【発達障害・行動の科学療法ABA vol.3】子どもの強固な「こだわり」への対応は?『問題行動の消去』具体例に学ぶ

人の行動の基本原理「強化」「消去」「弱化(罰)」を用いて、すべての人の行動を変容させることができる「行動の科学療法・ABA(応用行動分析学)」。特に発達障害児の知能と社会性の改善に確実な効果を発揮するとして、アメリカやカナダなど英語圏の国々を中心に、世界中で広く認められている療法です。

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さて今回は、発達障害のお子さんによく見られる、強い「こだわり」への対応や「消去」について、より詳しくNPO法人「つみきの会」代表の藤坂龍司さんに教えていただきました。

子どもの楽しみや生活の範囲を狭める「こだわり」は早めに消去を

発達障害の中では、特に自閉症の特性として「こだわり」があります。日常生活の手順、着る服、食べ物、外出ルート、学校でのスケジュールなど、自閉症児には本当にいろいろなこだわりが見られ、それを崩そうとすると激しいかんしゃくやパニックを起こします。

こだわりは自閉症の特性だから尊重しようという専門家もいますが、私は反対の立場です。こだわりは、子どもの生活の範囲を狭めてしまいますし、しばしば家族や周囲の人々を巻き込んでしまうからです。例えば外出ルートにこだわりがある子どもは新しい場所に行くこともできないし、その家族は子どもを連れて用事を済ますこともできないでしょう。それでは子どもは新しい場所で新しい世界を知ることもできないし、家族は不自由です。生活に支障が出そうなこだわりは、見つけ次第早めにやめさせましょう。

意外と底が浅い「強固なこだわり」。1~2週間を目標に「消去」の対処を続けることで必ず変化があります

「こだわり」についても、問題行動と同じように、「消去」で対処します。

例えば外出時に同じルートを取りたがったら、わざと違うルートを通りましょう。子どもは「違う道に行きたくない」のですから、この場合の「消去」(=要求を叶えない)は「子どもを違う道に行かせる」ということです。子どもが座り込んで抵抗しようとしても、座り込まないように移動させ続ければ、そのうち、泣きながらも、あきらめてついてくるようになります。

 

また、エレベーターのボタンを自分で押したがり、できないと大騒ぎするような子どもには、誰も乗っていない時間を狙って乗り、わざと親が押してしまうようにしましょう。かんしゃくを起こしたら、この場合の消去は安全確保の上の「無視」です。毎回こうして頑張れば、12週間のうちに目に見えてこだわりが弱くなってくるはずです。

 

わが家の娘も2歳のころ、抱っここだわりがあり、外出時は抱っこかベビーカーでないと激しいかんしゃくを起こしていました。が、当時学びたてのABAで、人通りの少ない近所の道を歩かせることから始めてみたら、最初こそ火が付いたようなパニックを起こしたものの、2日、3日と続けるうちに明らかに泣き止むのが早くなり、1週間目には20分ほどの散歩コースを最初から最後まで機嫌よく歩けるようになりました。

 

どんなに強固に見えるこだわりも、意外と底が浅いものです。どんなかんしゃくを起こしても決して要求を叶えず、なだめたり叱ったりもせず、安全だけ確保しつつ「消去」を徹底しましょう。

 

 ただし10代思春期以降、身体が大きくなると、かんしゃくも物凄いレベルになりますから、消去するのが難しくなります。その場合、ある程度は認め、どうしても本人や周囲の生活の妨げになるものだけやめさせる、ということになると思います。

「消去」をしたらかんしゃくの激しさが増した!…「消去バースト」にもひるまず徹底消去を

「かんしゃく」を消去しようとすると、子どもはなんとかして要求を叶えさせようとして、かんしゃくが一時的に激しさを増します。これを「消去バースト」と言います。これはかんしゃくだけでなく、問題行動の「消去」全般においても現れます。

かんしゃくなどの問題行動をなくそうとして「消去」したのに、いっそう激しさを増すわけですから、こちらは焦ってしまいます。でもここで反応したら、子どもに「注目」の強化をしてしまうようなもの。決して驚いて反応したり、ひるんでなだめたりしてはいけません。「消去で問題行動はいったんエスカレートするもの」と心得ておきましょう。

消去バーストが現れたら、ひたすら「消去」し、収まるのを待ちますが、少し収まってきても、そこで声をかけてはいけません。消去バーストは収まるかと思うとぶり返し…をしばらく繰り返すのが特徴です。完全収束の目安は3分。その間、静かでいたら収まったとみて、何事もなかったかのように接しましょう。

大きなかんしゃくやパニックを最初に消去するときには、完全に収まるまで1時間半ほどもかかることがあります。でも一度消去に成功すると、次は少し収まるのが早くなります。1か月も続ければ、たいていは治まるはずですので、粘り強く「消去」しましょう。

かんしゃくや問題行動を起こす前に「事前の工夫」で問題行動の芽を摘むことも

「行動の基本原理」をベースにした行動の科学、ABAを用いた対処法はNPO法人「つみきの会」のサイトの体験記&リポートをぜひ参考にしてください。

さて、ここまで「こだわり」や「かんしゃく」「問題行動」を減らすための「消去」について触れました。「こだわり」からは話は少し逸れますが、そもそも“問題行動を起こさせない”「事前の工夫」についても紹介しましょう。ABAでは「先行条件操作」といいます。

問題行動を起こりにくくする「物理的工夫」

まず、問題行動が起こりにくくする「物理的工夫」。これは例えば教室から脱走する子どもの席を、出口から遠ざけるなど。教室から飛び出す前に教師が止めやすくなりますね。友だちのおもちゃを奪う子の傍にいつも大人を付けて、奪う前に止めるのも事前の工夫といえます。

次に、問題行動の「引き金を取り除く工夫」です。不快な刺激や恐怖が問題行動の引き金になる場合に、それを除去することで問題行動を回避します。運動会などでピストルの音が耐えられず運動会に参加できない場合にピストルをホイッスルに替えてもらうなど。これは合理的配慮の1つでもありますね。

問題行動のモチベーションを低くする「動機づけ操作」

もう1つは、問題行動を起こすモチベーションを低くする工夫で、「動機付け操作」といいます。

例えば、授業中に大声を上げるようになったあるお子さんは、観察すると、給食前の11時台に大声を上げることが多いことが分かりました。それで、空腹⇒イライラ⇒大声という関係を推測し、学校に許可をもらって10時過ぎの休憩時間におにぎりを食べさせるようにしたところ、大声がピタッと止まったそうです。空腹を解消して問題行動を起こすモチベーションを下げることができた「動機付け操作」の1つと言えます。

問題行動の対応は「消去」(+適切な行動形成)が基本ですが、それでも十分でない場合には、事前の工夫なども用いて、確実に問題行動を改善していくようにします。

NPO法人「つみきの会」とは

ABAホームセラピーに取り組む親たちと、それを応援するセラピストや医療・療育・教育関係者の集まりで、ABA療育の普及のために2000年から非営利で活動しています。2019年現在の会員は全国に1600人以上。ABAセラピーの勉強会や親御さんたちをつなぐ交流会も定期的に開催しています。ABAに関心のある人ならだれでも入会できます。

 

監修・藤坂龍司

NPO法人つみきの会代表、株式会社NOTIA代表。コンサルタント。わが子が2歳のときからABA家庭療育に取り組んだ経験を生かして、つみきの会を設立。以後、ABAホームセラピーを日本に普及させる活動に取り組む。「自閉症の子どものためのABA基本プログラム2 家庭で無理なく楽しくできるコミュニケーション課題30」学研教育出版(井上雅彦共著)などの著書あり。兵庫教育大学大学院学校教育研究科修士課程修了。臨床心理士。著書に、家庭でゼロから始められるABAホームセラピーの入門書『イラストでわかるABA実践マニュアル 発達障害の子のやる気を引き出す行動療法』(共著・合同出版)がある。

取材・構成/赤塩和香子   イラスト/本田亮

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