大学の定員割れの現状
定員割れとは、募集定員よりも出願者の人数が少ない状態のことです。大学によっては、100人の定員を用意しているにもかかわらず、実際の入学者は80人に満たないといったケースも出てきています。
まずは大学の定員割れについて、調査結果をもとに現状を把握していきましょう。
国公立大学は入学定員超過
文部科学省の調査によると、2024年度の国公立大学の過欠員(入学者数-入学定員)は4,738人と入学定員超過でした。入学志願者数・受験者数・合格者数・入学者数の全てが、募集定員よりも多い状況です。
大学の入学枠は、学費が安い国公立大学から先に埋まる傾向があるため、国公立大学は定員割れが起こりにくいといえるでしょう。
私立大学の入学定員充足率は98.19%
私立大学は定員割れとなる学校が増えています。2024年度の私立大学全体の入学定員充足率(入学者数÷入学定員)は、98.19%で2023年度よりも低下している状況です。
また入学定員充足率が100%を下回り、定員割れしている私立大学が全体の59.2%と、2023年度の53.3%よりも上がっています。半数以上の大学で、定員割れとなっている厳しい状況です。
具体的にどのような大学が定員割れになっているのかもチェックしましょう。
出典:令和6(2024)年度 私立大学・短期大学等入学志願動向|日本私立学校振興・共済事業団
地方の私立大学ほど定員割れしている
入学定員充足率は地域によって異なります。2024年度に入学定員充足率が100%を超えており、定員割れしていないのは関東(埼玉・千葉・東京・神奈川を除く)・東京・大阪・福岡といった大都市圏のみです。
他の地域はいずれも100%を下回っており、定員割れしています。東北(宮城を除く)・中国(広島を除く)・四国は特に入学定員充足率が低く70%台です。
出典:令和6(2024)年度 私立大学・短期大学等入学志願動向|日本私立学校振興・共済事業団
入学定員充足率100%以上は実学・理系が中心
学部によっても入学定員充足率は異なります。2024年度に私立大学で入学定員充足率が100%を超えているのは、医学部・農学部・社会科学系・芸術系です。
2024年度の入学定員充足率が最も低いのは歯学部で76.44%でした。これは2006年から歯科医師国家資格の合格率が低下傾向にあり、志願者数の減少につながっていると考えられます。
また次に入学定員充足率が低い家政学部では83.78%でした。実学・理系志向で進学先を選ぶ受験生が増えていることから、家政学部を選択する人が減っていると考えられます。
出典:令和6(2024)年度 私立大学・短期大学等入学志願動向|日本私立学校振興・共済事業団
大学の定員割れの理由は?

地方の私立大学を中心に、定員割れする大学が増えています。ここでは大学が定員割れしている理由を解説します。
拡大し続けた定員
これまで大学の定員数は増加し続けてきました。1955年に11万3,000人だった国公立大学と私立大学の定員数は、2015年には58万9,000人に、2023年には62万8,000人になっています。
特に大きく定員数が増えたのは私立大学です。2023年には私立大学のみで定員数は50万人となっています。
少子化が始まった1990年代も、大学の定員数が増え続けたのは、1980年代に激しさを増した受験戦争を緩和する政府のねらいがあったためです。
少子化の進行
大学の定員数が拡大する一方、18歳人口は1992年の約205万人をピークに減少し続けています。2024年の18歳人口は、ピーク時の約半数である約109万人です。
少子化が進み18歳人口が減り続けている中でも定員数が増えており、定員割れする大学が増えています。
出典:人口推計(2024年(令和6年)10月1日現在)|総務省統計局
今後の入試はどうなる?

定員割れする大学が増えている中、入試はどうなっていくのでしょうか? 今後増えていくと考えられる年内入試や、入試で評価される能力について見ていきましょう。
年内入試による入学者数が増えている
年内入試とは「総合型選抜」「学校推薦型選抜(指定校制)」「学校推薦型選抜(公募制)」のことです。2024年度には、これらの年内入試に合格して大学へ入学した人の割合は51.1%(31万3,069人)と半数を超えました。
定員割れが出ている大学では、年内入試により早いタイミングで入学者を確保したいという意図があることも考えられます。このような大学の意向もあり、今後も年内入試に合格して大学へ入学する人の割合は増えていくでしょう。
ここでは年内入試の3種類の選抜方法について紹介します。
出典:令和6年度国公私立大学・短期大学入学者選抜実施状況の概要|文部科学省
総合型選抜
総合型選抜とは、大学が求める学生像に合う入学者を探すための選抜方法のことです。以前はAO入試とよばれていました。
総合型選抜を実施する大学では、受け入れる学生の基本方針や、学生に求める力などをアドミッションポリシーとしてまとめています。合格するには、アドミッションポリシーに合致していることはもちろん、意欲や熱意のアピールが欠かせません。
提出書類・小論文・面接などで、入学後に学びたいことや、受験する大学を選んだ理由について、積極的に伝える必要があります。
また出願は9月1日以降に始まり、合格発表は10月~11月上旬に行われることが一般的です。一般選抜より早いタイミングで選抜が始まるため、早期に志望校を定めておかなければ受けられなくなることも考えられます。
学校推薦型選抜(指定校制)
学校推薦型選抜(指定校制)は、高校ごとに推薦枠があるのが特徴です。一定以上の成績であることや、授業態度・出席日数・部活動の実績などが評価される校内選考で選ばれ、学校長の推薦を受けることで受験できます。
校内選考を通過すれば、原則として合格となる選抜方法です。
学校推薦型選抜(公募制)
同じ学校推薦型選抜でも学校推薦型選抜(公募制)では、校内選考を通過する必要はありません。出願条件を満たした上で、高校からの推薦を受けていれば誰でも受験可能です。多くの大学が、出願条件として、高校の評定平均が一定以上であることを定めています。
多様な能力を評価する動きが続く
「令和8年度大学入学者選抜実施要項」には「入試方法の多様化、評価尺度の多元化に努める」との記載があります。また私立大学はもちろん、東京大学や京都大学などの国立大学でも、総合型選抜や推薦入試は導入済みです。
このことから、ペーパーテストの結果で分かる基本的な学力だけでなく、多様な能力を評価して受験生の合否を判定する動きは、今後もさらに広がっていくと考えられます。
《まとめ》大学入試は今後の動向もチェック
少子化を背景に、定員割れの大学が地方の私立大学を中心に増えています。早いタイミングで入学生を確保するために、総合型選抜や学校推薦型選抜といった年内入試をより充実させていく大学も出てくるでしょう。
年内入試により大学へ入学する人の割合は、2024年度に51.1%と半数を超えています。文部科学省が発表している、多様な能力により合否を判断する方針にも合致するため、年内入試の重要性はより高まっていくでしょう。
ただし年内入試の選抜方法に関するルールを定めた要項にあいまいな点があることから、選抜方法を発表後に変更した大学も出てきています。今後も要項に変更が出ないとは限りません。今後の大学入試では、正しい情報を素早くキャッチすることもポイントです。
こちらの記事もおすすめ
構成・文/HugKum編集部