発達障害の子どもの問題行動を減らす「消去」とは?【発達障害・行動の科学療法ABA vol.2】

発達障害児の知能・社会性の改善に大きな効果を上げている「行動の科学療法・ABA」。行動の基本原理「強化」「消去」「弱化(罰)」を用いて行動を変容させる、科学的なアプローチ法です。今回は問題行動への基本的な手続き「消去」について、具体的な方法や注意点など、より詳しくNPO法人「つみきの会」代表の藤坂龍司さんに教えていただきました。

問題行動の「原因」を分析する~その行動で子どもが”得をしていること”とは?

子どもたちの行動はなるべく見守りたいけれど、何度言ってもお友達のおもちゃに手を出したり、いたずらをやめなかったり、もやもや悩ましく思うこともありますよね。とくに自閉症など発達障害の子どもたちは、ささいなことでかんしゃくやパニックを起こしたり、こだわり行動、他害・自傷行為、手をひらひらさせるなどの奇妙な儀式行動など持っていることが多く、対応に手を焼く機会が増えがちです。その中でも、他人や本人に害をもたらしたり、家族の生活に支障をきたしたり、奇異の目で見られて本人の孤立を招くような行為は、できればやめさせたいですね。

ABAでは、問題行動をやめさせる(=行動を変える)ためには、まず目の前に見える状況を観察し

・事前の出来事(A)

・行動(B)

・結果(C)

を導き出します(ABC分析・以下記事参照)。

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分析からわかった、その行動によってその子が得をしていること(強化子)を取り除いていくことで、問題行動を減らしていきます。このことを「消去」と呼びます。

ABC分析で、問題行動の機能を特定する

①要求の実現 ②回避・逃避 ③注目を得る ④感覚刺激>

問題行動によってその子が得していること(問題行動を維持する強化子)は、大別すると①要求の実現、②回避・逃避、③注目を得る、④感覚刺激、のどれかに当てはまります(2つ以上に当てはまる場合もある)。問題行動がこれらの強化子を生み、強化子によって維持されていることを問題行動の機能と言います。

問題行動を消去するうえで大切なのは、それぞれの機能に合った適切な方法で「消去」をすることです。ここで機能の判断を誤ると、「消去」しているつもりでも行動は減りません。その意味で結果は分かりやすいので、行動が変わらない場合はABC分析を見直して、その機能に合った適切なパターンで再び「消去」してみましょう。

事例で見ていきましょう。

事例1 おもちゃがほしいという「①要求の実現」のための行動

「①要求の実現」の消去→要求を叶えない→【この事例の対応】おもちゃが手に入らないようにする

大人が介入し、奪ったおもちゃはすぐに取られた子に返す。この時、奪った子には言葉をかけない。

2 要求を叶えるための好ましい代替行動を教える→「おもちゃ貸して」など、友だちにかける言葉を教える。仲介のために大人を呼ぶ。

この場合は、おもちゃはすぐに取られた子に返します。奪った子に言葉をかけないのには理由があります。「ダメ」と言って取り上げると、「ダメ」という言葉かけが、その子にとって“注目”(機能③)となって、その行動を強化してしまうことがよくあるのです。機能に合った適切な消去手続きができていれば、必ずその行動は減るはずです。

また、問題行動の消去と同時に大事なのは、この子が要求を叶えるための、正しい行動を教えてあげることです。これをDR(分化強化)と言います。教えるときには、最初は必ず大人が介入して「貸して」と真似て言わせます。言えたらおおいにほめて、できれば貸してもらえる状況に仕向けられるといいですね。

ただしお友達を突き飛ばした直後に「貸して」と言わせないようにしてください。それで貸してもらえると、突き飛ばす行動を強化してしまいます。適切な行動は、問題行動から少し時間を空けて教えることにして、問題行動を起こしたときはとにかくそれで得をさせないことに徹します。

このように、問題行動を減らす(なくす)ときには、実は消去だけでは十分とは言えず、セットで「その行動に代わる適切な行動を教えて強化する」こと(DR)がとても大切なのです。

事例2 お片付けをしたくないという「②逃避・回避」のための行動

「②逃避・回避」の消去→逃がさない【この事例の対応】イヤな片付けから逃避させない

2 要求を叶えるための好ましい代替行動を教える→必ずできる簡単な一つから確実にやらせ、ほめる

片付けしたくなくて大声を出したからと言って、片付けさせることをあきらめてはいけません。手を取って、一つでもいいですから、片付けさせます。

しかし、課題がその子にとって難しい場合、無理矢理にやらせるだけでは何も変わりませんね。そういう場合に大切なのは、“その子にとって難しすぎないか”という求めるレベルの見直し。今まで片付けをしなかった子に急に全部をやらせてよしとするのはハードルが高いですから、最初は1つ片付けただけでおおいにほめて強化します。「片付けしたらママが喜ぶ!ごほうびがある!」と気づかせ、その後徐々に量を増やし、片付け行動を形成します。増やすのは少しずつ。必ず成功させ、ほめて気分を上げるのが行動形成のポイントです。工作やお遊戯の練習などからの逃避のときにも、同様にレベルを見直し(+楽しくできる工夫)、確実に「できたね!」とほめて行動形成していきます。

なお、最初の1つを片付けさせようというとき、泣きわめく子の泣き声や大きな声には無反応に徹します。大人が無言で手を添えて誘導して片付けさせ、それができたら、場を一瞬で切り替えるくらいのトーンでほめまくりましょう。

事例3 構ってほしいための「③注目を得る」行動

「③注目を得る」の消去→子どもに注目しない(無反応に徹する)【この事例の対応】投げても黙って制止。危険がないか確かめて黙って見守る。

2 要求を叶えるための好ましい代替行動を教える→いたずらをしていないときに注目し、声をかける、遊ぶ。

投げてしまったら黙って無視。投げて危ない硬いものは片付けて、あくまで反応しません。ほかの子の安全が脅かされる場合は、さりげなくその場を離れさせるか、投げる子の行動を黙って制止します。高いところに上る子も、本当に危険がないなら黙って見守ります。危ないなら、黙って近づきできるだけさりげなく降ろしましょう。そして以後繰り返さないよう、踏み台になるものを取り除くなどの措置をとります。

そしてここでまた大切なのは、その子がいたずらをしていない時に、声をかけたり遊んであげたりして、たくさん注目を与えることです。一人遊びやかかわり遊びのスキルを教えてあげるのもいいですね。遊びが楽しくなれば、それだけいたずらは減るはずです。

 自閉症に特有の機能「④感覚刺激」行動への対応は、時間をかけて慎重に

問題行動の機能の4つ目に「感覚刺激」があります。目の前で手をひらひらさせてじっと見る、身体をゆする、くるくる回るなど、多くの自閉症の子どもたちが持っている自己刺激行動(常同行動)はこの感覚刺激によって強化されています。

「④感覚刺激」の消去→困難

難しい「感覚刺激」の消去。暇をつぶせる遊びの選択肢を増やしていく「余暇スキル」を

自己刺激行動の多くは他人に迷惑をかけるわけではないので(奇声などは別)、一概に問題行動というわけにいきませんが、奇妙な行動は周りの子どもたちから疎外される一因にもなりますので、やはりできればやめさせたいものです。

しかし感覚刺激が強化子の場合は、実は「消去」(行動を減らす)は難しいのです。というのは、この場合、それ自体がもたらす感覚的な刺激が強化子になっているので、他者がそれを無視しても減ることはないからです。かといって無理にやめさせても、ほかに適切な遊びスキルがない限り、別の同じような自己刺激行動が出てきます。

そこでこの場合には、時間はかかっても別なおもちゃ遊びなどの遊びのスキルをABAで教えて、子どもがそれらの適切な遊びで暇をつぶせるように気長に導いていくほうがよいでしょう。性器いじりなど目に余るものだけはやめさせます。

おもちゃ遊びがなかなか身につかなかったら、音楽を聴くとか、ビデオを見る、ゲームをするでもよいのです。これら「余暇スキル」が充実しているお子さんは、思春期になったとき、情緒的にも安定するといわれています。小さいうちからできるだけ多くの余暇スキルを見つけておいてあげるとよいですね。

どんな工夫をしても「消去」できないときの最終手段が「弱化/罰」

機能に対する消去の手続きの働きかけをしても、他害行為などの問題行動が減らない場合、最終手段として、行動の原理の「弱化/罰」の手続きを行います。

不快な刺激を与える「積極的罰」ではなく、ほうびを取り去る「消極的罰」を優先

それでも、叱ったり身体を拘束するなど不快な刺激を与える「積極的罰」はできるだけ避け、ほうびを取り去る「消極的罰」を優先しましょう。その子にとっての、強化子を得る機会(楽しい時間など)を一時的に奪う「タイムアウト」や、価値のある物(ゲーム機やおやつなど)を取り上げる「レスポンスコスト」などがあります。

ただし罰は、乱用されやすく、叩くなどの身体的罰を受けた子が学習してほかの子を叩くこともあるので注意が必要です。また「叱る」ことが逆に「注目」という強化子となりうることも心に留めておきたいですね。

正しい機能分析をし、適切な介入をすることで、問題行動は必ず変わります

機能に対して適切な介入ならば、必ず行動が変わってくるのが、「行動の科学・ABA」。もし、介入しても行動が変わらなければ、機能分析が間違っていた可能性があるので、何度でも、あらゆる可能性にアタックしてみてくださいね。

持って生まれた障害、特性を含めて人そのものを変えることは容易ではないけれど、問題行動を観察し、強化原因に適切に介入することで、その行動は変えられるのです。行動が変わることで、その人自身が変わることもあります。

自閉症で他人に関心のなかったお子さんにABAで友達と遊ぶことを教えたら、自分から楽しそうに関わるようになった例をこれまで何人も見ています。「この子には無理」「できない」とすぐにレッテルを貼ってしまわずに、こちらの関わり方、働きかけ方を工夫して、子どもの“できる”を増やしていきたいですね。

 

「行動の基本原理」をベースにした行動の科学、ABAを用いた対処法はNPO法人「つみきの会」のサイトの体験記&リポートをぜひ参考にしてください。

NPO法人「つみきの会」とは

ABAホームセラピーに取り組む親たちと、それを応援するセラピストや医療・療育・教育関係者の集まりで、ABA療育の普及のために2000年から非営利で活動しています。2019年現在の会員は全国に1600人以上。ABAセラピーの勉強会や親御さんたちをつなぐ交流会も定期的に開催しています。ABAに関心のある人ならだれでも入会できます。

 

監修・藤坂龍司

NPO法人つみきの会代表、株式会社NOTIA代表。コンサルタント。わが子が2歳のときからABA家庭療育に取り組んだ経験を生かして、つみきの会を設立。以後、ABAホームセラピーを日本に普及させる活動に取り組む。「自閉症の子どものためのABA基本プログラム2 家庭で無理なく楽しくできるコミュニケーション課題30」学研教育出版(井上雅彦共著)などの著書あり。兵庫教育大学大学院学校教育研究科修士課程修了。臨床心理士。著書に、家庭でゼロから始められるABAホームセラピーの入門書『イラストでわかるABA実践マニュアル 発達障害の子のやる気を引き出す行動療法』(共著・合同出版)がある。

取材・構成/赤塩和香子

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