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てんかんとはどんな病気?
てんかんというと、意識を失って倒れたりけいれんを起こしたりする怖い病気という印象を持つ人もいるでしょう。しかし、その症状の表れ方は多岐にわたっており、意識のある発作やけいれんのない発作も多く見られます。さらに、その症状がてんかん発作によるものだと気づかれないことも少なくありません。
脳の中枢神経疾患のひとつであるてんかんは、同じ中枢神経系の機能障害が原因と言われている発達障害と併存しやすく、特に自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如多動症(ADHD)との併存が多く報告されています。乳幼児の頃には症状が出ていなくても、就学後に症状が明らかになることも珍しくありません。
人種や性別を問わず、約100人に1人の割合(罹患率は0.8~1%)で発症するてんかんは、さほど珍しい病気ではありません。けれども、怖い病気と偏見を持たれやすいために、てんかんの持病があることを隠す患者さんも多く、あまり身近な病気に思われていません。服薬で発作が起きないようにコントロールできている人がほとんどのため、発作を目にする機会もあまりなく、有病率の割に珍しい病気だと思われがちです。
しかし最近では、芸能人やスポーツ選手がてんかん患者であることを公にし、病気についての偏見を減らす啓発活動をしているため、徐々に病気のことが知られるようになってきました。
てんかんで表れる症状はさまざま。意識を失ってのけいれん発作は1/4未満

てんかんといえば、意識を失って激しいけいれん発作を起こす症状がよく知られていますが、こうした発作を起こす患者さんは全体の1/4未満だと言われています。では、他にどんな症状があるのでしょうか?てんかん発作は、その原因と症状からいくつかの種類に分類されます。
欠神(けっしん)発作
子どもにもよく見られる発作として代表的なのは、欠神発作です。ほんの数秒から十数秒意識がなくなり、動きが止まってぼお〜っと空中を見つめるような様子が見られます。こうした症状が、集中力や注意力が欠如しているなどと誤解されることも多く、発作が少ないとてんかんだと気づかれないこともあるようです。比較的女児に多く見られますが、成長と共に軽快するタイプのてんかんです。
ミオクローヌス発作
体の一部がビクッと動くミオクローヌス発作というものがあります。上半身に表れることが多く、食事中だと手にした食器類をとばしてしまったり、汁物をこぼしてしまったりという支障が出てしまいます。健康な人でも寝入りばななどに、自分の意思とは関係なく手足の筋肉がビクッと動くことがありますが、このような症状は生理的ミオクローヌスといって問題ありません。寝入りばなや起きているときにそうした症状が繰り返し強く認められるときはてんかん性ミオクローヌス発作の疑いがあります。
複雑部分発作(焦点意識減損発作)
意識がないままに不自然な行動や行為を行う複雑部分発作(焦点意識減損発作)というものがあります。服のボタンをまさぐったり、手をこすり合わせたり、口をぺちゃくちゃさせたり、もっと大きな動作だと、むやみに歩き回るというものもあります。意識がもうろうとした状態で歩き回るので、発作が起きると危険が伴います。時として、ADHDと誤解されることもあります。
単純部分発作(焦点意識保持発作)
意識があるまま症状が表れる単純部分発作(焦点意識保持発作)というものもあります。手足や顔が勝手に動いたり、人や物が見えたりする視覚発作や、幻聴が聞こえる聴覚発作、吐き気や頭痛などの自律神経発作、手足のしびれや虫が皮膚を這うような感覚発作などが症状として表れます。その間、意識は保たれています。
脱力転倒発作
全身の力が抜けて倒れてしまう脱力転倒発作は、発作の起きた場所によっては大変危険となり、怪我をすることもあります。数秒で意識が戻るのが特徴です。
強直間代発作(大発作、全般発作)
一番よく知られている症状が起きるのが強直間代発作(大発作、全般発作)です。いきなり意識がなくなり、全身が強直し呼吸が一時的に抑制され、その後、手足をガクガクさせるけいれんが起きます。大概、長くても数分以内に症状は治まりますが、呼吸が回復した際に口から泡を吹いたり、眼球が上転したり尿失禁をすることがあるため、初めてその様子を目にした人は相当慌ててしまいます。
発達障害と併存しやすい「てんかん」。約20%がASDを、約30%がADHDを併存

てんかんと発達障害は併存しやすいことがわかっています。どちらの疾患も脳の機能障害であり、中枢神経系の機能不全があって発症します。
小児のてんかん患者のうち、約20%がASDを、約30%がADHDを併存しているという研究報告があります。
逆に、発達障害の子どもにおいてのてんかんの有病率は、ASDだと5~38%、ADHDだと12~17%にてんかんが併存するといわれています。ASDにおいては、知的障害を伴う重度の自閉症の子どもは、知的障害を伴わない子どもの約3倍の併存率があるという研究報告がなされています。
他の発達障害では、発達性学習症(LD)の子どもにもてんかんが併存することがわかっています。ただ、ひとりの子どもにいくつかの発達障害が併存していることも珍しくないため、はっきりした数値は不明です。
てんかんの症状、特に欠神発作や複雑部分発作(焦点意識減損発作)の症状は、発達障害の特性と間違われることもあります。特に、ぼぉ〜っとしていて集中できない、盛んに動いていて落ち着きがないなどの症状が、ADHDの特性と誤解されがちです。
強直間代発作(大発作)のような大きな発作が起きて医療機関を受診した際に、初めて、以前から見られていたそれらの症状が、てんかん所以のものだったと判明することも珍しくないようです。
主な治療は抗てんかん発作薬の投薬治療。7~8割の患者が薬で発作を抑制できている
てんかんの治療は、症状や原因などに合わせた抗てんかん発作薬による投薬治療が主となります。てんかん患者の7割から8割が、薬で発作を抑制できています。治療薬は多くの種類があり、今も新薬が開発されています。1種類の薬で発作が抑制される場合と、2〜3種類の多剤併用療法を行う場合があります。
子どもの場合は、大人よりも使える薬の種類は少ないですが、それでも20種類近い薬があり、ひとつの薬で発作が治まらなくても、他の薬の服用で治まることもよくあります。
子ども自身が「服薬自立」ができるように薬の管理のしつけを
薬の服用は、医師の指示通りに服薬することが大切です。子どもの場合は、飲み忘れがないように、保護者が服薬の管理をすることが必須ですが、幼少期から、薬の必要性をしっかり説明し、服薬自立ができるように配慮することも大切です。
飲み忘れ防止のために薬袋に日付を書いたり、アラームを鳴らしたり、カレンダー式の薬入れを使用するなどの工夫をし、子どもにも服薬の意識付けをするとよいでしょう。
てんかんの薬で発達障害の特性が軽くなったり、強くなったりすることがあります
発達障害を併存している場合は、抗てんかん発作薬の影響で発達障害の特性が強くなる場合があります。集中力や注意力が落ちる作用のある抗てんかん発作薬もあり、ADHDの子どもだと、特性がより濃く出てしまうこともあります。眠くてぼぉ〜っとする作用や注意力が散漫になる作用が出ると、学習の際にそれがマイナスに作用してしまいます。一方、抗てんかん発作薬の中には興奮性や衝動性などの症状を緩和するお薬もあるので、症状に合わせて薬剤調整することが大切です。
発達障害の治療薬を服用する場合は、抗てんかん発作薬の特性や相互作用を考慮した薬物治療を行う必要があります。特性の発現状況によっては、服薬する薬を変えたり数量を調整してもらえたりするので主治医に相談しましょう。
投薬治療をいろいろ試しても発作が治まらない場合は、ケトン食療法や、外科手術が考えられます。緩和手術として、脳梁離断術や迷走神経刺激療法などの外科治療があります。
発作が起こったときの対処法とは?
けいれん発作が5分以上持続するけいれん重積発作以外は、基本的に見守るだけで大丈夫です。複雑部分発作(焦点意識減損発作)などで意識がないままに歩き回るようなことがあれば、周りの危険物をどけて安全を確保する必要があります。特に戸外であれば、道路に飛び出さないように見守りましょう。

意識を失って全身けいれんを伴う強直間代発作を起こした際は、吐いたものが喉に詰まって窒息することがないよう、体を横向きの体勢にします。手足を激しく動かした際に何かぶつかるものがあれば周囲の物を取り除きます。舌を噛まないようにとハンカチやタオルなどを口に入れることは、逆に喉に詰まる危険性があるので厳禁です。発作が治まってからは、呼吸抑制に注意しながら意識がはっきりするまで静かに寝かせて様子を見ましょう。
けいれん発作が5分以上続く場合や、一度治まっても再び発作を起こした場合は、てんかん重積状態という生命の危機に関わる状態も考えられるので、救急車の手配をして医療機関を受診してください。

患者専用アプリや、学会のWEBサイトで情報収集を
いずれの発作も、受診した際に主治医に伝えるために、どんな様子だったのか、発作はどれくらいの時間続いたのかなど、細かく記録を取っておきましょう。余裕があればスマートフォンなどで動画を撮影しておくと、治療の役に立つことも。
発作、投薬、通院、生活などを簡単に記録できる、てんかん患者専用アプリ「nanacara」も活用するとよいと思います。
乳幼児は熱性けいれんを起こすことも多く、それとてんかんとの判別が難しいことがあります。38℃以上の発熱がないのにけいれん発作を起こす、小学生になってからも発熱でたびたび発作を起こす、発作が5分以上続いたり、左右非対称の発作が認められる場合は、てんかんの可能性がありますので医療機関を受診してください。
てんかん治療を扱う医療機関は、小児科、神経内科、脳神経外科、精神科などですが、てんかんの専門医がいるかどうかを確認してから受診するのがよいでしょう。
日本てんかん学会や、日本てんかん協会、てんかん全国支援センターなどのWEBサイトで調べられるので活用しましょう。
テレビゲームやスマホの長時間使用は避ける。家でひとりでいるときには入浴をさせない

てんかん発作を起こす要因は人によって違いますが、誰もが大事にすべきことは規則正しい生活です。特に睡眠不足は発作を誘発する重要な要因のひとつです。てんかんの患者さんに限らず、規則正しい生活と質のよい睡眠は、健康な体のためには必須です。
てんかん発作を誘引する要因としてあげられているのは、下記のようなことです。
・発熱 ・睡眠不足(睡眠リズムの乱れも含む) ・疲労(肉体的にも精神的にも)
・ストレス(精神的緊張) ・薬の影響(飲み忘れも含む)
・飲酒 ・月経 ・入浴
・視覚刺激(ビデオゲーム、光の点滅やしま模様など) ・聴覚刺激(急に起きる大きな音)
・高次大脳皮質機能への刺激(計算やパズル、読書など)
テレビゲームやスマートフォンの長時間使用は避けるべきであり、計算や読書で発作を起こしたことがある場合、それを長時間続けることは控えましょう。
入浴時に発作を起こした際に1人でいた場合、溺れる可能性が極めて高くなり、命の危険にさらされます。てんかん発作がある場合、1人での入浴は避けるべきであり、発作がしばらくなかったとしても、子ども1人の入浴は避け、成長して1人ではいるようになっても、定期的に声を掛けて返事をさせ、発作が起こっていないかを確認するようにしましょう。
一般に運動によって発作が起きやすくなるということはありません。まれに運動による過呼吸で発作が誘発されることがあります。どちらかというと、ぼ〜っとしているときの方が発作は起きがちだといわれています。昼間の適度な運動で体が疲れてぐっすり眠れ、生活リズムが規則的になることはよいことです。また、水泳やプールあそびも他の子どもたち同様、大人の監視下で行うようにしていれば、基本的に禁止の必要はありません。
いざというときに正しく対応してもらえるように、保育園、幼稚園、学校には、病気のことを伝え、発作が起こった際の対応についても詳しく説明しておきましょう。
てんかんは「自立支援医療制度」の対象疾患。申請すれば医療費の自己負担額が1割に

てんかんの診断がつくと、「自立支援医療制度」の対象者となります。「自立支援医療制度」を使うと、治療のために医療機関へ通院する場合、かかる医療費の自己負担金が全体の1割で済むようになります。
また、てんかんの診断があると、「精神障害者保健福祉手帳」を申請することができます。発達障害では取得が難しかった場合でも、てんかんの診断があれば取得が可能になることも。てんかんの場合、発作の種類や頻度、日常生活の自立状況などによって、取得の可否が判断されます。この手帳があると、公共サービスの割引、等級によっては保護者の税金の軽減なども受けられます。申請手続きについては、かかりつけの医療機関や居住地の自治体に問い合わせするとよいでしょう。
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記事監修
筑波大学医学部卒。日本てんかん協会理事。ブリティッシュ・コロンビア大学神経科留学、獨協医科大学小児科を経て現病院へ。2018年より現職。専門は小児神経、てんかん、発達障害、重症心身障害。てんかんや発達障害の効果的な治療・療育の開発研究を行い、発達障害も専門とするてんかんの専門医。
取材・構成/仲尾匡代