前編では子ども時代の話や、シジュウカラの言語について伺いました

動物には言葉がないというのは思い込み! 動物言語学の立ち上げ
――鈴木さんはさまざまなシジュウカラの言葉を発見し、今までになかった「動物言語学」を立ち上げられました。
鈴木さん:これまでも動物学者たちによって動物の鳴き声の研究は行われてきました。でも、どの研究者も「言葉を持っているのは人間だけで、動物の鳴き声は感情を表しているだけ」と言っている。ノーベル賞を受賞した動物行動学者のコンラート・ローレンツさんも『ソロモンの指環』という著書で、「動物はいろんな声を持っていても、それはうれしいとか怒っているとか、そういった気持ちが表れているだけで概念につながっていない」と言っているんですね。
動物学者だけじゃない。言語学者も哲学者もみんな、アリストテレスの時代からずっとそう考えていたんです。でも、僕はシジュウカラをずっと研究する中で、シジュウカラにはシジュウカラの言葉があるということに気づいたんです。

――ただ天敵が怖いから鳴いているわけではない、ということですね?
鈴木さん:そのとおりです。
タカが来たら「ヒヒヒ」って声で「タカだ」って言う。すると周りの鳥は逃げたり、空を見上げてタカを探したりする。
ヘビが来ると、「ジャージャー」って鳴く。その鳴き声をスピーカーから聞かせると、シジュウカラはヘビを探すように地面を見たり、巣箱の中を見て、「どこにヘビがいるの?」と探したりするわけです。
そのときに、たとえば木の枝に紐を付けたものを引っ張ってみると、ヘビと見間違えてしまう。「ジャージャー」という声を聞いたときだけ見間違えてしまうから、やっぱり頭にヘビをイメージしている。つまり概念があるということでしょう。
人間だけが言葉を持っているわけではない
鈴木さん:僕たちは、人間だけが言葉を持っていて、動物たちはしゃべらないとずっと決めつけてきました。それによって、人間と動物、人間と自然というように世界を2つに分けてきた。しかし、それは大きな間違いです。
人間も動物であり、人間の言葉も動物の言葉の一つに過ぎないというのが世界の正しい見方なんです。動物の言葉の中に人間の言葉があって、シジュウカラの言葉がある。動物の言葉の力を科学で解き明かしていけば、共通点も相違点も見えてくるわけですよね。それが大事なことだと思います。
動物の言葉をきっかけにして、周りの自然に気づいていく
――動物言語学によって、私たちがこれまで持っている考えはどのように変わっていくのでしょうか。
鈴木さん:シジュウカラの言葉ってシジュウカラにだけ伝わるわけではないんです。シジュウカラの周りに住んでいるヤマガラとかメジロのような別の鳥も、シジュウカラの言葉をちゃんとわかっています。もちろんみんな声は違うけれど、お互いにわかる世界の中で一緒に生きている。
でも人間だけがそれを忘れてしまったんですね。人間は自分たちだけが言葉を持っていると決めつけてしまったがゆえに、動物の言葉を誰も理解できなくなってしまった。動物学者ですら、ちゃんと調べようとしなかった。
だから自然に対する見方も変わってしまったと思うのです。自然はもともと共生の対象だったはずなのに、人間が利用する対象になってしまった。そして現在、さまざまな環境問題が解決されていない。
もちろん、温暖化とか森林破壊とかの問題が起きていることはみんな知っていて、だからSDGsのようなスローガンを立てています。でも、「陸の豊かさも守ろう」といっても、本当の陸の豊かさを知らなければ、その言葉の意味をきちんと理解できません。
大切なのは僕らが周りの自然に気づくこと、自然とのつながりを戻すことであって、動物の言葉がわかればそれができるようになると思うんです。僕は動物言語学によって、そんな大きな変化が起きるのではないかと考えています。

――鈴木さんのご著書『僕には鳥の言葉がわかる』は、多くの人に読まれていますが、読者からはどんな感想がありましたか?
鈴木さん:僕はときどきテレビにも出ますが、本や番組を通して、身近な鳥に興味を持つ人が増えたらうれしいです。いちばんうれしいのは「シジュウカラの言葉がわかるようになった」という感想をもらったときですね。僕は、全人類を動物の言葉がわかるような状態にしたいんです。そうしたら一人ひとりが自然との向き合い方を考えるようになって、その結果、いろいろな問題が解決されるのではないかと思っていて。
それだけじゃない。鳥たちが何を考え、何をしゃべってるのか知りたいということは、全く違う他者を理解することなんですよね。動物の言葉は感情だと決めつけるのも、「動物も人間みたいにしゃべっている」というのも、両方とも間違っているんです。
まず、感情だけではないというのは先ほどお伝えした通りですし、人間のようにしゃべるというのも違う。だってシジュウカラは人間みたいにはしゃべらない。鳥を理解するためには、共通点を押し付ける擬人化は間違っているし、相違点だけ取り上げるのも間違っていて、「単語や文法はあるけれど、過去や未来についてはしゃべっていなさそうだ」のように、共通点と相違点を一つずつクリアにしていくのが動物の言葉を正しく理解することです。
そういった動物言語学の観点って、社会でも大切だと思うんです。いろいろなものの考え方や世界の見方、価値観を持つ人たちによって一つの社会が成り立っている。そのなかで必要なことは、自分の偏った自分の考えを押し付けることでもなく、差別することでもないわけですね。
身近な生き物をじっくり観察することが、大発見のはじまりに

――身近で鳥を見つけるコツを教えてください。
鈴木さん:それこそシジュウカラは街中にもたくさんいるので、ぜひ探してみてください。鳥の場合はまず鳴き声に耳を澄ましてみる。そして、そっと近づいてみる。そうすると鳥に会えます。
でも、それはゴールではありません。「何をしてるんだろう?」「何をしているときに、どんな声を出しているんだろう?」ということを注意深く観察することが大切です。その観点があるだけで、多くの発見があります。「こういうときにこういう声を出すってことは、この声にはこんな意味あるんじゃないの?」と気づいていくと、いつのまにか鳥のことがわかるようになりますよ。
――観察におすすめのアイテムはありますか?
双眼鏡はあるといいですが、高級品でなくても大丈夫です。それと、持ち運びできるスケッチブックと3色ボールペン。僕は3mmの方眼用紙になっているスケッチブックに気がついたことや観察したことをどんどんメモしています。たとえば観察しているときには黒で書いて、あとで気づいたことは青で書くとか、使い分けるといいですよ。鳥がどんなことをしていたとか、なにを書いても自由です。僕もあとで見ると笑っちゃうようなことも書いたりしています。
――最後に、生き物が好きな子どもたちにメッセージをお願いします。
鈴木さん:手つかずの地に行って珍しい生き物を見つけないと新発見なんてできない…そう思う人もいるかもしれないけれど、本当の発見というのは、いつも身近な自然の中にあるものだと思うんです。目の前にあるけれど、誰も気づかなかったことに気づくことこそ、発見なのではないでしょうか。
身近な自然でも、先入観を捨ててじっくり観察してみると、世界中の学者が驚く発見にたどり着くことがある。
シジュウカラは本当にそのことを教えてくれました。じっくり研究することでわかってきた世界があって、それで世界中の人がびっくりして、新しい学問までできちゃうんだから、身近な自然の観察ってすごく面白いんですよ。ぜひやってみてください。
――ありがとうございました!
話題沸騰、累計10万部突破!『僕には鳥の言葉がわかる』
「面白くて読みやすい」と爽快な読後感が大人気! シジュウカラの言葉を知るための実験と観察の過程が、先生による手描きの愛らしいイラストとともにスウッと頭に入ってきます。鈴木先生の「シジュウカラのことが好きだ、もっと知りたい」という熱意に胸を打たれる1冊。ぜひ読んでみてくださいね!
お話をうかがったのは

X @toshitaka_szk
取材・文/平丸真梨子