • 3.ビードロ吹き
「金魚づくし・玉や玉や」歌川国芳 
天保(1830〜44)後期頃 東京国立博物館蔵 ColBase

答えと解説

2.シャボン玉売り

「玉や玉や」の売り声で知られた江戸の行商人、シャボン玉売りの様子を金魚に見立てて描いています。

金魚が吹いているシャボン玉は、水中に浮かぶ泡のようにも見えて、大きな口を開けて泡を吹く金魚の表情は実にユニーク。金魚の子どもたちやおたまじゃくし、亀の親子らが、シャボン玉売りを楽しそうに見守っています。

国芳は、大好きな猫をはじめ、身近な生き物を擬人化した絵を多数描きました。「金魚づくし」もそのひとつで、金魚たちの可愛らしい表情と人間臭いしぐさが絶妙に描かれています。

Q5 絵のなぞなぞ〝判じ絵〟から「東海道五十三次」の宿場名を当てよう!

浮世絵には、絵図による謎かけやパズルを解いたり、見て楽しんだりといった〝遊び〟にテーマを絞った作品も数多く存在していました。

種類も多彩で、人間や動物、自然の景物を寄せ集めて、文字や何かの形を表す「寄せ絵」や「文字絵」、言葉を絵で表現した「判じ絵」、影絵遊びができる「影絵」、さらには絵の上下を逆さにして眺めると全く違って見える「逆さ絵」などバラエティー豊か。

では、「判じ絵」にチャレンジしてみましょう! 下の4つの判じ絵は東海道五十三次のどんな「地名」を表しているかを読み解きましょう。「判じる」とは推理して考えるという意味です。

  • ヒント
  • イ)2冊の本+「は」の文字が4つ+濁点
  • ロ)「ぬ」の字の練習中だが、まだ下手(まずい)
  • ハ)頭のない魚+(竹の)皮
  • ニ)歯と逆さまの猫
「東海道五十三次はんじ物」(部分)歌川芳藤
嘉永元〜5年(1848〜52)国立国会図書館蔵

答えと解説

  • イ)日本橋(にほんばし)
  • ロ)沼津(ぬまづ)
  • ハ)神奈川(かながわ)
  • ニ)箱根(はこね)

「東海道五十三次はんじ物」より出題。少々難易度が高そうですが、ヒントをたよりに東海道五十三次の宿場に当たれば、わりと簡単に解ける問題です。

「東海道五十三次はんじ物」の絵師はQ4の歌川国芳の門人、芳藤。サイコロを振って遊ぶボードゲーム「絵双六」や、紙に描かれた絵を切り抜いて遊ぶ「着せ替え絵」や「両面絵」など、子どもたちの遊び道具「おもちゃ絵」を多く手がけ、〝おもちゃ絵よし藤〟と呼ばれました。

※ここまでは『楽しく脳活 クイズで学ぶ浮世絵入門(小学館)』の一部より抜粋・再構成しています。

楽しく脳活 クイズで学ぶ浮世絵入門

美人画、役者絵、名所絵、判じ絵など、ジャンルごとに作品の見どころや背景を学び、テーマに沿ったクイズを解くだけで浮世絵の見方がわかる入門書。じっくり見るとヒントがあるものから、雑学やひらめきで解くものまで全82問のクイズが掲載されています。

ジャンルごとに人気を博した絵師のコーナーも設け、歌麿、写楽、北斎、広重、国芳らの代表作から通好みの作品まで紹介。大河ドラマの主人公、敏腕出版プロデューサー蔦屋重三郎や、歴史や作り方など浮世絵の基礎知識などコラムも充実しています。

クイズで作品の謎解き方法や江戸の豆知識を学ぶことで、浮世絵の世界がぐっと身近になる一冊です。

監修/藤澤紫[小学館]1650円(税込)

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再構成/国松薫

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