中学受験生に増える“受験うつ”「ミスが増える」「記述問題が解けなくなる」親が見逃しがちな“初期サイン”とチェックリスト 【受験特化・心療内科医監修】

「あんなにスラスラ解けていた算数の問題が、急に解けなくなった」「模試の結果を見て、つい感情的に怒鳴ってしまう」中学受験への挑戦で、親子ともに限界を迎えそうになる家庭は、少なくありません。日本初の受験専門心療内科「本郷赤門前クリニック」の吉田たかよし院長は、「受験うつは、誰にでも起こりうるもの」と指摘します。では、メンタルが落ちると、子どもの脳には何が起きるのでしょうか。受験うつの症状やよくあるケースについて、くわしく伺いました。

NHKアナウンサーから医師へ「受験専門心療内科」を志した原点にあった“幼少期の不安”

――吉田先生は東京大学を卒業後、NHKのアナウンサーを経て医師になられたという、非常にめずらしい経歴をお持ちですね。日本初の「受験に特化した心療内科」を立ち上げられた背景には、どのようなご経験があったのでしょうか。

吉田たかよし先生(以下、吉田先生):じつは私自身、子どもの頃からとても緊張しやすく、物事をネガティブに捉えやすい性格だったんです。常に不安を抱え、「自分で自分のことが嫌いだ」と思っていた時期もありました。

――意外です。ご自身の不安が、努力の原動力にもなっていたのでしょうか。

吉田先生:心配性な性格だったからこそ、勉強に打ち込めたという側面もあったとは思います。ただ、幼少期から不安が強く、人一倍努力はできる一方で、限界を超えると無気力になってしまう時期もありました。大学受験の際には受験うつのような状態を経験したこともあります。

本郷赤門前クリニック・吉田たかよし院長

吉田先生:社会人になってからは、NHK時代にアナウンサーとして、受験期の不安や大人の引きこもりをテーマにした番組制作にも携わりました。しかし、その中で、他人の言葉を伝える立場ではなく、「自分自身が専門的な知識を持ち、情報発信する主体になりたい」と考えるようになり、そこから医師の道へ進みました。

なかでも、多くの子どもたちが直面する大きな壁「受験」において、心と脳の両面から支えたいという思いは、自身の受験経験とも重なり、現在の活動の原点となっています。

ほとんどの受験生は「受験うつ予備軍」誰にでも起こりうる心の状態

――最近、中学受験生のメンタルが不安定になっているという話をよく耳にします。いわゆる「受験うつ」とは、どのような状態を指すのでしょうか。

吉田先生:まずお伝えしたいのは、「受験うつ」という単一の病名があるわけではない、ということです。不安が強くなる、物事をネガティブに捉えやすくなる、緊張にうまく対処できなくなる――。こうした「うつ的な脳の状態」になる受験生が、非常に増えています。

無気力・ケアレスミス・成績急落。それは「受験うつ」のサインかもしれない

――「受験うつ」に近づいている場合、子どもにはどのようなサインが表れるのでしょうか。

吉田先生:急に無気力になって塾に行きたがらなくなる、現実逃避のようにゲームに没頭する、「僕はもうダメだ」と泣きだす、これまで解けていた問題が解けなくなる──症状は、子どもによってさまざまです。

こうした状態が一定期間続いている場合、「やる気が足りない」「根性がない」わけではなく、心や脳が強いストレスにさらされている可能性があります。また、特に注意したいのは、これまで普通にできていたことが、ある日を境に急にできなくなったときです。心の負荷が限界に近づいているのかもしれない、と一度立ち止まって考えてみてほしいですね。

吉田たかよし先生著書『受験うつ(光文社新書)』より一部引用しHugKum作成

ふさぎこむ子、暴れる子…行動は違っても、心の中で起きていることは同じ

――“うつ”と聞くと、ふさぎこんでしまう状態をイメージする方が多いと思います。

吉田先生:メンタルが崩れると、ふさぎこんでしまう子もいれば、反対に暴れたり反発したりする子もいます。ただし、表面に見えているのはどちらか一方でも、その子が心の中で抱えている状態は「両方」であることが多いんです。

――「ふさぎこむ状態」と「暴れる状態」を、子どもが同時に抱えているということでしょうか。

吉田先生:そうです。目に見える行動としてはどちらかしか表れていなくても、実際には「落ち込み」と「怒り」の両方を抱えていることが多いのです。たとえば、目に見える行動では反発しているように見えるお子さんでも、心の中では深く落ち込んでいるような状態ですね。

子どもは、自分の悲しさやつらさを言葉でうまく表現できず、その感情が行動として表れてしまうのです。

微熱が出たり、表情が乏しくなったりと、身体面に異変が表れるケースも。

吉田先生:暴力的な行動がエスカレートすると、テーブルの脚を折ってしまったり、壁に穴を開けてしまったりすることもあります。一方で、感情を外に出せなくなり、ふさぎこんでしまうと、塾に行けなくなったり、学校にも通えなくなったりすることが多いですね。こうした状態は、非常に深刻です。

メンタルが落ちると、「補助線」が引けなくなる⁉ 脳の働きに影響することも

――メンタルの状態は、問題を解く力や成績にも大きく影響するのでしょうか。

吉田先生:試験の点数にも直結します。一例ですが、メンタルが落ちると、あきらかにケアレスミスが増えたり、図形の補助線が引けなくなったりするのはよくありますね。

――図形の補助線が引けなくなるんですか?

吉田先生:はい。算数の図形問題は、正しい補助線を引くために何度もトライアル・アンド・エラーを繰り返さなければいけません。しかし、うつ病になると、心がふさぎこみ、間違いを繰り返しながらもねばり強く正解を目指すという作業が難しくなってしまうのです。その結果、以前なら当たり前に見えていた補助線が、ぱたっと思いつかなくなる。

そのほかにも、ケアレスミスが急激に増えて、保護者が驚くほど成績が下がるケースも少なくありません。

――メンタルの悪化が、直接的に「解く力」に影響するということですね。

吉田先生:その通りです。逆に言えば、メンタルが安定すると脳の連係が回復し、これまで苦戦していた図形問題が、驚くほどスムーズに解けるように戻っていくこともよくあります。

子どもの不調の裏にある、見落とされがちな「親のメンタル不調」

――親のメンタル状態が、子どもに影響することも多いのでしょうか。

吉田先生かなり多いですね。「中学受験は半分以上、親の受験」と言われることがありますが、実際、親の心の状態が子どもに大きなマイナスの影響を与えているご家庭をよく見てきました。

たとえば、親のメンタルが不安定になっていると、子どもの手が少し止まっただけで「なにやってるの!」と必要以上に強く叱ってしまう。ペンがとまった瞬間に「あなたはもう不合格だ」と思い込み、感情的な言葉をぶつけてしまう。こうした場面は、本当によく見られます。

そして、きつく当たってしまったあとで親自身が自己嫌悪に陥り、「またやってしまった」とさらに苦しくなる――この悪循環に陥っているご家庭は少なくありません。

――たしかに、親としては受験への不安感から、どうしても感情的になってしまうことがありそうです。

吉田先生:親御さんは「ただ心配しているだけ」とおっしゃることが多いのですが、「合格か、不合格か」という二択の思考に強く縛られすぎると、緊張感や焦りが、無意識のうちにそのまま子どもに向かってしまいます

その結果、子どもは強いプレッシャーを感じ、その状態が日常的に続くことで、うつ症状を引き起こすことがあります。親のイライラやメンタルの不調が、より悪い形で子どもに波及してしまうのです。

* * *

では、子どもを誰よりも近くで支える親の心を安定させるために、どのような点を心がけるとよいのでしょうか。
後編では、不安・焦りとの向き合い方や、親子でできる具体的な対策について、吉田先生に伺います!

後編はこちら

【中学受験】「大丈夫?」「あと少し頑張れ」は子どもを追い込むNGワード。心療内科医が教える“受験うつ”の症状、不合格の時に親が最初にすべきこと
突然の無気力・号泣・成績急落…クリニックに来る子どもたちのさまざまな症状 ――中学受験期、メンタルトラブルを抱えて来院されるお子さん...

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吉田 たかよし 青春出版社 1,518円(税込)

“勉強の敵”と見なされがちなスマホを、脳の仕組みにかなった使い方によって、学習を支える強力なツールへと変える一冊。

<本書の主な内容>

・スマホのカレンダー機能を活用し、脳のやる気を引き出して前向きに勉強へ向かう方法
・タイマー機能を使い、ダラダラ勉強を防いで集中力を高めるノウハウ
・検索機能を生かし、覚えたことを忘れにくくし、効率よく記憶に定着させる工夫
・スマホを勉強の妨げではなく、学びを支えるツールとして取り入れるための考え方

お話を伺ったのは

吉田たかよし 医学博士・心療内科 本郷赤門前クリニック院長

医師、医学博士。本郷赤門前クリニック院長。
灘中学校・灘高等学校を卒業後、東京大学工学部に進学。東京大学大学院を修了し、NHKアナウンサーとして活動したのち、北里大学医学部に進学して医師免許を取得。その後、東京大学大学院医学博士課程修了。
現在は、受験生に特化した心療内科「本郷赤門前クリニック」にて、受験期の子どもが抱える不安や心身の不調に向き合い、医学的知見に基づいた適切な教育とメンタルサポートの普及に取り組んでいる。

本郷赤門前クリニックHPはこちら

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構成・文/牧野 未衣菜

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